年毎というべきか、いや日増しというべきか。アパレルビジネス、特に小売業では実店舗の価値が薄れている。先日も知り合いのセレクトショップのオーナーが「ECを本格的に考えないといけない」と、心情を吐露していた。というか、実店舗とECの連動、ラテ(マス)から紙、PCやスマホによるSNSまででお客と接点を持てるところが、個店レベルでも優位に立つのは、間違いなさそうである。
振り返ると、EC黎明期は「実店舗には人肌を感じさせる接客があり、試着をしたいお客もいるから影響ない」。ECなんて意に介さない論調も少なくなかった。バブル景気が崩壊し、外圧による内需拡大で郊外開発が活発化し始めた時の百貨店にも似ている。経営者は「郊外とはターゲットや客層が違うから」と、どこか上から目線で見ていた。
ところが、どうだろう。もはやECは小売りの主導権を握ろうとしているし、百貨店はリストラで何とか生き長らえている状態だ。さらに個店の専門店も器(ハード)を作り、商品やサービス(ソフト)を揃えるだけでは、お客を惹き付けるのは限界のようだ。ここまで来てしまうと、小売りの勢力図が再び逆転することは、まずあり得ない。あるのはECに代わる新興勢力が現れた時だが、それにはまだまだ時間がかかる。
もう少し詳しく見てみよう。小売業が実店舗とECを連動させたり、オムニチャンネルでお客との接点を増やそうというのは、あくまで手段に過ぎないと思う。自社なり、モールなりに通販サイトを設けて、ラテからSNSまででお客にアプローチし、ポイントといった販促を絡めれば、お客を囲い込むことはできるが、その先に何を目指すかなのだ。
例えば、百貨店系アパレルは売場への集客に苦労しているが、ECと連動し販促を加えると、売上げに変化の兆しが見え始めたところもある。それまでの取り引きの関係から店舗とECは別々の在庫にしていた。だが、EC在庫が売り切れた場合に同じ在庫をもつ店舗から移動させる仕組みまで整備すると、EC売上げはさらに伸びている。
ただ、実店舗とECの連動、そうした施策の狙いや実践方法が末端の売場まで浸透しているかと言えば、まだまだだろう。本社の経営陣や専門部署は理解していても、それが末端のスタッフにまで徹底されているとは思えない。先日、こんな体験をした。通販サイトを見ていると、大手セレクトショップの商品で気に入ったものが見つかった。特に「EC限定」との表記されてはいなかったので、うちの事務所近くの天神店に在庫があるかを見に出かけた。そこでスタッフに訊ねたところ、「在庫はありません」との返答だった。
あらかじめ品番を控え、商品の写真(スクリーンショット)まで用意し、店舗スタッフに見せたが、よくわからないような様子。しかも「サイト掲載の商品はEC限定ではなくても、在庫は置いているところとないところがある」とのつれない返事。要は店舗によって投入する商品が違っているのだ。
ECが整備される前だろうが、後だろうが、店毎に品揃えが違うのはこちらも承知している。ただ、せっかく実店舗とECが連動できる環境が整ってきたのだから、もう少し融通を利かせていいのではないか。たまたまこのスタッフがそうだったのかもしれないが、その態度には「気に入ったのなら、ECで買ってくれ」と、本音が透けて見える。「取り寄せましょうか」というフォローの言葉も、一切無かった。
大手のセレクトショップはSPA化しているとは言え、完全なグローバルSPAに比べると、品揃えに幅や奥行きがあり、品番や色数も多くなる。だから、お客は万人向けでない個性的な商品にも期待するわけで、たまには訪れてみたい業態でもある。ただ、一スタッフが商品すべての詳細を把握するのは難しい。それは十分に承知している。
しかし、ECを導入し、店舗と連動させるのであれば、商品部やバイヤーからの指示を朝礼での申し送りを通じて、店舗スタッフまで共有させるべきではないだろうか。
こちらはサイトを見て買う気が起こり、店舗に在庫があれば試着できるし、そこでアドバイスの一つでもあれば、たぶん購入しただろう。実店舗とECの連動を謳うのなら、店舗ごとの在庫の有無、取り寄せの可否、キャンセルや返品のOKくらいは、店舗とECの両方でしっかり受け答えを徹底してほしいと思う。もっとも、そのやり方として、もはやアナログでは無理だと思う。
人間には能力差がある。だから、ECの在庫把握ができるスタッフも入れば、苦手なスタッフもいるだろう。しかし、それはお客には関係ないことで、どの店舗、どのスタッフでも、標準的に対応してくれることが企業力を示すのだ。小売業にとって、実店舗とECを連動し、オムニチャンネル化を進めるのは、お客と常に繋がっていられるショップを目指すことだ。だからこそ、実店舗とECの連動から一歩進んで、ショップのデジタル化に踏み込むべきではないかと思う。
すでにPCやスマホにブランドなり、ショップのアプリをダウンロードしておくと、どの店舗に在庫があるかの確認ができるソフトが開発されている。アプリにチェックインしただけで、ポイントが貯まる機能を付けたものもある。SNSなどを通じて商品情報を告知するだけでなく、お客の「商品を探す」という行為にいかにショップ側がアクセスするかもカギになるのだ。
これだけ店舗やECがあっても、世界中では「欲しい商品は中々みつからない」と、感じているお客は少なくない。それは商品の品数が多過ぎて、探しきれないこともあるし、欲しいと感じる商品そのものがないこともあるだろう。実際に商品が実在するのなら、お客から求める商品の詳細を聞き出すことも必要だろう。
素材(生地厚から組織、織り、編み地まで)、色(CMYK/青赤黄黒を10%刻みで掛け合わせた色調)、柄、サイズ(ZOZOSUITなどによるBWH、手持ちのジャケット、シャツ、パンツ、スカートの着丈、身幅、渡り、裾など)を入力してもらい、後は欲しい商品の情報と詳細のサイズなどをAIが分析して、商品在庫があれば提案につなげていく。それが自宅のPCはもちろん、ショップのタブレット端末でも検索が可能になる。
要は、スタッフがデジタル化したお客情報をいかに使いこなし、活用できる店舗環境にしないといけないのである。それも購買カルテの電子化レベルで、「前回、このジャケットを購入しているから、今回はこのインナーを提案しよう」くらいでは、どの店も対応していくのは目に見えている。
ショップのデジタル化には、刻々とバージョンアップが求められる。とどつまり、デジタルがもつインタラクティブ=双方向性を生かし、店舗からお客へのアプローチだけでなく、お客から積極的に店舗にコンタクトしてもらうことも不可欠だと思う。お客が欲しい商品が見つからなければ、そのデータを蓄積し、分析して次回の品揃えや商品開発の参考にもできる。
メーカーは盛んに「EC専用のブランド」を開発するという。つまり、流通ルートをネット限定にして、販売エリアを拡大する狙いがあるだろう。一方で、店舗や販売スタッフのコストをカットすることで、利益を上げる思惑もあるのではないか。
しかし、ここまでECが浸透して来ると、お客からすれば、EC限定の商品は単に購買の利便性だけでなく、実店舗に並ぶ商品以上の価値がなければ、簡単に「ポチッ」とは行かないはずだ。削減したコストを商品づくりに振り向けないと、「所詮、素人騙しの商品じゃんか」って、見透かされてしまう。
やはりプロダクトアウト的な商品ではなく、デジタルのインタラクティブ特性を生かしながら、「お客の欲しい」にいかに近づき、寄り添えるかがEC開発商品の肝になるのではないか。データを集めるためのひな型くらい作ってもいいと思う。まずは実店舗のデジタル化で、それを実践しても良いし、店舗スタッフは通常業務としてお客がどんな生地や色、どんなデザイン、どれくらいの価格帯等々をヒアリングし、データをストックしていくことも大事だろう。
究極は、小売りの個店はもちろん、ネットモールさえも超えたマーケットで、お客が欲しい商品に辿り着けるかの機能。いわゆるパーソナルスタイリストの役割まで進化させていかなければならないと思う。それでも、見つからない時は、「お客さんが欲しい商品があいにく見つかりません。下のアイコンをクリックしてください」…
「そんなあなたに朗報。テキスタイルメーカー、デザイナー、工場をネットつなぐ新たな既成服の提案サイトです」って、ECが登場するのも時間の問題かもしれない。
振り返ると、EC黎明期は「実店舗には人肌を感じさせる接客があり、試着をしたいお客もいるから影響ない」。ECなんて意に介さない論調も少なくなかった。バブル景気が崩壊し、外圧による内需拡大で郊外開発が活発化し始めた時の百貨店にも似ている。経営者は「郊外とはターゲットや客層が違うから」と、どこか上から目線で見ていた。
ところが、どうだろう。もはやECは小売りの主導権を握ろうとしているし、百貨店はリストラで何とか生き長らえている状態だ。さらに個店の専門店も器(ハード)を作り、商品やサービス(ソフト)を揃えるだけでは、お客を惹き付けるのは限界のようだ。ここまで来てしまうと、小売りの勢力図が再び逆転することは、まずあり得ない。あるのはECに代わる新興勢力が現れた時だが、それにはまだまだ時間がかかる。
もう少し詳しく見てみよう。小売業が実店舗とECを連動させたり、オムニチャンネルでお客との接点を増やそうというのは、あくまで手段に過ぎないと思う。自社なり、モールなりに通販サイトを設けて、ラテからSNSまででお客にアプローチし、ポイントといった販促を絡めれば、お客を囲い込むことはできるが、その先に何を目指すかなのだ。
例えば、百貨店系アパレルは売場への集客に苦労しているが、ECと連動し販促を加えると、売上げに変化の兆しが見え始めたところもある。それまでの取り引きの関係から店舗とECは別々の在庫にしていた。だが、EC在庫が売り切れた場合に同じ在庫をもつ店舗から移動させる仕組みまで整備すると、EC売上げはさらに伸びている。
ただ、実店舗とECの連動、そうした施策の狙いや実践方法が末端の売場まで浸透しているかと言えば、まだまだだろう。本社の経営陣や専門部署は理解していても、それが末端のスタッフにまで徹底されているとは思えない。先日、こんな体験をした。通販サイトを見ていると、大手セレクトショップの商品で気に入ったものが見つかった。特に「EC限定」との表記されてはいなかったので、うちの事務所近くの天神店に在庫があるかを見に出かけた。そこでスタッフに訊ねたところ、「在庫はありません」との返答だった。
あらかじめ品番を控え、商品の写真(スクリーンショット)まで用意し、店舗スタッフに見せたが、よくわからないような様子。しかも「サイト掲載の商品はEC限定ではなくても、在庫は置いているところとないところがある」とのつれない返事。要は店舗によって投入する商品が違っているのだ。
ECが整備される前だろうが、後だろうが、店毎に品揃えが違うのはこちらも承知している。ただ、せっかく実店舗とECが連動できる環境が整ってきたのだから、もう少し融通を利かせていいのではないか。たまたまこのスタッフがそうだったのかもしれないが、その態度には「気に入ったのなら、ECで買ってくれ」と、本音が透けて見える。「取り寄せましょうか」というフォローの言葉も、一切無かった。
大手のセレクトショップはSPA化しているとは言え、完全なグローバルSPAに比べると、品揃えに幅や奥行きがあり、品番や色数も多くなる。だから、お客は万人向けでない個性的な商品にも期待するわけで、たまには訪れてみたい業態でもある。ただ、一スタッフが商品すべての詳細を把握するのは難しい。それは十分に承知している。
しかし、ECを導入し、店舗と連動させるのであれば、商品部やバイヤーからの指示を朝礼での申し送りを通じて、店舗スタッフまで共有させるべきではないだろうか。
こちらはサイトを見て買う気が起こり、店舗に在庫があれば試着できるし、そこでアドバイスの一つでもあれば、たぶん購入しただろう。実店舗とECの連動を謳うのなら、店舗ごとの在庫の有無、取り寄せの可否、キャンセルや返品のOKくらいは、店舗とECの両方でしっかり受け答えを徹底してほしいと思う。もっとも、そのやり方として、もはやアナログでは無理だと思う。
人間には能力差がある。だから、ECの在庫把握ができるスタッフも入れば、苦手なスタッフもいるだろう。しかし、それはお客には関係ないことで、どの店舗、どのスタッフでも、標準的に対応してくれることが企業力を示すのだ。小売業にとって、実店舗とECを連動し、オムニチャンネル化を進めるのは、お客と常に繋がっていられるショップを目指すことだ。だからこそ、実店舗とECの連動から一歩進んで、ショップのデジタル化に踏み込むべきではないかと思う。
すでにPCやスマホにブランドなり、ショップのアプリをダウンロードしておくと、どの店舗に在庫があるかの確認ができるソフトが開発されている。アプリにチェックインしただけで、ポイントが貯まる機能を付けたものもある。SNSなどを通じて商品情報を告知するだけでなく、お客の「商品を探す」という行為にいかにショップ側がアクセスするかもカギになるのだ。
これだけ店舗やECがあっても、世界中では「欲しい商品は中々みつからない」と、感じているお客は少なくない。それは商品の品数が多過ぎて、探しきれないこともあるし、欲しいと感じる商品そのものがないこともあるだろう。実際に商品が実在するのなら、お客から求める商品の詳細を聞き出すことも必要だろう。
素材(生地厚から組織、織り、編み地まで)、色(CMYK/青赤黄黒を10%刻みで掛け合わせた色調)、柄、サイズ(ZOZOSUITなどによるBWH、手持ちのジャケット、シャツ、パンツ、スカートの着丈、身幅、渡り、裾など)を入力してもらい、後は欲しい商品の情報と詳細のサイズなどをAIが分析して、商品在庫があれば提案につなげていく。それが自宅のPCはもちろん、ショップのタブレット端末でも検索が可能になる。
要は、スタッフがデジタル化したお客情報をいかに使いこなし、活用できる店舗環境にしないといけないのである。それも購買カルテの電子化レベルで、「前回、このジャケットを購入しているから、今回はこのインナーを提案しよう」くらいでは、どの店も対応していくのは目に見えている。
ショップのデジタル化には、刻々とバージョンアップが求められる。とどつまり、デジタルがもつインタラクティブ=双方向性を生かし、店舗からお客へのアプローチだけでなく、お客から積極的に店舗にコンタクトしてもらうことも不可欠だと思う。お客が欲しい商品が見つからなければ、そのデータを蓄積し、分析して次回の品揃えや商品開発の参考にもできる。
メーカーは盛んに「EC専用のブランド」を開発するという。つまり、流通ルートをネット限定にして、販売エリアを拡大する狙いがあるだろう。一方で、店舗や販売スタッフのコストをカットすることで、利益を上げる思惑もあるのではないか。
しかし、ここまでECが浸透して来ると、お客からすれば、EC限定の商品は単に購買の利便性だけでなく、実店舗に並ぶ商品以上の価値がなければ、簡単に「ポチッ」とは行かないはずだ。削減したコストを商品づくりに振り向けないと、「所詮、素人騙しの商品じゃんか」って、見透かされてしまう。
やはりプロダクトアウト的な商品ではなく、デジタルのインタラクティブ特性を生かしながら、「お客の欲しい」にいかに近づき、寄り添えるかがEC開発商品の肝になるのではないか。データを集めるためのひな型くらい作ってもいいと思う。まずは実店舗のデジタル化で、それを実践しても良いし、店舗スタッフは通常業務としてお客がどんな生地や色、どんなデザイン、どれくらいの価格帯等々をヒアリングし、データをストックしていくことも大事だろう。
究極は、小売りの個店はもちろん、ネットモールさえも超えたマーケットで、お客が欲しい商品に辿り着けるかの機能。いわゆるパーソナルスタイリストの役割まで進化させていかなければならないと思う。それでも、見つからない時は、「お客さんが欲しい商品があいにく見つかりません。下のアイコンをクリックしてください」…
「そんなあなたに朗報。テキスタイルメーカー、デザイナー、工場をネットつなぐ新たな既成服の提案サイトです」って、ECが登場するのも時間の問題かもしれない。