HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

変化に乗れる力。

2020-04-29 04:24:21 | Weblog
 新型コロナウイルスの感染拡大を避けるために、提唱されている「テレワーク」や「在宅勤務」。知り合いのメーカーさんでも、出社は交替制にして在宅勤務を行っているところがある。先日、担当者に仕事の電話をするとオフィスには出勤しておらず、「自宅でリモートワークをしている」とのことだった。ただ、業務内容によっては、それに馴染むものとそうでないものがある。だから、一様に行かないという声も少なくない。

 中小アパレルの場合、仕事の役割分担は企画デザイン、パターン、MD&生産管理、卸営業、そして経理事務くらいだろうか。この中で、リモートワークや在宅勤務に馴染むのは、企画デザイン、パターンと経理事務くらいだ。デザイナーやパタンナーは、自宅がアトリエや作業場を兼ねても、セルフコントロールとタイムスケジュールさえきちんとすれば、リモートワークは不可能ではない。経理事務も間接部門であることから、情報管理を徹底した上で在宅勤務は可能だ。

 しかし、デザインを製品化するMD、製品が仕様書通りかをチェックする生産管理は、ディテールや縫製加工、処理について隅々に至る指示や注文、でき上がった現品について工場の担当者とやりとりするから、全てをWebで行うのは難しい。米国のGAPではデザインがシンプルで発注量が某大だから、Webでやらないと仕事が捌けないという話は聞く。

 それでも実物を見て判断するのと、写真を見て確認するのとでは、どうしても後者で見落としややり残しが発生する。さらに仕様が複雑だったり、柄合わせが緻密だったりすると、書類に明記するだけでは心もとない。その人の性格にもよるが、工場の担当者に直に会って話さないと、気が済まないという人もいる。

 筆者がかつて一緒に仕事をしたMDさんは、「自分は石橋を叩いて叩いて渡らない性格だから」と、公言していたほどで、几帳面極まりなかった。工場の担当者からすれば、あまりの細かさに付き合いづらかったようだが、今回のコロナ禍であのMDさんがリモートワークせざるを得ないと一体どうなるんだろうかと、思ってしまった。

 取引先に製品を卸販売する営業はなおさらだ。でも、大手では20年秋冬展示会を延期したり、中止するところが相次いでいる。替わって個別に商談会を設けたり、資料や写真を取引先にメールで送ったりする方法が採用され始めた。ワールドのワールドアンバーは、東京での4月展をWebおよびカタログによる商品提案に切り替え、これからはWeb展示会の機能を充実させるという。また、バイヤーにカタログを送付し、電話で発注を受けたり、動画をSNSにアップしたりと、商品提案のやり方を模索しているようだ。

 時間をかけて準備し、場所やスタッフを確保して行うリアルな展示会と、カタログという資料制作は必要なもののバーチャルで行えるWeb展とでは、効果はどうなのだろうか。それぞれ経費や手間がかかるので、一長一短はあると思う。だが、結果的にWeb展でもバイヤーからの発注に大差ないとなれば、その流れは一気に進むかもしれない。メーカー側は少しでも展示会の経費は削らしたいだろうし、小売り側も出張旅費がカットできて、その分を別の仕入れに回せるのなら、「Web展でもいいや」となってしまう。

 個人的には、カタログやWebによる商談や展示会は、やはりしっくりこない。でき上がってきた服はまだ「製品」の域を出ていないし、それが「商品」になるのは小売店の店頭に並んでからだ。そのためには展示会でバイヤーに現物を見て、納得して仕入れてもらうことが必要だし、メーカーの営業にはバイヤーとの間で、微に入り細にわたってのセールストークが欠かせない。

 デジタルカタログやメールによるコミュニケーションだけでは、どうしても現物に触れてもらえないから、服に対する思いや情熱が伝えられないし、伝わらない部分もある。商談の成否は現物を通したリアルなコミュニケーションにかかることも、往々にしてあるからだ。


リモートワークが当たり前になる



 とは言いつつも、デジタルワークは時代の流れだから、変えようがない。これは中小アパレルでも同じだ。零細のメーカーならスタッフはデザイナー1名、パタンナー1名、MDや生産管理1名、経理事務1名、営業3名ほどで回している。大手のように担当部署が壁で仕切られているわけでもない。だから、毎シーズンの企画会議と言っても、営業がバイヤーを通じて得た情報と、デザイナーが作りたいものを車座になって話し込みながら、すり合わせていくような形態だ。このスタイルがコロナ禍で在宅勤務になったために、零細メーカーでもSkypeやZoomなどのアプリを使ってオンライン会議が行われているのではないか。

 逆に少人数の社内会議はスタッフ同士の距離感がないので、それぞれが却って気を使ったり、言いたいことをセーブすることもあった。これがオンライン会議だと喋りやすくなって、少しはハードルが下がるかもしれない。「こんな感じのデザインはこれまでにないよ」「こういうお客さんが買うんじゃないかな」「この生地を使ってずっと作ってみたかった」と、自由闊達な意見が出て会議の生産性も上がっていく。それはぞれでいいことだと思う。

 アパレル不振が叫ばれて久しいが、そこから脱却する術は、何も機能性やスペックとは限らない。百貨店系アパレルのように原価率を下げ過ぎて顧客からそっぽを向かれたケースもあるし、何でもブランドで仕掛ければ客層が広がると勘違いされたケースもある。その反省に立った上でのもの作りも求められている。また、お客さんからすれば、ECで購入できる利便性は認めつつも、商品に触れることで得られる雰囲気や世界観も求めているはず。何より、作り手の思いや情熱を肌で感じてもらうのが、アパレル現場には不可欠だと思う。

 小売りの店頭でも新型コロナウイルスの感染拡大を避けるために、お客さんとの対面を避けて、ソーシャル・ディスタンスを導入したり、デベロッパーの要請で営業時間を短縮しているところがある。逆にインターネットの利用に抵抗がない店舗は、スタッフがSNSを通じて商品情報を積極的に発信している。ただ、ECが浸透するに従って、店頭売上げの減少は避けられず、そんな手法がすっかり定着すれば、コロナ禍が終息した後の雇用環境は大きく変化するかもしれない。必要な人間と必要でない人間がハッキリ線引きされるのだ。

 それにしても、アパレル業界を俯瞰で見ていくと、川上から川下まで、その周辺にはいろんな人々が関わっている。企画や生産、営業などの身内だけでなく、材料や副資材、製品を生み出す産地、製品の運搬に携わる物流、インフラに従事する人々も大勢いる。そんな方々はコロナ禍であっても、毎日工場に顔を出し、終日トラックに乗り、昼夜倉庫作業を担わなければならない。あるメーカーさんの話では、「中国の100%稼働しているが、こちらが行けないのと、日本の先行き不透明が悩ましい」のだとか。生産や流通の現場を支えてくれている人々を守ることも、業界としては大事な役目だし、決して置き去りにはできない。

 今後、リモートワークや在宅勤務では個人の力量が試され、その人がどれだけの付加価値を生むのかが明確になっていく。おそらくコロナ禍が終息して、在宅勤務がスタンダードになれば、そんな環境を整備していない人やそれをこなして売上げを積めない人は、企業から必要ない人間との烙印を押されないとも限らない。個人にもイノベーションや仕事に対する意識改革が必要になるのだ。それでも、みんながみんな変えられるわけではないだろうし、非常に不条理で歯がゆい社会になっていくと感じる人も、一定数はいるだろう。

 筆者はグラフィックデザインにも首を突っ込んできた。1990年代前半には急速なデジタル化で「写植」や「版下」がなくなってしまった。その作業に従事するオペレーターやフィニッシュマンが職を失ったのは、他人事ではなかった。2010年代にはカメラマンやイラストレーターも、インフルエンサーの台頭とデジタルストックの影響から仕事が激減した。明日は我が身の心境でもあるが、今のところはテレワークで仕事をこなせているので、何とか持ちこたえている。しかし、コロナ禍の終息後にはポストワークに第三の波が訪れるのではないか。仕方ないと思う反面、抗いたい気持ちがないでもない。

 ただ、もはや時代の流れは変えようがない。少なくともリモートワークに臨まなければならない環境にいる人間は、今が過渡期であることを受入れ、そうした環境に適応できるように自らを変えていくしかない。それでも、個人的には多少のゆとりは持ちながら、でき上がって来た現物の商品を見ながら、メーカーさんと「あーじゃーこーじゃ」と言える機会が少しくらいはあってもいいかと思う。取引先やお客さんも変わらざるを得ないのだから、そうした変化の中で人間的な関係性を保っていくかが問われている。
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一に商品、ニがEC。

2020-04-22 04:32:11 | Weblog
 新型コロナウイルスの猛威は終息の兆しすら見えない。不要不急の外出や買い物の自粛は、逆に感染拡大の前から病んでいたアパレル企業を弱体化させている。4月に入り、大手の百貨店系アパレルが立て続けに発表した店舗閉鎖も、弱り果てた企業体を象徴するものだ。しかし、そうした状況に追い込まれたのは、トップ交替や小手先の改革にあぐらをかき、抜本的な対策に決め手を欠く中で、コロナ禍によるダブルパンチを受けた結果と言える。

 4月13日、オンワードホールディングス(HD)の決算会見で、保元道宣社長は「21年2月期に国内外で約700店舗を閉店する」と、明らかにした。主な出店先である百貨店が低迷しているからだが、前年同期にもほぼ同数の店舗を閉めている。昨年10月に発表した構造改革以前の店舗数約3000店からほぼ半減。同社はこれを契機にデジタルシフトを一層加速する。今年2月期の時点では、売上げの約62%が百貨店販路だったが、ECを拡大することで百貨店の比率を50%以下に縮小するという。

 三陽商会は5月に就任する大江信治新社長のもと、経営再建に向けた再生計画を断行して、2022年2月期に営業黒字を目指すという。こちらは百貨店のインショップを中心に150店を閉鎖。仕入れでもブランド事業部単位で行ってきたものを一元管理する。これにより、21年2月期は対前期で110億円削減し、期末在庫も30億円程度少なくする。今年2月期まで4期連続で赤字を出しており、一層の店舗閉鎖、仕入れの大幅な抑制は不可避だったと見られる。


不振の原因は商品原価率の圧縮

 オンワード樫山や三陽商会といった百貨店系アパレルがなぜ、ここまで凋落したのか。両社に共通するのは、以下のことが考えられる。ひと言で言えば、バブルの崩壊で消費者の所得が低下し中間層が没落して、高額な商品が売れなくなったことだ。

 もう少し厳密に分析すると、商品価値の低下による顧客離れだ。1980年代からバブル崩壊の91年くらいまで、こうしたNBアパレルの商品原価率は30%以上あった。ライセンスブランドではそれ以上だ。そのため、商品のクオリティは高く、非常に魅力的だったのである。

 ところが、取引先の百貨店側は高額な商品が売れなくなったのに、自店の荒利益は確保したいがため、オンワードや三陽商会などのアパレルに対し、納入掛け率の引下げを求めた。アパレル側は派遣販売員の人件費や返品経費、セールでの値下げロス分などを考えると、「原価率を下げて掛け率の引下げ分を吸収」するしかなかったのだ。

 アパレルはNBでもコストの安い中国生産にシフトし、生地から縫製加工までの質を下げ、原価率を22〜23%くらいまで落とした。当然、ブランド名は同じでも、1割近くも原価が下がれば、以前ほどのクオリティを維持できるはずもない。「生地代が5%では、おもちゃのような品質の商品になっている」と、吐き捨てた大手アパレルOBもいる。当然、敏感なお客は商品価値の低下を察知し、急速に百貨店離れを起こしていったのである。



 あれから約20年、低迷から脱却するため、オンワードHDは百貨店では複数のブランドを集約した大型の売場を増やし、EC(サイト名は「オンワードクローゼット」)と連携したオムニチャネル戦略に舵を切る。店舗閉鎖で浮いた人員はカスタマイズ(オーダースーツのカシヤマ・ザ スマートテーラーなど)、ライフスタイル(レディスシューズやバッグなど)といった成長分野へ配置転換するという。

 オムニチャンネル戦略では、「EC専用商品の開発」と「新規顧客の開拓」を柱とする。約300万人が登録するオンワードメンバーズには、ECで買い物したことがないお客も多数いることから、店舗とECの両方で買い物をするオムニチャネル会員を増やしていくという。

 そのためには、残す実店舗とECをうまくシンクロさせて顧客をつなぎ止め、利便性に惹かれる新規客をいかに開拓するかにかかる。オンワードHDのEC売上高は2020年2月期で、前期比30.6%増の333億円。これを21年2月期に500億円、中期的には1000億円と設定する。たが、目標達成には、国内ではECに抵抗がある中高年を捉えなければならないし、海外市場を開拓するには越境ECの整備が必要になる。

 一方、三陽商会は2013年に希望退職を実施し276人が応募した。バーバリーとのライセンス契約が終了して以降も、2016年には249人が希望退職、18年にも247人が早期退職した。百貨店を主販路とするブランドが売れていないため、まずは一般職などを減らしたが、バーバリー事業の終了で専門スタッフまで含めた人員削減に手をつけた。それでも4期連続の赤字を計上し、売上げの減少に歯止めがかからないのだから、ついに仕入れ在庫にまでメスを入れざるを得なくなったわけだ。

 こちらは売上げ回復は相当に難しいのではないか。 ブランドの顔ぶれを見ると、現状で主力になるのはレディスでは「EPOCA」「マッキントッシュフィロソフィー」、メンズでは「ポールスチュアート」くらいだ。実店舗でも売れそうなブランドや企画が少ないのは致命的と言うしかない。EC売上げにしても、2019年度でわずか13%弱に止まる。バーバリーなど百貨店向けで中高年を対象にしてきただけに、いきなりEC拡大を進めても顧客の方が付いて来れない。バーバリーを失った後に投入した「マッキントッシュ・ロンドン」も苦戦が続いており、ECに注力したところで売れる保証はない。



 逆にECでの購入に抵抗がない若年層を狙うにも、ヤング向けブランドがLOVELESSやCASTくらいとコマ不足は否めない。なおさらブランドによってはSKU(最小在庫管理単位)を最大30%減らすという。その他の赤字事業についても、今期中に継続か撤退かを見極めると、売上げ回復のために戦う武器や弾すらなくなっていく。オーダースーツにしても競合が多いだけに、どこまで競争力を持てるかは不透明だ。大江信治新社長の船出は非常に多難と言わざるを得ない。


ネットで注文し、店で受け取る仕組み

 多くのアパレルが自社ECに舵を切る中で、ECの成否はお客がネットで注文した商品を店舗で受け取る仕組み、C&Cクリックアンドコレクト)がカギを握る。つまり、百貨店系のアパレルにとっても主要百貨店で残す店舗がその役割を担わなければならないのだ。オンワードHDが複数のブランドを集約した大型の売場を増やすのも、ECで注文したいろんなブランドを店舗で受け取れることを想定したものと考えられる。また、地方百貨店でもブランド単体の店舗を残すのなら、受け取りサービスが必要になるだろう。

 EC利用客は送料負担を嫌うので、店舗受取を求めてくる。在庫効率を考えると、店舗在庫の引き当てが必要になるので、オンワードHDは実店舗として残す約1600店の配置や在庫バランスも考えなければならない。もちろん、EC専用商品などはDC(倉庫+配送センター)から直接発送するはずだ。その場合、会員が一定額以上を購入する場合、送料を無料にするのなら新たな物流コストにも向き合うことになる。ECシフトしたからと言って、効率的で収益が上がるとはいかないのだ。

 お客からすれば店舗で商品を確認してから、ECで注文したいという心理も働く。そのため、大型の売場にはショールミングの機能も求められる。ニューヨークの百貨店「ノードストロム」が行っているようにECで注文しても商品が気に入らないと、店舗で返品できるような仕組みまで整えられるか。百貨店側は売上げにならないから嫌うだろうが、ならば独自で試着やお直し、受け取りまでを行う拠点も視野に入れなければならない。果たして、そこまで踏み込めるかである。

 ECがすっかり浸透し、すでに成熟の域に入っていく中では、顧客利便性=ECで注文したお客が商品を気兼ねなく店舗で「受け取り」、「試着」「返品」までできる環境づくりが不可欠になる。でないと、ECに抵抗がある中高年はとても開拓できないし、他社とは差別化できず、オンワードHDが掲げる1000億円の目標の達成もほど遠いと思う。

 三陽商会に言えるのは、売れなくなった原因が原価率を下げたことと気づいているかだ。一時的にヒットしたバーバリーの「セカンドライン」。同社はこの成功体験が仇となって「マッキントッシュ・フィロソフィー」「クレストブリッジ」など、「原価率は下げたままでもブランドで仕掛ければ、割高でも売れる」とはき違えているように見える。



 ECサイトで販売する他ブランドを見ても、相対的に価格に対する価値が低く、とても購入する気にはなれない。 ZOZOの利用客ならなおさら、そう感じているのではないか。前年度で13%弱というECの売上げ比率がそれを如実に表している。さらに言うなら、マッキントッシュは個店のセレクトショップが10数万円もする「本家コート」で顧客化済みだ。にも関わらず、三陽商会は価格の安いライセンス(マッキントッシュ・ロンドン)ならもっと客層が広がり、バーバリーの穴を埋められると勘違いした。バーバリーもマッキントッシュも、お客が成熟し目が肥えている状況では、ライセンスなんか見向きもされないのを悟るべきなのだ。


ECシフトは抜本的な解決にならない

 オンワードにも三陽商会にも共通するのは、まず価値を低下させた商品づくりを見直さない限り、抜本的な解決策などあり得ないと考える。実店舗の閉鎖で百貨店との取引をセーブしていくのなら納入掛け率の引下げも必要なく、百貨店以外の展開では原価率を元の水準に戻した商品を作ることはできなくない。もちろん、中間層が没落しているのだから、全てのブランドの原価率を1991年以前の水準に戻すことは難しいだろう。

 しかし、顧客離れが商品にあるのも間違いない。低価格の商品ばかりなら、必要とされるわけがないのだ。価値が下がった商品は、企画から(何なら独立した企画会社の設立も必要かも)、素資材の開発や調達、デザイン、パターン、縫製、加工までをすべて見直し、売価を上げてでも価値の高いブランドを提案することも、改革の一つに加えなければならない。

 それらは現物を見て購入してもらうべきで、そのためには主要百貨店などでの旗艦店展開が必要になる。遠隔地に住んで都市部の百貨店まで買い物に行けないお客にはC&Cを活用してもらい、最寄りの別店でも受け取りや試着を可能する。ここまで行ってはじめてオムニチャンネル戦略が活きるのだ。要は企画に力を入れ、コストをかけて作るブランド(これにはオーダースーツも含まれるし、カスタマイズな商品もあり得る)、価格を抑えたままでEC専用にするブランド、ライフスタイル向けのアイテムなど、選択と集中が決め手になる。

 オムニチャンネルやEC、Webサービスはあくまで手段に過ぎない。百貨店との関係は店舗削減で一旦リセットされ、ブランドのリニューアルや新規開発でも、催事やテナント出店など限られていく。とにかく「当社が持てる力を結集して企画し、自信をもって作っている商品なので、どうか現物を見て試着をして、生地の質感や着心地をじっくり確かめてください」という反省と気概を見せない限り、信頼の回復も顧客の回帰もままならないのは確かである。

 むしろ、NBアパレルから離れていった客層は、それを待ち望んでいるはずだ。店舗閉鎖で当面の炎症は抑えられるが、まん延した低価格病という慢性疾患を治癒できるのか。店を閉めるのは対症療法でしかない。だから、健康な企業体に回復させる抜本的なオペレーションは待ったなしだ。大手アパレルの経営者にはそこまで踏み込むことが求められるし、メーカーとしてもの作りの原点に回帰する姿を見せるべきだと考える。
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地方にみる伸び代。

2020-04-15 04:21:00 | Weblog
 例年、年度末には新店がオープンする。懇意にするメーカーさんや流通小売り各社からプレスプレビューへの参加要請があるが、あまり広くはない店内に関係者が集えば、新型コロナウイルスの感染リスクが高まるし、パーティまで開催すると濃厚接触でクラスター感染の怖れもある。だからだろううか、今年はリリースのみ配布したところがほとんどだった。企業側も感染拡大を危惧して、取材依頼を「自粛」したのではないかと思う。

 まあ、インターネットが発達した今日では、企業広報もメディア報道よりもお客さんのSNSの方が効果的と感じ始めている。だから、プレスプレビューも顧客や近隣住民対象の内覧会と同時に行うところが多くなった。こちらとしてもリリースを見ての取材より、店づくりからMD、販売スタイルまでをお客さんがどう感じて買い物しているのか。そちらをチェックした方が勉強になるし、リアルな状況をルポに書けるので好都合だ。

 この春は新店を一律に見て回る状況ではなかったが、緊急事態宣言が出される前にチェックしたいところはいくつかあった。結局、自粛圧力が高まる中で、筆者が住む福岡市の感染者が増え始めたため、都心部の新店は避けて郊外店をソーシャル・ディスタンスで取材するしかなかった。その一つが福岡の「九州リースサービス」が開発し、4月2日にグランドオープンしたNSC(ネイバーフッドショッピングセンター)の「アヴァンモール菊陽」だ。

 九州でSCと言えば、イオンモールやゆめタウンが思い浮かぶが、これらは厳密にはRSC(リージョナルショッピングセンター)になる。郊外の広大な敷地を開発した4万㎡以上の店舗を有する施設で、スーパーや大型専門店など2つの核店舗を配置して、それらをモールでつなぐ。そこでは中小の専門店やシネコン、家電専門店などをリーシングし、何千台もの駐車場を完備して、半径8km〜25km程度を商圏に設定する。

 ただ、そうした施設では莫大な投資と運営ノウハウを必要とする。そのため、三井不動産やイオンモールなどの大手デベロッパーではなければ、開発は難しい。逆にそこまで大規模な物件ではないが、遊休地のままでは収益を生まないから、オーナーが開発を望むこともある。こうしたケースで、小規模事業者が乗り出すのがNSCだ。


リース会社が手がけるSC開発






 アヴァンモール菊陽は敷地面積2万4927㎡に、イオングループのマックスバリュ九州が展開するDS(ディスカウントストア)「ザ・ビッグ」、「TSUTAYA BOOK STORE&JINS」の複合業態、「ファッションセンターサンキ」、子供服の「西松屋」を誘致したまさにNSC。ザ・ビッグこそ居抜き以外では初めての新築出店だが、他はどれも既存店があり、取材のポイントとなる「初もの」ではない。SCとしては珍しくも何ともないのに、筆者がわざわざ福岡から車を飛ばして出かけたのは、他にも目的があったからだ。

 一つは、取引先を通じてしか知らない九州リースサービスが最近はどんな事業に積極的か。それを直に見てみたかったからだ。リース会社と言えば、単に機械などの動産を取引先企業に代わって販売会社から購入し、賃貸して収益を上げるイメージだが、同社はそれだけに止まらない。

 業者と共同で展開するマンション事業もその一つ。博多駅前4丁目で持ち上がった200戸のマンション開発計画では、業者とSPC(特定目的会社)を設立し、後に利益を折半する方式を採用した。また、太陽光発電事業にも参入し、こちらでもSPCを設立してメガソーラーを運営している。芝浦グループホールディングスとのソーラー事業では、月々の売電収入を得ながら、時期を見て事業そのものを売却して利益を得るなど、新たなモデルを確立した。

 一方で、九州リースサービスは、企業再生にも乗り出している。1999年、新潟のSC「上越ウイング」を手がけたネオリードの子会社「オービル」が地元の福南開発と共同で開発したSC「セキアヒルズ」。コンセプトは山間(熊本県南関町)にある滞在型リゾートだったが、開業景気が終わると集客は落ち込み、経営不安が常態化した。同社はここを5年の歳月をかけて再生し、経営権を売却して収益を上げた。今や事業は多岐にわたり、不動産リート、共同事業がビジネスの軸になっている。

 その意味で、アヴァンモール菊陽の敷地は、すぐ近くに本社を置く阿蘇製薬の関連会社「アソインターナショナル」や隣接するHCの「ハンズマン」が地権者だ。九州リースサービスとしては、遊休不動産を活用して商業開発し、地権者に対し利回りと節税を提案する。当然、同社としてもデベロッパーとしてのノウハウが蓄積されるし、人口が増えている郊外、特に菊陽町のような新興市場では、どんな業態が求められるかの試金石にもなる。

 同SCから西寄り700mには、2月末で閉店したGMSの「イオン菊陽店」があった。2005年、SCのゆめタウン光の森が開業した時にチラッと見た記憶しかないので、GMSでは捉えきれなかったお客や閉店後のフォローが行き届くのかを確かめたかった。これが二つ目の目的だ。西松屋やサンキはイオンの衣料品より集客力をもつだろうし、TSUTAYAやJINSがあることで、最低限の書籍や文具、雑貨、眼鏡はゆめタウンまで行かなくても購入できる。

 ただ、ザ・ビッグについては、売上げ伸長や顧客化は厳しいという印象を受けた。この一帯には「ドンキホーテ」「HIヒロセ」「コスモスドラッグ」「ダイレックス」があり、食料品から日用品、医薬品までの業態が豊富にラインナップしている。いくらDSとは言え、品揃えはイオンのPBを含めて限られており、業務用食材もアイテム数が圧倒的に少ない。同店はイオン菊陽店があった場所からは東に700mほど離れ、同店を利用していた高齢者が徒歩で買い物に出かけるには、少し距離がある。かと言ってマイカー客は買い回りが可能だから、他店にも立ち寄る。そう考えると、競争力をもつまでにはいかないと思う。


JR九州が消極的な鉄道事業



 三つ目の目的は、イオン菊陽店の西200mにあるJR豊肥本線三里木駅とその周辺を確認するためだ。先月の熊本県知事選で再選された蒲島郁夫知事がここから阿蘇熊本空港にアクセス鉄道「熊本空港線」を引く計画を選挙公約に掲げていた。上場企業JR九州のステークホルダーとしては、同社がその計画にどこまで本腰を入れて取り組むのか。ロケーションを見ながら、自分なりにシミュレーションしてみたかったからだ。

 三里木駅はローカル線らしいこじんまりとした駅舎で、駅前はロータリーになっている。100mほど東には竹迫踏切があり、空港方面に向かう県道辛川鹿本線が交差している。
単線の豊肥本線と片側一車線の旧国道57号線は並行に走り、駅前の道路沿いには住宅や店舗がぎっしり立ち並んでいる。素人の見立てではあるが、三里木駅から空港方面に鉄道を分岐させるには、まず駅から旧57号線を高架で横切り、住宅や店舗に立ち退いてもらって更地に敷設していくか。もう一つは竹迫踏切から線路を直角に曲げて道路沿いに軌道を作るか。どちらにしても農地など用地買収が容易になところ以外は、県道辛川鹿本線などの道路を高架にして鉄道を建設するしかないと思う。

 蒲島知事は熊本空港線について選挙前には、国に求める概算要求を380億円と見積もり、「整備費の3分の1をJR九州が負担する」と、語っていた。しかし、JR九州側はあくまで豊肥本線の増収分から負担するというもので、負担額が総整備費の3分の1なるという保証はどこにもない。まして、380億円程度で鉄道が完成するかどうかもわからない。通常ならアクセス鉄道の運営会社は、自治体と民間企業がリスクを分散する「第三セクター」にするはずだが、JR九州は新規の鉄道事業には消極的で、出資をしないのは端から黒字にはならないと見ているからだ。仮に莫大な投資をするなら、われわれが株主総会で追及しなければならない。





 菊陽町には、熊本県内の企業で売上げ第1位「ソニーセミコンダクタ」(年商5322億円、2018年度)があり、大東建託の賃貸未来研究所が実施した「街の住みここちランキング2019全国版」(https://www.kentaku.co.jp/sumicoco/all/)でも、76位という結果を得ている。因に第1位は筆者が住む福岡市中央区だったが、菊陽町も熊本県では合志市(70位)、熊本市中央区(74位、東京都世田谷区と同位)に次ぐ3番目で、全国的にもそれだけ生活しやすい街という評価だ。今では熊本地震の爪痕も癒えたようで、人口増加に伴い不動産事業者や流通小売り各社が次々と進出するのも頷ける。



 
 もっとも、菊陽町には大型のパチンコ店が何軒もあり、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される4月初めの平日でも、多くのお客を集めていた。町とその周辺には県内企業で売上げ第2位の東京エレクトロン(合志市、2470億円、2018年度)や富士フィルム、ホンダ(大津市)などの工場があり、日勤の従業員らが勤務を終えた後にパチンコを楽しむ構図ができ上がっているようだ。

 熊本県内の企業売上げトップ10には、パチンコ企業4社(4位岩下兄弟917億円、5位司観光開発639億円、8位SB Good Industry421億円、10位二十一世紀グループ332億円、すべて2018年度)が名を連ねている。三密を回避することが新型コロナウイルスの感染防止につながると叫ばれても、菊陽町のパチンコ店は多くのお客を集めて疫病禍などどこ吹く風。電子部品の工場などからもたらされる固定資産税で町の財政が潤い、工場の労働者らがパチンコにカネを落とすことで、経済が回るという側面が垣間見える。

 こうしたことを総合すれば、今後の新店や新業態の展開は、東京渋谷や福岡天神のような再開発事業が行われているエリアか、地方でも経済成長に伸び代があるところに二分されると思う。アパレルについて見ると、大都市の都心では国内外の高級ブランドやセレクトショップが顔を並べ、郊外SCではユニクロや無印良品、ZARAなどの大手がほぼ出揃い、ロードサイドではしまむらや西松屋に次ぐものが求められていく。

 ただ、都市、地方に限らず、経済成長に余力を残すエリアでは、既存店に飽き足りないお客もいるわけで、それをいかに掘り起こして市場にするか。それがこれからの新店や新業態開発のカギになると言えそうだ。
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隗より始めるだけ。

2020-04-08 06:21:52 | Weblog
 新型コロナウイルスの猛威が収まらない。世界全体の感染者数は、4月5日現在、120万人を突破した(米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計)。3月23日の時点で感染者はイタリアが6万人に迫り、次いでスペインが2万人超えと突出していたが、4月6日には米国が33万7933人、死者は9653人と世界で最も多くなった。しかも、ニューヨーク州は5日の時点で感染者は12万人超、死者は4000人超に達している。

 筆者が生活する福岡も4月7日現在、県内の感染者は九州ダントツの199人。感染者が増加傾向にあることは否めず、終息の兆しは一向に見えない。ただ、個人でできることは限られる。必要緊急の外出でも、濃厚接触を避けるために「大勢がいる密集場所」「間近で会話する密接場面」「換気の悪い密閉空間」の三密を回避し、マスクをして手洗いと除菌を徹底するくらい。自分が感染しないようにして、二次感染、三次感染を防いでいくしかない。

 経済損失との狭間でジレンマにあった安倍総理も4月7日、7つの都府県(福岡も)について緊急事態宣言を発令した。都市封鎖が行われるわけではないが、外出自粛はこれまでより厳しくなる。でも、筆者は外出を制限されたところで、ライフスタイルからそれほど不自由さは感じないと思う。常日頃から水や食料は事務所に1週間分、自宅に2週間から1月程度を備蓄している。マスクは慢性鼻炎用に箱買いしていたので助かった。買い物が難しいものは、物流が機能する限りネットで調達すればいい。今のところ、「行列」とは無縁だ。

 仕事は打ち合わせから納品までメールの送受信でこなせるから、今のところは通常通り行えている。これからクライアントの事情でキャンセルされ、完全に無くなるものが出て来るかもしれない。それは致し方ないことなので、どこまで耐えられるかだ。幸い、家族はみな独立自営しているし、自分自身が何とか切り詰めれば、やっていけないことはない。まずは自宅または事務所で過ごすことを旨とし、ジムでのトレーニングや出張、旅行など、不要な外出を我慢するだけ。終息が早いか、自分が潰れるか。時間との勝負になる。

 それでも、感染者が減らなければ、医療従事者の不眠不休は続き、現場の疲弊こそオーバーシュートするのではないか。多くの人々は緊急事態宣言の解除後でも、自粛が長期間に及ぶのなら、一刻も早く新型コロナウイルスに効くワクチンや肺炎の治療薬が開発されるのを望んでいると思う。海外が先行してもすぐに日本に入って来るとは限らないし、価格がかなり高額になることも予想される。

 また、臨床実験を行ってから、厚労省が認可するなどプロセスを踏まなければならず、処方、投薬されるまでには時間がかかる。効果があるように言われているインフルエンザ治療薬「アビガン」は、ようやく新型コロナウイルスの治療薬として治験が始まった段階だ。特効薬などないのだから、まずはこれ以上感染者を増やさないこと。そして、医療崩壊を食い止めるために、政府や自治体の政策と並行して、個人や企業ができることをやるしかない。



 業界を見渡すと、海外の動きは早い。感染者数が米国、スペインに次いで多いイタリア(4月6日現在、感染者12万8948人、死者15889人、WHO発表)では、アルマーニグループがイタリア国内の全工場で、「防護服」の生産を開始し、新型肺炎治療にあたる医療従事者に配布すると発表した。また、市民保護局と医療機関への寄付金を従来の125万ユーロ(約1億5000万円)から200万ユーロ(約2億4000万円)に引き上げるそうだ。防護服と言っても医療用ユニフォームの上に重ね着するガウン仕様で、当たり前だが高級感はない。しかし、アルマーニのことだからフォルムを考え、着心地が良くて動きやすくするのではないか。

 アルマーニを「バブリー」、「成金趣味」としか思っていないファッション音痴は知らないだろうが、アルマーニ自身は「セレブ御用達のデザイナー」とのレッテルをとても嫌っている。むしろ、常日頃から「仕事をしている人のための服を作るのが好きなんだ」と口にしているほど。だから、医療従事者の命を守るための服作りは、当然の帰結ではないかと思う。

 アルマーニだけではない。グッチはトスカーナ州に対し、100万枚以上のマスクと5万5000着の白衣を生産・寄付する。プラダもペルージャの工場で、防護服8万着とマスク11万枚を生産中だ。フランスではLVMHグループがクリスチャン・ディオールなどの香水や化粧品を製造する工場で、アルコールジェルを大量生産し、保健当局に無料提供するという。英国ではバーバリーがヨークシャー州にあるトレンチコート工場の設備を一新し認可が下り次第、ガウンとマスクの製造に取りかかる。

 もちろん、素材の調達も不可欠になる。 マスクの原料はガーゼと不織布。ガーゼは木綿オンリーだが、不織布はポリプロピレンやポリエステルなどいろんな原料が使われている。防護服には高密度ポリエチレンなどが使用され、こちらはフィルム系の素材になる。 各テキスタイルメーカー側もアパレルから発注があれば、原料の生産を切り替えるだろう。また、防護服向けの資材は工業国のドイツなどから輸入されるのではないかと思う。EU中で製造に取り組み、補完し合いながらやっていけば、医療現場にも行き渡っていくと思われる。

日本の中小アパレルがマスクを生産

 日本でも少しずつ動きがある。それも大手ではなく、中小が目立つ。東京に本社を構える縫製業の「マツマル」は、自社の工場が立地する宮城県石巻市や岩手県山田町、新潟県阿賀野市の介護施設などでマスクが不足しているため、布製マスクを生産し自治体に寄付するという。生産するマスクは抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」(クラボウ)を内側に使用し、安全性や耐洗濯性にも優れるそうだ。1日当たりの生産枚数は3000~4000枚だが、地域住民から要望があれば、国内縫製業の強みを生かして増産し、マスク不足解消に協力したいとしている。実に頼もしい縫製屋さんである。




 マスク生産では、関西のアパレル「GN TANAKA」も乗り出している。靴下ブランド「HONEY」が使用する抗菌・消臭・防汚の糸「TIOTIO」を使った一般用マスクを企画し、販売を始めた。奈良県にある高級靴下工場がもつホールガーメント(無縫製)の技術を生かすもので、ガーゼや不織布とは異なり、立体的にフィットし着用感は抜群という。

 色はオフホワイト、ペールピンク、ピーチ、アイスグレー、ベージュ、オリーブの6色。独自開発の商品で機能性を持たせつつ、価格は1枚500円とリーズナブル。洗濯すれば、何回も使えるので、コスパも非常にいい。同商品の卸しに携わるエマーブルの金田光正代表は、「取引先の全軒でご注文をいただきました。ファッションの一部と捉えて売ってますが、ピンポイントで需要・必要なものを手掛ける経験はとても意義を感じ、社会貢献として利益度外視でいきます」と意気込む。疫病禍のような非常時は、中小アパレルの機動力がものを言うのだ。

 先月はマスクの買い占めやネットでの転売が問題となった。それについて、転売ヤーは「転売を批判してる側こそ問題がある。値段は需要と供給による価格設定だ。需要が多ければ、価格が上がるのが普通」「馬鹿な日本人は、どんな不足時でも普段の価格で買えると思い込んでる」などと反論した。また、彼らに商売の場を提供したメルカリも、「マスクは禁止出品物には該当しませんが、利用者の皆さまにおかれましては、社会通念上適切な範囲での出品・購入にご協力をお願いいたします」と、当初は出品禁止に踏み切らなかった。

 しかし、マスクに限って言えば一時的な品不足であって、あんなものはすぐに量産できるし、たちまち適正量が流通する。国もすぐさま転売禁止の法律の施行に踏み切った。需要が増えれば、価格が上がって当然というなら、ネットオークションではなく堂々と実店舗で販売すればいい。ネット事業者に片棒をかついでもらっておきながら、何をか言わんやである。今頃、中国人の転売ヤーなどは、何百万枚もの日本仕様の優良マスクが捌けず、ダブついた在庫に四苦八苦しているのではないか。所詮、公平な競争のもとではビジネスできない裏稼業。悪銭など身につかないのが世の常だということを思い知るべきである。

 もっとも、マスクや防護服のような繊維・フィルム系の製品は、自動車のように多数の材料やパーツを必要としない。複雑なサプライチェーンが絡むこともないから、素材さえ調達できれば、中小零細のアパレルでも容易に製造できる。逆にユニクロは散々業界を非難しておきながら、疫病禍を乗り切る商品製造については、何ら動きを見せていない。「国内に工場を抱えていないから、こんな時にはマスクの一つも作れないんだ」と突っ込まれそうだ。なおさら、百貨店になると店を閉めるしか手だてがなく、疫病禍ではほとんど役に立たないことがよくわかる。

 国難では、中小アパレルの機動力に勝るものはないということ。前出のように縫製業やニットアパレルが持てる力と技術を最大限に生かして社会貢献する姿を見ると、業界もまだまだ捨てたもんじゃないと思う。政府の緊急対策は対症療法のようなものだ。特効薬にはならないのだから、各自が知恵を出し技を駆使してできることからやるしかない。ニューヨーク風に言えば、Start with the first step、パリならPartir du gongだろうか。それが結果的に新型コロナウイルスの拡大に歯止めをかけ、新型肺炎にかかるリスクを抑えるのである。
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「延期」にした理由。

2020-04-01 04:40:02 | Weblog
 先週のコラムで、新型コロナウイルス禍による4月以降のイベント開催の可否について書いた。一例として挙げた「TGC KUMAMOTO」がその後に「延期」を決断した。コラムをアップした3月25日、早朝4時12分は時間外ということもあり、公式HPではあくまで開催を前提にした情報が公開されていた。業務の時間帯に入ってからだろうか、主催の東京ガールズコレクション実行委員会と共催のTGC熊本推進委員会は、HPを更新し「新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う開催延期およびチケット払い戻しについてのお知らせ」と題し、正式に延期を発表した。https://girlswalker.com/tgc/kumamoto/2020/news-archives/2801/

 発表内容は以下の通りである。



 「2020年4月25日(土)にグランメッセ熊本にて開催予定の『Tsuruya presents TGC KUMAMOTO 2020 by TOKYO GIRLS COLLECTION』つきまして、新型コロナウイルス感染症による感染拡大につき、東京ガールズコレクション実行委員会と共催であるTGC熊本推進委員会と協議を重ねた結果、開催を延期することを決定いたしました。来春の開催を目指しTGC熊本推進委員会と協議を進め、決定次第公式サイトにて発表いたします」。内容は実にあっさりした事務的なものだった。

 政府の専門家会議が3月19日に下したのは、「大規模イベントについては感染リスクに対応できないなら、中止をしてもらう必要がある」だった。だが、これはあくまで「要請」で、法的な強制力がなく、「感染リスクに対応できれば、開催可能」とも解釈できるため、政府の可否判断は「イベントの主催者に委ねる」だった。ただ、専門家会議が挙げた注意事項では、イベント会場では「手洗いする場の確保」、「手で触れる場所の消毒」などの徹底。「入場者数を絞り」、「互いに一定の距離を保つ」など密集しないようにする必要性も強調。「声援などで大声を出すことを避け」、「屋内の場合は適切に換気する」べきだとした。

 つまり、 TGCのようなイベントはこうした注意事項の厳守を前提にすれば、開催は不可能になる。それ以上にTGCを企画制作するW TOKYOは、イベントの大義に「地方創生」というスローガンを掲げて自治体の熊本市や県の全面支援を取り付け、自治体側もTGC KUMAMOTOを熊本地震からの創造的復興に位置付けていた。しかし、政府が大規模イベントの自粛要請を掲げ、民間がそれに協力する姿勢を示す中で、市や県が税金から補助金を拠出し堂々と共催や後援として名を連ねる以上、強行開催に舵を切ることは許されない。

 また、報道はされていないが、芸能プロダクションやモデル事務所は、新型コロナウイルス禍ではイベントへのタレント派遣に難色を示したはずだ。万一、タレントらが会場で感染した場合の損害や休業についての、自治体が主催者側に名を連ねている以上、補償を請求されるリスクがあった。今回、冠スポンサーとなった鶴屋百貨店では、久我彰登社長がTGCに協力する熊本商工会議所の会頭を務める立場で、かなり苦悩したのではないかと思われる。それに加えてイベントをスポンサードする地元企業にとっても、万一感染者を出してしまうと、イメージダウンは避けられない。利害関係者の間では課題や懸念が渦巻いていたのだ。

 一応、公式HPの発表では「主催の東京ガールズコレクション実行委員会と共催のTGC熊本推進委員会と協議を重ねた結果」となっている。しかし、どちらとも任意の団体で、万が一の法的責任は取れない。やはり、最終的には政府がコロナ特措法で示した「都道府県知事」が政治決断するしか選択はなかった。本来ならもっと早く結論を出すべきだが、何せ熊本県知事選挙が重なっていた。現職の蒲島知事が選挙戦よりも公務を優先する中で、選挙結果が出てから、最速の決断(3月22日投開票から遅れること3日後)だったと思われる。


延期でスポンサーもスライドか?



 決定内容は中止ではなく、「来年の春に延期」だった。これが何を意味するのか。W TOKYOは熊本開催が決定した2018年の記者会見で、「(TGCは)最低でも3回は開催したい」と、語っていた。つまり、当初から3年スパンの連続開催を考えていたのであれば、2021年も開催する予定だったと受け取れる。であれば、今年の開催分は延期ではなく、「中止」という意味になるのではないか。まあ、その分、3回目が2022年にズレるということになるわけだが。
 
 事実上は中止なのにそうではなく、延期と呼び方に拘ったのはなぜか。まず関係者に来年の協力を求める狙いがあると見られる。今年は共催が熊本市やTGC熊本推進委員会、後援が熊本県、協力が熊本経済同友会や熊本商工会議所、熊本市中心商店街等連合協議会と、錚々たる顔ぶれだ。自治体や経済団体は公共イベントに補助金を拠出する上で、3年くらいなら支援してもいいが、それ以上にわたるのなら「事業化しろ」と言うのが一般的。だから、主催者側としてはあくまで延期にして、資金的な継続支援を確実に取り付けたかったのだ。

 熊本のような地方都市では、民間だけで大規模イベントを開催するのが難しいのは、わかりきっている。イベントを3回程度継続するには、3回とも自治体や経済団体に支援してもらわないと、開催自体が危うくなる。さらに冠スポンサーとなっていた鶴屋百貨店、支援する地元企業スポンサーに対しても延期にすることで、そのままスポンサード権をスライドさせるように配慮したと思う。鶴屋百貨店や地元企業にとっては中止ではないから、また来年のスポンサー効果に期待が持てる。これも大きな要因だ。

 別の角度から見ると、来年春にはJR熊本駅に「JRくまもとシティ」が開業する。そこには商業施設部分で「アミュプラザ熊本」の入居が決まっている。2011年、同じJR九州の駅ビルJR博多シティが開業した時は、核店舗の一つを占める百貨店の「博多阪急」がTGCと同じファッションイベントの「福岡アジアコレクション(FACo)」に全面協力した。同店がヤング向け売場「HAKATA SISTERS」で展開するブランドをショーに出演したモデルやタレントらが着て、プロモーションしたのである。

 当然、W TOKYOが来年のTGC KUMAMOTOでJR九州やアミュプラザ熊本を冠スポンサーに想定していることも考えられる。当初からその計画で動いていたとすれば、2回目に鶴屋百貨店、3回目にJR九州ということで、スポンサー権販売の不文律にも反しない。そこまで深く考えていなくても、制作側にとってファッションイベントで安定した収益を上げるには、ビッグスポンサーを確保しておくことが不可欠になる。

 アミュプラザ熊本は熊本駅ビルの商業施設なので、入居するのは外部のショップになる。JR九州が直接商品を販売するわけではないから、TGCにどこまで衣装協力できるかは未知数だ。ただ、冠スポンサーは別物で、JR九州としても新駅ビルやブランドをアピールするのにTGCは格好の機会となる(ブランドショップに衣装提供を求めれば、イベント出展はできないことはない)。その辺の調整が来年の開催に向けての唯一の課題ではないかと思われる。


熊本駅ビルにテナントを奪われる危機感



 一方、鶴屋百貨店としては、JR熊本駅ビルの動向はいちばん気になるところ。開発計画が発表された当初、地元メディアでは「百貨店が誘致される」なんて憶測情報が飛び交っていた。これは中心商業地と離れているJR名古屋駅から類推してのことだと思われる。JR東海が名古屋駅ビルには百貨店の伊勢丹を誘致し、栄などの中心商業地と上手く棲み分けられているため、似たようなエリア構造の熊本に当てはめたものだ。

 しかし、名古屋と熊本では、人口や所得があまりに違い過ぎる。人口は名古屋市:2,328,091人(2020年2月1日)、熊本市:739,431人(同)、平均所得は名古屋市民:400万1454円(2018年)、熊本市民:320万8312円(同)。しかも、こうした市場規模から、熊本ではこれまで「伊勢丹」や「阪神」など数々の百貨店が閉店に追い込まれてきた。百貨店側からも「何を自惚れているのか」「経験から何を学んだのか」と突っ込まれそうだ。

 JR九州もそんな市場性をちゃんと検証しており、青柳俊彦社長は地元メディアの取材に対し、「アミュプラザをつくることで進めている」と断言した。そもそも、アミュプラザは小倉から長崎、鹿児島、博多、大分までの駅ビルで開業し、この秋には宮崎駅にもオープンする。運営のフォーマットができ上がっているのに、しんがりの熊本駅だけ崩すことはあり得ない。

 鶴屋百貨店がいちばんの懸念しているのは、現在News館や東館にリーシングしているセレクト系のブランドや「東急ハンズ」をアミュプラザ熊本に引き抜かれることだ。現に青柳社長はアミュプラザのテナントには「東急ハンズのような大型専門店を入れたい」と、答えている。とすれば、鶴屋東館にある同店は「1フロアしかないので、小さ過ぎて効率が悪いから撤退する」とハンズ側が考える可能性は十分ある。つまり、鶴屋があえて自店のメーンターゲットとは違うTGCの冠スポンサーになったのは、セレクトショップや東急ハンズが引き抜かれた場合に空いてしまうスペースをTGCに出展するるガールズ系ブランドで埋めるための布石ではないか。

 これについて、地元ショップのバイヤーは「(鶴屋百貨店は)自分たちで商品を仕入れているわけではないしね。今あるブランドに出て行かれる危機感から、(TGCに)カネを出すことで、ショーに出ているブランドに恩を売りたいんじゃないの」と、慮る。また、別の小売店オーナーは、「地方百貨店はますます厳しくなるから。ある程度、(TGCに登場するブランドで)ヤングも狙っていかないと持たないでしょ」と、冷静に分析する。

 熊本のアパレル関係者は総じて鶴屋百貨店が置かれている厳しい現状から、見返りを期待してのスポンサードとの見方が支配的だ。まあ、いくら鶴屋の久我社長がTGCに協力する熊本商工会議所の会頭と言えども、冠スポンサーになることを独断で決めたとは考えにくい。むしろ、百貨店経営者という立場から「自店を存続させていく戦略の一環で」と考えた方が、一連の経緯すべてに説明がつく。

 少なくとも、今年はイベントが開催されることはなくなった。 TGCのような客寄せ興行は、チケット収入も制作費の重要な原資となる。延期されることでチケット収入やスポンサー料がカットされるのに、払い戻しや各プロモーションなどの費用はかかる。W TOKYOと結んだ契約上、イベント延期に関わる諸経費をどこから捻出するのか。また、それらに自治体が拠出した補助金がどこまで使われるのか。きちんと情報公開するように県や市議会が求めるべきではないか。延期でもその裏側でいろんな利権が蠢く構図は変わらないのだから。
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