HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

DgSが家具屋を買う。

2024-07-31 06:47:03 | Weblog
 7月の初めだったか。調剤薬局やドラッグストアを運営するアインホールディングス(本社・北海道札幌市白石区。以下、アインHD)がインテリア&生活雑貨の「フランフラン」を買収するとの話を聞いた。買収額は約500億円で、8月20日に全株式を取得し、完全子会社化するという。アインHDは「アインズ&トルぺ」というドラッグストアを運営しており、その客層が主に20~30代でフランフランと共通するため、店舗を共同で出店するなど相乗効果を考えているらしい。



 フランフランはともかくとして、アパレル関係者の多くはアインHDをご存知の方は少ないと思うので、「えっ」って感じではないか。筆者もアインHDの社名を初めて聞いたのは2008年。同社がセブン&アイホールディングス(以下、セブン&アイHD)と資本・業務提携をしたとの報道がきっかけだった。当時はスイッチOTCの推進、セルフメディケーションの普及、医薬分業の実施が叫ばれており、ドラッグストアに追い風が吹いていた。当然、北海道のローカル薬局がセブンイレブンと手を組めば、ツルハやマツモトキヨシと伍すだけの全国チェーンになれると考えたのかもしれない。そんな印象を受けた。



 それからしばらくは気にすることもなかったが、再びアインHDに触れるのはこれまたセブンイレブン絡みだった。2020年12月、セブンイレブン・ジャパンは、ANAホールディングス他3社および福岡市と共同で5日間に渡り、ドローンによる離島への商品配送の実証実験を行った。それに参加した1社がアインHD傘下で調剤薬局を運営するアインファーマシーだった。福岡市の博多湾に浮かぶ能古島に、島民が実際に注文した処方箋薬品を調剤したアイン薬局がドローンを使って配送。その模様がメディアに公開され、筆者も立ち会った。




 同薬は島民がかかりつけ医から処方され、アイン薬局の生の松原店が調剤(対面での服薬指導済み)したもの。ドローンが100gの薬を搭載して、福岡市西区の小戸ヨットハーバーに設置されたドローンポートから離陸後、約10分で能古島公民館のグランドに着陸。薬はANAのスタッフが回収して、公民館に設置されたロッカーに一時保管し、島民はスマートフォンに送信された確認番号をロッカーに入力して取り出した。医療機関の門前に薬局を構えて待ちの姿勢で臨むだけでなく、配送まで行って患者の信頼を得ようという狙いが窺える。

 ドラッグ業界は大手同士が合従連衡しながら都市部、郊外を問わずに勢力を伸ばす一方、2023年の売上げランキングで業界4位のコスモス薬品は、食品や日配品まで充実させて後を追う構図だ。イオン系のウエルシアホールディングスを筆頭に群雄割拠の状態が続いているが、規模の拡大だけでなく各社の独自性にも注目が集まる。その意味で、アインHDは調剤薬局の部門では業界第1位にある。離島などへの処方箋薬品の配送サービスに目をつけた点も、競争激化の中で勝負するより、差別化路線で生き抜こうという戦略が見て取れる。セブン&アイとの提携があるのだから、処方箋薬品の24時間受け取りサービスにも踏み出せる。

 そんなアインHDが今度はフランフランの運営にも乗り出す。同社傘下のアインズ&トルぺはコスメを充実させており、フランフランと中心ターゲットが共通するため、互いのPB商品を相互に展開すれば、顧客の選択肢が広がって集客効果を発揮できる。また、店舗に競争力を持たせるには生活雑貨を充実させるなど店舗スタイルを変化させ、差別化していくことが不可欠だ。両社はターゲットが共通することで、共同でマーケティング、商品開発を行うこともできる。つまり、アインHDとしては小売り事業を新たな成長の軸にする上で、M&Aによる拡大が手っ取り早いと考えたとすれば頷ける。

 アインファーマシーはアマゾンによる処方薬のネット販売にも参入する。調剤薬局は報酬改定による利益率の悪化、店舗過剰、アクティビスト(物言う株主)による再編圧力にさらされている。処方薬がオンラインで販売できれば、調剤薬局のビジネスモデルは大きく変わり、中小零細は淘汰される可能性がある。だが、調剤第1位のアインHDも決して安泰ではない。香港の投資ファンドは同社の株式を買い増し、取締役解任などの株主提案を行なっており、今後、どう転ぶかはわからない。さらにアマゾンに高い手数料を取られてしまえば、報酬引き下げによる利益率がさらに悪化することもあり得る。

 もちろん、小売事業を強化するといっても、懸念がないわけではない。アインHDがフランフランを完全子会社化するとのニュースが発表された翌日、東京プライム市場では同社の株が一時前日比660円(11%)安の5460円と、急落。終値は567円(9%)安の5553円で、同市場の値下がりランキングでは第1位という有様だった。同社がフランフランの買収に約500億円を投じたことに対し、マーケットは財務負担が重荷になると嫌気したようだ。というか、アインHDが小売り事業を新たな成長の軸にするにしても、投資家はそれが利益貢献に繋がるとは期待していないことになる。


一時の勢いを失ったフランフラン

 では、フランフランについても見ていこう。1991年のバブル崩壊でアパレル業界が勢いをなくす一方、非アパレルの商材に価値を求め、高感度なライフスタイルを志向する消費者を惹きつける業態が台頭し始めた。中でも、1990年に創業したバルス(当時)が運営するフランフランは、インテリア&生活雑貨のショップを全国のショッピングセンターを中心にチェーン展開。2000年には年商75億円(対前年比40%増)を稼ぎ出し、市場を席巻する中核企業に躍り出た。

 フランフランの誕生は1992年。東京・天王洲アイルに1号店を出店した後、2000年には全国37店舗まで拡大した。当時の商品コンセプトはカジュアルスタイリッシュ。ターゲットは都会で一人暮らしをする女性。モノ作りの主流になりかけていた開発輸入をいち早く取り入れ、高感度で低価格の商品を提案することで、女性だけでなく独身男性や若い主婦層まで捉えていった。商品構成はテーブル&キッチン、カルチャー&ホビー、ヘルス&ビューティ、インテリアファブリック&小物、家具で、PB比率は売上げベースで6割を超えた。



 特に目を見張ったのはカラーMDだ。メーン商材である雑貨の大半がカジュアルスタイリッシュらしくオレンジやイエロー、ブルーなどのキャンディカラーで統一され、それらを打ち出しに使って明るくポップなVPを作り上げた。商材の7割程度が自社企画したPBで、商品面での差別化と安定供給、低価格化を図る上ではカギとなった。従来のインテリアショップ、雑貨店にはない独自のVMDを可能にしたのも、PB商品に他ならない。




 そんな商品群は筆者の目も惹き、フランフランでは事務所用のカーブシェルフやカーテン、サーキュレーター、自宅用にはカトラリーやキッチンタイマー、グラスを調達。カトラリーは撮影の小道具に使ったこともあった。高島郁夫社長の著書「フランフランを経営しながら考えたこと」も読ませていただいた。

 2000年3月には、東京の自由が丘とお台場に展開した和モダンをコンセプトにした「ジェイピリオド」、2001年にはアジアンテーストの「アジト」を出店。並行して原宿の新築ビルの3階、4階に3業態を合わせた複合型旗艦店をオープンした。ところが、後の2業態は出だしからフランフランほどの勢いはなく、業績の低迷が続いた。2016年には、東京発のインテリアや家具などを展開する「バルストウキョウ」とともに事業を終了している。

 バルスは2000年代後半、拡大路線に歪みが出てきたようで、同社を引っ張ってきた髙島郁夫社長のカリスマ性やトップダウン経営の限界が露呈する。おそらく社員自ら意見を出し合い、方向性を決めるボトムアップの経営スタイルに変えなければ、難局を乗り切れない状態に陥っていたと言える。売上高も2017年8月期には純利益は4億円だったが、18年同期には純損失が8億円。19年は純利益は1000万円を確保したが、20年は純損失が12億円と、業績はジェットコースターのように乱高下した。

 2017年、バルスは社名をフランフランに変更。21年には髙島郁夫社長が退任し、ファイナンス面を担当してきた佐野一幸氏が社長に就任した。高島前社長の時代から人員削減、オフィスの縮小、不採算ブランドの閉鎖、役員報酬の減額を実施。そうした痛みを伴う経営改革が奏功し、21年8月期は売上高361億円、営業利益40億円、純利益22億円と黒字に転換した。22年同期は売上高354億円、営業利益33億円、純利益26億円。23年同期は売上高394億円、営業利益25億円、純利益11億円で増収減益ではあるが、3期連続で黒字を維持している。アインHDはこうした業績の好転を考慮し、今が買い時と見たのではないか。

 ただ、2010年代に入ると、フランフランのコンセプトはエレガンスやフェミニン、ロマンティックなテイストに変わった。経営改革の一環で女性が好むテイストに絞り込み、コアイメージをより明確にしたと思うが、だからと言って業態として突失したわけではない。現状、インテリア・雑貨にはいろんなテイストやグレードがある。アッパークラスのコンランショップやHP.FRANCEからアクタス、ダブルデイやタイムレスコンフォート、アフタヌーンティー、無印良品、バジェットのスタンダードプロダクツまでが、ひしめき合っている。



 デベロッパー側はアパレルに代わるテナントとして誘致しやすいと考えるようだが、一定のスペースを必要とするため都市型では家賃負担が重荷になる。だから、前出のように実店舗を展開しているところでも、コストを回収するために店舗をショールームにしながら、ECで稼ぐところが少なくない。フランフランも東京・南青山3丁目交差点に旗艦店を構えるものの、系列のモダンワークス青山店は閉店している。アパレル以上に店舗コストとどう向き合っていくかが問われるわけだが、栄枯盛衰の激しい業界であるのは間違いない。

 そうした中で、フランフランが現状のテイストで収益を伸長していくには、顧客がエージアップしても売れ続ける商品開発とヒット商品の創出がカギになる。ケースに収納するとクッションになる寝具に続くような商材を生み出さなくてはならない。だが、20代から30代の女性という狭いレンジをターゲットにして、果たしてそれが可能なのか。少なくともコンスタントに売れ続ける核になるアイテムを持たなければ、買収で発生した約400億円ののれん代を償却する費用を賄えないのは確かだろう。

 それでも、アインHDの大谷喜一社長は約500億円にのぼる買収費用についても、「増資による調達の必要はない」と、現預金や借入れで賄う考えを示す。小売り事業関連の売上高を1000億円規模にする目標についても、3年後の「2027年4月期に達成できる」と語るなど強気だ。さらに投資を何年で回収できるかを示すEV/EBITDA倍率についても、フランフランとの協業効果を加味すると、「25年8月期には7倍を下回る」と心配する様子はない。

 だが、フランフランの2023年8月期の純利益は11億円で、前年よりも44%も減少している。アインHDはのれん代の償却期間を20年と見積もっているというから、昨年度より倍以上の利益を出さないとHDの預貯金は目減りし、借入金の返済計画も狂ってしまう。今回の買収では「ドブに金を捨てるような投資」との厳しい声が出ており、シナジー効果が発揮できなければ虻蜂取らずの可能性もあるのではないか。
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Jブランドで勝つ。

2024-07-24 06:40:32 | Weblog
 いよいよパリオリンピックが開幕する。毎回、アパレル業界でオリンピックの話題となるのは、日本代表の公式ウエアやユニフォームだ。さる6月21日、サッカー日本代表2024のユニフォームがヨウジヤマモトとアディダスのコラボブランド「Y-3」に決まったと、発表された。サッカー日本代表がブランドとコラボするのは今回が初めてで、パリオリンピックでも着用される予定という。



 デザインのコンセプトは炎で、男女両チームのシャツやパンツにグラフィック化された炎をあしらうことで、日本代表が持つゆるぎない力強さ、火出る国日本の神秘性を表現する。また、一つ一つの炎は選手やサポーターを表し、それぞれの熱い思いが炎の目となり、そのパワーがサッカー日本代表の力として高く舞い上がる様子を表したという。ホーム用はダークネイビー、アウェイ用は白を基調とする。シャツの胸元、パンツの左前、ストッキングの左右脛中央には、それぞれ国際標準のサイズにそってY-3のロゴがレイアウトされている。

 ゴールキーパー用はホームユニホームと同じ炎のグラフィックを採用し、身体の動きに合わせたカッティングとシルエットを採用することで、素早い動作とより長いリーチをサポートする仕様。ユニフォームは選手用のオーセンティック(半袖18,700円、長袖19,900円)、レプリカ(半袖男女13,200円、キッズ10,450円)で販売される。併せて、サッカーからインスピレーションを受けたストリート&ライフスタイルウエアをそろえた「サッカー日本代表2024 カルチャーウェア コレクション」も企画されている。

 こちらはスカジャンからTシャツ、フーディ、長袖シャツ、ショートパンツ、マフラー、キャップ、トートバック、ロングパンツまでがラインナップされ、サッカーのユニフォームと同様の炎のグラフィック、八咫烏の代表マークやY-3のロゴが配置されたアイテムもある。サッカー日本代表を応援する商品は、これまでレプリカ版のシャツが主力で、それにタオルなどの応援グッズが加わる程度だった。そのため、購入者はコアなサッカーファン、日本代表のサポーターに限られていた。



 今回のユニフォームはともかくとして、カルチャーウエアコレクションを見るとヨウジヤマモト、ワイズの延長線上にいるY-3ファンがどう動くかも注目される。市販されるアイテムは豊富にラインナップされ、サッカーファンや日本代表のサポーター以外の目をひく可能性は非常に高い。ヨウジヤマモトにしても、アディダスにしても「サッカー日本代表応援のスタイリングはY-3で」と、サポーターに呼びかけるのはもちろん、新たなY-3ファンを開拓する上でカルチャーコレクションはカギになる。

 ヨウジヤマモトはファンドのインテグラルが経営再建に携わって以降、ブランド戦略の一環からか、S’YTEやGround Y、power of the WHITE shirt、RAGNE KIKASといった派生ブランドを増やしている。Y-3はその戦略以前の2002年にデビューしたが、ストリートファッションの全盛期にアディダスとコラボしたクリエーションは、スポーティながらもエッジが効いてすごくスタイリッシュに見えた。汗臭いジャージのイメージを一新させただけでなく、カジュアルウエア選びに窮していたガタイがデカい人間にとっては、これなら普段着にしてもおしゃれに見えると思わせたはずだ。




 ただ、Y-3はデザイナーズブランドという性格から、一般のアディダより割高で、機能性を持つスポーツウエアとは乖離し、地方ではECでしか買えないといった立ち位置にある。デビューからすでに20年以上経過しているが、こうしたコラボブランドの特徴が逆に作用し、ファッション、スポーツの両面でメジャーになったとは言い難い。まあ、それはヨウジヤマモトが手がけることである程度予想されたことだが、経営サイドとしてはもっと知名度を上げて、売上げを伸長させたいと考えているはずだ。

 もっとも、ヨウジヤマモトがスポーツチームのユニフォームに参画するのは、今回が初めてではない。2014年にはスペイン・プロサッカーリーグのトップチーム、「レアル・マドリード」のサードユニフォーム、2019年のラグビーW杯では「オールブラックス」のジャージをデザインしている。また、2022年にはヨウジヤマモトと読売ジャイアンツのコラボ企画として、9月6日~8日の東京ドームでのDeNA戦で監督、コーチ、選手がコラボユニホームを着用。各ユニフォームはレプリカを含め市販もされている。

 Y-3も2022年にはレアル・マドリードの創立120周年と同ブランドの創立20周年を記念して、コラボレーションを行なっている。ユニフォームをはじめ、アパレルとアクセサリーは、Y-3表参道ヒルズ店やギンザ シックス店、アディダス直営の一部店舗などで発売された。Y-3は2024秋冬シーズンにもレアル・マドリード・メンズチームの4thユニフォームをアップデート。併せてウォームアップ用のトップス、ライトシェル アンセムジャケット&パンツ、Tシャツやスカーフやウォッシュバッグなどもラインナップしている。

 こうしたコラボアイテムの売上げがどの程度かはわからないが、ヨウジヤマモトはスポーツチームと手を組む新たなビジネスモデルを作り上げたのは確か。知名度やブランド力を持つ球団やスポーツチームとコラボレートするのは、デザイナーズブランドの新たなマーケティング手法の一つにはなり得るはずだ。


後に続くアパレルブランドはあるか



 一方、スポーツのユニフォームには、機能性が要求される。多くのチームが大手スポーツメーカーと契約するのも、そうした理由もあると思う。サッカー日本代表は1999年からアディダスと契約してきたが、2010年のサッカーW杯南アフリカ大会では、同社によって「軽量で吸汗性が高い素材を使ったタイプ(フォーモーション)」と「体にフィットし運動性能を高めるタイプ(テックフィット)」の2種類のユニフォームが企画された。選手のプレースタイルや状態で選べるようにしたものだ。

 フォーモーションは、従来のユニフォームに比べ15%軽量化され、吸水性が高い素材を使用。三次元で設計、縫製し、動きやすさを向上させた。テックフィットは背中にタスキがかかったようなデザインで、肩甲骨を矯正して姿勢を正す。血液の循環を促進し、疲労軽減に繋げられるようにした。ともに日本代表選手が試合で最高のパフォーマンスを上げられるのを目的にしたものだが、チームがベスト16以上に勝ち進めなかったことを見た時、ユニフォームに全面的な責任があるとは言えないまでも、効果をどう検証したのかである。

 大会後、アディダスは各選手にモニタリング調査をしたとは思うが、その詳細は発表されていないのでわからない。というか、同社と日本サッカー協会(JFA)は、2015年に新たに2023年まで8年間契約を結んだ。21年6月には契約を延長することで基本合意している。2024年の代表チームのユニフォームがY-3に決まったとは言え、そこにはアディダスとの契約があるのは言うまでもない。それはプロモ用の写真にオフィシャルサプライヤーのクレジットがあるのを見てもわかる。

 ただ、今回のユニフォームはY-3のブランドやデザインモチーフが全面に出ているものの、機能性については2010年のサッカーW杯の時ほど深く追求した様子は見られない。ゴールキーパー用では多少の説明があるが、選手用はフォワードもミッドフィルダーもバックスも同じ仕様だと思われる。企画開発の段階で選手側の要望を取り入れたのか。それとも、選手は契約するシューズほど機能性にこだわっていないのか。その辺の詳細は定かではない。

 仮にユニフォームが一般に公開された段階で、JAF側から機能面で手直しの声が上がっても、パリオリンピック開幕まで1ヶ月しかなかったことを考えると、修正は不可能だ。JFAとしてもアディダスがオフィシャルサプライヤーで、ユニフォームの提供以外に資金面でのサポートも受けているはずだから、それは承知の上だったと思う。

 大手スポーツメーカーは、各国の代表チームやプロリーグの球団と契約している。選手が試合で最高のパフォーマンスを上げるには、機能性や仕様面での要求も受け入れていると思われるが、それには素材開発から緻密に行なっていく必要がある。4年に一度のオリンピックやサッカーW杯はそのまたとない機会で、市場のリーダーシップを取る絶好のチャンスになる。そのため、一般向けのレプリカを拡販して開発コストを回収していかなければならない。日本のスポーツメーカーではこれまでもそうした手法をとってきた。

 過去のサッカー日本代表のユニフォームではこんな話もあった。それまでアディダスに素材を提供してきたのは日本の繊維メーカーだったが、ある大会から中国のメーカーに変わったという。理由ははっきりと聞かされなかったが、多分コストが影響しているとのことだった。ただ、大手スポーツメーカーも各スポーツ団体に巨額な契約料を支払っている以上、どこかでコスト削減を行う必要に迫られる。それが素材の調達コストだったわけだ。

 これを日本のアパレルブランドに置き換えるとどうか。日本オリンピック委員会(JOC)は公益財団法人ではあるが、収入はがんばれニッポンキャンペーンなどに限られる。日本サッカー協会にしても同様の法人格を有するが、やはり日本代表の活動資金はスポンサーに頼っているのが現状だ。日本のアパレルがウエアやユニフォームをデザインするには、そうした団体と契約しなければならず巨額なスポンサー料を払った上で、企画し提供することになる。だが、わずか3週間ほどのイベントでは、とても投資対効果は望めないだろう。

 2020オリンピック東京大会では、紳士服大手のアオキが選手団の公式ウエアを提供した。水面下では大会組織委員会元理事に計2800万円の賄賂を渡したとして、親会社AOKIホールディングスの青木拡憲前会長が贈賄罪に問われ、懲役2年6月、執行猶予4年の東京地裁判決が確定した。法的な問題を抜きにしても、オリンピックへの企業参画で巨額な金が動いているのは事実だ。こうした根深い背景がある以上、「コムデギャルソンに日本代表のウエアやユニフォームをデザインしてほしい」と、容易く言うことはできないのである。




 それでも、Y-3はサッカー日本代表のユニフォームをデザインした。素人目にはデザイナーの山本耀司氏が1981年からパリコレに参加しているからとか、Y-3ではバックにアディダスがついているからできたことと考えがちだ。しかし、日本のデザイナーブランドが世界的なスポーツイベントの日本代表ユニフォーム参画で先鞭をつけた点は、もっと評価されてもいい。なおさら、日本代表にはユニフォームに記された炎をパワーにして是非ともメダルを獲ってほしいのは、サポーターのみならずY-3関係者の総意でもあると思う。

 オリンピックを契機として日本代表ユニフォームへのY-3の採用は、ブランドバリュウの向上、世界市場に向けたマーケティング、開発ノウハウの蓄積と汎用品へのフィードバックなど、いろいろな効果が期待できる。参画の仕方もスポーツメーカーを通じれば、ハードルが下がるかもしれない、Y-3に続く日本のアパレル、デザイナーの登場を願う。

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感覚でジャストフット。

2024-07-17 06:54:13 | Weblog
 パリオリンピックの開幕まで10日をきった。今回の大会も競技の熱戦、選手の活躍、メダル獲得と話題は尽きないだろうが、ビジネスの面でも国家代表、チーム、選手が着用するウエアやシューズは、大会後にエントリーモデルとして量産される可能性は高い。中心となるのはやはりシューズだ。特にマラソンシューズは日進月歩で進化しており、今大会で最高のパフォーマンスを上げた選手の履くシューズが市民ランナー向けにも影響を与えるのは間違いない。

 ランニングシューズはアスファルトで舗装されたコースを走ると、ソールの踵部分の摩耗が激しい。ジム用のシューズはランニングマシーンで走ったり、筋トレするくらいだから、ソールが耗ることはほとんどない。大事に扱えば、10年くらいは履き続けることはできる。ただ、こちらも知らず知らずの間に靴の表面がマシーンの台座やフロアに擦れているようで、5年も履くとアッパー全体が傷み、7〜8年目にはタンの端が破れてくる。

 スニーカー全般に言えるのは、ミッドソールやクッショニングパーツは、上下からかかる力を緩衝する働きに過ぎないこと。むしろアッパーの方が表面に何かが触れることが多く、細かな傷ができるとそこから劣化が始まる。レザースニーカーはクリーナーで汚れを落とし補修クリームを塗るなど、こまめにケアすれば長持ちする。だが、キャンバススニーカーは専用洗剤とブラシで洗浄することはできても、「バルカナイズド製法」で密着された生地とゴムとの境目から徐々に亀裂が入るので、長期の耐用には限りがある。

 足の形は人によってそれぞれ異なるので、靴はしばらく履いた方がフィット感がわかりやすい。お気に入りのブランドやデザインがあっても、こればかりは自分の足に合うとは限らない。ブランドではナイキが絶対的な人気を誇るが、最近ではセレクトショップが注力するせいか、ニューバランスを履いた人を見かけることが多い。筆者もナイキではコルテッツを一度履いたこともあるが、以降は買っていない。ニューバランスも試着をしてみたものの、自分の足にはフィット感がイマイチで購入には至らなかった。



 自分の足形にはアディダスがしっくり来る。多分、同社の木型がいちばん足に合っているのだと思う。過去20年を振り返ると、街履きはGlenhavenやGAZELLE RSTStan Smith PrimeknitTech Super2.0、ジム用はHockey、ランニング用はクラシックタイプのDragon、予備にはSUPERNOVA CUSHION 7 IRAKと、すべてアディダスになった。日常でフィットしたものが寿命に達すると、もう1足買っておけば良かったと思うことがある。流行より履き心地がいいと、移動や運動がとても楽だからだ。足には健康を左右する「ツボ」があると言われるが、まさにそのせいだろう。




 そこで、10数年ほど前から自分の足型に合うアディダスのシリーズは、一度に2足購入するようになった。Dragon、GAZELLE RST、Stan Smith Primeknitがそうだ。Dragonは週2回程度のランニングでしか着用しなかったので、1足目は購入から13年も耐用した。インドア・ジム用のHockeyが購入17年目で限界に達したため、とりあえず2足目のDragonを代用した。新しいランニングシューズを探してはみたが、なかなか自分に合ったものが見つからないので、自分の足に合うDragonをランニング用に戻し、ジム用にはSUPERNOVA CUSHION 7 IRAKを当てた。これで当分は持つだろう。

 GAZELLE RSTは日本未発売だったため、フランスから2足まとめて輸入した。販売元の粋な計らいでシューレースを好みのオレンジ色に変えてもらった自分仕様だ。こちらはアッパーに生地が使われているにも関わらず、ローテーションを組み適度に休ませながら履いてきた。ただ、11年目にして2足ともアッパーとゴムの境目が破れてきて、1足はソールが剥がれ落ちてしまった。着用期間は1足にすると5.5年。十分な耐用年数を経過したと判断し、廃棄することにした。家族からは「十分元は取れているよね」と言われている。



 Stan Smith Primeknitは夏場だけの着用で保存もきちんとしているせいか、8年目でも2足とも劣化はない。ただ、年々猛暑がエスカレートしてきており、靴下を履いても汗で足がべっとりする。Glenhavenは素足で履けて快適だったが、現在は廃盤で製造されていない。それに変わるものを探しているが、アディダスではキャンバスシューズがほとんどない。コンバースか、ムーンスターか。これもネットでは決められないので、1店舗に行って足に合うものを探してはみたが、なかなか見つからないまま盛夏に入ってしまった。


海外ブランドの高価格帯にも注目



 スニーカーは有名ブランドの寡占状態が続く。各社はファブレスな生産体制を確立しており、ブランド力にデザイン、機能性を併せ持つものが売れている。アパレルも製造コストを下げた低価格のものが売れる傾向にあるが、スニーカーに関しては高価格帯に人気が集まる逆転現象になっている。さらに定価の5倍、10倍の価格で売り捌く転売ヤーもいる。ニーズがあれば価格は上がるというダイナミックプライシングの理屈はあるにしても、意図的に価格を釣り上げて販売する行為は、民法が定める公序良俗の暴利行為に触れなくもない。
 
 スニーカー市場はアパレルのように気候によって売上げが左右されることは少ない。そのため、新規に参入を目指すところもあるが、うまくいったケースはない。ファーストリテイリングも参入しているが、有名ブランドの牙城を切り崩すまでの商品にはなり得ていない。現在はワークマンも980円、1900円、2900円という格安で、ランニングシューズを販売している。実際に市民ランナーが試履きして大会にも出場してモニタリングルポをネットで公開しているが、「改良の余地あり」という意見が大半だ。

 スポーツで履く靴は、やはり靴擦れや捻挫、足の各部への負担軽減を図る上で、専門のノウハウを持つメーカーのものを選んだ方が間違いない。自分の足を守るにはやはりコストをかけた方がいいということだ。そうした意味で、アディダスは兄ルドルフ、弟アドルフのダスラー兄弟が設立した靴製造会社がルーツなのでノウハウの蓄積は申し分ない。第二次大戦中はドイツ国防軍の靴を製造していたが、戦後はルドルフがプーマ、アドルフがアディダスを創業し、共にサッカーシューズの製造販売で鎬を削った。終戦後、日本に駐留した米兵が履いていたスニーカーがアディダスだったという話もある。それほど長い歴史を持つブランドなのだ。

 ナイキはアディダスよりだいぶ遅れて誕生した。1957年、米国オレゴン大学で陸上コーチを勤めたビル・バウワーマンは、のちに共同創立者となるフィリップ・ナイトと出会う。ナイトはスタンフォード大学で経営学を学ぶ一方、バウワーマンの陸上チームのランナーでもあった。バウワーマンは陸上シューズの製作に試行錯誤する中で、彼の手作りシューズを履いた選手が新記録を出し始めたことで注目が集まる。ナイトはバウワーマンとブルーリボンスポーツ社を設立し、多くのシューズを開発に着手。ランニングシューズのマラソンやフレレングス・ミッドソールを採用したボストンが今日のナイキの礎を作り上げた。

 アディダスもナイキも足の構造を熟知した上で、どうすれば負担を軽減して高いパフォーマンスを発揮できるか。飽くなき探究心がシューズ開発の源流にあり、ブランド醸成に繋がった。さらに昨今のスニーカーは普段履き、ファッション、アーバンスポーツと、ライフスタイルに浸透し、いろんな要素で開発競争が展開されている。一方、ファッションの一部としては、デザインやカラーリングを優先するものも増えている。欧米も日本も各メーカーはそれぞれの個性を打ち出し、ショップやネットの力を借りながらブランドの浸透に挑んでいる。

 インポートのスニーカーではデザイン面でナイキやニューバランスをしのぐものは、完売している。インポーターが百貨店などを通じて展示即売会を実施するため、実際に触れて試着できて販売に繋がっているようだ。最近では、スイス生まれの「オン」もランニングシューズの注目株だ。ただ、こればかりは実際に履いてみないとわからない。店舗でオンを試着してみたが、自分の足にはアディダスほどしっくりこなかった。ナイキ人気は依然として圧倒的だが、新モデルが発売されると転売ヤーが暗躍し、買い占められることに辟易しているお客も少なくない。ならば、被らないブランドに向くのは自然の流れだろう。



 筆者が数年前から注目しているブランドは、オランダの「HUB」、イタリアの「D.A.T.E」のほか、フランスのブランドが一つ。これらもデザインがいいものは、SOLD OUTしたものもある。スニーカーがそれだけ世界中のファッションシーンで欠かせないアイテムになったということだ。盛夏の今は、キャンバスのスニーカーに目が向く。ホワイトベースはどうしても汚れが目立つので一般には敬遠されがちだが、専用の中性洗剤や炭酸水、酢を使って洗えば見違えるほど綺麗になるとの動画も公開されている。

 まあ、服もそうだが、デザインのみならず着るシチュエーションに応じた機能も重要だ。スポーツシューズがルーツのアディダスやナイキ、ニューバランスは、通気性を良くするためアッパーのクォーター部分に小さな穴を開けたサスティナブル素材を用いる。ただ、汗かきにとってはやはりコットン素材のキャンバスの方が快適だ。そして、歩くたびに足が素材に触れると足のツボが刺激され、心地いい。感性も大事だが、足にフィットするのがシューズ選びの条件かと。感覚でジャストフットとでも言おうか。アディダスの次に来るものを何とか探し出したい。

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上流を学び、人権を知る。

2024-07-10 06:47:22 | Weblog
 毎年、繊研新聞が学生向けに実施するアンケートがある。その一つ、《学生のいま》アンケート㊥ ファッション業界の環境対応 「大量生産・大量廃棄」を問題視(https://b161.hm-f.jp/cc.php?t=M23727&c=42499&d=fc08)を取り上げる。

 タイトルにある通り、学生はファッション業界の大量生産、大量廃棄を問題視しているようだ。最近では、小学校から授業で環境問題を学んでいる。中学校、高校では問題の本質や対処法にまで踏み込んでいく。さらに大学や専門学校に入ると環境・人権面についても学ぶことから、自分の考えをしっかり持ちサークル活動などを通じて課題解決に取り組む学生もいる。繊研新聞もアンケートでは、その辺の意見をしっかりと掘り起こしている。アンケートの質問と回答例は以下になる。

 Q:「ファッション業界も環境に配慮すべきだと思うか」
 A:「強くそう思う」「どちらかと言えばそう思う」 約86%
 Q:「ファッション業界で問題だと思うこと」」
 A:「大量生産・大量廃棄」 33件 
 A:「労働環境などの人権問題」 27件
 A:「トレンドの短サイクル化による廃棄衣料の増加」 19件
 A:「水の使用量」 17件
 A:「二酸化炭素の排出量」14件
 A:「マイクロプラスチックなど海洋汚染」 14件

 個別の意見ではこんなものもあった。
 「何年も前からファッション業界の環境問題は注目されていたにもかかわらず、いまだに解決されていないのが本当に悔しい」「格安ECサイトを利用する人が多く、服が消耗品のような扱いになっている」「今一度、現在のファッション業界が抱える環境問題について考え直す必要がある」(立教大生)

 日本ではバブルが崩壊した後、「安い」アパレルが消費の主流になり、ファストファッションが流入すると、各社が競い合うように格安商品を投入した。そこでは価格、コストパフォーマンスのみが価値となり、背景にあるコストダウン、労働問題、環境負荷がなおざりにされた感は否めない。ところが、今は安い商品が市場に溢れすぎ、若者の関心も薄れている。並行して世界中でSDGsへの意識が高まり、アパレルの大量生産、大量廃棄が問題提起されるようになったことで、若者の意識も変わってきたと思われる。

 別の大学生からは、日本の環境問題に対する姿勢の遅れを指摘する意見も出された。
 「フランスなど欧州では法規制も強化され企業の意識も高いが、日本はまだまだ進んでおらず、企業の自主的な取り組みにとどまっており、さらなる進展とグリーンウォッシュへの対策が必要」「リサイクルを盛んにすべき」「企業内で完結できる循環システムが必要」「大量生産をやめる」「廃棄する梱包(こんぽう)材やハンガーなどを減らす」(ICU生)

 確かに日本は海外に比べると、環境問題への国家ぐるみでの取り組みが緒についたとは言い難い。そこで、経済産業省は対応策を盛り込んだ報告書を近く発表するようで、柱の一つは衣料品のリサイクルになる。廃棄された衣料品の繊維を新たな繊維に再生する際の規格について、合成繊維、天然繊維で質量に対するリサイクル材料の割合や算出・表示方法を決定する。ようやくお上が腰を上げた感じだが、これから浸透していくのを待つしかない。



 また、グリーンウォッシュも消費者は企業の取り組みをメディアを通して知るが、それがごまかしや上辺だけかどうかを判断する術を持たない。企業が発信する情報には透明性があるのか、一貫した情報を発信しているかなど、第三者機関がきちんと見極め、消費者はそうした客観的な評価に目を向けていくことが大切だ。こんなことが言える。某グローバルSPAの売場を見ると、山のような在庫が積み上げられている。これがワンシーズンで全て消化できるとは思えない。小学生でもイメージできることだ。

 だから、経営者が声高に情報小売業だの、適時・適正の在庫投入だのと叫んだところで、じゃあ、「期末の在庫消化はどうなのよ」と突っ込んでみたくなる。大量廃棄を抑えるには、生産から調整していくべきで、売れ残ったものをいかにリサイクルするかは、生産する企業ごとで考えなければならない。フランスのようにルールを侵した企業にペナリティが与えられることも、深刻に受け止めるべきではないかと思う。だから、そうした取り組みについて、きちんと情報開示していない企業が言うグリーンウォッシュは疑った方がいいかもしれない。


大量生産、大量廃棄の背景にメスを入れないと



 欧州連合(EU)では、ナイロンは20%、ポリエステルは50%以上使えばリサイクル繊維を使っているという表示が可能になった。ユーロブランドの通販サイトを見ても、リサイクル繊維の表示をよく見かける。日本でも、2026年度にも日本産業規格(JIS)を策定し、27年には国際標準化機構(ISO)への提案を目指すという。規格に強制力はないが、環境に配慮した製品の流通拡大につなげる考えからだ。

 ただ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、新しく繊維製品へとリサイクルされる割合は、世界全体でも1%未満とされる。日本ではさらに低いと考えられる。繊研新聞のアンケートで若者が意見を発したことを見ると、若者の意識の方が高いかもしれない。まあ、自活しているわけではないので、勤労者と環境意識の温度差があるのは仕方ない。「働くようになったら、変わってくるよ」と言ってしまえばそれまでだが、大量生産、大量廃棄のままでは業界の未来は先が見えているのも事実。生産者、流通事業者、消費者の全てが環境問題を意識するのは決して間違いではない。

 2024年3月、政府は外国人材が最長5年まで就労できる「特定技能1号」の対象に繊維業を加えた。これによりアパレルの縫製工場などは、外国人材を特定技能1号の対象としてが受け入れることになる。経産省は「国際的な人権基準に適合しているか」や、「勤怠管理の電子化」「月給の給与制度」などを追加要件として求める。また、国際的な人権基準への適合は第三者による認証・監査で確かめる。経産省は強制労働や児童労働、安全衛生など9分野84項目の監査要求事項を定めて、第三者監査を実施する方向という。

 つまり、これまでアパレル工場で働く外国人は、コストダウンを図るためでしかなかった面は否めない。表には出てこないが、過酷な労働環境で働いていた外国人も多いと思う。逆にもっと好条件の働き口が見つかれば平気で移っていくものもいたようで、不法就労や不法滞在などの温床になっていたこともあるだろう。それもコストを下げて「安い」商品を作るため、また川下の小売業者が少しでも利益を上げるために納入掛け率を下げさせたことも要因だ。

 最近は為替が円安傾向にあるため、国内生産に回帰している面はある。だが、販売価格が上がらなければ、国内工場も低価格商品の製造を余儀なくされ、抜本的な改革には結びつかない。川下の小売業が低価格商品の販売、納入掛け率の切り下げを要求する限り、川上の糸、繊維の製造や川中のアパレルメーカー、卸にしわ寄せが行き、コストダウンのために苦肉の策を取らざるを得なくなる。とどのつまりが大量生産による大量廃棄なのだ。

 しかも、労働問題は移民問題とも連結する。EUでは移民を排斥する極右政権が誕生する国もある。アパレル工場が移民で成り立っているとは言えないが、日本の場合は外国人労働者を雇用しているところもあり、やがて移民問題は避けて通れなくなる。そのためにも日本人、外国人を問わず適正な賃金を支払うことで、彼らのモチベーションも上げて行くことも必要だ。労働環境を整備するにも工賃のアップは不可欠であり、川上や川中の価格体系の改善にも踏み込んでいかなければならない。



 消費者も使い捨ての商品ばかりを購入していては、商品本来の価値を見出せるはずもない。まずはコストをかけて価格対価値をしっかり際立たせた商品を生み出すこと。それには川上の糸、繊維作りにも目を向けること。産地の環境を守り、確かな技術の元、質のいいものが生まれるには適正な利益配分が不可欠だとの啓蒙だ。以前、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区で、繊維業での強制労働が問題になった。米欧のアパレル企業は20年以降に同地区の工場と取引を停止するなどして、人権問題を重視した経営にシフトしている。

 2021年1月、ユニクロも同社が製造販売する綿シャツが米国ロサンゼルス港で米国税関によって差し止められ、米国へ輸入できない状態になった。 理由は、生産の一部、あるいは全てにおいて強制労働が問題視される新疆ウイグル自治区が関わっているのではないかと、疑われたからだ。同社は即刻全面否定したが、商社が提出した書類しかチェックしていないわけで、信憑性は藪の中と言えなくもない。やはり第三者機関によるチェックやブロックチェーン化を広く浸透していくことがカギになるが、企業側の努力も必要になる。

 廃棄衣料の繊維をリサイクルすることについては先日、大阪大学の研究チームが電子レンジのマイクロ波で綿とポリエステルが混ざった繊維を分離して再生する技術を開発したとの報道があった。原理は混紡繊維とアルコールの一種であるエチレングリコール、触媒を混ぜてマイクロ波で数分加熱するだけと至って単純だ。ポリエステルだけがエチレングリコール中に溶け出し、残った綿は回収してそのまま再利用できる。溶液を結晶化すればポリエステルの原料も取り出せる。

 廃棄衣料の運搬やプラントの建設などコストが課題だが、SDGs(持続可能な開発目標)の浸透で、資源を大量廃棄するアパレルには厳しい目が向けられ、価格が高騰する資源を再利用することにも注目が集まる。大阪大学だけでなく、全国の大学でも同様の研究は行われているだろうし、再生繊維を使ったクリエーション作りになると今度は専門学校生の出番になる。単に安いものを作るだけがビジネスではないことを多くが認識する日も近いだろう。

 まずは、売れ残り商品から中古衣料までを再利用する取り組みがもっと必要だ。量販店はもとより専門店でも衣料品を回収し、集めた古着を仕分けして古着店に卸したり、リサイクルに回すフローを業界全体、全国レベルで行っていく必要がある。大学生や専門学校生が業界と一緒になってリサイクル活動に取り組めば、川上や川中を知ることができる。そして、業者への圧力や人権問題を知ることに繋がり、業界に対する違った知見をもつこともできる。単に作る、売るだけではない、新しい仕事を作り出す人材になってくれるかもしれない。そんな若者の業界進出に期待したい。

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結局、マンパワー頼み。

2024-07-03 06:41:51 | Weblog

 ニッセイ基礎研究所とメルカリの共同調査によると、国内の家庭に眠る隠れ資産は66兆円6772億円にも達するという。50代、60代の夫婦2人世帯に限っても約132万円と、平均の約111万円を上回る。つまり、これらの眠った資産を市場に出して取引機会を増やせば、新たなビジネスになるわけだ。若年層にはすっかり定着した不用品を気軽に販売できるメルカリだが、フリマアプリの成長率は2023年9月期が対21年同期比で15%程度下落しており、24年も横ばいの見通し。明らかに成長が鈍化しているのがわかる。

 6月5日、メルカリは乳酸飲料ヤクルトの宅配員に家庭の不用品回収を委託する実証実験を広島で始めた。ヤクルト山陽(広島市)の宅配員が家庭を個別に訪問し、不用品を発掘して回収し、フリマアプリのメルカリShopsで販売する。商品が売れると、メルカリ側は売上金の1割の手数料を受け取る仕組みだ。今回の実証実験では、不用品を提供する側は売れても対価はない。ヤクルト側がメルカリに手数料を支払って残った売上金は、自治体や福祉団体と提供した社会貢献活動に使われるという。

 実証実験の段階では、不用品を提供する家庭では概ね好評のようだ。例えば、ある高齢者は、陶器販売店を閉店し売れ残り品の処分に困っていたところ、ヤクルトの販売員から不用品回収の提案を受け、話に乗った。また、不用品回収をパンフレットで知り、わざわざ衣類をトラックに積んで営業所に持ち込んだケースがある。メルカリは全国の自治体とも連携し、35の自治体がメルカリShopsに出店し、住民から集めた粗大ゴミや備品を販売している。若年層ならスマホを使って不用品を気軽にメルカリで販売できるが、高齢者になるとそうはいかない。そこで、自治体が出店の代行や販売などの支援に乗り出したわけだ。



 ただ、自治体もマンパワーには限りがある。高齢者家庭に対し、不用品回収の趣旨を広報することはできても、回収要請が多くなればとても対応できない。また、昨今は業者が「何でも買い取る」と電話をかけて高齢者宅を訪れ、玄関先で言葉巧みに誘いかけて不用品を無理やり回収したり、高いものを安く買い叩くケースがある。挙句の果てに「貴金属はないか」としつこく居座り、難癖をつけて代金を払わないトラブルも発生している。そこで白羽の矢が立ったのがヤクルトの宅配員だ。飲料配達の契約している家庭を定期的に訪問をするのだから、不用品回収の話を持ちかけやすい。顔見知りなら、高齢者も安心できる。

 法律ではどうなっているのか。特定商取引法は、「買取業者が突然訪問し勧誘する」ことや「事前に承諾した物品以外のものを売るように迫る」ことを禁止している。「契約時は書面の交付が必要で、8日間は無条件でクーリングオフできる」。自治体や消費者センターは、「勧誘電話には安易に応じず、不審や不安を感じたら身近の窓口に相談してほしい」と話す。ただ、高齢者がこうした悪徳買取業者の存在を学習すれば、かえって疑心暗鬼になるかもしれない。そうなると、真っ当な買取業者まで受け付けなくなる可能性も出てくる。

 仮にメルカリがマンパワーを駆使して高齢者家庭に回収に出向いたところで、同社が悪徳な買取業者と違う点を周知、浸透させ、高齢者に認識させるのは容易ではない。だからと言って、高齢者がスマホアプリを使って不用品を出品し販売するのは、まだまだハードルが高い。それはメルカリも成長が鈍化しているデータから把握できているはず。ならば、買取業者ではないヤクルトの宅配員に代行してもらった方が手っ取り早いと、考えたわけだ。

 メルカリは2024年5月から「価格なしの出品」機能の提供も始めている。これにより購入希望者側が「購入したい価格」を提案し、出品者がOKすれば、取引に移れるようになった。同社がアンケートを実施した結果、ユーザーでさえ値段決めや価格交渉が煩わしいとの回答が多かったことからとった対応だ。つまり、家庭に眠っている不用品をさらに流通させるには、これまで以上に出品をし易くするなど、環境づくりを進めなくてはならない。それにはネット環境だけでなく、マンパワーという人的な役割も不可欠ということなのだ。


ビジネスにならないと、代行は難しくなる?



 メルカリとすれば、各自治体と連携して66兆円もの隠れ資産を流通させる思惑だろうが、実験が好結果を生んで社会に浸透するかは未知数だ。自治体から地域の事業者に対し、不用品回収の代行要請があったにしても、業者が次々と名乗り出てくるかと言えば、それは考えにくい。ヤクルトの販売会社でも同じだろう。考えられる課題を挙げてみよう。

 1.回収するマンパワーや車両が必要
 2.回収品を置くスペースの確保
 3.回収品の整理、管理が必要
 4.フリマアプリへの出品作業、詳細な情報提示
 5.販売商品の発送手配


 不用品の回収代行をするには、これだけの人、モノ、手間、時間が必要となる。社会貢献という命題を掲げたにしても、すんなり応じられる事業者がどれほどいるのかである。メルカリは1割とは言え手数料収入がある。それはシステム運営の経費で、利益ではないと言い訳するかもしれないが、その先には隠れ資産66兆円を目据えているのだから、中長期的にはビジネスにしたいのは言うまでもない。逆に回収を代行する事業者の中には、不用品の回収からメルカリShopsでの出品、管理、発送を無償で行うのは、やはり不公平さを感じるところも出てくるのではないか。

 結局、中長期的に見て不用品の回収代行が収益になるのであれば、参入するところが出てくるのではないか。その場合、売上げの配分をどうするかである。メリカリ、代行業者、社会貢献(自治体)がそれぞれ3分の1で公平に配分するのが理想だが、不用品だから1点単価はそれほどの高額は望めない。価格の設定を購入希望者側に任せると、なおさら売上げは下げ止まることも考えられる。資産の総額は66兆円あっても、それを流動させるコストがあまりに膨大なら、民間事業者は参入に二の足を踏む。

 そもそもメルカリで販売するのは、不用品と言ってもリユースできる=繰り返し使うことができるものになる。一度使用されたものの中でも「廃棄すべきものではない」という条件がメルカリビジネスの拠り所だ。また、古物という点では古物営業法で13品目に区切られており、この区分に当てはまるかを確認しなければならない。それは回収を代行する事業者が行うことになる。さらに回収する段階では、どんな商品なのか、本物か偽物かなどを判断することも必要だ。おそらく回収を代行する人間にそこまでの知見や経験はないから、まずは回収を優先すると、その先の仕分けや管理に負担がかかってしまう。



 仮に回収代行に名乗り出る事業者がビジネスを想定するとどうか。というか、ビジネスになるのなら、参入してもいいという事業者もあるだろう。当然、収益を上げるには高値をつけて販売した方がいいから、回収する段階で商品の価値を見極めていくはずだ。さらに回収した不用品の適正な在庫管理をしないと、回収するだけでは在庫が膨れ上がってしまう。だから、金になるものは回収するが、そうでないものは回収しないということも考えられる。自治体が不用品のリユースや社会貢献を目的とするなら、そうした回収代行業者の参入は許してはならないはずだが。その線引きをどうするかである。

 不用品の在庫を迅速に消化することを念頭におけば、閲覧者が限られるメルカリだけの出品では限界と考える代行業者が出てくるかもしれない。複数販売チャネルでの「併売」である。お客の目につく機会が多くなれば販売機会が向上するし、ユーザビリティが高まってお客はまた購入しようという気になる。しかし、併売するとなるとさらに出品作業に手間がかかり、在庫管理にも支障が出てくる。

 プラットフォームによっては、商品撮影や商品コードの入力などを条件とするから、ささげ業務に時間と手間がかかる。不用品は傷や汚れの状態など1点ずつ異なる情報の記載を求めるところもある。不用品を回収して流通させるのが前提なのか。地域の活性化かや社会貢献が目的か。こうしたルール作りや啓蒙活動も不可欠だ。

 テレビや家庭用エアコン、洗濯機、冷蔵庫といった家電リサイクル法の対象となるものは、今回の回収の対象からは外れると思う。ただ、業務用エアコンや農機具はどうなのだろうか。まだまだ利用できるものなら、廃棄物ではなく有価物として捉えられ、販売できなくもない。非常に曖昧な部分が出てくるのだ。メリカリ自体が隠れ資産の66兆円に目をつけているのだから、ビジネスとして捉えているのは否定できない。今後はその辺のマニュアル作りや指導、自治体との調整が必要になってくる。メルカリの企業姿勢が問われることになる。
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