HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

狭域集客でペイする?

2018-08-29 06:20:27 | Weblog
 ヤフオクドーム横のホークスタウンモール跡地で、建設が進められてきた商業施設「マークイズ福岡ももち」が11月に開業されると、発表された。すでにHP(http://www.mec-markis.jp/fukuoka-momochi/)も公開されており、リーシングされたテナント全163店も顔ぶれも明らかになった。



 毎度のことながらメディアが飛びつく、「初もの」についてもご丁寧にサイト上で「新業態9店、県内初出店44店、施設初出店19店」と、告知されている。一般消費者に「業態」という用語は聞き慣れないが、おそらくWebデザイナーがもらったリリースをリライトせずにそのままデザインしたのだと思う。

 それはさておき、マークイズ福岡ももちは、前身のホークスタウンモール失敗の教訓を生かし、都市型湾岸商業施設として、どこまで市場開拓のポテンシャルを有するのか。今回は考えてみたい。

 もともとこの地一帯は福岡市が博多湾を埋め立て、1989年に開催した「アジア太平洋博覧会」の跡地利用について、ダイエーグループがプロ野球球団の運営と一体で開発するものだった。当初の計画は「ツインドームシティ」。一つはプロ野球他のイベントが開催できるスポーツドーム。もう一つが娯楽施設を集積するアミューズメントドーム。どちらも全天候型なので、天気や季節に関係なく集客できるという目論見だった。

 ところが、1991年にはバブル経済が崩壊し、ダイエーは巨額の有利子負債を抱えて経営が悪化。計画はとん挫した。中内正社長からは「リクルートに計画を一任する」なんて発言も飛び出したが、開発されたのは室内球場の福岡ドーム(1993年)と、ホテルのシーホーク&リゾート(1995年)だった。

 ダイエーは福岡市から格安で埋立地を譲り受けた手前、アミューズメントドームの代替案も引くに引けなかった。そこで2000年に開業したのが「ホークスタウンモール」である。規模はイオンモールのようなクローズド型のRSC(リージョナル型ショッピングセンター)より小さいCSC(コミュニティ型ショッピングセンター)。当然、核店舗と呼べる大型業態はなく、テナントは専門店や飲食店が主体で、肝心な娯楽施設はシネコンやライブホールに限られた。

 プロ野球という興業を目的に訪れるお客は、試合(ナイトゲーム)が終わると帰ってしまう。また、野球がない冬場は集客、利用がガクンと落ちる。それらの対策をどうするか。 モールはイベント以外の日にも食事や買い物で利用してもらう施設を目指したが、ドームでの大規模なコンサートの序でに訪れる、また目的来場の映画やライブを除けば、専門店や飲食店が強力な集客装置にはなり得なかった。

 立地は福岡市中央区の地行浜ではあるが、アクセスが良くないのもネックだった。野球の開催時は天神や博多駅からシャトルバスが運行されるが、平日はバスの便数も少なく、地下鉄黒門駅から歩けば15分〜20分を要してしまう。野球やコンサートでなければ、徒歩で気軽に行くような距離感ではない。

 おまけに後背地の地行地区は住民が高齢化しており、日常の買い物は地元の唐人町商店街で片付く。西隣の百道地区や愛宕浜などに住むマンション族にしても、モールに行くには車利用となるため、非日常の買い物ではそのまま都市高速に乗って天神まで出かける方が多かった。

 これらはホークスタウンの開発前から指摘されていたことだ。しかも、福岡は平成不況の直中でも商業施設の開発が活発化していた。1996年のキャナルシティ博多を皮切りに、岩田屋Zサイド、97年の福岡大丸エルガーラ、福岡三越、99年の博多リバレイン、トリアス久山、ソラリアステージ等々。都心、郊外を問わず続々と大型商業施設が開業した。テナントはホークスタウンモールより充実し、集客力は比べ物にならなかった。

 ダイエーは1998年にホークスタウンで温泉を掘削して冬場の集客を当て込んだが、運営コストを考えるとペイするはずもない。王監督がユニホーム姿でメディア向けにアピールしたものの、話題だけで徒労に終わっている。結局、モールのテナントは開業から苦戦が続き、撤退するところが相次いだ。

 経営危機を迎えていたダイエーはドーム、ホテル、商業施設の管理・運営を一本化して、2004年に外資系傘下のコロニー福岡に売却。ホークスタウンモールは05年にリニューアルしたものの、07年にはコロニー福岡からシンガポールの政府系ファンドGICリアルエステートに再売却された。その後は目に見えたテコ入れもなく、ここ5〜6年は空き店舗が続出し、閑古鳥が無く状態。商業施設としては全く機能していなかったのである。

 そんなホークスタウンモールの再生に名乗りをあげたのが三菱地所だ。同社は2015年1月、所有者はGICリアルエステートのままで、信託受益権を取得。投資ファンド側と今後の方針を検討し、完全に更地して建て替えることを決定した。再生計画では、商業施設とタワーマンション2棟(ザ・パークハウス福岡タワーズ)からなる複合再開発とし、昨年6月から商業施設棟の建設に着工していた。

 三菱地所はホークスタウンの反省を踏まえ、より規模を拡大した大型商業施設を目指すわけだ。それが「マークイズ福岡ももち」(延床面積はホークスタウンモールの7万6000㎡に対し、12万5000㎡で1.64倍)である。同ブランドの施設は静岡、みなとみらいに次いで3番目となる。湾岸施設では子会社の三菱地所リテールマネジメントがアクアシティお台場も開発しているので、福岡でもいけると踏んだのだろう。

 首都圏以外で唯一人口が増加している福岡市は、マンションの建設ラッシュに沸く。博多湾が一望できるタワーマンションは需要が見込めるので、三菱地所は商業施設と抱き合わせることで、生活のしやすさをアピールし、売りにつなげる狙いだと思う。同じ中央区の九州大学六本松キャンパス跡地の再開発「六本松421」でも、三井不動産が販売代理を務めるマンションMJR六本松は、即日完売している。

 地元のデベロッパーからは「行き場を失った東京マネーが福岡のマンション投資に向かっている」との話も聞かれる。中心部へのアクセスが良い土地は高騰し、開発には東京資本が流入して、地場企業は用地確保さえままならない。競合の三井不動産がMJR六本松を完売させたことで競争意識に火が付き、三菱地所はザ・パークハウス福岡タワーズでは大手の力を見せつけたい思惑もあるはずだ。

 ただ、分譲価格は一戸当たり最低でも5000万円を超えるはずだから、年収ランキングで全国Cクラスの福岡で簡単に購入できる額ではない。東京マネーが資産運用を狙うと言っても、家賃が高いと借り手はつかない。その辺の不安はある。まあ、筆者は不動産の専門家ではないので、この辺にしておこう。


既存店を無理矢理かき集めた




 本題はマークイズ福岡ももちが商業施設として収益を上げられるか、である。みなとみらいやアクアシティお台場の実績が、今回のテナントリーシングにも踏襲されているようだ。では、テナント概要をじっくり見てみよう。

 まず、1階に配置されるのは地場スーパーの「ハローデイ」。全国一視察が多いスーパーとして、東京メディアでもたびたび取り上げられている。同社は高級スーパー・ボンラパスが倒産した後、店舗をそのまま引き継いでおり、西隣の百道地区では店名はそのままで運営し、六本松421にも同業態を新規出店。マークイズ福岡ももちではハローデイ業態での展開となる。ただ、ボンラパスとはワインやチーズなど一部の高級食材を除き、ほぼ同じMDなので湾岸地区でドミナント展開に踏み切る試金石にするのではないか。

 ホークスタウンモール時代にはスーパーがなかった点でも、リーシングの決め手になったと思う。ハローデイは週1回、新聞にチラシを折り込むが、日替わりで目玉商品を打ち出している。週末は鮮魚や精肉の安売り日で、魚は市場直送のものをその場で捌いてもらえる。こうした取り組みが高齢者にもウケているので、地行の住民を集客できる可能は高いと言える。

 ただ、基本路線は売却問題で揺れている西友傘下のサニーにような安売り店ではない。成否という点ではタワーマンションの完成以降、足下商圏の住民をどれほど顧客化できるかにかかっていると思う。
 
 2階には、ロンハーマンのコンセプトンショップ「RHC ロンハーマン(RHC RON HERMAN)」、カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」が九州初進出。他にはインテリアショップの「アクタス」、書店の「ツタヤ ブックストア」。セレクトショップの「ジャーナルスタンダード レリューム」「ナノユニバーズ」「フリークスストア」。ライブホールの「ゼップ福岡」。物販47店、飲食3店、サービス2店が出店する。

 RHC ロンハーマンが初ものとは言っても、業界人ならブランド頭文字の組み合わせはセカンドライン、カジュアル色の強い業態だとわかる。福岡では中心部の警固にファーストラインのロンハーマンが出店しており、湾岸地区の性格からしてもカジュアル業態にならざるを得なかったわけだ。アダストリアが展開し、ここにも出店するベイフローと比較するのもどうかとは思うが、肝心なロンハーマンが福岡では絶好調とは言えないので、定着するかは未知数である。

 ゼップ福岡はホークスタウン時代からの横滑りだが、収用人員は2000名から1500名に減っている。キャパを少なくしても小屋を確実に埋め、稼働率を上げる狙いだろうか。だが、福岡の中心部には好調なライブホールはいくつもあるので、いかに観客の興味を惹ける出演者や題目を集められるか、運営側の力が試されるところである。

 アクタスは天神にほど近い渡辺通りにもあるので、市内では2店舗目。同じインポート系家具では、かつて同じ湾岸エリア小戸のマリノアシティにボーコンセプトが出店していた。しかし、価格面で苦戦を免れず撤退している。だから、こちらのアクタスは湾岸のマンション族を意識し、家具よりも雑貨に比重を置いたMDに変えてくると思われる。

 ツタヤブックストアは天神西通りの先にあった店舗がビルごとドンキホーテに変わり、移転というか新規出店になる。セレクトショップの3業態は、天神もしくは博多駅に既存店があるので、目新しさは感じない。

 3階は物販から飲食、ナショナルチェーンから地場企業の店舗まで、49店舗が揃う。フロアはファミリー層を意識してか、小動物と触れ合える「モフアニマルカフェ」、20種類以上の遊具で遊べる「あそびパークプラス」が出店。今年3月、本家米国の本社が350億円もの負債を抱えて倒産した「トイザらス・ベビーザらス」、「ユナイテッドカラーズ オブ ベネトン」はホークスタウン時代にも展開されていたので、再出店となる。

 4階はエンタメと家電のフロアで、シネコンの「ユナイテッドシネマ」、「ナムコ」、家電量販店の「コジマ×ビッグカメラ」の他に、英会話や幼児教室、パーソナルジム、ヘアサロンなどがリーシングされている。ユナイテッドシネマは、ホークスタウン時代から継続出店となり、他のエンタメも既存店があるので特に珍しいというわけではない。

 テナントの顔ぶれを見ると、個々がそれほど高い集客力を持つとは思えない。天神には百貨店やファッションビルが並び、博多駅には開業から増収を続けるJR博多シティがある。その両都市に挟まれるキャナルシティ博多と博多リバレインは徒歩回遊圏でもある。だから、この程度のテナント構成なら、天神、博多駅を生活圏にしていれば、わざわざ行くこともないというのが率直な印象だ。

 外国人旅行者を狙うと言っても、シーホーク&リゾートから経営が移ったヒルトン福岡シーホークの宿泊客だけでは、博多駅や天神界隈の絶対数にはかなわない。逆にここは天神や博多駅周辺のホテルから徒歩では回遊できない。福岡市が運営する2階建てバスで訪れることは可能だが、これもキャパやダイヤの問題から大量輸送には限界がある。

 アジアからの旅行者に大人気のドンキホーテは、中洲地区と天神地区(今泉/ツタヤブックストア跡に出店)にある。すでに観光客の買い物コースになっており、あの集客力からすれば、切り崩しは容易ではないだろう。テナントが外国人好みというより日本人向けであり、外国人旅行者の集客は限定的と思われる。

 だから、マークイズ福岡ももちは、天神を軸にして福岡市の西半分、主に早良区、西区、城南区といった足下商圏を攻略しなければならない。ただ、この西南部も今から30年以上前にバイパスや地下鉄の開通に伴って開発され、住民は高齢化している。人口増の中心となる若年層は交通アクセスの良い西鉄大牟田線や地下鉄空港線、JR鹿児島本線沿線のマンションに居住するケースが多く、人口分布は分散傾向にある。必ずしもマークイズ福岡ももちの足下商圏の人口が増えているわけではないのだ。

 しかも、マークイズ福岡ももちは車でしかアクセスが難しく、特に野球の開催日は周辺道路が大混雑する。ホークスのホームゲームは年間70試合程度なので、大したことはないと言えばそれまでだが、週末、祝祭日のデーゲームともなれば、「道路が混むから行くのを控えよう」との心理が働くので、商業施設単独の集客に影響がでるのは間違いない。福岡市はこうした施設開業後の交通渋滞を想定し、緩和策を打ち出している。

 それによると、三菱地所がドーム、商業施設、横断歩道をつなぐ歩行者デッキを整備し、交差点改良やバスカットを新設。福岡市がドームの敷地内にタクシー乗降場を新設するというが、これでどこまで渋滞が緩和できるかは来シーズンになってみないとわからない。その時はマークイズ福岡ももちの開業景気もいく分は沈静化していると思われるが。

 現状で言えることは、ホークスタウンモールが集客で苦戦したことから、施設の規模、テナントの数だけは何とか克服したように見える。だからといって、テナントは既存店を中心にかき集めたとしか思えず、これらが必ずしも強力な集客力を発揮し、足下商圏を攻略できるとは限らない。イケアのような単独でも広域集客力をもつ業態がない点は、開業後から少しずつ影響が出て来るのではないか。

 また、立地の地行浜は、お台場やみないとみらいとは違って北向きである。博多湾の先に広がる玄界灘は冬場は海が荒れ、福岡市には寒風が吹き荒む。マークイズ福岡ももちがクローズドモールとは言っても、ホークスタウンモール時代からの寒々しさは残ったままだ。商業施設として広域集客ならぬ狭域集客で、はたしてペイすることができるか。イベントなどの開催を含めて、デベロッパー三菱地所の企画力が問われてくる。



 最後に地元民として解せないことがあるので、付け加えておく。施設名のマークイズ福岡ももち、開発コンセプトの「モモチゴコチ」は、地名の「百道(ももち)」から取ったと思う。だが、この地区の正式住所は「地行浜(じぎょうはま/埋め立て後に制定された新地名)であって、百道は樋井川を挟んだ隣地区の地名である。だから、筆者はマークイズ福岡ももちの開発のニュースを見た時に、「えっ、百道にまたSCができるのか」と勘違いしたほどだ。

 博多の人間にとって百道と言えば、かつての海岸を思い出す。筆者が幼稚園の頃、このシーズンには博多から路面電車で行ける一番近い海水浴場であり、自宅から水着を着て浮き輪を持ち、そのまま西新で降りると歩いて行けた。ただ、博多湾の内海のため、昭和30年〜40年代は生活排水などが流れ込み、海が汚なかった記憶しかない。筆者はしばらく福岡を離れていたので、その後の変貌ぶりには目を見張るものがある。

 百道の海岸は昭和60年代に福岡アジア太平洋博覧会のために埋め立てられ、イベント終了後は人工海浜として整備された。福岡市によって定期的に清掃も行われているので、今は海も海岸もすごくきれいだ。かつての百道海水浴場とは雲泥の差である。ただ、百道はあくまで西新の先の浜であって、地行の海岸を指すものではない。

 まあ、そんなことは三菱地所にとってはどうでもいいことだろう。おそらく施設名のネーミングは憶えてもらいやすい方が良いから、企画会議では開発担当者や企画に携わるコピライターなんかが住所は無視し、ゴロ合わせだけのコンセプトをゴリ押ししたのだと思う。しかし、福岡に住んでいる人間からすれば、違和感が非常にあることだけは確かである。

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カリスマどもが夢の跡。

2018-08-22 05:48:53 | Weblog
 カリスマと言っても、アマチュアボクシング協会、山根明会長のことではない。業界で一時もてはやされた販売員や読者モデルがどうなるのか。そのカギはECやオムニチャンネルが握るのではないかと思うのだ。まずは以下のニュースから、その側面を探ってみたい。お盆休み前、ギャルファッションの聖地、渋谷109の運営会社「SHIBUYA109エンタテイメント」が公式ECサイト内に「アウトレット」を開設したと発表した。

 主にレディスの30ブランドの在庫品を割安価格で販売するもの。サイトを見ると、セシルマクビー、ダズリン、エモダ、リップサービス、スパイラルガールなど、109の顔というべきブランドが並び、ほとんど商品が3000円以下。2000円以上購入すると、送料無料のキャンペーンも8月23日(木)までの期間限定で実施中だ。

 同社が公式ECサイトにアウトレットを設けるのは、「重点経営施策に掲げるオムニチャンネル施策の一環」。「通常商品のECや昨年からスタートしているスマートフォンアプリなどで得た顧客データとも連携し、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)を強化する狙い」だそうだ。「反応が良ければ、越境ECでも開設を検討していく」という。

 渋谷109の知名度は十分過ぎるくらいある。定期的に展開するブランドの活性化を見据えながら、ギャル系女子の御用達であり続けようとしている。ここまで来れば、新陳代謝を繰り返しつつ、いかに顧客を囲い込んでいくか。そのための全館戦略、販売スタイルが重要な意味をもつ。並行して予備軍となるローティーンにも目を向けながら、多チャンネル化でお客との繋がりをより深めていこうということだろう。

 個々のブランドショップは、自社サイトを設けてECにも注力している。ショップと連動させるオムニチャンネル戦略にも視野に入れている。一方、 SHIBUYA109エンタテイメントのようなデベロッパーは、オムニチャンネルで出遅れ感は否めない。お客にそっぽを向かれないためにも、踏み込まざるを得なかったわけだ。



 このニュースを見て、10年前に書かれた論文が頭をよぎった。2008年3月31日付けの日経MJで、ファッションコンサルタントの小島健輔氏が寄稿された「ユニクロの幻想を捨てよ…本命はファーストSPA」である。この中で、同氏は以下のように解説されている。

 「小売業のSPAはメーカー別注方式や仕様書発注方式などの試行錯誤を経て一九九◯年代以降、AMS(企画開発機能を持ったアパレル受注生産業者)を活用する手法へと進化した。これがファーストSPAだ」(原文のまま)

 「AMSはデザイナーやパターンナー、生産管理者を抱えて企画提案するOEM業者で、エレクトロニクス業界のEMSに相当する。そのメジャー化によって小売業のSPA化は飛躍的に容易となった」(原文のまま)

 平たく言えば、小売事業者がSPAでブランドを展開するには、売場の責任者がブランドのMDの骨格とイメージをしっかり設定し、後はアイテム別にデザインから製造までOEM業者に外注すれば、SPA事業はそれほど難しくないということ。まさに渋谷109に出店するブランドショップは、この手法を取り入れたのである。また、こうも書いてある。

 「ファーストSPAは引き付けた短射程企画と小ロット多頻度投入の『プル型』で高消化率・高回転が期待できる。例えば、東京・渋谷「109」のショップからウィークリーキャリー型(月曜日に企画して金曜日に店頭投入する)型は年間24回転以上という“生鮮商法”だ」(原文抜粋)

 「プロの職業デザイナーより素人の消費者の感性が先行し、様々な得意分野を確立した多数のAMSが便利なサービスを提供する今日、カリスマ販売員読者モデルが顧客代表として商品企画し、AMS活用で最速・最短に市場にこたえるファーストSPAこそ適合モデルであり…」(原文抜粋)

 この行は少し難しいが、短射程企画、小ロット多頻度投入とは、企画にかける時間を短くして、多品種の商品を少量ずつ売場に投入すること。確実に売り切っていくためだ。渋谷109に並ぶブランドショップはその最たるもの。月曜日に企画した商品が金曜日には店頭に並ぶから、土日には売れてしまう。だから、また月曜日には企画をしなければならない。とにかく素早く=FASTで企画・製造・販売する手法である。

 1アイテムが年間24回転、月平均で2回転するわけだから、2週間で売場の品揃えはごろッと変わる。お客にとっては「先々週に買ったけど、今週はまた新しい商品が並んでいるから、また買わなきゃ」となる。カリスマ販売員や読者モデルは自分がどんなデザインの服を着たいかがわかっているので、そのイメージを伝えるだけで後はOEM業者がスピーディに形にしてくれる(もちろん、修正もしなければならないが)。

 売場に立つ販売員や読者モデルは、一般のお客に最も近い存在だ。彼女たちが着たい服は、お客にも欲しい商品となって購入につながる。高額なファッションが売れづらい時代の若者向けファッションは、アパレルメーカーのデザイナーが時間をかけて考えたサンプルを展示会でバイヤーの反応を見て修正し、でき上がった商品をシーズンを通して売り減らしていく手法(プッシュ型)より、AMSの方が合致しているということである。


実店舗にはECの利便性、ECには店舗のサービス

 確かにこの時はそうだった。それから10年が経過したが、渋谷109のショップブランドの多くは今もAMSを活用していると思う。ただ、販売、購入のスタイルは激的に進化した。販売スタッフが店舗でお客に商品を売るだけでなく、お客自らも公式サイトを見て自分の好きな商品があれば、スマートフォンでも気軽に購入する。Web会員になれば、メルマガなどで商品情報が届く。それらの情報はお客の買い物状況を左右する。

 ショップ側にとっては家賃と人件費の上昇で、店舗運営のコストが肥大化している。チェーン化したアパレル専門店では、10年前に比べると平均家賃は2〜3ポイントアップし、17%台と言われている。人件費率も3ポイントほど上昇して20%に近づいていると聞く。合計のショップ運営費率は37%から40%に近いのだ。それに見合うSCの販売効率があるかと言えば、逆にどんどん下がっている状況だ。

 つまり、ショップ運営の効率が下がれば、当然ながらECシフトは進んでいく。だが、楽天やZOZOTOWNのようなモール系のサイトへの出店では、営業経費率のマックスは38%を超えており、実店舗を展開するのと大差はない。だから、ショップ側がこれから自社サイトオンリーに切り替えていくことも考えられる。ZOZOTOWNはオーダースーツで話題を振りまいているが、背景にはテナントが営業経費の高さから脱会していく危惧があるからではないだろうか。

 ただ、自社サイトだからと言って、売れる保証はない。オムニチャンネル化の前にサイト自身のコンテンツ充実が不可欠になる。プロパーの商品が先行で買えるのはもちろん、アウトレット品のような価格訴求で値段にシビアなお客を捕捉する。もちろん、メルカリのようにユーズドではない魅力も訴求できる。SHIBUYA109エンタテイメントがサイト内にアウトレットを開設したのは、こうした意図もあると推測できる。

 ショップ側にとってはAMSを活用しても、売上げは全盛期ほどの勢いはないはず。でも、コスト競争力を持つには一定量の生産規模が必要だから、どうしても売れ残り在庫が出てしまう。今は投入、即完売とは行かないわけで、在庫を消化し現金化していくには、アウトレットへの流れは必然と言ってもいいだろう。

 もっとも、お客がサイトで購入した商品の配送はどうなっているのか。渋谷109の建坪を見ればわかるように、フロアスペースはそれほど広くなく、各店舗の売場面積は限られている。店売り以外にサイトやアウトレットの在庫を置けるほど、ストックに余裕があるとは思えない。もちろん、売場の販売スタッフがECにおけるフルフィルメント、いわゆる受注から配送までの業務を兼務するのも無理。そこまでやるカリスマはいないだろう。

 おそらくサイトの在庫は各ブランドのDC(ディストリビューションセンター)、保管倉庫から注文に応じて配送されているのではないか。だから、公式ECサイトを運営するSHIBUYA109エンタテイメントにも負担はかからない。しかし、デベロッパー側がオムニチャンネル戦略を取るというからには、これに安住はできない。実店舗にはECと同様の利便性があって、ECでは店舗と同様のサービスが受けられる。お客がサイトを見た時、欲しい商品が実店舗に在庫としてあるのか。お客はECで注文した商品をショップで試着できるのか。その辺まで進まなければ意味はないだろう。

 そのためにはショップとECは在庫情報が共有化されるべきだし、お客が住む地域にがないことも想定し、ヤマト運輸が実験的に始めている受取拠点の確保も必要になる。実店舗がショールーム、試着室と化せば、返品率の高まりも覚悟しなければならない。でも、オムニチャンネルをやるからにはそこまでが求められるのである。

 オムニチャンネルへの注力、CRMの強化の先には、バラ色の未来が広がっているわけではないと思う。運用する側がいかに自社にとってメリットを見出してくかにかかっている。前置きがだいぶ長くなったが、そこでカリスマ販売員や読者モデルは、どうなっていくのだろうか。

 おそらく、ICタグ、AI、スマホ決済がショップに導入されていけば、販売スタッフはレジや在庫管理などの業務からは解放される。だから、単にブランドをカッコ良く着こなすだけではなく、来店客やスカイプなどでWeb顧客とコミュニケーションを取りながら、お直しを懇切丁寧に受けたり、フィッティングへの助言を行うことが肝になる。




 現状のサイトでは各ショップごとの「スタッフコーディネート」「スタッフピックアップ」が公開されている。さらにこれらを進化させたSNS動画などを発信して、ビジュアル作りの演出力や訴求精度をより高め、磨いてことも必要だ。また、 お客がショップで商品のタグにスマホをかざすと、カリスマ販売員のベストスタイリングの画像(動画含め)が表れたりする。それがこれからのカリスマ販売員の仕事ではないだろうか。

 また、読者モデルも存在自体が無意味になっていくと思う。そもそも読モとは、雑誌メディアが購買部数を増やすために作り上げたものに過ぎない。今やSNSを使えば、お客自らがモデルとなって自由にコーディネート情報を発信できるし、そちらの方が多くのお客の共感を得やすい。ブランドを自らのアイデアとセンスでカッコ良く着こなしていると、多くから認められるお客こそモデルというか、インフルエンサー足るのである。

 話は少し逸れるが、北九州市は街興しのために「東京ガールズコレクション北九州」をこの秋も開催する。その半年前には、タレントの土屋アンナをわざわざ東京から呼んで、北橋健治北九州市長、小川洋福岡県知事立ち合いのもと、イベント概要などについてのプレス発表を行った。

 一方、地元メディアがファッションの街を標榜する熊本市は、熊本地震からの復旧・復興と街の活性化につなげるべく、来年の4月20日に初めての「東京ガールズコレクション熊本」を開催する。こちらもこのほどハーフモデルの中条あやみが来熊し、大西一史熊本市長、TGC推進委員長の久我彰登鶴屋百貨店社長らと一緒に記者会見を開いている。

 両市とも地域活性を唱え、イベントには自治体が公金を拠出する。しかし、お客が店に行かなくなっているのに商業振興もクソもない。むしろ、活性化どころか、両市ともかなり厳しい状況に向かっている。北九州市は先頃、2つの百貨店の閉店が決定した。地元に魅力的なショップが少なく、EC含め買い物客の流出に歯止めがかからないのだ。

 熊本市は人通りが地震前の状態に回復した中心商店街から「ZARA」が撤退する。地方のお客は来店せずECにシフトするとの読みから、中心部の店舗を犠牲にしてもECの拡大、郊外大型店とのオムニチャンネル戦略を図る狙いと見られる。インディテックス社にすれば熊本なんてファッションの街ではなく、一ローカルマーケットに過ぎないのだ。

 EC、オムニチャンネルは地域商業のあり方、ファッションビジネスさえ激的に変えようとしているのに、自治体はノー天気にも三文タレントに平気で税金を使うわけだ。だが、ECやオムニチャンネルが地域経済をどう変えるかへの研究投資や勉強会より、客寄せイベントが大事なわけがない。

 第一、客寄せイベントなんかで地域が活性化すると平気で考えているのなら、自治体は地元への集客、店舗の撤退、売上げの減少をどう説明するのだろうか。ローカルメディアもイベントのおこぼれに預かりたいのか、地域の活性化に本当に必要なことは何かを検証すらしようとしない。

 よく言ったもので、「ファッションとはローカルなもの」。オムニチャンネルの時代には商品受取拠点(実店舗が兼ねるケースも)や試着ができるショールームが充実してこそ、その売上げは地域ごとに計上されるため、地域にカネが落ちて活性化していく。お客が店に来て、商品を手に取って見てくれないと、衝動買いも起こらない。そして、夢の跡から新たに出現するカリスマ販売員、インフルエンサーがその一翼を担うことを期待して止まない。10月には東京に出張するので、最先端の渋谷から学んできたいと思う。

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強者が負ける理由。

2018-08-15 04:56:08 | Weblog
 お盆休みなので、別の業界について書いてみる。ちょうど1カ月前だった。「米国のウォルマートが傘下の西友を売却する検討に入った」とのニュースが駆け巡った。

 西友と言えば、1980年代に大躍進を遂げた西武セゾングループのスーパーで、店舗網の拡大によりその知名度を全国に広げていった。グラフィックデザイナーの田中一光氏とコピーライラーの小池一子氏らによってコンセプトが練られた「無印良品」。これもセゾンの総帥、堤清二氏から「西友のPBを作れ」との命によって開発された。

 NHK大河ドラマ「西郷どん」の原作者、林真理子氏は駆け出しの頃に、「つくりながら、つくろいながら、くつろいでいる」というコピーを書いている。西友DAIK(DIY館)が浜田山に開業する時のポスターに採用されたものだ。西友はセゾングループの傘下で、単なるスーパーの領域を超え、生活文化企業を目指していたのがよくわかる。

 ところが、90年代にはバブル経済が崩壊し、西友が抱えた東京シティファイナンスの不良債権は多額で、西武セゾングループは崩壊の一途を辿っていく。西友は生き残りを賭け、2000年に中堅スーパー「サミット」を運営する住友商事と業務資本の両面で提携。01年には筆者が住む福岡市のスーパー「サニー」を岩田屋から買収した。だが、翌02年には米国の大手ディスカウントストア「ウォルマート」が西友の株式6%を取得し、2008年には完全に子会社化してしまう。

 西友では大胆なリストラ策が断行される一方、ウォルマートの経営改革によりPBの「グレートバリュー」、 特売やチラシを廃止してEDLPを実践する戦略が取られた。新規出店ではウォルマート仕様の「トール什器」や「リーチインクーラー」(ドア付き冷ケース)、「LED照明付き冷ケース」などが完備された。什器は日本人の身長からすればやや高めだが、品出しの効率化を進め、冷ケースは冷房効率をアップさせて省エネにつなげる。西友では珍しく、サニーでは初めての「セルフレジ」も導入された。すべてコスト削減を狙うものだ。

 肝心な商品政策でも、ウォルマート流の製販同盟のもとで低価格路線の品揃えを実現しようとした。卸を通さず、メーカーとの直接取引に拘ったが、日本の消費者はNBからローカルブランドまで、バリエーション豊富な品揃えで買い慣れている。多品種小ロットの商品政策を実現するには、どうしても多彩な取引先を有する卸を介在させなければならない。グローバルに少品種大量販売を手がけて来たウォルマートには、どだい無理な話だった。

 日本は「お客がルイ・ヴィトンの財布からコインを出して100円ショップで買い物する」と揶揄されるほど、世界でも希有な市場。しかし、それにわずか2%の大金持ちと98%の貧乏人がひしめく米国のやり方が通じるわけはないということである。

 2003年3月、佐賀県で日商岩井が開発したSCモラージュ佐賀が開業し、西友がメガストアの「西友巨勢店」を出店した。東京の流通業界誌から原稿執筆の依頼を受けたので、佐賀まで取材に行った。「ウォルマート、日本初の大型店出店」「黒船、上陸」という格好のニュースでもあることから、在京メディアは色めき立っていた。

 日経新聞を筆頭に各ビジネス誌、はてはテレビ東京のワールドビジネスサテライトまでが大挙して押し寄せ、キャスターの塩田真弓はカメリハまでやってた。記者会見でメディアが質問するのは、西友についてばかり。核店舗にはミスターマックスもあったため、司会者が「ミスターマックスさんへの質問もお願いします」と、西友への質問を遮る一幕もあった。これには平野能章社長が苦笑いしていた。

 この後の報道では「地元スーパー、流通業は苦戦は免れない」という論調ばかり。「お店の隣に世界最大のウォルマートが出店すると、どうしますか」と、扇情的な見出しを付ける業界誌もあった。ところが、2010年、西友巨勢店は10年も持たずに撤退した。

 チラシを打たずにEDLPを謳い、エンドにロールバックの安売りの商品を積み、 店頭に97円のバナナや日配に100円の白菜漬、常時41〜50%割引の冷凍食品を置いたくらいで、 絞り込まれた品揃えに簡単に手を出すほど、日本の消費者は甘くない。チョコレートやクッキーも外国産で割高では、お客は手を出す気にはならない。

 特にスーパーがいちばん力を発揮すべき「生鮮三品」で、西友巨勢店は地元佐賀の食品スーパーや朝穫れ野菜、産直魚介類を扱う道の駅に歯が立たなかった。もちろん、衣料品なんかは語るに足るものすら無い。所詮、メディア特有の東京目線では、地方の市場なんて全く見えていなかった証左である。



 一方、西友傘下となったスーパー、サニーは筆者も20年以上御用達にしている。事務所近くの赤坂店では頻繁に買い物しているので、西友系になる前と後の変化も細かく見て来た。西友巨勢店が苦戦した理由は、サニー赤坂店でも同様に感じる。また、赤坂店では西友に買収される前には、店頭製造の「デリカ(惣菜)」もあり、たらの芽の天ぷらなど旬の素材を生かしたメニューが豊富だった。

 しかし、西友系になるとコロッケや魚のフライなどの揚げ物系に絞り込まれ、しかも工場一括製造・配送に切り替わった。メニューのバリエーションが無くなり、昼食、夕食に合わせた「作りたて」もなく魅力も半減。しかも製造専門のパートスタッフが要らないため、雇用も創出されない。店舗の隣にハローワークがあることで、ウォルマート流のコストダウンは地域住民が働く場所さえ奪っていくのかと、身につまされてしまった。



 ただ、サニーも2015年3月末に福岡・熊本で11店舗を閉店している(赤坂店は営業中)。この中には08年に新規出店した南熊本店も含まれる。ここのオープン日には東京・赤羽の西友本社から商品部、店舗開発、広報部などのスタッフが乗り込み、成りもの入りで新店舗をメディアに公開した。しかし、西友に買収され、ウォルマート流の運営に切り替えたサニーは、既存店の寿命まで縮めてしまう皮肉な結果を残したのである。

 食品スーパーの中には、利益が取れないグロサリーをセーブし、生鮮と日配に重点を置くところもある。野菜はカットせずに丸ごと1点から、魚は1匹売りで注文に応じて捌き、刺身は冊で販売してお客に切ってもらうなど、加工コストを下げて価格に転嫁するのだ。これが食べ盛りの子どもを持つ主婦や料理慣れした中高年、飲食業者を惹き付けている。こうしたきめが細かく、臨機応変な販売手法は、大味で詰めが甘く効率重視の外資系スーパーにできるはずもない。


西友を立て直せる企業は?

 結局、ウォルマートが西友を立て直せなかったのは、日本市場を低価格戦略だけで簡単に攻略できると見くびったことだ。ただ、メディアの関心は、立て直し失敗の要因ではなく、ウォルマートが西友をどこに売却するかに移っている。その候補については、苦戦するGMS再建に白羽の矢がたった「ドンキホーテ」か、3月に新たな合弁会社「楽天西友ネットスーパー」を設立した「楽天」かと、目されている。

 西友の既存店は全国に335店舗もある。ほとんどは建物が老朽化しており、ドンキホーテに変わっても、居抜きで利用するには限界がある。駅に近い立地の店舗は不動産価値が高いと言われ、東京(78店)、千葉(13店)、神奈川(20店)はデベロッパーなどの売却することで収益を得ることもできなくはない。

 仮にドンキホーテが手を出すにしても、一括買収と言うよりデベロッパーなどを介して、自社業態にふさわしいところを選り抜くのはないかと思う。一方、楽天はネットモールでは実績があるが、リアル店舗の運営ノウハウを持たないから、手がけられるかは未知数だ。識者の中には、楽天購入の商品の受取拠点やキュレーションの場に活用すればいいという意見もある。はたしてどうなのか。

 まあ、EC礼賛の諸兄は、ネットスーパーに関して好意的に見ている。しかし、グロサリーや衣料、日用雑貨ならいざ知らず、生鮮は鮮度のいい物が買える食品スーパー、朝穫れ野菜の産直魚介を揃える道の駅に簡単に勝てるのか。個々の店舗が単独でネット注文を受けるにしても、その分の在庫やデジタル専門の要員はどう確保するか。既存店の店売り在庫を流用すれば、逆に来店したお客の機会ロスを生むリスクもある。

 ダイエーの時代ですら一旦物流センターに集めて、各店にデリバリーしていたため、生鮮品は鮮度が落ちて競争力を失っていた。ネットで購入する層は魚を三枚おろしにはできないし、核家族にはカット野菜でないと売れない。店売りと同様に加工もしないといけない。そうした手間をかけて、ネット向け商品は鮮度保証ができるのか。楽天がネットスーパーで西友を立て直すにしても、それがいちばんの懸案だと思う。

 第一、天候不順などで青果が不作、鮮魚が不漁なった時、ネットスーパーなら確実に商品が手に入り、価格も据え置きなんてことは、現実的にあり得ない。結局、お客は商品が手に入らなければ、近場の店まで探しに行くしかない。バーチャルがリアルを超えられない現実がそこにはある。

 今、流通業界、関係メディアはAmazonの一人勝ちに戦々兢々としている。Amazonは17年6月に自然・有機食品の米小売り大手「ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(日本円で約1.5兆円)で買収した。今度は逆にリアル店舗の展開とともに、世界規模のオムニチャネルの実現とあらゆる業界シェアの独占、オンラインにおける即時配達の普及、そしてECと相性が悪い食品市場への進出を狙っている。

 ただ、コンビニのAmazon Goは別にして、生鮮食品などを扱うAmazon Freshが日本市場で成功するかについて、筆者は懐疑的である。前出のように日本の消費者はブランドや産地はもちろん、加工調理や鮮度管理まで厳しい目をもつからだ。カルフールやテスコですら、こうした問題に対応できずに撤退した。ウォルマート傘下の西友しかりである。資本力や規模をもつAmazonであってもクリアする課題という点では、まだまだハードルが高いように感じる。

 その意味で、楽天が西友を買収するかは、Amazon Freshの手法や状況をじっくり観察した後に判断するのではないかと思う。信販事業といい、球団経営といい、携帯電話といい、楽天は後だしジャンケンなら得意だし。まあ、ネットモールで加盟店から手数料を得て成長した楽天に流通、スーパーを任せられる人材がいるとも思えないが。

 スーパーや流通の課題に向き合うには、「店頭の商品を手に取って徹底的にチェックした上でさらに選り抜き、いかに楽しい生活を提案できるかに拘ることから始まる」。これは全国一視察が多いと言われるスーパー、ハローデイのトップが当方が仕事で接したときに語った言葉。まさに西友がダメな点、ウォルマートが再生できなかった理由を如実に言い当てていると思う。

 日本人の商慣習を甘く見て、少品種大量販売による低価格、卸機能を軽視してPBや二流、三流ブランドばかりを揃えるようなやり方で、簡単に日本市場が攻略できるはずはない。つまり、流通外資は負けるべくして負けたのである。 勝ちに不思議の勝ちがあり、負けに不思議の負け無しなのである。

 Amazon Freshが日本市場にどう挑むかを見ながら、西友はどこの手助けで蘇ることができるのか。その担い手は外資でも大手でもなく、愚直にスーパー事業を進める日本企業であるような気もする。

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無ければ創るだけ。

2018-08-08 15:06:55 | Weblog
 昨日は「小倉井筒屋の3店舗閉鎖」について書いた。ただ、地方百貨店の厳しさは、九州の各都市では今後も続くのではないかと思う。一方、大都市の百貨店は市場規模、顧客の可処分所得、根強い支持、ブランド志向等々から、依然として攻めの経営が続けられるようだ。

 先日、そんな百貨店の代表格、阪急うめだ本店が「『OTONA LEATHER』by AOYAMA LEATHER」というレザーウエアのオーダーイベントを行っているとの情報を得た。6階の婦人服売場コトコトステージ61で、8月14日まで開催中とのことだ。http://www.hankyu-dept.co.jp/honten/information/ladies/madam/00663224/?catCode=101001&subCode=102003

 HPを見ると、「デザイン・サイズ・レザー・カラーを選んでお客様好みの一着を作ってみてはいかがでしょうか」と、お客に投げかけられている。同フロアが対象とする40代〜50代の女性が「革の質感や色、サイズを自分の好みに合わせて購入したい」との要望をもつことから実施したという。

 筆者がいたマンションアパレルの取引先でも、かつてはオーダーの受注会を開催するところがあった。当時は今よりファッションへの関心ははるかに高かったし、お客さんはでき上がった服への目利きも鋭かった。そうした点で、ショップ側も既成服だけではすべてのニーズには応えられないとの判断から、誂えに対応するメーカーに依頼し、受注会を企画していたのだ。その中にレザーウエアもあったと、記憶している。

 うちのメーカーは既成服オンリーなので、とてもそこまで対応できなかったが、ショップからすればお得意さんの声を一つ一つ拾い上げて一定の規模に達すると想定できれば、ビジネスとして考えざるを得ない。その一つがオーダーだったのだ。東京や大阪のようなお客の可処分所得が高い都市では、昔から代わることの無い安定したニーズなのかもしれない。それを決して放っておかないのは流石、阪急百貨店である。

 今回のイベントで提案されるアイテムは、この秋のトレンドになりそうなノーカラージャケットから、定番のライダーズ、女性ならではのショートボレロ、ロング丈ガウンまでの4型。革はスペインラム、シープなどの3種類、計14色から選べるという。サイズはノーカラー、ライダーズが7、9、11号、ショートボレロ、ロング丈ガウンが7、9号に対応してくれるそうだ。

 価格は6万円代~16万円代。革を鞣したり、染色するのに1カ月から1カ月半、それから縫製を行うので、完成までに2カ月程度かかるようだが、これもオーダーならば順当なところ。厳密に言えば、決まったデザインから選び、サイズを調整するパターンオーダーということになる。それでも、量販品にはない、自分だけの1着が作れるわけだから、価格的にも妥当なラインだと思う。

 今回のイベントは女性向けに限定されている。男性の場合は、ZOZOTOWNがゾゾスーツを使った採寸のデジタル化で仕立てるオーダースーツが注目を集める等、まだまだスーツが主流になる。でも、安さばかりが訴求される既製スーツが売れなくなっている一方、パターンやイージーとバリエーションの豊富さ、価格面など敷居が下がったことで、割高なオーダーが人気を集めているのも、何となくわかる気がする。

 ただ、メンズレザーのオーダーになると、バイカーなどマニアック向けの誂えが主流で、気軽に注文できるとまでは行かない。モード系もないことはないが、工房は東京に集中しているから、デザインから採寸、型紙制作、仮縫いまで考えると、どうしても注文には二の足を踏んでしまう。

 こればかりはネットでやり取りすると言っても、微妙な感覚のズレが埋められなければ、仕上がった時に「こうじゃなかったのに」となるリスクを伴う。だから、今回の『OTONA LEATHER』by AOYAMA LEATHERのような催事を、百貨店がメンズでもやってくれればいいのにと、ずっと以前から思っていた。

 というか、2011年に博多阪急が開業する時、売場20カ所に「コトコトステージ」と名付けたスペースが開設されると、リリースされた。駅利用客が百貨店に立ち寄っても常に飽きさせない工夫を凝らすため、常時何らかのイベントを仕掛けるということだった。ちょうど、買いたい服が中々見つからない時期で、折角、阪急が九州に上陸するのならと、思い切って開設準備室に「ぜひ、メンズのレザーウエアのオーダーイベントを実施してほしい」との願いをしたためて、手紙を出した。

 すると、ご丁寧な返事が来て、それには「福岡のお客さまからいろんな要望が来ていますので、鋭意検討の上に、実施していく考えでございます」と、記されていた。その時は阪急の本店で、レザーのオーダーイベントが企画されるなど、知る由もない。しかし、今回、阪急うめだ店のイベントを知って、女性と男性の違いはあるにしても、大人のお客は同じことを考えているのだと、改めて痛感した。

 市場にはチープな既成服ばかりが氾濫している。売場に並んでいる商品を見て、いざ購入するかどうかの段階になると、数千円ですら払う価値は無いと、思うことが少なくない。成熟した大人にとって、それほどブランドに拘らなければ、オーダーの方が良いかってこともある。素材や色が選べて体型にもフィットする、自分が思い描いたデザインに近い形に近づくのなら、なおさらそちらの方が良いからだ。

 メンズのオーダースーツがイージー、パターンと人気を集めているのも多少の温度差こそあれ、もう安いカジュアルウエアなら、何でもいいやって共通認識になりはじめている裏返しではないか。

 ただ、百貨店がメンズレザーのオーダーイベントを開催するのは、まだまだ時期尚早だろうか。企画会議に持ち上がるにしても、東京や大阪の店舗が先行すると思う。福岡ではいつになるわからないので、前々から考えていたマイオリジナルデザインのレザージャケットをこの秋に制作することにした。

 企画構想から10数年、デザインは10年前にし終え、パターンも周囲のアドバイスをもらいながら、何度も微調整を加えてトワルまで作り上げることができた。サウジアラビアンラムの革、YKKの高級ジップ・エクセラの手配も終えている。後は工場の職人さんと最後の詰めを行えばいいだけの段階にきている。

 春レザーなので、早くても年末、遅くとも1月中に完成すればいい。お盆明けにゴーすればいいだろう。もう10年以上、まともな服を買っていない。だから、これくらいの贅沢はいいかなとも思う。

 まあ、百貨店やセレクトショップの手法を批判したところで、自分の感覚にどストライクの服が並ぶことはないだろうし。無いものは創るしかない。クリエイティブワークに携わるものとして、挑戦する方が得るものは大きいはずだ。あと何年生きられるかはわからないので、一生もののレザーウエアにしたいと、考えている。
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求心力を持たない証し。

2018-08-07 05:01:45 | Weblog
 7月31日、福岡・北九州市の百貨店、井筒屋がJR小倉駅前の「コレット」、同黒崎駅前の「井筒屋黒崎店」、山口県宇部市の「井筒屋宇部店」の3店舗を来年5月までに閉鎖すると発表した。同社の2018年2月決算は、売上高が783億400万円(対前年比1.7%減)、営業利益が11億4,700万円(同17.7%減)と減収減益。業績は9年連続で減少しており、これ以上傷口が広がらないうちに手を打ったかたちだ。でも、地元経済界にとっては、まさにに青天の霹靂、寝耳に水の話だったようである。

 北九州市では、前任の末吉興一市長時代から「北九州ルネッサンス構想」をはじめとした数々の地域再生策が実行された。その中にはJR小倉駅前の再開発事業やアジア太平洋インポートマート(AIM)の整備などがあり、大型商業施設の誘致が積極的に行われた。その一つが百貨店の「小倉そごう」である。

 同店は1993年、小倉駅前再開発で誕生したテナントビル、セントシティ北九州(現コレット)に出店したが、2000年に閉店した。親会社そごうの経営破綻が原因で、小倉から西に13kmほど離れたJR黒崎駅前の「黒崎そごう」も同時に閉店している。その後、ビル側は別の施設誘致に動き出したが、各フロアには地元地権者の保有床が虫食い状態で残り、地権者の思惑の違いから中々コンセンサスが得られず、誘致は難航した。

 結局、破産管財人を介して、地権者保有床を北九州都市開発が賃借することで商業ビルの権利を一本化し、4年後の2004年に「小倉伊勢丹」が出店した。しかし、伊勢丹にしても新宿店のようなMDが実現できるはずもなく、また小倉では地域二番店に過ぎなかったことから、わずか4年で撤退を余儀なくされてしまう。
 
 そんな曰く付きのビルに地元経済界たっての願いから、井筒屋がコレットを出店したのは、伊勢丹撤退後の2008年のことだった。西に400mほど離れた「井筒屋本店」との2館体制が実現したわけだが、同社は01年には黒崎そごうの跡地にも井筒屋黒崎店を出店している。もっとも、2つの大手百貨店でさえ運営に苦しんだのに、一地方百貨店がそう簡単に軌道に乗せられるはずもない。

 出店翌年には営業不振から、井筒屋はコレットの構造改革に着手するはめになる。自社の社員を半減させて、大半をテナントに任せる方法だ。ところが、顧客によっては好きなブランドが出退店する痛し痒し状況。経営側も「このままではジリ貧になる」のは気づいていたはずだが、出店間もないこともあり、問題を先送りしたに過ぎなかった。

 結局、井筒屋全体の業績は上がるどころか、9年間も下がり続けている。ここまで来れば、立て直しができるどころの段階ではない。いちばん楽な不振店舗の閉鎖、本丸の本店への投資集中しか、選択肢は残されていなかったということだ。
 
 他の商業施設にしても惨憺たる有り様だ。アジア太平洋インポートマート(AIM)はコストコ誘致に失敗し、代わって渦中の「大塚家具」が1999年にショールームをオープンしたが、10年の契約期間終了で2009年に閉店。その2年前には、「ラフォーレ原宿小倉」も撤退している。自治体主導で莫大なインフラ投資を行った再開発事業は、商業活性には何ら効果を発揮できないままなのだ。

 現・北橋健治市長は、八幡東田地区のスペースワールド跡地にアウトレットを誘致する構想を打ち出しているが、実現すればわずか6キロほど東に位置する小倉地区が影響を受けるのは間違いない。もちろん、井筒屋もそれを見越した本店への集中投資なのだろう。だが、百貨店自体が時代にそぐわなくなっているのを考えれば、テナントビルに切り替えるなどドラスティックな政策をとらない限り、売上げの維持すら望めないと思う。




 井筒屋の影山英雄社長は、3店舗閉鎖の理由を次のように語った。①「コレットや黒崎店の営業を継続するために(家主に)家賃の引下げを懇願したが、難しかった」、②「5万㎡の本店、3万㎡のコレットを区別して運営できなかった」、③「カード会員も年ごとに利用しないお客が増えるなど高齢化にも対応できなかった」

 ①は収益が上がらなければ、コストを下げざるを得ないということ。バブル崩壊の影響、デフレ禍、中間層の没落など、中価格帯から高級品が売れなくなっている状況で、百貨店はいちばん影響を受けている業態だ。しかし、出店立地は両店とも駅前の一等地。家主が簡単に家賃を下げるとは思えない。

 しかも、コレットが入居するビルは、管理会社が地権者から保有床を賃借している弱い立場。「(地権者から)家賃を下げるくらいなら、他に貸せばいい」との反発があったとしても不思議ではない。再開発立地とは言え、実情はシャッター通り商店街と何ら変わらないのだ。高い家賃を払うには、高価格帯の商品を売るしかない。でも、一地方百貨店にGINZA SIXのような高級ブランドが集まるはずはないし、中価格帯の量販政策にしてもコマ不足は否めない。

 ②は百貨店経営のセオリーから言えば、2館が離れた場合は成功しないという顕著な事例。コレットを完全にテナントビルにすれば良かったのだが、取引先との関係から委託販売、消化仕入れの形態も残したわけだ。しかし、これで商品政策やターゲット設定が中途半端になってしまったのである。

 本店をマチュア、アダルト向き、コレットをヤング向きにする方法も考えられたと思うが、3万㎡を完全にヤングブランドを埋められるほど、井筒屋が取引先のコマをもっているとは思えない。しかも、コレットの真向かいの小倉駅には、JR九州運営の「アミュアプラザ小倉」があり、人気ブランドや有力セレクトショップが出店している。コレットでも若者向けのフロア「KOCO GIRLS(ココガールズ)」 を設け、他にも新規ブランドの導入を試みたものの、なかなか売上げ増の起爆剤にはなり得なかったようだ。

 井筒屋本店にはかつて九州で唯一店舗展開する「Y-3」があった。筆者も出張の際には必ず覗いて何度が購入したことがある。しかし、ブランド側は「福岡市に路面店を出した方が集客とも売上げとも期待できる」との判断から、2014年秋にうちの事務所近くの福岡大名に直営店をオープンし、井筒屋から退店した。つまり、井筒屋は全体売上げが下降線を辿ったことで、ブランドを福岡に奪われていく負の連鎖に陥ってしまったのだ。これを挽回するのは容易ではない。

 ③は百貨店のカードホルダーが加齢とともにメリットを感じなくなっていること。消費の中心となる世代なら、来店しただけでポイントが貯まるのは魅力的だ。しかし、買い物内容が限定されていくと、カードそのものの保有が面倒になる。また、JR九州など他社のカードが定期的にポイント還元などのキャンペーンを展開すれば、消費意欲の旺盛な世代が歳を重ねたとしても、メリットの薄い百貨店のカードに乗り換えるとは考えにくい。

 百貨店のハウスカード導入時は、「顧客の囲い込み」「購入履歴からビッグデータ入手」などが盛んに謳われた。しかし、カードそのものが利用されていないわけだから、顧客を囲い込んでも購入履歴から得られるデータは、とてもビッグデータとは言い難い。そんな脆弱なカードがMD構築や仕入れに生かせるわけがないのだ。

 運営側が「サイレントマジョリティ」なんかと唱えたところで、お客の心理は「買いたい商品がなければ、買わないだけ」と、いたって明快だ。今の時代、Webのオーディエンスデータの方が確実かもしれない。まあ、カードにしても今日では利用範囲が広く、ポイントも貯まる鉄道系などが主流になっており、ホルダーはそれも多くが2枚、3枚と持っている。消費行動を考えるとネットもあるわけだから、なかなかワンストップショッピングというわけにはいかないのが現状だ。

 ここ数年、関東、関西を含めて大手百貨店の地方店が次々と閉鎖されている。筆者の推測では年商150億円が地方百貨店の損益分岐点ではないかと思う。井筒屋の場合は3店舗の閉鎖で260億円の売上げを失うというが、この数字を見るとすでにペイラインをはるかに下回る瀕死の状態と想像される。

 ローカルメディアは閉店報道で、こぞって地元の「惜しむ声」を拾い上げる。また、中高年が主力の客層である百貨店の閉店は、「周辺の顧客離れに直結する」と、警鐘を鳴らす。しかし、本当にそうなのだろうか。実際のところは、地元住民が百貨店で買い物をしなくなったから、閉鎖に追い込まれているのではないのか。取材を受ける側のお客も日頃は激安スーパーやドラッグストアで買い物しときながら、百貨店の包装紙が使えなくなると不満を口にするは、あまりに虫が良過ぎる話ではないのか。

 全国メディアでは取り上げられていないが、コレットには近隣商店街に店を構える専門店もテナント出店している。開業時に井筒屋側から依頼を受け、商店主は百貨店に出店するステイタスから快諾したようだ。しかし、今回の突然の閉鎖については、事前に何の連絡もなかったと困惑する。閉店に向けて従業員の雇用をどうするかという懸案もあり、問題はまだまだ尾を引きそうである。

 デパートメントストアという響き、豪華は店構えとディスプレイ、世界各地のブランド、銘品のラインナップ、それらが醸し出すイメージとステイタス。こうした百貨店像はすでに過去のもので、栄華と繁栄はもはや神話と化したと言ってもいいだろう。

 地元紙は「(コレット)撤退により、小倉都心部の求心力に大きな影響を与えるのは必至だ」と、結論づけている。しかし、そもそもコレットや他2店は端から求心力がなかったからこそ、ずっと営業不振が続いたのだ。しかも、売上げが上がらないのは、地元のお客にとって百貨店なんか無くても、生活に困らないとの無言の意思表示と受け取れる。これこそ、サイレントマジョリティではないのか。

 すでに百貨店が小売りの雄というのは神話に過ぎないのに、メディアが未だに「求心力」を持ち出すことに唖然とする。情緒論だけで百貨店経営、小売業は語れない。コレットが撤退しても、ビル自体は居抜き店舗として存在する。管理会社はすでに地権者側から次の施設誘致を求められているのは想像に難くない。これが現実なのである。

 ここからはあくまで筆者の推測だが、後がまには百貨店業態から定期借家契約型業態、いわゆるSC(ショッピングセンター)に転換した「マルイ」が出店するのではないかと思う。同社は政令指定都市にドミナント展開する計画をもっている。2016年4月に博多マルイをオープンしたことを考えると、順当に行けば次は小倉出店になるだろう。

 小倉マルイが実現して年商100億円規模でペイすれば、皮肉にも小倉駅前の一等地でも百貨店業態は通用しないことが裏付けられる。はたして、小倉はピンチをチャンスに代えることができるのだろうか…


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オーダーに見る商機。

2018-08-01 05:44:14 | Weblog
 今回は久々に家具・インテリア業界、そして某企業について書いてみる。従来、家具は婚礼、いわゆる嫁入り道具に代表される一生ものだった。だから、家具店は高価格帯の商品を売ってさえいれば、それほど回転率が良くなくても商売は成り立っていた。

 ところが、少子晩婚化、都市間格差、備え付けなど家具を取り巻く環境が変わり、 一生を使う調度品という考えは様変わりした。もちろん、一戸建てや大型マンションで暮らす人々は、家具やインテリアに投資することもできるが、それはごく一部の富裕層に限られる。マンションでは収納設備が整ってきたため、テーブルや椅子、ベッド、キャビネット、ラグと、家具店で売れるアイテムは限られてきている。

 また、それらも進学や就職、転勤、結婚といった人生の転機では、廃棄や買い替えを迫られるので、機能的で見た目が良ければ、低価格で構わないという意識が強くなっている。この時期に不謹慎な言い方かもしれないが、日本は地震や水害が多発しているので、その都度、家具やインテリアの需要が増大する。これだけ災害が多いと、生活者も家具は耐久消費財というより、消耗品という意識に変わっているのではないか。なおさら、低価格の商品にとっては追い風なのだ。

 イケアのように自分で商品を選び、自宅まで持ち帰り、自分で組み立てることで、価格を抑えた家具もあるが、DIYに関心がありドライバーまで揃えている人は少数派だ。やはり届けてくれて、セッティングさえすれば、すぐに使える家具の方が多くの人に重宝されるようで、ニトリが一人勝ちするのも頷ける。

 そこで、何かと比較されるのが、大塚家具である。先代勝久氏の時代から高級路線を歩み、業界では確固たる地位を確立した。しかし、2008年のリーマンショックを境に売上げは下降線を辿っていく。経営コンサルタント出身で娘の久美子氏が経営に携わってからは「中価格帯」の商品を販売する政策に修正したが、業績の回復は一向に見られない。

 昨年の売上高はニトリの5720億円に対し、大塚家具は410億円。大きく水をあけられた状況である。上場企業だけに経済誌にとっては格好のテーマになり、売上げ減に歯止めがかからないのは、久美子社長と勝久氏の確執が原因とばかりに書き立てている。挙げ句のはてには「父親に頭を下げ、ファンドなどと組んで経営するというのも一つの手」と言い出すコンサルタントまで現れる始末だ。

 中には交差比率(粗利益率×商品回転率)で、両社を比較する人もいる。高利少売と薄利多売の違いはあっても、交差比率ではニトリの数値に近づける(適性数値)ことが必要との理屈だろう。しかし、 粗利益率を下げて商品回転率を上げるにしても、安売り家具店がこれ以上必要なわけでもないから、売上げが回復する保証はない。そもそも大塚家具とニトリでは企業文化やビジネスモデルが違い過ぎる。比較してもあまり意味はないわけで、抜本的な経営改革を提言できない経済メディアの言い訳的にも受け取れる。

 大塚家具が創業から貫いてきた営業スタイルは、大型店にテイスト別で商品を陳列し、来店客に対してスタッフが懇切丁寧に接客販売するもの。お客との会話の中でうまくニーズを引き出し、商品を売り込んできた。言わば、コンサルティングセールスだ。

 お客一人当たりに軽く1時間以上は応対するので接客数は限られるが、粗利益が取れる高級家具を売ることで収益を維持し、ペイさせてきたのである。高級ブティック、宝石貴金属や高級時計、かつての眼鏡の商売にも共通する高利少売だ。もちろん、スタッフの高い販売力に支えられてきたのは言うまでもない。

 高級家具が売れなくなったからと言って、商材のみを中価格帯に変えたのでは、収益が下がるのは当たり前である。店舗(銀座本社屋含む)の家賃やスタッフの給料など固定費はそのままのわけだし、父親の代からの古参社員のことを慮れば、思いきったリストラも難しい。

 しかし、商品単価を下げる以上に、現状の「でき上がった製品を仕入れて、在庫を抱えて販売する」ビジネスを続けているのでは、家具を取り巻く環境が変わった今、収益が大幅に回復することはあり得ない。対して、好調なニトリは低価格戦略ばかり注目されるが、根本理由はそこではない。購買時点(店頭)で売れ筋を読み、企画デザインや製造現場が連携して、季節ごとにタイムリーに投入するから、売れているのである。

 家具・インテリアのSPA化とでも言おうか。情報整備と生産態勢、さらにECと、製造から販売までの一貫システムを作り上げたことが好調の背景にあるのだ。それに対し、大塚家具は売れるか売れないかわからない商品をメーカーから仕入れ、在庫を抱えながら売り減らしていく旧態依然のスタイル。ただでさえ、商品回転率が鈍い家具を扱うのだから、在庫負担が重くのしかかるのは当然である。

 つまり、「完成品を仕入れて売る」「在庫を抱える」という二つの課題があるのだから、これにメスを入れるのが先決なのだ。それはニトリのようなSPA化に舵を切れという意味ではない。大塚家具が向かうべきは、家具インテリア市場をもっと細かく分析した上で、「オーダー」「コントラクト(請負)」といった受注販売の強化だと思う。

 昨今、オーダーという考え方は、ZOZOTOWNがスーツを販売し始めたことで、注目をを浴びている。だが、業界諸兄各位も語っていらっしゃるように、あれはオーダーと言っても、予め出来上がったパターンに注文者のサイズを落とし込んで縫製しているに過ぎない。お客の体型を隅々まで採寸して要望に添い、仮縫いまで行って顧客仕様で仕上げる、ビスポークではないのだ。

 一方、市販の家具は高級品であろうが、低価格品であろうが、マンション含めて日本家屋の間取りに合わせた規格サイズである。ところが、お客のライフスタイルや価値観の変化で、なるべくモノを所有したくないとか、省スペースで生活したいという意識が高まっている。「テーブルの天板を3cm四方カットできないか」「キャビネットが左右、奥行きともあと2cm小さければ、空きスペースに収まる」「天井ギリギリまで棚が付けられると、収納スペースが増えるのに」等々、家具やインテリアに対する要望は少なくないはずだ。こうしたニーズをきめ細かく拾い上げ、新しいマーケットを掘り起こすのである。

 かく言う筆者も個人事務所をマンションの一室に構える時、市販のテーブルや椅子、デスクを一揃い購入したが、仕事をしていくうちに資料や書籍が増えると、シェルフが増えてスペースを食うようになった。そこで、テーブルやデスク、ブックシェルフはIllustratorで省スペース用の図面を描き、木材(タモの集成材や合板)をカットして組み立て、カップボードはオリジナルでデザインし、木工所に作ってもらった。



 ワンルーム21畳の限られたスペースを入念に計算して家具の幅、高さ、奥行きを割り出し、ムダな空間が出ないように綿密に設計デザインしたものだ。そのため、事務所の空間にゆとりが出て、手足を伸ばしたり身体を動かしてもインテリアが気にならないので、非常に仕事がしやすい。ほんの数センチなのだが、こうも日々の生活が変わるのかと、実感している。それがオーダーというか、セルフメイドの良さなのである。

 筆者が住む福岡県は県南の大川市が家具産地でもある。インテリアデザインにまで首を突っ込んだので、家具メーカーとも話す機会が持てるようになった。ある若手経営者によると、大川の家具・インテリア産業は25年ほど前から低迷。生産額は1991年の1268億円をピークに減り続け、2014年度は312億円と、4分の1まで落ち込んでいるとか。家具づくりに携わる人材も機械化や海外生産の影響で、減少の一途を辿っているという。

 大川産地は長らく家具店に製品を卸すB2Bで成り立ってきた。そのため、生活者には大川で家具が生産されている認識がなく、産地ブランドのロイヤルティも確立してない。そこで国内外の主要見本市への出展やインターネット取引を始めて知名度を上げる一方、著名なインテリデザイナーと組んだ新ブランド「SAJICA」をデビューさせ、東京にショールームを開設して世界にもアピール中だ。また、医療福祉大学と連携したユニバーサルデザインの研究・商品開発も進めている。

 注目すべきもう一つの点がコントラクト事業の強化である。これは家具・インテリアの概念を超え、家や店舗などの「建具」の製造から請け負うもの。家具やインテリアは、スペースデザインとは切っても切れない間柄だ。最近はオリジナルで家を建てたい人々や内装まで自分仕様にできるコーポラティブハウスへのニューズが高まっている。首都圏ではデザイナーズマンションの人気も高い。大川産地はこうしたマーケットを開拓しているのである。

 「これは産地、メーカーだからできることだ」と、言い切ってしまえばそれまでだ。また、大川市自体が元自民党の有力政治家の地盤で、「国からの支援も取り付けることができたから」との見方もある。しかし、実際に行動を起こすのは家具・インテリア業界であり、各メーカーの経営者やスタッフたちだ。その点で大塚家具には大川産地にはないブランド力や知名度があり、高いコンサルティングセールスのノウハウを持つ。これらを活用しない手はない。

 だから、住宅市場やスペースデザインに踏み込んで、新しい販路や市場開拓を狙ってもいいのではないか。産地にできて、小売りにできないはずがない。住宅販売の経験が全くないユナイテッドアローズでさえ、マンションデベロッパーと組んで、リノベーションを手がける時代である。

 専門のチームを組織してハウジングメーカーやマンションデベロッパーに、オーダー家具やコントラクトの営業をかけてもいいと思う。製造はメーカーに委託すればいいのだから、大塚家具にできないはずはない。B2Cが苦戦しているからこそ、発想を変えてB2Bに打って出るのである。

 先の経営者はこう言い切った。「父の時代から機械化を進め、値頃な家具を作ってきた。ただ、業界内だけでものを考え、全く外の変化に気づいていなかった。家具づくりには、つくづくライフスタイル全体からのアプローチが必要だと感じた」と。まさに木を見て森を見ていないのが家具業界、そして大塚家具なのだ。もう、桐たんすが売れる時代ではない。

 “モノは作ったから売るのではく、売れる物を作る”。これは現在の製造業では当たり前。同時に小売りにはそのニーズをお客から聞き出し、メーカー側に伝える義務がある。そのためには、お客に新しいライフスタイルの楽しさを提案し、お客の買う気をそそる商品をメーカーと一体になって作っていかなければならない。そうした市場を喚起しなければ、このままジリ貧になるだけである。

 昨今のアパレルが声高に叫んでいる「オーダー」は、何千種類にも及ぶ既製パターンに落とし込む効率の産物。しかし、家具・インテリアでは、丸太一本からできる無垢材やつき板があれば自由かつクリエイティブにオーダーやコントラクトの製品を作ることができる。それに挑戦するかしないかは、経営者のイノベーション感覚なのである。久美子社長にはそれを期待したい。

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