HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

気候ロスに立ち向かう。

2024-01-31 07:39:19 | Weblog
 アパレルにとって売上げと気候は相関関係にある。品揃えを四季に合わせるには、1年ほど前から生地を手配し、数ヶ月前には縫製に取りかからなければならない。だが、気候は必ずしも季節通りにはならない。地域にもよるが、九州ではここ20年ほどは総じて冬場の気温が高く、真冬、厳冬という季節感さえなくなりつつある。

 商品を販売する側とすれば「ヘビー」、いわゆる防寒のための重衣料は単価も高く、数字が取れるのでどうしても品揃えを厚くしたい。しかし、冬が寒くなければ、ウールのロングコートや紡毛系のジャケット、肉厚のウールニットなどの売れ行きは悪くなる。結果として在庫を抱えたまま期末が近づくと値下げして捌かなければならず、見切りロスを招いて荒利が低下してしまう。



 もちろん、アパレル各社は手をこまねてきたわけではない。防寒衣料の企画を見直し、コートやジャケットを身頃、袖、ケープ、ライナーなどを分離して構成。最初から取り外したものや取り外しが利くようにしたり。レイヤードな着こなしを想定して素材にライトメードのウールやコットン、ナイロンを使用したり。気温が高めで推移することを前提にした企画やデザインで対応するようになった。例年のデータからして暖冬傾向が続けば防寒アイテムは売れないのだから、仮に寒い日には重ね着で対応して貰えばいいと発想を転換したのである。

 また、季節が冬から春に移行するにつれ、売れる色目は変わっていく。年が明けると、冬場独特の黒、紺、茶、ワインレッドは売れない。お客はセールだからと言って、ダークな色を購入しても着る期間は限られると考えるからだ。サーモンピンクやベージュ、ライトブルーなどのブライトカラーやグレイッシュトーンの方が着回しが効くから、どうしてもそちらに手を伸ばす。これならプロパーでも十分に売れるのだ。

 これにセール抑制がシンクロしている。暖冬で冬物衣料の在庫がセーブされていることで、昨年くらいから冬のセール期間が1週間程度に抑えられている。梅春などの先物をプロパーで販売した方が荒利は稼げると、小売り側も気づき始めた。メーカーが在庫をコントロールする百貨店、1業態10店舗以下のチェーン店やセレクトショップ、そして個店はよほど冬場の商品を外して大量の在庫を抱えない限りは、セールで在庫を消化するやり方を変えてもいいだろう。要は売り切れ御免、プロパー消化へのMD構築である。



 大手はどうか。ザラを展開するインディテックス社は、グローバルSPAとして世界的なキャパで物量を投入している。にも関わらず、アパレルとしての手法は短いトレンドに照準を当て、小ロット多品種のアイテムを投入し、高い消化率と高回転を果たしている。アイテム企画でも価格を抑えながらもトレンドを確実に押さえつつ、ブランドとして高い価値を創造する「インダストリアルSPA」としての性格も併せ持つ。

 昨年冬、筆者はこの手法を目の当たりにした。秋口からウールのパンツを誂えようと、オーダー専門店をいろいろ回る一方、ネット通販でカジュアルに穿けるウール系のバンツを探していた。国内アパレルのものは合繊混紡で、ややルーズなシルエットとどこも似たり寄ったりの企画だった。ダメもとでザラも確かめてみたが、10月末の時点ではコットンか、合繊主体しか企画されていなかった。

 ところが、11月半ばに再度チェックすると、ウール&綿でフレアフィットの「ピンストライプパンツ」が投入されていた。「オリジンズスペシャルコレクション」と銘打たれ、生地はイタリアンウールブレンドとの表示だった。価格は13,590円といたって手頃。店頭に在庫はなく、ネット通販オンリー。「これだ」と思ったが、その時点で当方のサイズ(EU38/JP30)は完売。改めてザラの売り切れ御免商法をまざまざと見せつけられた。


大量在庫・売り減らしは季節変動に脆弱

 一方、一人勝ちしてきたユニクロはどうか。さすがに2023年の暖冬は堪えたようで、23年12月の国内既存店(EC含む)売上高は、前年12月比15.4%減となった。客数も14.6%の大幅減で11月から一転しマイナス。客単価も0.9%減と、22カ月ぶりに前年実績を下回った。要因は気温が高めに推移し、単価が高いダウンコートやジャケットなどの重衣料の販売が振るわなかったからという。ユニクロにとっては季節に反し、“厳冬”となったようだ。

 まあ、12月ひと月の国内売上げだけを見て、ユニクロ失速と断言するつもりはない。また、就任まもない塚越大介新社長の責任を問うのも時期尚早だろう。かつての玉塚元一社長が更迭された時とは時代も状況も違う。ただ、世界に冠たるグローバルSPA、近い将来にグループ年商10兆円達成を目論む以上、地球規模の気候変動と地域特性を前提にしたローカルな商品政策や供給体制を早急に構築しなければならないのは確かだ。ユニクロとしても経営の大本命に位置付けているはずである。

 現に12月の短信発表と同時に、ファーストリテイリングは「実際の気温推移に沿った品揃えにシフトし、気温に関係なく売れるニュース性の高い商品も増やす」「東南アジアなど日本や欧米と気候の異なる国・地域では、現地の生活者のニーズに合った商品構成を強化する」と、ユニクロのMD見直しに言及している。ただ、こうした手法は、長期的なトレンドに照準を当て、大ロット・ローコスト生産を行うユニクロにとっては、ハードルが高い。というか、修正にかなりの時間を要するのではないかと思う。



 まず、地域における平均気温のデータを元に商品の販売エリアを厳密に精査し直す必要がある。そして、エリアごとに求められる商品を想定したMD基準を構築しなければならない。要は赤道に近い東南アジア諸国ではダウンジャケットやウールニット、ヒートテックは必要とされない。逆に中国東北部やロシア、北欧や北米の厳冬地では防寒衣料は必須だが、地域によって暖冬になるケースもあり、一気に売れ残り在庫を抱えることもある。

 現に筆者が在住していた1994年暮れ、95年の冬、96年の年明けのニューヨークはすごく暖冬で、ウールのコートは必要でなかった。また、97年12月のパリ、98年2月のミラノもそれほど寒くはなかった。一方、ニューヨークの百貨店では、年末年始をカリブ海のリゾートで過ごす人たち向けにリネンのウエアも並んでいた。冬場でも気温が高い中国南東部の都市ではダウンジャケットが流行した時、気温に関係なくそれを着る若者がいた。ボトムは短パンで、足元はサンダル姿だったというのにだ。そこまでのファッション嗜好は例外だろうが、地域の気候を予測してMDを構築するのは容易ではないのは確かだろう。

 もっとも、ユニクロ国内の売上げ減の要因は、気温が高めだったことだけなのか。同社は大ロット・ローコスト生産で素材やアイテムを絞り込んでいるため、品揃えがフラットでMDの陳腐化は避けられない。気温が高かったからダウンコートやジャケットが売れなかったのではなく、それらのアイテム自体がすでに飽きられているのではないのか。コラボ商品を投入して活性化しているとはいえ、前シーズンとそれほど変わり映えしない商品では、MDの鮮度が出せるわけがない。

 ユニクロが気温に関係なく売れるニュース性の高い商品を増やすと言うのも、世界的な気温変動が続く中では抜本的な気温対応型の政策はないからではないのか。そもそも、気温に関係なく売れる商品とは、いったい何なのかである。有名デザイナーとコラボしたプレミア感を持つ商品で、コットン主体のTシャツやトレーナーがそうか。あるいは前述したようなコートやジャケットを身頃、袖、ケープなど別々のパーツで構成し、気温によって取り外しが利くようにするものか。それとも中国のシーインに模倣・販売されたバッグ、「ラウンドミニショルダーバッグ」のような衣料以外のアイテムに注力するのか。

 ただ、こうしたアイテムは企画の段階からかなりのクリエイティビティやデザイン力に寄ったり、服そのものの企画にユーティリティを持たせたりと、叡智を絞り作り込んでいかなければならない。それがユニクロに可能かどうかは別にして、気温に関係なく売れる商品を投入すると表明した以上、取り組まなければならないのは確かだ。ニューヨークの企画部門を充実させるとの話もあるので、エリアごとの気温データなどをAIを駆使して分析しながら、各地域ごとでニュース性のあるアイテムを企画して行くのではないか。

 ユニクロは自ら販売する商品を「ライフウエア」と呼んでいる。それは販売する商品を日々の暮らしに必要なパーツ衣料と位置付け低価格で高品質を謳うものだ。そのためにできる限りコストを削減し、素材も製造ラインも絞りこむことで、独自のMDを作り上げ、それがマスマーケットに受け入れられた。しかし、こうした大量生産の工業製品的商品は、市場のトレンドやニーズから遠のけば、一気に売上げが落ちるリスクも抱えている。

 しまむらはかつて、日本列島を緯度で区切った気温変動に合わせ、売れ残った在庫を北上移動させながら消化していく方法をとっていた。理屈としてはユニクロでもできなくはないが、同社規模の店舗数になると物流コストが莫大になるため、現実的ではない。そう考えると、なおさらエリアに即したMDの構築が不可欠になる。だが、それはユニクロが10兆円企業を目指す上では乗りこなければならない高いハードルでもあると言える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ご当地も行き詰まる。

2024-01-24 07:42:07 | Weblog
 1月8日付けの繊研PLUSに以下の記事がアップされた。「フランスのファッション製造・小売業が2024年はさらに悪化する」。2023年にフランス国内のアパレルで相次いだ会社更生や経営破綻が今年も続く危険性が高いとする内容だ。1980年代から90年代前半にデビューし、日本でも人気を集めた「ナフナフ」「クーカイ」「ピンキー」、そして「ギャップ」の仏法人が更生手続きや再建型破産手続きを申請した。中間価格帯であることや更生・破産と経営交代を繰り返していたことが共通する。

 また、コロナ下に必須となったデジタル改革ができず、消費の変化に対応できなかったこともあるという。「商品開発力もなく実店舗での売り上げが落ち、コロナ下から滞納している家賃が払えず、そこにインフレの追い討ちを受けた」というから「えっ、そんな理由で、ブランドが行き詰まるの?」と驚かざるを得ない。アパレルとしてあまりに根本的な経営手法を欠いたことに空いた口が塞がらない。

 デビュー当初、フランス発のブランドで日本にはないデザインやカラリングにインポーターが飛びついた。日本での販売はジャパン社の設立が条件だったところもあった。ところが、アパレルブランドである以上、時を経るに従って市場に選別されるようになる。グローバル市場はご当地のファッションをそのまま持ってきたからと、簡単に売れるほど甘くないからだ。人種によって体型は異なるし、色やデザインの好みも変わる。逆にグローバルベーシックを標榜するギャップがフランスで受けなかったところも典型だろう。

 日本でも微妙な嗜好の違いが売れ行きを左右する。ジャパン社に資本力や自社開発力があれば、日本企画の商品を投入して何とかブランドを活性化することはできるが、それにも限界がある。結局、日本デビューは難しくなくても、中長期的な戦略を描いてマーケットを開拓していく経営力を欠けば、生き残れないという証左だ。

 一例を挙げてみよう。日本では1990年代初め、「フレンチカジュアル」がトレンドになった。次々と流行を繰り出すモードの世界とは一線を画すパリジェンヌの日常着だ。先行したのが「アニエス・b」。輸入家具・雑貨を取り扱うサザビーがフランスでアニエス・bの母体、CMCと交渉し資本を折半することで、アニエス・bサンライズ社を設立。日本では売れないとの大方の予想を覆し、流行を追わない新鮮さが受けて一気に浸透した。

 アニエス・bの大ヒットにより、商社やインポーターはアニエス・bに続くブランドの開拓に躍起になった。日本企画のアパレルより現地ブランドの方がデザインはもちろん、色や素材でより特徴が出るというのが理由だったと思う。要はフレンチカジュアルはあくまで「日本のアパレルにはないもの」でなければならなかったのだ。



 クーカイが典型だ。同ブランドは1983年設立からずっと拡大しており、91年7月時点でフランス国内に217店舗、世界に125店舗を展開。年商115億円を稼ぎ出すフレンチカジュアルの有望株として成長していた。名古屋市に本拠を置く専門店の(株)十五屋が89年に「クーカイ・ジャパン」を設立した。国内のデストリビューターとして、91年の12月には東京ショールームで展示会を開催。国内に11店舗を展開し、92年春夏には30店舗まで拡大を想定し、パブリシティにも注力していた。

 ターゲットは、ファッショントレンドを意識しながらも、毎日のライフスタイルにさりげなくそのテイストを取り入れる10~30代の女性。アイテムは、カジュアルなスーツ、ジャケット、ニット、ジレ、ボトムスなど。ワンサイズで800型以上をラインナップしており、着る人の目的と気分で自由に組み合わせられるようになっている。着心地の良さと明るい色づかいもフレンチカジュアルならではだった。

 ショップのオリジナル編集機能を生かせるアイテム構成と消費者に最も近い売場からの発想がクーカイ最大の魅力だった。素材も布帛、ニット、カットソー主体で、当時アパレルビジネスの画期的な「クイックレスポンス(QR)」的システムを取り入れ、投入したスポット企画の中で売れ筋ラインが生まれると、すかさずフォローできる体制を整えていた。それも急進した理由の一つだった。

 ジャパン社では、インターナショナルキャラクターMDブランドとして位置付けており、コーディネートウエアリング志向のモジュラーアパレルの中でも、新勢力の筆頭ブランドとして、認知度、売上げともそこそこの規模までに達していた。


OEM生産のチープなカジュアルには勝てなかった

 ただ、国内アパレルもフレンチカジュアルのテイストを持つブランドを仕掛けていった。「ナイス・クラップ」や「オゾック」がそうだ。日本のアパレルの方が日本人の嗜好や体型を熟知している。また、販売ルートの開拓も容易に進むとの目算もあった。徐々にシステムの整備が進みつつあったSPA(製造小売業)やクイックレスポンスを試すには格好のカテゴリーにもなった。

 ただ、フレンチカジュアルにとってQR的なシステムが「仇」になったのも事実だ。QRを行うには、商品における条件と生産背景の条件をクリアする必要があった。売場の状況やPOSのデータから「売れた商品」はわかるが、次にどんな商品が売れるのかはわからない。商品を作るにもその前提として生地を確保しておくことが不可欠になる。要はデザイナーやMD、売場の販売スタッフの力にも左右されたのだ。

 また、工場の空きも問題もあった。売れた商品をクイックでフォローすると言っても、期中に入ると工場によっては次シーズンの縫製を受けているところもあり、生産体制に空きがない状態になっている。それでも短期生産は国内工場に限ったもので、中国など海外で生産するとなると、最低でも1ヶ月から1ヶ月半くらいの期間を要する。納品にこれだけの時間を要すれば、とてもクイックとは言えなくなったのである。



 SPAの進化はクーカイのようなメーカー型の開発・販売システム(期中 売り筋フォロー=QR)のブランドさえ脅かしていった。中でも小売業を主体とするSPAは1990年代以降、AMS(企画開発機能を持ったアパレル受注生産業者)を活用する手法へと変わっていった。AMSはデザイナーやパタンナー、生産管理者を抱えて企画提案するOEM業者を指し、短いトレンドに照準を当てた企画と小ロットで多品種の商品を投入するスタイルで、高消化率・高回転率を目指すビジネスモデルだ。ファーストSPAでも言おうか。

 代表的なものは、東京の渋谷109のショップ群がそうだ。月曜日に商品を企画し、金曜日に店頭に投入するというスタイルは、年間24回転以上という売場に常に鮮度の良い商品が並ぶ商法。結果的に多くがご存じのとおり、渋谷109系のアパレルが大ヒットした状況を見れば、いくらファッション先進国のブランドと言えど、形無しだったと言える。

 さらにザラ(インディテックス社)やH&M(ヘネス・アンド・モーリッツ)は、ファーストSPAとメーカー型の企画創造を軸にする「インダストリアルSPA」との一体型で君臨。これらがグローバル市場を攻略してアパレルの勝ち組に躍り出たの周知の通りだ。もちろん、ベーシックを基本に大ロット、ローコスト調達で売り減らしていくユニクロもある。こうした2大勢力がグローバル市場を席巻する中で、クーカイのようなメーカー型ブランドはまともに戦っても勝負にならなくなったということだ。

 ヤング市場では、毎週のように新しいアイテムが並ぶファストファッションが受け入れられた。若者の間ではトレンドデザインを重視する一方、品質にはそこまでこだわらないという意識がすっかり定着したのである。品質にこだわるのは業界の人間くらいで、若者はそれよりもトレンドデザインの方を重視する傾向に変わってしまった。さらに「ファッションである以上、1~2シーズン着られれば十分だ」という意識は大人にも浸透している。ユニクロの台頭がそれを如実に示している。

 ただ、2024年はどうなるのか。フランスではファッション製造・小売業がさらに悪化するとの見方が支配的だ。若者ほどSDGsを意識してか、ファストファッションから脱却する動きも見られる。代わってリユース市場のさらなるシェア拡大も予想される。とすれば、かつてのクーカイやナフナフ、ピンキーの古着にもスポットが当たる可能性は高い。アパレルである限り、栄枯盛衰は避けられない。その点、ファッションのご当地から生まれるブランドも、例外ではないってことだ。

 一方で、かつて一世を風靡したブランドは時代を経ても揺るぎなバリュウをもつ。皮肉なことだが、ブランドが会社更生や経営破綻の憂き目に遭う一方で、そのブランド古着は希少性がウケて脚光を浴びる。確実に言えることは、アパレルが叡智とコストをかけて作り上げた「良いもの」は、時を経ても色褪せることはないということ。これは感性が鋭い若者なら感じているだろう。デジタルを含めたビジネスシステムはすぐに陳腐化して淘汰されていっても、アナログなモノづくりはいつの時代も変わらないのだから。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高値を売る時。

2024-01-17 07:50:04 | Weblog
 昨年は円安の影響から、ほとんどの商材・サービスの値上げが顕著だった。メディアは賃上げされずに物価だけが上がる構図を捉え国民の生活不安を煽るが、これまであまりにデフレが続いてきたことで、国民が安さ慣れしている部分は否めない。無秩序や便乗といった値上げは問題だが、適正な価格とは何かについても冷静に考えていく1年にしたいものだ。

 一方で、アパレルに限れば、コスト上昇で値上げはやむを得ないことを考えると、安いだけのものを過剰に生産し、流通させることにも歯止めをかけなければならない。消費者側も安いからではなく、本当に必要なものやロスにならない購入を心がけるべきだ。商品自体に価値を感じていないのに、価格が安いというだけで購入しようとしていないか。本当に価値のあるものは、決して安くはならない。今一度、消費に対して自問自答し、理性的になる1年にしていくことも大事だと思う。

 突き詰めてみると、これまでは低価格商品が購入側にとってメリットがあるように見えていただけではないか。売る側も冷静に考えると、消費者は安いからといって同じアイテムを2点も3点も購入することはない。感性が鋭い若者なら、いろんな商品を組み合わせたり、ユーズドの商品をうまく利用するため、全てを新品で賄うことは有り得ない。もう薄利多売は通用しなくなっていると考えるべきなのだ。

 店舗を展開しスタッフを雇用すれば損益分岐点があるわけで、利益を出すには売上げをそれ以上に持っていかなければならない。ネットで販売するにしても、写真撮影や原稿制作などの「ささげ業務」が発生する。流通ルートに載せるには、応分のコストがかかるのだから、商品価格が安ければそれだけ収益を上げていくのは難しい。もはや過剰に生産して大量に流通させたところで、収益は上がらないと考えた方がいいのではないか。

 その意味で、大手アパレルは無秩序に増え過ぎた低価格商品の流通をセーブしているようだ。売場やネットの在庫を少しずつ絞り込み、セールの割合が減っているからだ。実店舗でや通販サイトでは「これだ!」と思える商品に出会えなかったが、レディスでは商品企画から見直し、素材や縫製・加工にコストをかけた商品を見かけるようになってきた。セールをせずにプロパーで売っていく考えの現れと言える。

 変化の兆しが見えつつあるのが百貨店系アパレルだ。バブル崩壊後の1995年頃から、百貨店はアパレル側に納入掛け率を下げさせたため、その分が原価率の引き下げを招いたことで、商品のクオリティが下がり客離れを引き越してしまった。こうした傾向は2000年代に入ると、ファストファッションの台頭や低価格でも原価率の高いアパレルの登場で、玉石混交となった。逆に低価格商品が市民権を得る中で、中途半端なブランドは競争力を欠き、再編や閉鎖に追い込まれていった。それから数年、リストラ効果が緒についたのか、ブランドの縮小均衡か、戦略に変化の兆しがあらわれている。

 ただ、生産国の人件費上昇や為替変動の問題など、低価格路線はいつまでも継続できない。それ以上にお客、特に洋服好きにとっては「もっと上質な服」「デザインに注力した服」を着たいという渇望もある。それをどう取り込むかが販売側にとって近年の大きなテーマだった。値上げの理由を単にコスト上昇や円安によるものとするだけでは、お客の納得を得ることはできない。むしろ「値上げするのではなく、高額で魅力的な商品を売る」という戦略が重要になってきたのだ。

 筆者が百貨店のレディスアパレルの中で、価格に左右されない服作りを貫いていると見ていたのが「wb」だ。企画デザインに注力し、素材や加工などにコストをかけ、服選びで妥協しないファンに向けたアイテムを創る。東京の松屋銀座をはじめ、日本橋三越、大丸東京、そして各地域一番店の百貨店では、コンスタントにファンを集客していた。大都市だろうが、地方だろうが、洋服好きがいる限り、その傾向は変わらなかった。



 wbは2021年2月にショップ閉店とモガへの統合がリリースされたが、その後さらにデザイン面でエッジをきかせてデビューしたのが、「DÉPAREILLÉ(デパリエ)」である。ブランドタグをみて値段を確認しなくても、欲しいと思わせる服。時代、シーズンによって様々な表情を見せてくれる。そこで違った好きに出会い、違った自分を主張できる服。着る人を幾重にも演出してくれる。


大手アパレルが打ち出す高価格ブランド



 大手アパレルもこぞって高価格ブランドの開発に乗り出している。筆頭は23区からのスピンオフとして2023年8月に「estèta(エステータ)」をデビューさせたオンワード樫山だ。23区誕生30年を節目とした高感度な大人の女性に向けたもの。ブランド名はイタリア語で「審美眼のある人」を意味する。自分の価値基準で服を取捨選択できる大人の女性に着て欲しいとの考えで、世界に通用する基準での高感度、高品質でモード感のある商品を提案する。こちらも順次期間限定店を出店するという。

 ブランドのコンセプトは、「ハイグレード×コンテンポラリー×ミニマルスタイリング」。これまで日本のレディスブランドでは、この絶妙なバランスをなかなか企画に落とし込めていなかった。体型がフラットな日本人は、根本的にコンサバ思考が強く、欧米人のようなスタイリングは着こなせないというイメージがネックだった。しかし、そうした固定観念がレディスアパレルの活性化を遅らせてきた面は否めない。現在はECという販路があるので、売れ行きを見ながら企画を修正していくことは十分に可能だ。



 イトキンがこの春10年ぶりにデビューさせる新ブランドが「EAUVIRE(オーヴィル)」。百貨店や都心型ショッピングセンターへの出店を想定していると言われ、同社にとってはキャリアゾーンまで含む高感度ブランドの位置付けになる。

 テーマは「リラグジュアリー」で、ラグジュアリーを再解釈したという。「モード過ぎず、ベーシック過ぎない」。日常でも着用できる本質的な上質さを備えた約70型を企画する。また、コレクションの25%に、社会的な要請がある環境配慮素材を採用。価格帯はジャケットやワンピースで10~15万円で、ほとんどが国内生産になる。専門店系アパレルとしてイトキンが復権する足掛かりのブランドになる可能性は高いと言えそうだ。



 ワールドもこの春、40代を中心とした大人向けの新ブランド「AUBRIO(オブリオ)」を発売する。当面の販路はECと期間限定店になる。特徴は素材の7割がイタリアの「リモンタ社」など海外生地メーカーからの調達で、生産はほぼ国内。インポートのラグジュアリーブランドが円安の影響で高止まりしている中、それらと遜色ないクオリティを持ちながら日本人の感性にフィットするデザインで、値頃感のあるブリッジ的なブランドにする狙いと見られる。

 価格帯はジャケットで6~12万円、ワンピースで4~6万円(いずれも予定価格)など。ワールドの傘下ブランドでは最高のプライスラインとなる。ECと期間限定店でどれほどのニーズが見込めるかを見極める狙いもあると見られる。ただ、ワールドが専門店系卸として隆盛を極めた時代には堂々と通用していた価格帯だ。百貨店ではプレタ系より下のゾーンで納得いくようなブランドがなかったのであえて挑戦を決めたようだが、時代も客層も変わってきただけにどこまでファンを掘り起こせるかにかかっている。

 ワールドでは、企画コンセプトで「マニッシュで禁欲的なデザイン」をオブリオらしさと打ち出す。また、作りでは「かっちりしたものも多く、少し癖はあるがベーシックなデザインで、古くならないようにした」という。イタリア産などのインポートの生地感をうまく打ち出しながら、キャリアやコンテンポラリーのゾーンで一気に勝負をかけると見て取れる。うまく顧客を開拓できれば、ワールド復活の起爆剤になるかもしれない。

 百貨店側も洋服好きな女性に向けた高額なブランドはのどから手が出るほど欲しいだろう。しかし、従来のように自社優位の取引条件を突きつけるようでは、仮に常設店舗の出店が実現しそうでも、アパレル側から難色を示されるかもしれない。もちろん、アパレル側も百貨店に出店したから簡単に売れるとは思っていないはずだ。期間限定店での売れ行きを見ながら、都市型SCなどを含めて出店先を精査していくのではないか。

 一方、どのブランドも販路をECと期間限定店にしているため、現物にいかに触れてもらえるかがカギになる。なおさら顧客づくりには試着によるサイズチェック、接客によるコーディネート対応が不可欠だ。それにはクリック&コレクトを活用した「既存系列店での取り寄せサービス」が重要になる。また、トランクショー(期間限定店がその役割か)など開催を通じて、少しずつ顧客を開拓していく必要があるだろう。

 どちらにしても、「いい服を着たい」というニーズは女性を中心に高まっている。見た瞬間に「こんな服が欲しかった」と感じさせるものは、アパレル市場を活性化させる決め手になる。期間限定店で吸い上げるお客の声やECのレビューなどを企画に反映させるのは重要だが、海外のラグジュアリーブランドと遜色ないクオリティや世界観を提供できるか。服としての「見せる部分」を絶やさない企画力がものを言うのである。

 上質で、モード感がある大人のレディスブランドが登場すれば、メーカーにはぜひ男性向けでもチャレンジしてほしい。何せ、巷の状況を見ると、女性がウールのコートにニット、ボトムはワイドパンツかスカート。そんな彼女とカップリングする男性は安っぽいダウンジャケットとジーンズ、スニーカーが主流だ。現状のファッションスタイルとしてはあまりに不釣り合いだ。何とかならないものかと、ずっと思ってきた。かといって男性が高額なオーダースーツを着たところで、おしゃれなカップリングにはならない。

 次なるステージは大人の女性と男性が上質で、コンテンポラリーで、ミニマルスタイルでカップリングできるかようなMD構築だろうか。あまりに陳腐化した「ファッション景色」を変えていくことも、2024年業界に課せられたテーマではないかと思うのだが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

負担をシェアする。

2024-01-10 07:33:18 | Weblog
 政府は、ネット通販などで注文した商品を「置き配」で受け取る利用者へのポイントを通販事業者に与える。今年からトラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間を上限に規制される。そのため、通販事業者にポイントを付与することで置き配を促し、運送事業者の負担になっている再配達を削減する狙いとみられる。

 具体的な仕組みは以下だ。通販事業者にはポイントの原資として1回あたり上限5円分が補助される。ポイント付与は、ネット通販の商品購入時に「置き配」や「コンビニ受け取り」「ゆとりある配送日時」などを選んだ人が対象となる。購入者にどれくらいのポイントを還元するかについては、各事業者の判断に任せるという。

 国土交通省によると、2023年4月の宅配便再配達率は11.4%。前年同月(約11.7%)、前年10月(約11.8%)と比べると減少しているものの、宅配全体の約1割が再配達になっている。荷物の受取人宅に何度も配達することはそれだけ時間を浪費し、ドライバーの時間外労働に繋がるが、配送料金は変わらずドライバーの報酬アップにもつながらない。さらに再配達でトラックの走行が増えれば、その分のCO2排出も増加するので、地球環境に負荷をかけ脱炭素社会にも逆行する。

 ただ、ポイント付与がどこまで置き配の促進につながるのかは、全く不透明だ。まず、国が通販事業者にポイントの原資として補助するのは1回あたり最高で5円。このうち購入者にどのくらいのポイントを還元するかは各通販事業者の判断に委ねられている。ポイント還元率の高さと商品の購入数量は比例するだろうから、置き配と連動したポイント還元の原資に活用されるケースが多いと思う。つまり、通販事業者がさらにポイントを上乗せすることで、置き配を浸透させるキャンペーンを展開することも考えられる。

 ネットではポイントを賢く貯める方法が紹介されている。ポイント取得の達人からすれば、政府の方針を通販事業者がどう活用するかをチェックした上で、彼らなりに賢い貯め方を伝授していくだろう。政府が通販事業者に補助する金額は購入1回あたり5円なのだから、できるだけ多くポイントを得るには、商品をバラバラに注文して、購入回数を増やすしかない。当然、置き配は増えていくと思われるが、新たな問題も出てくる。それが「盗難」や「汚損」「破損」「滅失」だ。




 コンビニでの受け取りやクロネコヤマトの「PUDOステーション」などを利用すれば、荷物の安全は担保されるが、自宅を置き配に指定する場合はわからない。戸建住宅では玄関前に荷物が置かれると、無防備なことから盗まれる確率が高くなる。ドライバーが「ファスナー付きの簡易宅配BOX」に収納していても、宅配BOXごと盗まれたケースもある。アパレル通販で購入する商品は、ダンボールの箱にZOZOをはじめとした事業者のロゴマークが表示されている。窃盗犯とすれば箱を見ただけで中身がわかるのだから、格好の獲物として盗み出すケースはより高くなるのではないだろうか。

 オートロックのマンションでも、すでに置き配の盗難被害が出ている。別の住民が入口ドアを開ける時に、窃盗犯がすれ違いで入ることはできるし、非常階段の塀を乗り越えれば侵入できるマンションもある。筆者は、事務所を構えるマンションの非常階段に潜んでいた窃盗犯らしき人物と鉢合わせしたことがある。いかにも宅配ドライバー風の装いで、階段の踊り場からそっとフロアを伺っていたのだ。しかし、名札は付けず、伝票や業務端末、小型プリンターも一切携行していない。筆者が1階の郵便受けから新聞を取った後、下りエレベーターで降りてきて、何食わぬ顔をして手ぶらでマンションの外に出て行った。

 窃盗犯であっても、姿形が運送業者風なら盗んだ荷物を持っていても、すれ違った住民は荷物の受け取りか、不在または誤配かとしか思わない。最近ではマンションからオフィスや店舗、戸建住宅までに防犯カメラが設置されているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがない。映像は容疑者が逮捕・起訴されると裁判の証拠になるが、犯罪の抑止力としてはあまり機能していないと言える。マンションの場合でも常駐する管理人がいるならともかく、不在の場合は「ロッカー式の宅配BOX」で受け取らない限り、安全は担保されないと考えた方がいいだろう。

 また、玄関前に荷物を置いていると、雨に濡れて汚れる場合がある。これが汚損だ。ガレージや物置に置き配してもらったことで、何かのひょうしに落下して壊れてしまうのが破損。自転車のカゴに入れてもらったところ、荷物が軽かったため風で吹き飛ばされてしまうこと、いわゆる滅失もある。さらに受取人がドライバーの前で荷物を確認しないために「誤配」が起きたり、届くはずの荷物が別の住所に「誤送」されるなんてトラブルも起こり得る。


荷受人がラストワンマイルの配送に代わる

 法律(商法第570条~/物品運送)では、577条に物品の運送に関しての損害賠償が規定されている。それによると、運送事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていないことを証明しなければ、荷物の滅失、毀損及び延着につき損害賠償の責任を免れることはできないとされている。ただ、置き配についてまでの規定はないので、各運送事業者がそれぞれの約款で免責の条件を決めていくのではないかと思われる。



 ヤマト運輸は置き配(EAZY)で、以下のような条件を打ち出している。まず、届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、Amazon(クロネコメンバーズにご登録済み)の他に6社。注文時・もしくは届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、ZOZOTOWNの他に7社。つまり、これらの通販事業者では、受け取り方法の指定に置き配も含めるということになる。

 また、ヤマト運輸は置き配の場所を「玄関ドア前」「宅配BOX」「ガスメーターBOX」「物置」「車庫」もしくは「自転車のかご」で可能としているが、すべて自宅の敷地内に限定されている。ただ、悪天候により届け後の荷物の安全が確保できない(荷物が濡れるなど)、受け取り場所に荷物が安全に収まらない、受け取り場所への立ち入り(オートロック)ができない、マンションなど集合住宅の建物管理規程その他の規程により、置き配が禁止されている、受け取り場所を見つけられなかったとヤマト運輸側が判断した場合には、置き配されない。

 ヤマト運輸は置き配できない条件を細かく決めることで、盗難や汚・破損、滅失を回避する狙いだろう。運送事業者としてはリスクを考えると、どうしても置き配に二の足を踏まざるを得ない。結局、商品の購入者や受取人には再配達もしくは受け取り方法の変更が発生し、ポイントはもらえない。もっとも、今後は商品の購入者が置き配を承諾した以上、荷物の盗難、汚・破損、滅失が起こった場合では、運送事業者に全面的な責任を追求するのは難しくなるのではないか。それが置き配を選択する上での交換条件になると言えるだろう。

 では、置き配ポイントの付与が再配達を少なくし、ドライバーの時間外労働を減らせるようになるのか。まず、ポイントがもらえるなら、通販で購入した商品の置き配にする利用者は増えていくだろう。また、コンビニ受け取りや宅配ロッカーを利用すれば、商品の安全も担保される。もちろん、それが面倒臭いという人は一定数いると思うが、ポイントがもらえることで、多少の不便さを受け入れる人も増えるのではないか。

 一方で、置き配がある程度浸透するまでは、要領を得ない購入者もいると考えられる。運送事業者やドライバーとすれば、商品の安全が担保されなければ持ち帰るだろうから、一定数の再配達はあるだろう。それがドライバーの時間外労働にどこまで繋がるかは現時点ではわからない。これまでより置き配が増えて再配達が減っていけば、その分配送効率はアップするから、労働時間が削減されるとみて間違いない。

 それでも、物流、配送の構造的な問題は依然として残ったままだ。大手の運送事業者が元請けとなり、手数料を取って下請けの運送会社に配送を委託するケースがある。下請けはさらに配送先を仕分けし、孫請けの個人ドライバーが実際に配送することが常態化している。当然、孫請けは配送の収益は少ないわけだから、より稼ぐには数をこなさなけれならない。時間外労働を減らすどころか増やさないと、生活してはいけないのだ。表面上、時間外労働を制限しても、より零細の運送事業者にしわ寄せが行けば、抜本的な解決にはならない。

 また、宅配荷物ではないが、半導体関連産業の活況で工場向けの荷物が急増している。機械や部品のメーカーから半導体工場への輸送では、積み下ろしする「荷役」もトラックドライバーの付帯作業になっている。トラックが工場に入ると、先着順で荷物を搬入することになるが、運送事業者の中には荷物をバラ積みし、荷下ろしが煩雑になって時間を要するケースもある。後着のドライバーはそれが終わるまで待たなくてはならない。そのため、トラックドライバーは「時間待ち」を強いられてしまうのだ。

 また、長距離トラックドライバーは荷物を下ろした後、空のトラックで事業所に帰るわけではなく、どこかで別の荷物を積まなければならない。待ち時間が増えるとその分、次の荷積みや配送の時間も押してしまう。これらも運送事業者はAIを活用して効率のいい配送を進め、工場側が荷卸しスペースを拡張するなど態勢を確立していかなければ、時間外労働の削減にはつながらないと考える。



 宅配の荷物に限って言えば、まずは通販利用者が再配達にならないように心がけること。置き配は通販利用者、配送事業者にとって再配達解消のメリットではあるが、利便性ばかりを追求すれば、双方が盗難などの責任を負う必要も出てくる。安全性を担保するには通販に関わる全ての事業者、利用者が相互で負担を分け合うことだ。

 それにはやはり近隣のコンビニでの受け取り、ロッカー式の宅配BOXが有効だろう。ただ、宅配BOXはスペースの確保やコスト負担が不可欠で設置場所の条件にも左右されるため、一律に導入するのは難しい。やはり商品の受取人がラストワンマイルの配送に代わることで、ドライバーの無駄な業務をできるだけ抑えること。要は荷物の安全が担保されるところまで受け取りに行くことから始めるべきではないか。ポイント付与はあくまでその手段の一つに過ぎない。少しの負担を伴う行動を習慣化させることが第一歩になる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コストは成長の糧。

2024-01-03 07:06:09 | Weblog
 昨年はサスティナブルがすっかり定着した1年だった。ただ、SDGs(持続可能な開発目標)で言えば、12番目の「つくる責任 つかう責任」 (Responsible Consumption and Production)、「持続可能な生産消費形態を確保する」に該当するに過ぎない。

 廉価で多売するためにコストを抑え、売れるかどうかも見極めず無尽蔵にアパレルを生産すれば、実売を超えた商品量が市場に溢れるのは確かだ。結局、売れずにゴミとなって廃棄される商品が増えていく。これを何とか変えていこう。それ自体には意味があるが、持続可能な開発目標全体からすれば一部なのだ。

 だから、今年の開発目標とすれば、8番目の「働きがいも経済成長も」(Decent Work and Economic Growth)、「包括的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の安全かつ生産的な雇用と働いがいのある人間らしい雇用を促進する」。そして、9番目の「産業と技術革新の基盤を作ろう」(Industry, Innovation and Infrastructure)、「強靭なインフラ構築、包括的かつ持続可能な産業化の促進及び技術革新の推進を図る」にも踏み込んでいかなければならないだろう。

 具体的な取り組みとしては、アパレルを生産する国々が毎年少しづつでも経済成長できるようにすること。根本には技術を含めた教育もあるだろうし、一人でも多く真面目に働く人々を育成することが必要になる。そして生産性を向上させて賃金をアップし、雇用者のモチベーションを上げていくことだ。また、勤務態度や能力のレベルに沿った処遇など、雇用の安定につなげていくことが求められる。グローバルサウス諸国は経済成長ばかりがクローズアップされるが、そのベースとして国民が安定した雇用と賃金アップを実感できるかがカギになる。

 世界の工場として機能してきた中国から少しずつ脱皮する「チャイナプラスワン」が叫ばれて久しい。米国はアパレル生産を中南米などに移行し、欧州は東欧や中近東でも生産を強化している。日本も工業化が進むベトナム、団地を整備し投資を呼び込むミャンマーなどで、生産を進める動きが活発になっている。ただ、バングラデシュやインド、パキスタンになると、地政学的に欧州とアジアの中間に位置することで生産委託先として取り合いになっている。

 反面、これらの国は発電や道路、環境対策などインフラ整備が遅れていることもあり、サプライチェーンの一角に位置付けるには時間がかかる。また、インドのように「メイク・イン・インディア」を掲げてGDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げる一方、生産委託する場合は素材調達率の半分程度はインド国内で行うよう義務付ける国もある。持続可能な産業化やイノベーションを進めるには、各国との利害調整などまだまだ課題はあるが、SDGsのステージも少しずつこれらに移っていくだろう。



 もちろん、グローバルサウスをはじめとした国々が自助努力として持続可能な経済成長や産業化、技術革新を進めていくことは不可欠だ。一方で、先進国がこうした国々に生産を委託するなら、ローコストの裏にある「低賃金」や「搾取」の構造にもメスを入れなければならない。コストには為替の変動も関係するから、長期に持続するのは容易ではない。ただ、過去の日本を振り返ると円高で工場を海外に展開しても、国際競争に勝ち残るために行ったのは、さらなるコスト削減に他ならなかった。それは絞った雑巾をさらに絞れと言うのかと揶揄された。

 半導体をはじめとした産業では、日本は台湾や韓国に勝てなかったわけだ。ただ、シリコンウエハー、フッ化水素、製造装置では世界シェアを確保する日本企業もある。先端技術の分野では技術力を持つ少数の企業による寡占状態が続いている。だが、ローテクのアパレルは円安による国内回帰が一部では進んでいるものの、人手不足もあり従来の工賃では仕事を断る工場も出始めている。というか、これまで工賃ベースがあまりに低すぎたのだ。

 つまり、SDGsの「働きがいも経済成長も」は、何も途上国に限った問題ではない。日本の縫製現場でも、「仕事が欲しければ、低工賃でも受けるはず」という発注側の論理で考えることから改めていかなければならない。工場が人材を確保・育成できて技術を伝承しながら、安定した経営を続けられるように旧来型のビジネスモデルから脱却する。そのためには、正当な加工賃の体系(需要連動型で幅をもたせる)を整備しながら、日本にしかできないことにアップデートしていくことが必要になる。もちろん、販売価格に反映されるのは当然だ。


人権意識があるなら工賃アップにも



 一方、日本政府は、サプライチェーンに潜む「人権デューデリジェンス(人権DD)(企業がサプライチェーン上の事業における強制労働などの人権リスクを調査し、その防止・軽減を図り、取組みの実効性や対処方法について説明・情報開示するもの)」への対応方針を策定した。それを受けてアパレル各社は、サプライチェーンにおける人権侵害がないように取り組み始めている。

 紳士服の青山を展開する青山商事は、人権DDの調査を提携するインドネシアの縫製工場で始めた。中部ジャワ州にある従業員1300人の工場で、生産ラインを管理するリーダーから縫製に携わる末端のスタッフまでに人権上で問題がないか聞き取り調査する。また、適切な業務指導がなされているか。工場側が健康診断を受診させているか。工場内で事故が発生する可能性はないか、まで踏み込んだ調査も行うという。

 もちろん、縫製スタッフからクレームがあった場合は、工場と連携していろんな言語に対応する内部通報制度を活用することで、人権問題に発展するリスクをできるだけ抑える構えだ。青山商事の一次取引先は中国、ベトナム、ミャンマーなど600社以上に及び、今後はこうした取引先工場を年に1~2箇所ピックアップするなどして、人権問題に対する聞き取り調査などを実施していく方針という。

 グローバルワークやニコアンドなど多数のブランドを抱えるアダストリアは、仕入れ商品の数量、取引年数、商品の品質を考えた監査を実施した結果、適切な運用がなされている工場をパートナーに認定。2023年度にはこうした認定工場の割合を前年比で6割増の49社まで増やしている。認定制度は取引先の工場が人権に配慮しながら操業していることに対するお墨付きで、そうした信頼できる工場と継続的な関係を築いていきたいという。

 オリジナルの企画製造などSPA型の機能も併せ持つナイテッドアローズは、すでに直接取引する国内の縫製工場6社の監査を実施した。今後は海外の工場に対しても、人権に対するヒアリングを実施していくという。工場が従業員の人権を守ることが貧困や飢餓、不平等にも繋がっていく。SDGsが目標とするのもそこだ。

 アパレルのサプライチェーンでは従来、川中のメーカーや川下の小売りは商品の製造を業者に丸投げしていた。そのため、糸や生地の製造、縫製・加工の現場ではどのような管理体制のもとに操業されているのかにまで目をむける意識を欠いていた。ところが、1997年、ナイキが製品の製造を委託するインドネシアやベトナムなどの工場で、小学生の児童を働かせていたり、劣悪な環境での長時間労働が行われているなどの問題が発覚。米国のNGOがナイキの社会的責任について追及し、世界的な不買運動につながった。

 ブランドメーカーや大手小売りがあげる高い収益は、途上国の労働者の低賃金や搾取の上に成り立っていたということだ。さらに劣悪な労働環境もある。2013年にはバングラデシュで縫製工場が倒壊し、従業員など1000人以上が死亡した。原因は世界中のアパレルがローコスト生産を求めるあまり、世界最低賃金のバングラデシュに生産が集中したこと。工場ビルのオーナーや不動産事業者は、多くの工場を入居させるためにビル自体を違法に増築し、設備の荷重に耐えきれなくなったのである。

 こうした問題を受けて、投資家をはじめ消費者までもが「アパレル企業に投資をしたり、そうした企業が商品を購入することで、知らず知らずのうちに人権侵害に加担している事は避けたい」と考えるようになった。当然、アパレル企業には川上から川下までのサプライチェーンをしっかりマネジメントすることが求められる。その判断基準としては、すでに国際NGOなどが出している認証を受けることがあるが、今回の人権DDは情報の開示も求めているため、ステーホルダーにもガラス張りにすることでは一歩踏み込んだと言える。

 もちろん、監査や調査には必ず抜け道がある。また、どこかの企業だけが収益を上げたいなら、アパレル現場における搾取の構図が変わるとは思えない。安く作って高く儲けることは誰もが考えることだから、投資家自ら配当の陰には搾取があるかもしれないことも意識しておくべきだ。それについて、アパレル時代の取引先だった企業の「社是」が記憶に残る。

 「メーカーさんが儲かり、うちも儲ける」。ショップを30店以上展開していたこの企業では、社長をはじめバイヤーやショップのマネージャーが事あるごとに口にしていた。取引メーカーの中には「そんなこと、綺麗事だろ」「できるわけがない」というものは少なくなかった。確かにビジネスとしては容易なことではない。ただ、その真意を「共存共栄」と解釈すれば、どうだろうか。同程度の規模でエリア違いの企業の中には経営破綻したところもあるが、この企業は今も存続している。

 「生産国が潤い、輸入消費国も儲かる」。コストはお互いが成長する糧だと考える。そのためにはお互いが知恵を絞り、目標として取り組んでいく。いろんな面からアプローチできるだろうし、お互いのメリットになるのなら実践には吝かではないはずだ。SDGsの次なるテーマとしても取り組むことは決して難しくないないと思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする