HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

福袋企画は新しいのか、時代遅れなのか。

2014-11-26 07:44:17 | Weblog
 流通業界ではすでに年明けの企画が動いている。毎度、お馴染みなのが「福袋」だ。テレビのワイドショーや情報番組は、今年もおそらく有償でタイアップしている百貨店の福袋をこぞって紹介するだろう。

 社内スタッフによる企画チームの編成から、企画会議の様子、中身のクローズアップ、◯万円相当の商品がたった1万円というお得感まで。マンネリ化した絵ヅラだけでなく、今年の話題も盛り込まれると予測される。

 初売りの風景は報道部に加え、情報部のスタッフまで正月休み返上で、取材する。どこの福袋がよく売れるかを伝えるものだが、おそらくテレビ局とのタイアップ企画では、ここまで情報発信する取り決めになっていると思われる。

 ここまでやると素人目には、「百貨店はお客のことを考えて、お値打ち品をご奉仕してくれるんだ」と見えるだろう。しかし、商売を考えると「儲からなければ、やらない」わけだから、どこかにカラクリがあるのは言うまでもない。

 百貨店のビジネスは、基本的に商品については委託・消化仕入れの取引スタイルをとる。平たく言えば、「商品は買い取らず、形式的に売場に並べ、売れたものだけを仕入れる」やり方だ。セールしても売れ残れば、それはメーカーや問屋に引き取ってもらう。

 在庫を残した時のロスがないから、商売のリスクは軽減されるというわけだ。でも、それでは商品を卸す側のメーカーや問屋は堪らない。だから、あらかじめ返品や派遣社員の経費を商品の卸値にのせておいて、自己防衛する。

 デフレ禍で高額品が売れなくなってからは、百貨店側からの値下げ圧力がかかり、メーカーや問屋側も利益も確保する上で、原価率を下げざる得なくなってきた。それが中国などでの海外生産が増えていった理由でもある。

 つまり、百貨店の商品はユニクロなどと比べると、原価率の割に商品価格は高いということになる。このシステムが福袋でも踏襲されているとなるとどうだろうか。

 商品部が福袋を企画する時、「こんなアイテムで、こんな質で、このくらいの価格で」との要望を受けたメーカーや問屋は、それを手当てしなければならない。百貨店の福袋報道が過熱するたびに、他店よりいい物を揃えたいことから、要望はより厳しくなる。

 当然、百貨店は利益がとれないと意味はない。問屋やメーカーにとって「開運ものだから、開けてビックリ」は通用せず、手持ちの在庫処分の機会にはならない。

 新規に福袋向けの商品を作らなければならず、レギュラーの商品と同じように返品のリスクヘッジや利益を確保するために原価率などを考える必要がある。それが果たしてお客さん側から見た時に、百貨店の暖簾イメージ相当する「良い物」なのかどうか。

 筆者が知る小売り専門店では、もう福袋を廃止するところが増えている。百貨店やブランドショップなどと競争していく上では、「良い商品」を仕入れ、詰め込まなければならない。専門店は商品は買い取りだから、売れ残りのリスクも被ることになる。

 メーカーに対し、福袋のためにわざわざ商品を作ってもらうことなど無理だ。利益を出すために原価率を圧縮した商品で、お得意さんを裏切るわけにはいかない。良い商品を探して薄利で販売すると、準備や経費に見合う荒利が取れないから止めるのだ。

 過去には某有名ブランドショップが1万500円で販売した福袋(中身は6万円相当)が別の業者が7000円(中身は2万7000円相当)と全く同じだったということもあった。これは「商売なら儲からないとやる意味はない」ということを如実に表している。

 某ショップのケースは別として、少なくともブランドショップなら売れ残り在庫品とは言え、中身は想像できる。しかし、百貨店の場合、NBのハコを横断してブランドを詰め込むことはできない。まして、グッチやエルメスを入れるなど夢のまた夢だ。

 見た目は良い商品かもしれないが、消費者心理とすれば有名ブランドが入って、良い商品だとイメージする場合が大半ではないだろうか。そのため、子供たちに体験型を提供するなどの「こと消費」に軸足を移すところもある。

 5000円や1万円といった価格では、売上げも利益も取れないから、高額で本当の「夢」を売ろうということだろうか。とすれば、そろそろ百貨店の福袋企画も頭打ちではないのだろうか。

 そんなことを考えていると、百貨店は来年、「訪日外国人需要を狙ったもの」を充実させるとのニュースが入ってきた。 海外からの観光客が増え、10月から免税対象商品が拡大したことで、福袋で提案できる商品の幅が広がったからようだ。

 表向きはそうかも知れないが、日本人のお客が福袋の内情を知るようになったこともあるだろう。逆に外国人には日本の百貨店が信頼されているので、「縁起物」という日本の文化を伝える契機にもなるとの算段があるのかもしれない。

 商品企画では日本の観光地イメージを訴求するものや温泉グッズ、産地のイチ押し商品などいろいろ生まれているようだ。

 ただ、課題もある。いちばん購入が期待できるのは中国人の観光客だ。日本の正月は1月1日からだが、中国の正月にあたる春節は1月末から2月初めの1週間。中国人はこの期間に日本を訪れるケースが多い。では、そこにぶつけるのかである。

 まあ、観光客は中国人だけではないが、他の外国人が正月の日本、しかも、百貨店が店を構える都市部をどれだけ訪れるか。また、日本の正月の縁起物である福袋を彼らがどこまで理解してくれるかであるなど、課題は少なくない。

 百貨店で多くの買い物をする中国人の富裕層向けに企画するのなら、百貨店ブランドを詰めた福袋の方が有効かもしれない。現にある店では男性客向けに、日本製ニットやポロシャツなど5万円相当を1万4500円で販売するという。

 尤も、中国人をメーンのターゲットとした時、即物主義の彼らが中身が見えないものに、大枚をはたくだろうかという懸念もある。チャイナタウンのレストランで食事後に出されるフォーチュンクッキーとは違うのである。

 POPなどでアピールするというが、どこまで伝わるかは未知数だ。日本人向けの福袋商戦が成熟した中で、新たなマーケット開拓に向け模索は続いている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本にもブラックフライデーが欲しい。

2014-11-19 05:40:18 | Weblog
 米国にはブラックフライデーという曜日がある。11月第4週の木曜日の翌日を指し、クリスマス商戦がスタートする日だ。もともとは買い物客で店がごった返し、小売業が儲かって「黒字」になることから、そう呼ばれるようになったと言われている。

 クリスマスホリデーは冬物衣料やプレゼント、パーティ用品など、一年でいちばん消費が増大するから、この時期に売り上げも利益も一気に伸ばそうと、小売店はあの手この手で集客しようとするのである。

 米国は宗教国家である。全国的にはプロテスタントが約6割で一番多く、次いでカトリックが25%、ユダヤ教は2%にも満たない。ところが、筆者が仕事をしていたニューヨークには場所柄、ユダヤ教が8%以上もいる。

 だから、クリスマスはキリスト降誕を祝う祭日というよりも、クリスマスホリデーという商戦月間の要素の方が強い。ブラックフライデー以降、小売業は客寄せに注力し、まさに街はコマーシャリズム一色に染まるのだ。

 日本の小売業もイベントを販促に結びつけたがる。バレンタインやホワイトデーはもちろん、最近ではハロウィーンで仮装の衣装やグッズが飛ぶように売れている。11月の末からはクリスマス商戦に入るが、ピークは民間のボーナスが出る12月10日くらいだ。

 ただ、アベノミクスは個人消費を喚起するまでとは行かず、庶民の財布の中は依然として乏しい。もうバブル景気のような消費は望めそうもない。

 だったら、いっそのこと、発想を変えて小売業側がお客に還元してはどうだろうか。1年のご愛顧に感謝してと、セール向けの美辞麗句を並べるのではなく、いろんな「ギフト」を用意して、集客やプロモーションにつなげるのである。

 ニューヨークの場合、クリスマスホリデーのショップは単なるデコレーションやPOPで飾るだけではない。レジ周りにはクリスマス専用の洒落たビジネスやグリーティング向けのカードが置かれている。まさにテイクフリーで誰でもタダで持って帰れる。

 商品もクリスマス専用にラッピングやパッケージ化される。また、クリスマス向けの商品が企画され、パッケージやラッピングもオリジナル。店によってはスタッフによる手作りのパッケージなどアイデアに富んでいるいるところもある。これもギフト用だ。

 極めつけは、顧客や来店客に渡す店からの「クリスマスギフト」。これは先述したようにカード1枚から、ノベルティ的なもの、オリジナル商品と様々ある。1年のご愛顧に感謝して贈られるものである。その感動たるやいなや。

 筆者が経験したのは、とあるライフスタイルショップで、クリスマスホリデー期間中に「鍋」を買った。その時、もらったのが透明のペッパーミルだ。今でこそ、日本でも見るようになったが、当時はニューヨークでも珍しく小洒落て、えらく感動した。

 また、仕事で世話になった友人へのプレゼントとして、ブランドのジェルソープを購入した。イブに間に合うように郵送するため、12月早々に買ったのだが、ギフトとして「スパイス」のセットがついてきた。オレガノやバジルをパッケージングしたものだ。

 思わず、友人のクリスマスプレゼントには、こちらの方が良いかもと思ったほどだ。とにかく、金銭的な次元というより、ショップのセンスが光る仕掛けということである。

 ニューヨークのショップがここまでやるのは、とにかくクリスマスホリデーを盛り上げ、集客や販促につなげていくこと。そして、毎日をブラックフライデー、つまり「ブラックエブリデー」にしたいからである。

 こうした企画を日本でも導入しようというと、やれコストがどうの、手間がどうのと言われる。しかし、消費を喚起しなければ、売上げは上がらない。イベントもセールもデコレーションも共同懸賞も、今やそのほとんどがマンネリ化は否めない。

 とすれば、小売業側からのギフト戦略は、ありかもしれない。各店が個性を競い、アイデアとセンスを凝らし、集客と販促に一丸になって取り組む。



 商店街やファッションビル、ショッピングセンターはそれをインストアキャンペーンとして、表彰の対象にしてもいいのではないか。 

 アイデアがない、人手がないなら、地元の学生や若者の手を借りるなど、アウトソーシングするなど手はいくらでもある。とにかく、できるだけコストをかけずに知恵を使って、クリスマスホリデーを盛り上げることが必要なのだ。

 筆者がマンションアパレルにいる頃、一度、クリスマスギフトを取引先の女性スタッフ向けに企画したことがある。当時、バイヤーのほとんどは男性だった。それゆえ、小洒落たプレゼントなどに感動するとは、思えなかったからである。

 だから、日頃から当社の商品を売ってくれている女性スタッフに感謝を込めて、何か贈ろうと企画会議にかけたのだ。全国に数十社の取引先があったので、それほどコストはかけられない。

 そこで、オリジナルデザインの封筒を作り、メッセージに添えてシートソープ(紙石鹸)を同封した。香りが良いフレグランスが効いた代物だったから、開封すると女性受けするのは間違いなかった。この企画は、わかる人には実に評判が良かった。

 12月になると、セールがぼちぼち始まる。在庫を抱えているショップは、資金繰りがあるため、売らんかなに走らざるを得ない。いい加減、発想を変えて、店側から年に一度の感謝の証しを示すことが必要ではないだろうか。

 店が売る、お客に買ってもらう。ではなくて、まず店が買って、お客に贈る。その部分の消費を刺激し、集客や販促につなげていくのだ。もっとも、そこでは大々的に告知するというより、さりげなさをもってお客の感動を倍増させるような裏技も必要だろう。

 クリスマスホリデーは、商品を売るだけでなく、感動を売ることも必要なのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セール品より、春色冬素材が欲しい。

2014-11-12 05:14:53 | Weblog
 今年の秋冬物は円高やコスト増の影響からか、昨年、一昨年に比べると、1割程度値段が上がっているように感じる。NBに見られる原価率の圧縮もすでに限界だから、アパレルとしても売価に転嫁するしかないようだ。

 一方、生地や縫製のクオリティを上げたクリエーターブランドも、ぼちぼちセレクトの店頭に顔を出し始めている。業界全体で、もう少し良い物を作って売っていこう。この機運が高まるのは望むところだが、マスマーケットになるのは期待薄だ。

 消費税8%の値上げは、ヤングにはそれほど影響は無い。アダルトは消費税というより、欲しい商品がなかなかなく、価格対価値で買い物するならSPAには適わない。

 ある程度の在庫を抱えているアパレルにとっては、この時期に小売りがプロパーでどんどん売ってくれると、フォローが来て在庫が捌けるからうれしい。

 梅春、春物の企画を終えているところは、そろそろ第1弾が上がってくる。これを小売りがどれほどつけてくれるかは、冬物のプロパー販売にかかっている。この時期に売上げ、利益を確保しないと、春物仕入れの原資も捻出できないからである。

 アパレルにとっても、小売りにとっても、今年中にできる限りプロパーが売れてくれないと、厳しい年明けになるのは間違いない。

 荒利がある程度見込めるSPAとて、今年はダッフルコートやジャージなどオーソドックスなアイテムが多い。安くなったから手を出そうというアイテムがそれほどあるとは思えないから、安易なセール頼みは禁物と思う。

 もの作りをする人間からすれば、デザインするアイテムをどうプロパー販売に結びつけるか。そのためには発想を変えなければならないとつくづく思う。

 チープなSPAやファストファッションならともかく、お客さんはタンス在庫を十分持っているわけだし、1点豪華主義なわけでもないだろう。手持ちのアイテムに組み合わせ追加できるような企画も、ポイントになるのかもしれない。

 そこで今年風のトレンドを出しながら、全体をうまくコーディネートしていく。値段を上げるなら、いかに上質な素材、縫製で表現できるか。

 デザイン面のトレンドは別にして、個人的にはこれから梅春にかけては、防寒機能に上質素材を加えてもいいのではないかと思う。それはカシミアやカウチンなど高級ニットではなく、素材組織自体を作り込んでもいいのではないかということだ。

 合繊主体の機能肌着、ポリエステルのダウン、メリノなどの梳毛ニットはSPAに任せればいい。でも、専門店系では例えば、ニットは毛糸の撚糸そのものからアイデアを凝らして、質感のあるミドルゲージくらいに仕上げても面白いと思う。



 冬だから単一ウールではなく、綿やシルク、麻などを組み合わせた毛糸もほしい。ニットになった時の質感がトレンドを打ち出す重要なカギになると思う。昨今の企画はハイかローかカットソーかで、ニット組織の面白さをあまり感じない。

 布帛もそうだ。アウターはポリエステルのダウンか、メルトンのコートか。ボトムにしても、通年のデニムやギャバ、定番のコーデュロイ、それに今年は裏毛のジャージだ。あとは新興国産のレザーくらい。しかも、原価率の圧縮で、生地は安いものばかり。

 生地ブランドに英国の「ホーランド&シェリー」、イタリアの「ロロピアーナ」がある。どちらもオーダースーツ地が有名だが、こちらは冬なのにコットン素材も企画している。上質で肉厚なコットンスエード、あるいはコットンモールである。

 このような素材を使って冬用のアイテムを作ってはどうかと思う。スエードはまるでフェルト素材と見まごうほど縮充し、とても目が詰まっている。これならコートでもジャケットでも型くずれせず、防寒機能も十分に果たすと思う。

 また、モールもこしがあるからパンツにしてもしわがよらず、コール天やベルベットのようなテカリも生じない。冬のボトムに機能性とお洒落心の両方を提供できるのである。

 これらは繊維が絡み合うような感じで起毛しているので、ウエアにすればデザインがベーシックでも主張が生まれる。保温力が高いから、1枚物でも冬場のアイテムとして十分に通用する。さらに天然素材だから、ウールを合わせても静電気は起きない。

 原料がもつ特性を最大限に引き出す素材なら、個性的な質感が生まれ、ウエアがお洒落に見えるはずだ。ヤングはともかくとして、アダルトにはもっと素材トレンドを訴求してもいいのではないか。これは定番素材を使用するSPAにはない「価値」だからである。

 コットン系素材では10数年前に、ベルベットが大流行した。モードサイクルから言えば、そろそろ再燃しても良い頃。でも、単なるリバイバルではつまらない。だから、夏場くらいから、市場にないものとして企画を温め、サンプル製作に入ってみた。

 さすがにホーランド&シェリーやロロピアーナで、サンプル分の用尺を取り寄せるわけにはいかない。まず、売ってはくれないだろう。そこで懇意にする生地問屋のデッドストックを探してみると、何とか似た物を見つけることができた。

 冬物には間に合わなかったので、明るい生地で梅春ものを作ってみた。それがそろそろ上がってくる。 街中が冬のセールに入る頃、春色冬素材のアイテムとして登場させよう。ものの出来がよければ、モデル撮影もありかな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

何も学んでないところが問題では。

2014-11-05 05:50:53 | Weblog
 三陽商会が40年以上にわたってライセンス生産してきた「バーバリーロンドン」が2015年6月末で契約終了となる。同社にとって屋台骨を支えるブランドがなくなることは、15年度下期以降の収益減は否めない。

 同社は売上げ回復にコートブランド、マッキントッシュの高価格ライン、「マッキントッシュロンドン」を当てる考えのようだ。15年半ばから3年半で年商200億円を目標に、バーバリーに代わる基軸ブランドに育てるという。

 もともと、三陽商会はコート専業のメーカーだった。そのため、他社には無いノウハウを受け継いでいる。バーバリーのようなコートを主力アイテムに位置づけたい、コート造詣の気持ちが強いのは、わからないでもない。

 でも、それがバーバリー、そしてマッキントッシュとライセンスに頼るのは、ブランドの恩恵に与る一方、契約解除のリスクを伴う諸刃の剣でもある。

 また、ライセンスにあぐらをかいてきたがあまりに、自社ブランドを育てきれないという企業風土を生んでいるように感じる。

 それに対し三陽商会側は「基幹の一つに位置づけるオリジナルブランドの「エポカ」は、イタリア人デザイナーを招き、世界ブランド化へ舵を切る」という。

 でも、ファッションビルで展開する「エポカ・ザ・ショップ」を見ると、ありふれたNBの域を脱して切れておらず、同じビルインでSPA化を進める小売り出身のセレクトへの攻め手を欠く。

 また、百貨店を販路にするエポカは上質でコンサバなラインをキープしている。でも、ジャケットスタイルを見る限り、キャリア狙いなのか、セレブミセス向けなのか。誰に照準を当てているかがよくわからない。

 所詮、展開は百貨店のハコである。他メーカーのNBと同じフロア展開で、どこまでブランドが際立つのかという点でも疑問符がつくのである。

 言い換えれば、なぜ、マッキントッシュが日本で人気が出たのか。それは三陽商会が販路とする百貨店とは全く異なる、専門店が行った販売戦略、市場開拓だったからだ。 この辺にブランドビジネスの綾があると思う。



 1800年代に英国のチャールズ・マッキントッシュによってデザインされたゴム引きのコートは、その撥水性と上質な作りから欧州で人気を博していた。

 職人技による製法は21世紀の今も変わらず、日本ではブランド力もさることながら、手作り感や希少性は専門店にとって格好の「蘊蓄の的」になる。

 アールジーンなど数々の海外ブランドを日本でヒットさせたアパレル専門商社の八木通商他が日本に紹介すると、全国のセレクトショップが飛びついたのだ。

 バイヤーにとって仕入れる以上、マッキントッシュが持つもの作りの良さやクオリティの高さはもちろん、MD構築や売場づくりの上で、お客への提案、セールストークで蘊蓄できる商品は欠かせなかったからである。

 福岡でもマッキントッシュのコートは、インナーにボーダーのカットソー、ボトムにピカデリーやシマロンのパンツ、エグーやトリッカーズのブーツを組み合わせることで、「博多カジュアル」というスタイルを生み出した。

 つまり、マッキントッシュにファッションとしての可能性を見いだしたのが八木通商で、それをショップで際立たせたのが全国各地のセレクトショップだということができる。

 ただ、ヒットアイテムが生まれると、当然、模倣商品が出回る。マッキントッシュもご多分にもれず、某大手SPAに真似され、格安の商品が売れ出された。

 結果として同じマッキントッシュを扱っていた商社の中には、卸先が低価格のコピーに寝返るという憂き目に会い、駆逐されたところもある。

 しかし、八木通商は取引先のほとんどが地域一番店のセレクトショップということもあり、マッキントッシュはがっちり取引先と顧客をつかんでいった。

 以来20年にわたり、一度、このコートに袖を通すと着崩すまで着て、またこのコートに戻る、あるいは親子2代で愛用する。とまで、セレクトショップの店頭では語られている。まさに専門店が追求したアイテム、ブランドなのである。

 穿った言い方をすれば、八木通商と地域のセレクトショップがガチで組んで切り拓いた市場に、三陽商会は「フィロソフィー」というセカンドライセンス、百貨店チャンネルで ちゃっかり乗っかっただけということになる。

 そして、バーバリー無き後は高価格ラインで、こうした顧客をいただこうという魂胆と受け取れる。個人的には、ライセンス販売に安住してきたアパレルメーカーが「少々、欲の皮が突っ張り過ぎでは」と言いたくなる。

 しかし、八木通商は「全国の客層を広く知っており、ものづくりへの信用がある」と、いたって大人の態度で臨む。三陽商会がいくら販売しようが、商標権は自らの手にあるという余裕からだろうか。

 また、セレクトショップも、マッキントッシュはすでに浸透、定着したと踏み、新たなアイテムの開拓に勤しむ。その辺の謙虚さ、独立独歩の精神にも頭が下がる。

 まあ、日本のファッション業界で、海外ブランド争奪戦はあまたある。ビジネスだから、勝つ企業もあれば、負ける企業もある。別に目くじら立てることでもないだろう。

 しかし、地域専門店は百貨店より早くから欧米に出向き、ブランドを開拓してきたという自負があるはずだ。ある経営者は「自分たちがようやく顧客を開拓したと思うと、百貨店に根こそぎ持っていかれる」と、不満を口にする。

 別の経営者は「百貨店が販売しても買い取らないので、掛け率は下がらないからそれほど儲からないのでは」と、異に介しない。

 どちらにしても、三陽商会はマッキントッシュでも一定規模の市場を開拓することは間違いないだろう。ただ、自社の屋台骨を海外ブランドのライセンスに頼る限り、自社ブランドへの資源集中はおろそかになる。

 何よりアパレルに生命線である企画、デザイナーの育成が進んでいないのではないだろうか。ソレイユに始まり、トランスワーク、ショーゾーツジムラ、最近ではフラジールなど、なぜか「これッ」って自社ブランドが育たないように思う。

 コートづくりのノウハウを持っているだけに、自社ブランドのコートやその日本人デザイナーを育成しようという気持ちはないのだろうか。実にもったいない話である。

 マッキントッシュロンドンとの契約は、19年までの5年間。延長されるか否かは売れ行き次第ということだろうが、百貨店のハコである限り、セレクトショップのようなMD、販売政策はとれない。

 バーバリーを手がけ、バーバリーに袖にされた学習効果は、何も働いていないようである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする