HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

プラスαの魅力。

2022-10-26 07:29:39 | Weblog
 ニューヨークから地元福岡に戻った1996年。奇しくもこの年は、天神地区では「第3次流通戦争」が幕を開けた。

 同年秋には、百貨店の岩田屋がソラリアプラザ西側のNTT福岡支店再開発ビルに新館の「Zサイド(ジーサイド)」をオープン。本館は「Aサイド」と改名され、岩田屋は地域一番店2館体制をスタートさせた。翌97年春には、福岡大丸が東側に別館「エルガーラ」を、同年秋には「福岡三越」が南下開業した新・西鉄福岡駅ビルに出店。天神は百貨店だけで売場面積が従来の2.7倍に膨れ上がる一大激戦区となった。

 商業開発は天神だけに止まらない。Zサイドが開業する半年前には、博多区のカネボウ工場跡地にショッピングセンターの「キャナルシティ博多」が開業。ニューヨーク在住時に隣州のニュージャージーで見たモール型SCが日本にも上陸した。さらに天神から遅れること2年半。99年春には博多・下川端商店街が海外のラグジュアリーブランドなどを集積した「博多リバレイン」に生まれ変わった。

 日本中が平成不況で喘ぐ中、福岡は「日本で一番元気な街」として注目される。筆者にも以前から関わっていた業界誌から取材依頼が相次いだ。「天神ファッションウォーズ」などの特集が組まれ、数々のルポを執筆した。あれから20数年が過ぎ、途中では大名地区のファッションストリート化、岩田屋の伊勢丹グループへの傘下入り、天神ヴィオロや福岡パルコのオープン、新・博多駅ビルの開業、天神地下街の延伸があったが、天神の商業施設は九州全域からの集客や福岡市の人口増に支えられ、何とか持ちこたえてきた。



 そして2015年、福岡市はアジアの拠点としての機能を高めるべく、航空法の高さ制限の特例承認や市独自の容積率緩和を組み合わせた「天神ビッグバン」をスタートさせた。このプロジェクトは、24年(コロナ禍で26年まで延長)までの10年(12年)間で天神地区の老朽化したビル30棟を建て替え、新たな空間と雇用創出を目指すもの。数値目標は延床面積で現状の1.7倍(757,000m2)、雇用者数で同2.4倍(97,100人)、建設投資効果2,900億円、経済波及効果8,500億円と設定されている。

 2021年9月には、第1弾として三菱東京UFJ福岡支店跡地に「天神ビジネスセンター」が竣工し、ジャパネットタカタやNECなどが入居。23年春には大名小学校跡地にホテルリッツカールトンなどが入る「福岡大名ガーデンシティ」も開業する。さらに新・福ビル、ヒューリック福岡ビルも建設中だ。商業開発に限って見れば、一部の店舗増と天神コアと天神ビブレ、天神イムズの建て替えのみで、競争激化がエスカレートすることはないと見られる。



 そんな中、新たな計画が発表された。2010年、旧岩田屋本館跡地に開業した「福岡パルコ」本館が14年に新築した新館ともども、26年にも解体工事に着手するというのだ。本館は1936年に開業した岩田屋を居抜きで改装し耐震補強を施しただけでオープン。戦前の建物で店舗の天井高は低く、老朽化は否めない。むしろ建て替えは遅すぎるくらいだ。だが、新館は2014年に旧岩田屋の新館を建て直したもので、完成からまだ8年しか経っていない。

 4年後の2026年までに投資回収が終わるとの目算なのか。むしろ、パルコを運営するJフロントリテイリングが2館同時の建て替えを決断したのは、真向かいでは新・福岡ビル、西隣ではヒューリック福岡ビルの建設が進んでおり、天神の角地にある福岡パルコがハード面で埋没してしまうのを恐れたからではないか。加えて裏手の新天町商店街でも再開発の計画があり、一体で開発すれば容積率の特典を受けられることから、高層化が可能となる。

 さらに天神の魅力向上に資する一定条件を満たし、デザイン性に優れたビルへの建て替えを認定し、インセンティブを付与する「天神ビッグバンボーナス」が与えられることも、追い風になったと思う。

 1973年、東京・渋谷で誕生したパルコは、ハード、ソフトの両面で都市型SCをずっとリードし、2019年の渋谷パルコのリニューアルでは「ノンエイジ」「ジェンダーレス」「コスモポリタン」という次世代型商業施設をコンセプトに掲げた。それだけに、福岡でも都市型SCの再創造に向け、様々なチャレンジをするのは間違いない。


物販・サービス以外のテナントも集積



 ただ、福岡パルコが建て替えれるからといって、新たな魅力を発信できるかは全くの未知数だ。渋谷パルコなら日本の代表するファッション文化の発信基地として、坪効率や歩率家賃を度外視した「コト消費」のテナントなどもリーシングできる。

 一方、福岡天神が九州の首都とは言っても、地方都市に変わりはない。東京を出し抜いて「日本初」を冠にしたファッションテナントを誘致できるとは考えにくく、またそんなテナントがオープンしても、確実にお客を集め売り上げる保証はない。おそらく新・福岡パルコは工事中の新・福ビルやヒューリック福岡ビルと同等の高層ビルになると思われるが、全てのフロアを物販・サービスの既存、新規のテナントで埋めるのは難しいだろう。

 とすれば、どんな構成にすべきか。渋谷パルコを参考にすれば、本館の10階以上をオフィスフロアにして企業に貸し出す手法がある。パルコが若者に照準を当てたテナントリーシングを得意とすることを考えると、スタートアップで起業間もないところやベンチャーなどの新興企業が誘致の対象になると思われる。

 心斎橋パルコのウェルパのような「医療ウェルネスモール」もある。天神は交通アクセスが充実し、企業進出で昼間の人口が増えるので、診療所や調剤薬局が求められる。特にパルコがメーンターゲットとするのは20~40代女性だから、健康診断はもとより日々の健康管理、心身とも良好な状態になれる空間提供(カフェも)は、そうした人々のニーズにかなう。現在の新館をウェルネスモールにすれば、物販サービス・オフィスの本館と棲み分けも可能だ。



 現在、熊本パルコの跡地では、2023年春の開業に向けて新ビルの工事が進んでいる。こちらでは地上3階~11階には「星野リゾート」のホテルがオープンする。他のフロアには「クリニックモール」が開設される計画で、テナントが募集されている。もちろん、天神は外国人旅行客が多いし、ビッグイベントが開催されるとホテル不足が指摘される。インバウンド効果を重視すれば、パルコの物販・サービス(コト消費を含む)とホテルを合体させたビルにするかもしれない。

 Jフロントリテイリングの2022年3~8月期連結決算は、百貨店の高級品が堅調な売れ行きで、大丸松坂屋百貨店の個人外商売上げが19年同期に比べ15%増加。最終損益が黒字となった。一方、SC事業の同期テナント取扱高を見ると、福岡パルコは5月に対前年比で33.4%増と大幅に回復したが、セール期の7月は同0.7%増と勢いが続かなかった。ウィズコロナの中でSC事業を安定させるには、集客できるテナント構成がカギを握るのは言うまでもない。

 Jフロントリテイリングは不動産事業を収益の柱にしつつある。ただ、物販や飲食のテナントはすでに出尽くした感があり、百貨店や他の都市型SCとの奪い合いは熾烈を極めている。ビルがあってもテナントが集まらなければ、デベロッパーは成り立たない。渋谷西武や大丸東京店、高島屋のように「売らない店」を導入しても、それらが不動産事業のメーンにならないのは経営陣もご承知のはず。やはり稼ぎ頭のテナントを誘致するのが肝心なのだ。


 
 その意味で、医療機関なら金融機関から融資を受けやすく、保証金などが確実に担保される。また、ビルインへの新規・移転開業で初期投資をかける以上、短期間で退去することは考えにくく、家賃収入が安定する。小児科や歯科、眼科が同じフロアにあれば、患者側も「ワンストップメディカーブル」が可能なので、来店動機が増すだろう。


 福岡パルコ新館に建て替わる前の天神ハッチェリービルには、土地の所有者である都築学園関連の専門学校が入居していた。天神ビッグバンでビジネス人口が増えれば、キャリアアップのための資格取得に対するニーズも増す。また、3歳から12歳までを対象にアートやプログラミングなどの授業を全て英語で行う外資系の塾も福岡での開校を加速させている。教育施設を誘致するのも、選択肢の一つになるだろう。

 どちらにしても、パルコが誕生したのは1970年初頭だ。それから50年が経過した中、ビル開発とテナントシーシングは新たな段階に入っている。デベロッパーがテナントと一体になって、天神ビッグバン下のマーケティングに注力できるか。求められるテナント、モノやサービスが売れる環境を創造し、魅力的な都市型SCを創り上げていかなければならない。
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リプロ、その前に。

2022-10-19 06:33:40 | Weblog
 今年の6月頃だったか、ある記事が目に止まった。「ソーシャルアクションカンパニー」なるアプリ運営会社が、「SDGs(持続可能な開発目標)に対する行動」についてインターネット調査を行ったところ、「回答者の7割がSDGsに取り組む企業に好印象を持ち、8割以上がそうした企業を応援したい」と、答えたという。

 回答者の属性や調査の信憑性はおいといても、この調査が何を意味するのか。全ての産業でムリ、ムラ、ムダを無くし、コスト削減のツケを製造事業者(企業、国、民族)に負わせない。環境負荷や気候変動への対策を取りながら、販売者や消費者もそれらの責任を負う。単にエコロジーを進めるだけでなく、いろんな角度で構造を変えようという意識が醸成されているということだろうか。

 アパレル業界でも、いろんな企業が事業と並行してSDGsの一歩として、不要になった衣料品の回収や再販、再生に取り組むようになっている。調査前の5月には、アーバンリサーチが「ミライバトン研究所」が国内の廃棄衣料問題の解決を目指して立ち上げたプロジェクト「古着バトン」に参加。古着の回収・販売をスタートさせた。

 古着バトンが指定した「回収キット」を使用し、家庭で不用になった衣類を集めるもので、依頼者は同キットを購入(税込2310円)し、着払いで郵送する。依頼者にも応分の回収負担を求めることで、リサイクルのコスト意識を浸透させる狙いだ。回収した古着は、同研究所の趣旨に賛同または賛助する会員企業と協力し、再販売または寄付する。再販売できないものはリサイクルに回すという。

 ワールドは8月、持続可能な社会の実現を目指す「ワールド・サスティナビリティプラン」を発表。温室効果ガスの削減では、2030年までに自社負荷で17年度比の50%削減を目指すという。また、過剰在庫については、25年までに「残在庫廃棄のゼロ化」に取り組むとした。同社における21年度の衣料品在庫廃棄は約51万点だが、在庫廃棄は仕入れ抑制や在庫コントロールで、年間生産総数比の1〜2%前後まで圧縮されている。

 ワールドは生産の国内回帰を唱えているが、それによりリードタイムを短縮させ、デジタルシフトと並行してプロパー販売率を高め、売れ残りを削減する政策も推進中だ。他にも百貨店の三越伊勢丹は「I’m green」と銘打ち、お客が使わなくなったものについて、専属スタイリストが最適な活用方法を提案したり、日本環境設計の「BRING」と提携して不要になったアイテムを回収し、リサイクルする取り組みを始めている。



 イオン、イオンスタイルは約280店舗の衣料品売場に不要になった衣料品の回収ボックスを設置。イオンモールもBRINGと連携し、不要な衣料品を回収する。BRINGは回収した衣料品をリサイクルとリユースに分類し、独自技術でポリエステル繊維を再生ポリエステル原料に変え、そこからまた新たな服を製造し販売する。ポリエステル以外の素材についても、パートナーと協力しリサイクルしている。

 無印良品は不要になった同社の衣料品(下着、靴下を除く)、タオル、シーツ・カバー類を回収して選別し、衣服は洗浄や染め直し、リメイクなどで新たな価値ある商品に再生している。それらは「ReMUJI」ブランドで一部の店舗で販売するほか、染め直しやリメイクできなかったものは、BRING等でエタノールなどのエネルギーに再生させる。

 古着店のスピンズを展開するヒューマンフォーラムは京都信用金庫と連携し、9月から来年2月までの半年で家庭で不要になった衣料品の回収する「RELEASE⇔CATCH」を実施する。京都市内100カ所に回収ボックスを設置し、再利用が可能な衣服を販売・寄付することで、京都市内で循環するプラットフォームを創出する考えだ。ざっと挙げただけでも、いろんな企業や団体が当たり前のように何らかの活動を行なっている。


まずは再利用できるものを探し出すことから

 ただ、こんな疑問も浮かんでくる。「アパレル業界、各企業にとってSDGsのゴールは一体どこなのだろうか」である。例えば、カーボンニュートラル政策で、10年先に温室効果ガスを今より50%削減できた時、その次はさらに高い目標を掲げるのか。また、それが果たして実現可能なのか。そんなことが頭をもたげてしまう。

 また、衣料品を回収し、繊維に再生して同じような商品を生産すれば、また余剰在庫を生み出すのではないか。あるSPAの店頭で見かけるフーディは、素材がポリエステル80%、残りはレーヨンとポリウレタンの混紡。「空気のような軽い着心地」を謳っているが、合繊オンリーで本当に人肌に優しいのか。汗をかいたときに綿のように吸収できるのか。

 むしろ、コットンが円安によるコスト増で使用しにくく、リサイクルで綿繊維を破砕すれば糸には再生しづらい。合繊オンリーなら在庫が残ってもコットンのようにウエスにならないが、綿よりも再生糸、再生繊維にはリサイクルしやすい。だから、このようなアイテムを企画したのではないのか。企業側の論理でSDGsが口実としてうまく利用されているのではと、疑いたくなる。

 まずは繊維のリプロダクトを謳うより、余剰在庫を出さないことを最優先に考えるべきではないか。そのためには新品の製造をこれ以上増やさないこと。それに伴い、卸や生産現場はどうするか。何に活路を見出すか。生産=収益=成長という構図にもメスを入れる必要があるのかもしれない。



 欧米がすることが何でも正しいとは思わないが、収入が低く可処分所得が少ない若者は、古着をうまく着こなし、それがファッション文化の一翼をに担ってきた。日本でも1990年代から若者の間では古着が定着し、今ではネットオークションやメルカリなどの個人売買が浸透したことで、年齢に関係なく中古衣料をうまく利用する傾向が強まっている。

 ただ、中古衣料を流通させて在庫消化に結びつけるのは容易ではない。中古品の販売サイトでお目当てのアイテムを探す場合、検索ワードを入力しても、それがブランドなら簡単にヒットするが、テイストや程度は現物を見ないとわからない。個人売買になると、詳細の情報は記されていないケースが多く、事業者のサイトでも情報公開の程度には差がある。

 中古衣料を処分したい側とお目当ての中古衣料を探しているお客のニーズは、ネット上では合致しにくいのである。不要な衣料品を流通させて、できる限り在庫消化に結びつけていくにはマッチングの仕組みを構築する必要もあるのではないか。

 中古衣料でも消費者の届く間に専門家が介在し、収集・選別してグルーピン編集し店頭展開した方が商品価値は確実に上がる。買い手がついて売れやすくなるのだ。欧米のセコハンストアがセレクトショップ化してきているのは、ラグジュアリーブランドの中古衣料やヴィンテージの上質なアイテムなどを集めて編集した方が引き合いが多くなってきたからだ。



 日本でも大々的なリユースのイベントが動き出している。ワールドは2019年からはGOOD FOR FUTUREをコンセプトに「246st.MARKET」を開催しているが、今年はグループ傘下のユーズドセレクトショップ「RAGTAG」の特集という位置付けで、中古衣料の販売イベントを企画した。

 RAGTAGでは、商品センターに常時約30万点の中古衣料を在庫している。今回のイベントに向け、業界で活躍するクリエイターがセンターに足を運んで商品を探し、彼らの感性にフィットしたものを選別。それらをワールド北青山ビル1階に集めて246st.MARKETのコンセプトで編集し、サステナブルファッションマーケットという形で販売する。

 倉庫に在庫のまま眠っている商品にクリエーターの感性が光をあて、再び表舞台で出してお客さんの目にとまるようにする。基本的にRAGTAGが中古衣料として買い取るのは、何らかの価値を持つものであるはず。だが、全ての買取在庫を選別し、再編集するには手間がかかる。倉庫に眠ったままでは、お客のお目に叶う商品が埋もれてしまっている可能性が高い。



 だからこそ、クリエーターに「逸品」を発掘してもらい、中古衣料に再び息吹をもたらす。お客の側もそちらの方がお目当てのアイテムを探すには効率がいい。246st.MARKETはそうした場にもなるということだ。国道246号、青山通り沿いなら、立地的に情報発信、集客は申し分ない。開催期間は11月2日(水)~6日(日)の5日間。偶然だが、筆者はこの期間に3年ぶりの東京出張を予定している。仕事の合間に時間を作り、ぜひ覗いてみようと思う。

 もちろん、デザイナーが眠ったまま中古衣料を見ると、自分ならこうリメイクするというインスピレーションが湧くのではないか。イベントはリメイクを行なっている方々にとっても格好の商材発掘の場となる。今後はそうした商品を集めて新たな展開やプラットフォーム化ができるかもしれない。

 奇を衒ったようなリサイクル、糸や繊維への再生より、まずは原点に帰って作り過ぎず、廃棄もしない地道なことに取り組む。その一つが眠っている中古衣料を循環させること。再生やリサイクルとは別の次元。発想の転換がSDGsの次なるフェーズになるような気がする。


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ビギの血脈は続く。

2022-10-12 06:51:02 | Weblog
 DCブランド世代にとって象徴的なブランドがある。1970年にスタートした「ビギ」だ。デザイナーの菊池武夫氏と経営者の大楠祐二氏によって生まれ、菊池氏の二度の独立や労使問題、三井物産による被買収など紆余曲折を繰り返しながらも、「一枚の布が生命をもつ」という服づくりのスピリッツは、今なお異彩を放っている。

 誕生から50年以上が経過する中、ブランド“BIGI”こそ名をとどめていないが、トレンドを敏感にキャッチし、自らのテイストやオリジナリティを保ちながら新しい潮流を切り拓こうとする企業姿勢は変わらない。(株)ビギ傘下の「モガ」「レキップ」「ヨシエイナバ」「フラボア」などにも、そうした精神とスタンスは脈々と受け継がれている。



 そんなブランド群の中で、筆者が注目していたのが「wb(ダブルビー)だ」。モガやヨシエイナバに比べると誕生はずっと後(2004年)になるが、他社にはない独特な素材使いやカッティングの秀逸さは、往年のビギを彷彿させた。ターゲットは30代後半からの洋服好きで働く女性。コンサバエレガンスを旨とする大企業のOL向けというより、仕事も遊びも自分らしく自由にこなす大人の女性に向けたブランドだ。



 wbがスタートした当時は平成不況、デフレ禍の只中。大手アパレルは卸先が売上げ急落を利幅で埋めるために求めた歩率アップにより、商品原価を下げざるを得なくなった。また、ODM(相手先デザイン生産)など安易な外部委託に走った結果、各ブランドは急速に個性やクオリティを失い、凋落していった。

 一方、wbは外部環境の変化に左右されることなく、ひたすら独立独歩の服づくりを貫いた。企画デザインに注力し、素材や加工などに原価をかけ、服選びで妥協しないファンに向けたアイテムを生み出す。皮肉なことにそんな服は、百貨店の客層に好まれた。松屋銀座、日本橋三越、大丸東京、そして各地の一番店では、コンスタントにファンを集客。都市部、地方を問わず洋服好きがいる限り、その傾向は変わらなかった。

 ところが、昨年2月、突如、wbのショップ閉店とモガへの統合がリリースされた。詳細な理由のわからない。元々、モガはキャリア志向の女性のためのブランドで、シックで落ち着きのあるウエアを展開していた。ただ、誕生から50年を経過したロングランブランドで、活性化の意味を込めて新しい血を入れたかったのか。後発のwbもキャリア狙いのため、両ブランドの明確な線引きが難しくなったからか。

 親会社である三井物産としては、ブランドの特徴を明確にした方が素材調達を担う商社としては、OEMを含めブランドの世界観に合致したものを効率的に手配、生産しやすい。そのため、よりコアなファンを獲得せよとの命を下したか。それとも、主な販路である百貨店から、モガの活性化を求められたか。いずれも憶測の域を出ないが、そうした理由が考えられる。

 アパレルビジネスである以上、売上げが頭打ちのブランドはテコ入れし、時間の経過ともに陳腐化したブランドは、企画スタッフを交代させるなどの対策を取らざるを得ない。もちろん、wbの遺伝子をモガの中で、個性としてどう昇華させるか。それには大いに期待できる。

 では、wbの後継ブランドはあるのか。ふとそんなことも考えた。レキップやヨシエイナバはメーンターゲットが50代で、実際の客層はさらに上がる。フラボアは30代でも着こなせるが、個性的なデイリーカジュアル。「アデュートリステス」や「ロワズィール」はガーリッシュテイスト。メーンターゲットは30代以下で、オフィシャルには不向きである。wbの受け皿となり、洋服好きを唸らせるブランドが必要ではと思っていたら、ビギ側もちゃんと考えていたようで、秋には「DÉPAREILLÉ(デパリエ)」をデビューさせた。



 ビギ公式サイトのブランド紹介には以下のようなフレーズがある。「女性本来の魅力を演出する、時代の変化によりさまざまなものが交差し合わさる、私の好き(好み、個性)の組み合わせ それがDÉPAREILLÉ」と。

 自分の魅力を服によってどう引き立たせるか。そんな服は時代、シーズンによって様々な表情を見せるものがいい。そこで違った好きに出会い、違った自分を主張できる。着る人を幾重にも演出する服がデパリエなのだ。wbに比べるとやや上の年齢向けにも見えるが、30代後半から40代前半の服が甘くて若づくりを意識するものが多いためか、大人びてもエージレスな自分を演出したい人向けには、格好のブランドだと思う。


こんな服が欲しかったと実感できる服

 別のリリースによると、「デパリエは、1960年代のパリの女性をテーマにデザインしたコートやジャケットなどのアイテムを主力にする」という。他のアイテムにしても、シャツの襟に芯地を入れてコシを出し、ドレスをテーラードカラーにするなどして、マニッシュなイメージも併せ持たせたという。キャリア向け、オフィシャル着用も頷ける。

 価格はデザイナーズブランドとしてはMAXの設定。例えば、ラメファンシーツィードジャケットは143,000円、リボンヤーンラメツィードジャケットは121,000円、シルクストレッチワイドパンツは41,800円、シルクストレッチスカートは41,800円、ハイゲージ2WAYプルオーバーは44,000円(すべて税込)となっている。




 ここ最近、メディアは物価高を声高に叫び、消費者が生活防衛に追われると警鐘を鳴らす。にも関わらず、デパリエのオンラインサイトではすでに高価格帯でもSOLD OUTのアイテムがある。ラメファンシーツィードジャケット143,000円、ファンシーツィードジャケット101,200円、ラメファンシーツィードジレ88,000円、 ノーカラーリバーベスト88,000円、ファンシーツィードフリンジジレ79,200円、オーガンジーランダムタックプリーツスカート37,400円(すべて税込)などで、女性ならではのデザインが完売している。

 やはり、商品の良さを見抜けるお客には、「この素材使い、このデザイン、この質感なら、十分に値ごろだから、買い」とのスイッチが入るのだ。それには巧みな販売戦略とプレスプロモーションが奏功したと考えられる。デパリエでは、Advance Reservation
2022A/Wと銘打った「秋冬物の先行予約」の第1弾を7月22日にスタート。第2弾は一週間後の7月29日に開始したが、第3弾、第4弾はそれぞれ8月19日と9月22日にスタートした。

 残暑が残る中で、実需期とは開きもあるが、洋服好きにアイテムを小出しに見せることで少しずつ購買意欲を煽っていく、いわゆるデザイナーブランドの手法である。その間、8月9日には2022年秋冬コレクションをweb上でも公開している。当然、wbの後を引き継ぐ大人向けのブランドがいつデビューするかは、メディア関係者も期待したはず。ビギの服づくりを40年以上見てきた筆者が「これだよ」と感じるくらいだから、ファッション誌の編集者が誌面で取り上げたくなるのは想像に難くない。

 ビギが旬だった70年代後半も、代表の大楠氏は「アンアンが成り立っているのは、ビギがあるからだ」と、豪語していた。裏を返せば、ファッション誌が売れるために不可欠なブランドを出版社サイドが求める傾向は、今も変わらない。その意味で、デパリエは大人の女性向け雑誌では、トップリコメンドになる可能性もある。

 話はズレるが、先日、日本テレビのアナウンス部が初のアパレルブランド「アウディーレ」を発表したとの報道があった。同社は2022~24年の中期経営計画で「テレビを越えろ、ボーダーを越えろ。」というスローガンを掲げ、新規事業の創出に注力。「全員ビジネスプロデューサー主義」を社員に投げかけていたが、その一環でもあるようだ。

 プロデュースした郡司恭子アナは、「自分にとって心地よい選択をするためにどのような服を選び、まとうと良いか。服の提案だけでなく、その過程にも寄り添うブランドにしたい」と、コメントしている。まあ、日テレには10年ほど前、超ミニホットパンツ姿で堂々と出社し、局員を唖然とさせたアナウンサーがいた。上層部はこの一件をよく思っていないはずで、「アウディーレ」の企画に当たっては、何らかの指示もあったのではないか。

 デザインや製造、実売の有無など詳細はわからない。ただ、商品を見る限りでは、画面の向こう側にいる高齢の視聴者を意識したのか、スーツにしても、ドレスにしてもコンサバエレガンスなテイストに落ち着いている。その対極にあるのがデパリエなのだが、こちら方が似合うメディア関係者も確かにいる。

 ジュンコシマダ、フリーツプリーズを難なく着こなした元アナでタレントの楠田枝里子氏、現役時代はデザイナーズファッションにも臆することがなかったフジテレビの阿部知代アナウンス室デスク担当部長、そしてパリの女性をテーマにするならこの人、小泉進次郎元環境大臣のクリステル夫人。仕事で見事にキャリアを重ねたお三方にはフィットするはずだ。

 もちろん、少し年齢が下がる方々でも、セントフォース所属の中田有紀アナや長久保智子アナ、キー局ではテレ朝の森川夕貴アナなら映えるだろう。独特な世界観を持つデパリエは、クールで少しアンニュイな雰囲気を醸すキャラクターの方が合致する。こればかりは人気アナや実力派キャスターだからと、着こなせるわけではない。人柄とセンスは必ずしもリンクしないからだ。有働由美子キャスター然り、和久田真由子アナ然り、TBSの江藤愛アナ然りである。

 このコラムではかつて「女子アナとエムズグレイシー」というタイトルで書いた。今度は「デパリエとメディアウーマン」なんてコラムをもいいかと思う。今年の紅白歌合戦で司会を務める桑子真帆アナの衣装も気になるところだが、キャラ的にデパリエのテイストは難しいかも。それでも、スタイリストがどう動くかだ。ブランドプレスの意気込み、そしてリース次第だと思うが、果たして。
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古着を売る新しさ。

2022-10-05 06:48:01 | Weblog
 先日、こんなプレスリリースが目を引いた。「伊勢丹新宿店のメンズ館が様々なデザイナーやブランドとタッグを組んでコートを提案するキュレーションポップアップ『The COAT』を10月5日(水)より18日(火)までメンズ館1階で開催する」という告知。(https://www.imn.jp/post/108057205353)

 同店がお客との「つながり」をテーマに新しい発見を生み出す場とするメンズ館1階の「プロモーション」スペース。ここではイセタンメンズがキュレーション(収集・選別・編集)するアイテム特化型のポップアップショップを展開。今回はイベントタイトルにある通りコートをクローズアップ。「定番品」「男性のマスターピース(傑作)」を過去のアーカイブや新作も含めて再定義し、次世代の銘品、次世代にふさわしいアイテムを提案する。




 カテゴリーは①ネクストビンテージ②アーカイブ③マスターピースの3つ。①はポール・スチュアート、アクアスキュータムなどで、国内外のデザイナーやブランドディレクターに別注した5ブランド。②は東京・高円寺でビンテージクロージングなどの専門店を展開する「サファリ」の協力のもと、往年の銘品150着以上を展開。③はイセタンメンズのベストセラーモデルを含む5ブランド。

 ①と③は百貨店が取り扱うブランドから別注&選別したものを、正規の売場からイベントスペースに移して打ち出すだけ。日頃、デパ地下で販売する商品を上階の催事場に上げ、一部の仕入れ商品を加えて開催する「〇〇展」と、大差ない。定番化した百貨店イベントだからそこそこの集客はあるだろうが、ことメンズファッションに関して言えば、ファッションの伊勢丹としてややインパクトに欠ける。

 むしろ顧客の洋服好きが伊勢丹に期待するのは、「エッジが効いてスパイシーな」「コレだと言わせる」「時代を突き抜けるような」ものを提案してくれるかだ。当然、企画するバイヤー側もそれは十分承知のはず。日頃の業務やオフの市場調査で、それを実感したのがビンテージクロージングと呼ぶにふさわしい海外直輸入のセコハン衣料。所謂、古着で②のアーカイブとして出展にいたったのではないか。仮にそうだとすれば、ファッションをリードしてきた伊勢丹がついにパンドラの箱を開けたことになる。

 百貨店の存在価値が問われて久しい。国内外のブランドを集めて販売する。これだけでは同質化はやむ無しで、市場規模は1991年の約9兆7130億円をピークに減少の一途を辿っている。特に衣料品は2020年には約1兆1409億円まで下落し、10年に比べて半分となった。まさに自己変革は待ったなしで、各経営者は口々に「脱・百貨店」「シン・百貨店」を標榜し、他店にはない「良品」を発掘してお客が「出会える場」を作ろうと躍起になっている。

 しかし、現状の取り組みはD2Cブランドの体験会を開いたり、そうしたブランドのポップアップストアを誘致し、EC購入とシンクロさせる程度に止まる。伊勢丹からすれば、さらに一歩進んだ良品やお客が体験できる場を提案したいと考えてもおかしくない。言い換えれば、お客にとって「良品」とは、何も「新品」とは限らない。また、「出会いの場」は常設でなくて千載一遇の機会だとすれば、顧客の購買意欲に火をつける可能性もある。

 つまり、この商品、このチャンスを逃せば、もう出会えない(買うことはできない)という気にさせるのが肝心なのだ。筆者は伊勢丹がプロモーション、そしてThe Coatをそういう場、そういうものに位置付けようとしていると感じる。百貨店がこれまで踏み込んでこなかった古着も、その範疇に入るということである。


百貨店が古着を売るための努力

 イベントで提案されるアーカイブは、ビンテージクロージングを扱う「サファリ」が全面協力してラインナップされる銘品コートの数々。同店はこれまで靴博にも出展し、今回のイベントを企画したバイヤーが常連客でオーナーと仲良くなり、今回の参加が実現したという。(詳細は以下に。https://www.imn.jp/post/108057205347)



 バイヤーはサファリのビンテージクロージングを気に入った理由に、「ウェルドレッサーたちが古着を巧みに取り入れた着こなしをよく見かけるようになり、古着がごく身近な存在になっていると感じた」ことを挙げる。確かに大手ブランドメーカーが発表する新商品は、どうしても自社企画が優先されるため、色柄や素材感、シルエットなどにおいてビンテージ古着が発するような匂いや世界観に乏しい。

 しかも、伊勢丹の顧客ともなれば、もはや「ブランドだから」「インポートだから」といって簡単に飛び付くことはないと思う。洋服を選び抜く目は百貨店のレベル、バイヤーの視点を遥かに超えているということだ。むしろ、新品にはない古着の独特の風合いや質感こそ、スタイリングの決め手になると、感じる部分もあるだろう。洋服の玄人にとっては、古着がそれだけ抵抗がなくなったと言える。

 これは伊勢丹側にとってむしろチャンスではないか。他の百貨店ならどうしても「古着を販売する」ことに抵抗感がある。保守的な経営陣は尚更なことだ。しかし、ファッションの伊勢丹ならそれができなくはない。新たなファッションをお客に提案するのに、新品も古着もない。少なくともそうした姿勢を伊勢丹が示すことが重要なのである。いや、そこまで踏み込んでこそ、脱・百貨店、シン・百貨店ではないかと思う。

 業界は盛んにSDGsを提唱し、世界中のデザイナーが先のコレクションでは、元の素材をそのまま生かしたアップサイクルなクリエーションを提案している。百貨店がそうしたデザイナーと手を組むことも考えられるが、コレクションレベルのクリエーションでは実売に足るものがほとんどない。また、商品化に漕ぎ着けるにしても、一百貨店では生産ロットの問題、仕入れ条件などが頭をもたげてしまう。
 
 伊勢丹と言えど現状でできるのは、「いいものを長く着よう」というスローガンを具体的に商品や販売手法に落とし込むことくらいだ。期間限定のイベントで、古着のビンテージクロージングを売るのもその一つだろう。もちろん、いくら伊勢丹と言えど、一バイヤーの思い入れで、簡単に「古着が販売できる」はずはない。そこには越えなければならないハードルがいくつもあったと思われる。

 伊勢丹側から、その舞台裏の詳細は公開されていないので、あくまで筆者が百貨店の内規に沿った条件を推測してみたい。まず、バイヤーがThe Coatの企画書にアーカイブのコーナーを設け、テナント出店とはいえ伊勢丹の店舗で古着を販売することについて、上層部まで稟議を上げ、許諾をもらわなければならなかったと思う。

 逆に上層部は許諾するに際し、以下の条件を付けたと考えられる。まず、サファリが正当な古着店であるかどうか。それは「古物商許可証」を持っているかである。少なくとも許可証の提出は求めたはずだ。さらに厳密に言うなら、古物商申請までの流れを踏んでいるかを明示させる。条件の確認から個人・法人の区分、取り扱う品目、警察署への事前相談、必要な書類提出、申請書の作成、書類提出と手数料納付、審査までがきちんと行われていたかだ。



 中古衣料を日本に輸入するには、かつては「検疫」を受けなければならなかった。病害虫や細菌などを日本にもたらす恐れがあるからだ。現在では輸入業者が現地、または輸入後の通関前にクリーニングを行うことが定着したため、輸入にあたって特段の規制はない。ただ、実際に販売するには「家庭用品品質表示法」に則り、繊維の組成、洗濯等取扱方法、表示者(輸入者または販売業者)の名称および住所又は電話番号等の表示が必要になる。

 また、「家庭用品規制法」で肌に触れる製品では、有機化学物質を含有し、基準に適合しない製品の販売は禁止されていること。だから、これをクリアした商品であるかを確認しなければならない。今回の場合は、コートというアウターなのでそこまで厳密な規制は必要ないだろう。ただ、伊勢丹が自店で販売する限り、百貨店としての信用、適正な商品であることが担保されることを念頭に、経営陣は国の規制よりも内規を重視させたと考えられる。もし、販売後に何らかのクレームが生じれば、バイヤーの首が飛ぶくらいでは済まされないからだ。

 おそらく、バイヤーにはそうした条件をクリアさせることで、古着の販売を許可したのではないか。バイヤーとしても、いくら中古衣料の販売事業者と個人的に懇意にしているとは言え、ビジネスとして考えれば、顧客が被るいかなる影響も想定しておかなければならない。変える部分と大事にする部分が共存してこそ、新たな百貨店を創造できるのである。様々なハードルを一つずつ超えながら、新たな商品と出会の場を提供していく。そんな百貨店が変わっていく姿をこれからも興味深く見ていきたい。

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