政府は4月8日に発令した緊急事態宣言を5月14日には39県、さらに21日には継続していた8都道府県のうち、京都、大阪、兵庫の3府県については基本的対処方針等諮問委員会が了解したため解除した。そして残る東京、神奈川、埼玉、千葉、北海道についても25日、同様の理由から解除に踏み切った。新型コロナウイルスの感染拡大は収束には向かっているものの、完全に終息したわけではない。
第二、第三の波も予測される。そこで気になるのが「社会経済活動の再開」と「感染拡大の防止」をどう両立させるかだ。諮問委員会の尾身会長は、5月20日の参議院予算委員会の参考人質疑で、「フィジカル・ディスタンス(身体的距離の確保)で、三密を回避する」ことが両立の条件だと説明した。営業再開した店舗では概ね、すでにそうした対策は取られているようだが、両立の条件を徹底しなければ、冬を待たずに第二波、第三波の感染拡大、クラスターが発生することもあり得ると付け加えた。
幸いにも日本は米国や欧米、中国に比べ、感染者も死亡者も少ない。それは検査体制が不整備だからとの意見もあるが、日本で感染が始まってすでに2カ月が経過し、ほとんどの日本人が感染症の初期症状について学習し、また同調圧力もあってか手洗いやうがい、三密の回避などの感染防止策を励行してきたと思う。それが感染者の減少につながった部分もあるだろう。
営業を再開した店舗でも入店時の検温や手の消毒、マスク着用の義務づけ、接触を避けるの座席の配置など、一応は感染拡大の防止策は講じられているように見える。だが、問題はそれらが公衆衛生学上で再び感染を拡大させないために妥当なのか。あるいはもっと厳格なマニュアルのもとで数値化(米国のCDC/疾病対策予防センターではAvoid close contact/密接・接触の回避距離は6feet/about 2arm’s length/約180cmと規定)を徹底し、実施されるべきなのか。尾身会長の答弁では、程度問題がよくわからない。
感染防止対策がアリバイ作りと化す
そうした曖昧さを指摘するようなリポート「いち早く営業再開し攻める高島屋は百貨店の今後を占う試金石【緊急リポート 百貨店の断末魔】」が5月20日、ネットにアップされた。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200520-00000026-nkgendai-bus_all)配信元が何でもケチを付ける日刊ゲンダイで、リポート先が百貨店の髙島屋、リポーターが三越伊勢丹の社員だからかもしれないが、以下の部分は確かに的を射て、なるほどと感心させられた。
「(コロナ対策として入口でサーモグラフィーによる来客の体温検査を)実施しているのが本館、南館それぞれの正面入口だけなんです。他の入口には係の職員もいないし、何の検査も受けずにフリーパスで入れる。いわばアリバイ的に検査をやっているふりをしているとしか思えず、これでクラスターとか起こったら大変な問題になりますよ」
確かにテレビ報道では、店舗入口での検温や手の消毒を行う映像を数多く目にする。それだけを見れば、感染防止対策が取られている印象だ。あれだけ三密が批判される中で営業を続けたパチンコ店も、同じような対策を取っていると反論し、店舗によってはメディアに取材までさせている。しかし、公衆衛生学上、あの程度の対策で本当に有効なのか。疑えばきりがないのだが、そう感じているのは筆者だけではないだろう。三越伊勢丹の社員の指摘を見ると、尚更アリバイ工作のようにも思えてならない。
公衆衛生学からすれば、対策はマニュアルが徹底されて初めて効果を発揮するはずだ。リポートで指摘されるまでもなく、メディア対策でしかない緩慢な防止策ならやはり感染拡大を懸念せざるをえない。ただ、現状ではその程度でも感染が拡大せず、クラスターも発生していないのだから「結果オーライ」で、対策が奏効すればそれでいいと考えることもできる。
米政府が4月16日に公表した経済活動の再開に向けたガイドラインでは、各地の感染収束の度合いに応じ、州知事が外出禁止や休校などの制限の緩和・解除を3段階で進めるとした。第1段階では企業に在宅勤務を引き続き推奨しつつ、可能なら段階的な出勤を進める。レストランや映画館、スポーツジムの営業再開も認める。第2段階では学校の授業や校外活動を再開し、不要不急の移動も可能に。第3段階では高齢者施設や病院を訪問できるという。
どの段階でも職場などで他人と一定の距離を保つ社会的距離を実行するほか、マスク着用などの感染予防措置を講じ、検温や消毒を怠らないよう求めている。米国でも感染拡大のペースは鈍化傾向にあるものの、全面的な営業再開にはまだまだ時間がかかると見られる。日本とはケタ違いに感染者も死亡者も多いのだから、それはしょうがないことだ。ただ、感染者が最も多い米国と言えど、経済活動の再開と感染拡大の抑止を両立させる対策は、日本と大差はない。現状では感染防止の特効薬などないのだから、できることをするしかないのだ。
コロナ禍での来店客を大事に
米国の売場レベルでの取り組みについては先日、興味深い記事が繊研新聞に掲載された。ニューヨーク通信員の杉本佳子さんが寄稿した「ミッキー・ドレクスラー氏のウェビナー(オンライン上で実施されるセミナー)に学ぶ」である。(https://senken.co.jp/posts/y-sugimoto91)GAPなどでCEOを歴任したドレクスラー氏は「マイクロマネージメント」を自認するが、杉本さんはそこからコロナ禍における接客サービス、販売スタイルのヒントを見いだしている。内容は以下になる。
「例えば店に着いたらお客はタブレットでチェックインする。あらかじめ、ネットで見つけて試着したい、実物を見たいと思った商品を予約しておき、販売員はその記録を見てお客が要望する商品(消毒済み)を消毒済みの試着室に持参する。お客が他の色やサイズ、異なる商品を試したければもちろんその場で要望できるが、お客と販売員の接触、お客と商品の接触を最低限に減らす必要はある。消毒も含めて細かい対応が必要になってくるが、お客が安心して買い物できる環境をつくるためにはやむを得ない」
「これが、オンライン販売していない個店だったら、尚更細かい対応が必要になるだろう。販売員がパーソナルスタイリストのようになり、顧客が求めているものを効率よく試着室に持参しなければならない。そのためには、お客の好みや過去に買ったものを熟知していることが必要だ。まさに、『マイクロマネージメント』が求められる」
「もしそれを実現できたら、お客のその店に対する信頼は絶大になるだろう。いつどこで感染するかわからない状況において、買い物のためにあちこちの店に出入りすることは避けたいに違いない。『あの店なら安心。あの店なら私の好みをわかってくれている。あの店なら欲しいものがたいてい見つかる』と思ってもらえたら、客数は減っても客単価は上がるだろう」
福岡でも緊急事態宣言が5月14日解除されたことで、岩田屋本店、福岡三越は16日に、大丸福岡天神店は19日に営業を再開した。ただ、どの百貨店も口々に「コロナ禍以前の客足の戻るにはまだまだ時間がかかる」と宣う。このコメントを聞いて、そんな後ろ向きの考えでどうするのかと思った。そんな矢先に杉本氏の記事を目にして、コロナ禍でも来店してくれたお客さんをいかに大事にするのか。現状ではそちらの方が重要であり、消毒などの措置を徹底した上で、懇切丁寧に接客対応していくしかないと思う。
バブル以前の接客術に帰れ
マイクロマネージメントと言えば小難しく聞こえるが、販売スタッフは顧客が求めているものを効率よく試着室に持参する。そのためには、お客の好みや過去に買ったものを記録=顧客管理を徹底しておくこと。今はITの力を借りられるので、事前にネットで見つけて試着したい、実物を見たいと思った商品を予約してもらい、販売員はその記録を見てお客が要望する商品を試着室に持参する。売上げ回復には顧客との接点をいかに増やすかなのである。
もちろん、コロナ禍という条件で感染拡大を防がなければならないため、お客が色やサイズ、他の商品も試したくても、販売スタッフはお客との接触、お客と商品との接触を最低限に減らすなど、接客の効率性とスピードが求められる。また、消毒に関する店独自の自主マニュアルの設定など細かい対応が必要になる。今は平時ではないのだから、お客が安心して買い物できる環境をつくるには、日本でもそこまで踏み込まなければならないのだ。それが経済活動と感染拡大の防止を両立させることではないかと思う。
杉本さんの記事で気づいたことがもう一つある。それは記事から「消毒」などコロナ禍対策の文言を除けば、日本でもバブル景気以前まで行われていた「昭和の接客スタイル」そのものだ。筆者がアパレルにいた頃には取引先の有力専門店を何度も見学したが、記事に書かれている内容は、マネージャーを中心にスタッフの間でごく普通に行われていた接客風景と品揃えだ。 消毒の文言を省いてものを以下に列記する。
「試着したい、実物を見たいと思った商品を予約しておき、販売員はその記録を見てお客が要望する商品を試着室に持参する」→専門店の定番接客スタイル1
「販売員がパーソナルスタイリストのようになり、顧客が求めているものを効率よく試着室に持参しなければならない」→専門店の定番接客スタイル2
「あの店なら安心。あの店なら私の好みをわかってくれている。あの店なら欲しいものがたいてい見つかる」 →顧客管理が生む信頼とバイイング
別にコロナ禍だから特別なのではない。むしろ、コロナ禍において突きつけられた命題、社会経済活動の再開と感染拡大の抑止の両立は、ファッション業界がすっかり忘れてしまった接客サービスの原点回帰を想起させる。小売りの雄、百貨店がそれに気づき、取り戻さなければ、潰れていくしかないだろう。
ドレクスラー氏はJクルーをマネーゲームに巻き込み破綻させた加害者とも言えるが、小売業に対する一家言は鋭くて秀逸だ。百貨店についてはウェビナーで「もう必要ない」と吐き捨てている。今はアマゾンが百貨店に代わって幅広い品揃えを提供しているからだ。ならば、お客に行く必要があると感じさせればいい。それは顧客管理、懇切丁寧な接客サービスによると顧客が納得できる品揃えで、顧客との接点を増やしていくしかない。コロナ禍はそれを改めて示すチャンスだと思う。
第二、第三の波も予測される。そこで気になるのが「社会経済活動の再開」と「感染拡大の防止」をどう両立させるかだ。諮問委員会の尾身会長は、5月20日の参議院予算委員会の参考人質疑で、「フィジカル・ディスタンス(身体的距離の確保)で、三密を回避する」ことが両立の条件だと説明した。営業再開した店舗では概ね、すでにそうした対策は取られているようだが、両立の条件を徹底しなければ、冬を待たずに第二波、第三波の感染拡大、クラスターが発生することもあり得ると付け加えた。
幸いにも日本は米国や欧米、中国に比べ、感染者も死亡者も少ない。それは検査体制が不整備だからとの意見もあるが、日本で感染が始まってすでに2カ月が経過し、ほとんどの日本人が感染症の初期症状について学習し、また同調圧力もあってか手洗いやうがい、三密の回避などの感染防止策を励行してきたと思う。それが感染者の減少につながった部分もあるだろう。
営業を再開した店舗でも入店時の検温や手の消毒、マスク着用の義務づけ、接触を避けるの座席の配置など、一応は感染拡大の防止策は講じられているように見える。だが、問題はそれらが公衆衛生学上で再び感染を拡大させないために妥当なのか。あるいはもっと厳格なマニュアルのもとで数値化(米国のCDC/疾病対策予防センターではAvoid close contact/密接・接触の回避距離は6feet/about 2arm’s length/約180cmと規定)を徹底し、実施されるべきなのか。尾身会長の答弁では、程度問題がよくわからない。
感染防止対策がアリバイ作りと化す
そうした曖昧さを指摘するようなリポート「いち早く営業再開し攻める高島屋は百貨店の今後を占う試金石【緊急リポート 百貨店の断末魔】」が5月20日、ネットにアップされた。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200520-00000026-nkgendai-bus_all)配信元が何でもケチを付ける日刊ゲンダイで、リポート先が百貨店の髙島屋、リポーターが三越伊勢丹の社員だからかもしれないが、以下の部分は確かに的を射て、なるほどと感心させられた。
「(コロナ対策として入口でサーモグラフィーによる来客の体温検査を)実施しているのが本館、南館それぞれの正面入口だけなんです。他の入口には係の職員もいないし、何の検査も受けずにフリーパスで入れる。いわばアリバイ的に検査をやっているふりをしているとしか思えず、これでクラスターとか起こったら大変な問題になりますよ」
確かにテレビ報道では、店舗入口での検温や手の消毒を行う映像を数多く目にする。それだけを見れば、感染防止対策が取られている印象だ。あれだけ三密が批判される中で営業を続けたパチンコ店も、同じような対策を取っていると反論し、店舗によってはメディアに取材までさせている。しかし、公衆衛生学上、あの程度の対策で本当に有効なのか。疑えばきりがないのだが、そう感じているのは筆者だけではないだろう。三越伊勢丹の社員の指摘を見ると、尚更アリバイ工作のようにも思えてならない。
公衆衛生学からすれば、対策はマニュアルが徹底されて初めて効果を発揮するはずだ。リポートで指摘されるまでもなく、メディア対策でしかない緩慢な防止策ならやはり感染拡大を懸念せざるをえない。ただ、現状ではその程度でも感染が拡大せず、クラスターも発生していないのだから「結果オーライ」で、対策が奏効すればそれでいいと考えることもできる。
米政府が4月16日に公表した経済活動の再開に向けたガイドラインでは、各地の感染収束の度合いに応じ、州知事が外出禁止や休校などの制限の緩和・解除を3段階で進めるとした。第1段階では企業に在宅勤務を引き続き推奨しつつ、可能なら段階的な出勤を進める。レストランや映画館、スポーツジムの営業再開も認める。第2段階では学校の授業や校外活動を再開し、不要不急の移動も可能に。第3段階では高齢者施設や病院を訪問できるという。
どの段階でも職場などで他人と一定の距離を保つ社会的距離を実行するほか、マスク着用などの感染予防措置を講じ、検温や消毒を怠らないよう求めている。米国でも感染拡大のペースは鈍化傾向にあるものの、全面的な営業再開にはまだまだ時間がかかると見られる。日本とはケタ違いに感染者も死亡者も多いのだから、それはしょうがないことだ。ただ、感染者が最も多い米国と言えど、経済活動の再開と感染拡大の抑止を両立させる対策は、日本と大差はない。現状では感染防止の特効薬などないのだから、できることをするしかないのだ。
コロナ禍での来店客を大事に
米国の売場レベルでの取り組みについては先日、興味深い記事が繊研新聞に掲載された。ニューヨーク通信員の杉本佳子さんが寄稿した「ミッキー・ドレクスラー氏のウェビナー(オンライン上で実施されるセミナー)に学ぶ」である。(https://senken.co.jp/posts/y-sugimoto91)GAPなどでCEOを歴任したドレクスラー氏は「マイクロマネージメント」を自認するが、杉本さんはそこからコロナ禍における接客サービス、販売スタイルのヒントを見いだしている。内容は以下になる。
「例えば店に着いたらお客はタブレットでチェックインする。あらかじめ、ネットで見つけて試着したい、実物を見たいと思った商品を予約しておき、販売員はその記録を見てお客が要望する商品(消毒済み)を消毒済みの試着室に持参する。お客が他の色やサイズ、異なる商品を試したければもちろんその場で要望できるが、お客と販売員の接触、お客と商品の接触を最低限に減らす必要はある。消毒も含めて細かい対応が必要になってくるが、お客が安心して買い物できる環境をつくるためにはやむを得ない」
「これが、オンライン販売していない個店だったら、尚更細かい対応が必要になるだろう。販売員がパーソナルスタイリストのようになり、顧客が求めているものを効率よく試着室に持参しなければならない。そのためには、お客の好みや過去に買ったものを熟知していることが必要だ。まさに、『マイクロマネージメント』が求められる」
「もしそれを実現できたら、お客のその店に対する信頼は絶大になるだろう。いつどこで感染するかわからない状況において、買い物のためにあちこちの店に出入りすることは避けたいに違いない。『あの店なら安心。あの店なら私の好みをわかってくれている。あの店なら欲しいものがたいてい見つかる』と思ってもらえたら、客数は減っても客単価は上がるだろう」
福岡でも緊急事態宣言が5月14日解除されたことで、岩田屋本店、福岡三越は16日に、大丸福岡天神店は19日に営業を再開した。ただ、どの百貨店も口々に「コロナ禍以前の客足の戻るにはまだまだ時間がかかる」と宣う。このコメントを聞いて、そんな後ろ向きの考えでどうするのかと思った。そんな矢先に杉本氏の記事を目にして、コロナ禍でも来店してくれたお客さんをいかに大事にするのか。現状ではそちらの方が重要であり、消毒などの措置を徹底した上で、懇切丁寧に接客対応していくしかないと思う。
バブル以前の接客術に帰れ
マイクロマネージメントと言えば小難しく聞こえるが、販売スタッフは顧客が求めているものを効率よく試着室に持参する。そのためには、お客の好みや過去に買ったものを記録=顧客管理を徹底しておくこと。今はITの力を借りられるので、事前にネットで見つけて試着したい、実物を見たいと思った商品を予約してもらい、販売員はその記録を見てお客が要望する商品を試着室に持参する。売上げ回復には顧客との接点をいかに増やすかなのである。
もちろん、コロナ禍という条件で感染拡大を防がなければならないため、お客が色やサイズ、他の商品も試したくても、販売スタッフはお客との接触、お客と商品との接触を最低限に減らすなど、接客の効率性とスピードが求められる。また、消毒に関する店独自の自主マニュアルの設定など細かい対応が必要になる。今は平時ではないのだから、お客が安心して買い物できる環境をつくるには、日本でもそこまで踏み込まなければならないのだ。それが経済活動と感染拡大の防止を両立させることではないかと思う。
杉本さんの記事で気づいたことがもう一つある。それは記事から「消毒」などコロナ禍対策の文言を除けば、日本でもバブル景気以前まで行われていた「昭和の接客スタイル」そのものだ。筆者がアパレルにいた頃には取引先の有力専門店を何度も見学したが、記事に書かれている内容は、マネージャーを中心にスタッフの間でごく普通に行われていた接客風景と品揃えだ。 消毒の文言を省いてものを以下に列記する。
「試着したい、実物を見たいと思った商品を予約しておき、販売員はその記録を見てお客が要望する商品を試着室に持参する」→専門店の定番接客スタイル1
「販売員がパーソナルスタイリストのようになり、顧客が求めているものを効率よく試着室に持参しなければならない」→専門店の定番接客スタイル2
「あの店なら安心。あの店なら私の好みをわかってくれている。あの店なら欲しいものがたいてい見つかる」 →顧客管理が生む信頼とバイイング
別にコロナ禍だから特別なのではない。むしろ、コロナ禍において突きつけられた命題、社会経済活動の再開と感染拡大の抑止の両立は、ファッション業界がすっかり忘れてしまった接客サービスの原点回帰を想起させる。小売りの雄、百貨店がそれに気づき、取り戻さなければ、潰れていくしかないだろう。
ドレクスラー氏はJクルーをマネーゲームに巻き込み破綻させた加害者とも言えるが、小売業に対する一家言は鋭くて秀逸だ。百貨店についてはウェビナーで「もう必要ない」と吐き捨てている。今はアマゾンが百貨店に代わって幅広い品揃えを提供しているからだ。ならば、お客に行く必要があると感じさせればいい。それは顧客管理、懇切丁寧な接客サービスによると顧客が納得できる品揃えで、顧客との接点を増やしていくしかない。コロナ禍はそれを改めて示すチャンスだと思う。