HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

洋服もアートのうちと考えれば。

2015-09-30 08:28:10 | Weblog
 9月の19日から21日まで、東京青山にある京都造形芸術大学・東北芸術工科大学の外苑キャンパスで、「THE TOKYO ART BOOK FAIR 2015」が開催された。

 東京出張3日目にあたり、午後からは予定が入っていないことで、銀座線の外苑前駅から、青山通り、銀杏並木を歩いて出かけてみた。

 途中、14年ぶりの優勝を願うヤクルトファンがチケット確保で舗道にマーキングする姿に出くわすも、日頃見ているSBホークスの行列に比べるとカワイイもの。

 それよりアジア最大級との冠が付き、学生、プロのアーチスト、出版社、印刷会社など300組が参加する催事の方にエキサイトしてしまった。

 いつもの東京出張では必ず時間を作って六本木のミッドタウンを訪れ、ギャラリーや美術館巡りをするのだが、今回はあえてブックフェアを選択し正解だった。

 というのは、現在、アートの世界も急激にデジタル化の波が押し寄せている。だが、まだまだ紙のアートも捨てたもんじゃない。デジタル技術を巧く活用して、進化した媒体が生まれていることを体感できたからである。

 現在、PCとソフトさえあれば、絵の具も粘土もブロンズも必要なく、キャンバスも筆も彫刻刀も針も不要で、グラフックはもとより三次元までの作品を創ることができる。3Dプリンターを使えば、リアルなcreatureまで表現できるようになった。

 仕事でも、クライアントにはタブレット端末のデジタル画像で十分だとの考えたが浸透したせいか、 カタログやパンフレットの制作はめっきり減っている。替わって増えてきたのがWebサイトの制作やディレクション、ベースとなる原稿づくりだ。

 商用のツールはそれでもしかたないだろう。一方で、それ自身が作品であり、商品であることを考えると、紙に表現するアートも決して無くなりはしないと思う。

 その意味で今回のイベントでは、学生はもちろん、アーチスト、出版社や印刷会社がそうした紙の作品や商品に踏み込み、思い思いの発想を打ち出していた。

 単なるビジュアル面での創作ではなく、折り、丁合や装丁でもアイデアをくり出し、あるいは特殊紙、特殊インクに駆使して、個性的で完成度の高いアートブックを作り出していたのである。

 また最終的な作品、商品だけでなく、素資材となる紙や特殊なプリント手法を扱う企業も出展しており、試作品や束見本についてもこちらはこちらで興味をそそられた。

 ファッションもそうだが、筆者はどうしてもまず素材の質感に目が行ってしまう。だから、撚りに個性がない糸、単なるプリント地や織り地に変化がない生地、リブ編みのようなフラットなニットは、感覚的に受け付けない。

 紙媒体も活版をはじめとする小ロットに対応した軽印刷機で、多少刷りムラがあるような味わい深いプリントを好んで来た。使用する紙も、製紙メーカーの竹尾がくれた見本でキロ数の高い特殊紙を選ぶ方が多かった。

 アパレルメーカーの雑誌広告を制作するときも、わざわざ特殊紙をスキャナーに読み込んで、それにコピーや写真をレイアウトしたこともある。

 印刷会社を中心にどうしてもオフ輪機のよる大量印刷でなければ、数字が伸びないというビジネス優先の考えは、わからないでもない。

 しかし、それがデジタルにとって替わった今、印刷が残る道は「いかにリアルな紙やインクの質感を打ち出して」市場を開拓するかにかかっていると思う。個人的にはその大本命がアートブックではないかと考える。






 偶然に会場で知ったことだが、今回ブックフェアには昨年11月に日本に上陸したCOSジャパンがスポンサーについていた。

 出展者の各ブースに置いてある紙見本やパンフレットと併せてCOSの2015年秋冬のメッセージを伝えるビジュアルブック「COS magazine」を入れてもって帰ってもらうことを想定したのか、COSオリジナルのエコバッグも無料配布されていた。

 袋の全面には「COS×TOKYO ART BOOK FAIR」と、印刷されている。

 COSはH&Mグループのアッパーラインで、ハイエンドなデザインと高品質さを併せ持つブランド。片やファストファッションのH&Mは、安さを売りにする中で生産背景にある劣悪な労働環境、1シーズンで着崩す反エコロジーが課題として露呈している。

 グループはこうした二律背反のビジネス手法を取りながら、それぞれのブランドを販売しているわけだ。だから、アッパーブランドでは、業界におけるネガティブなイメージを少しでも払拭しようという狙いがあるのではなのか。

 そこでCOS magazineでは、SpecimensやGlacial、Terrainなど地球環境を意識したテーマが誌面を飾り、ブランドコンセプトへの理解を促している。

 ビジュアルも大半はテーマにそったイメージ写真。シーズン商品の紹介はほんの数ページを割く程度で、カタログ的なプロモーションは一切ない。こうした抽象的な方向性は、まさにアートブックと呼ぶにふさわしいだろう。

 かつてブランドをアピールするには、キャリーバッグに始まり、POP、ポスト&ビジネスカード、雑誌広告、イメージビデオが定番だった。バックにある資本力や販促予算に応じて、それぞれのブランドがどの程度で済ませるかを選択していたのだ。

 ところが、日本ではDCブランドの凋落とともに、こうした販促手法はすっかり影を潜めてしまった。今では勢いのあるブランドほど、デジタルツールを活用し、ダイレクトに売りにつなげるビジュアル表現に資源を集中している。

 しかし、結果的には、最近ではどこも似たり寄ったりのWebサイトばかりで、検索エンジンのトップにかかるコンサルティングばかりに注目が集まるようになった。

 一方、海外のラグジュアリーブランドは、やはりロイヤルティの維持を重視するためか、お客とのコミュニケーションを意識して、紙媒体もおろそかにはしない。

 また、内容も販促だけを考えるものではないようだ。例えば、シャネルはグラフィックデザイナーのイルマ・ボームを起用し、エンボス紙のみで図版を表現したデザイン本を発表している。

 エンボス紙とはグラフィックデザインの世界ではごく有名で、表面に梨地やクロコ地、ジャガード地などの凹凸がある紙。筆者は昔、小物撮影のバックに使ったり、アパレルメーカーの決算報告書の表紙に使用したりした。

 和モダンを強調することもできるので、アパレルが飲食業に進出したときには、商品パッケージやDMのペラに使うのはデザイン上でも定石だった。

 シャネルがそんなアートブックを出版したのは、味わい深い質感がシャネルの上質なものづくりともシンクロすることからだろう。

 このような紙を全面に使ってアートブックを制作すれば、ずっしりと重く上質で高級感もある書籍ができ上がる。それは商品というより、オブジェに近い感覚ではないだろうか。

 ラグジュアリーブランドとして、そこがまさにロイヤルティを保つための秘訣の一つでもあるのだ。

 ブランドのグレードによっても、紙媒体の使い方は様々だ。COSがアートブックフェアにスポンサードしたのは、イメージ訴求にラグジュアリーまでの気高さは必要ないが、Webのような無機質まで落としたくないという思いがあったのだと思う。

 ネットがすっかり生活に浸透し、ファッション情報を発信するツールがWebであることを否定するつもりはない。

 ただ、それらが取り逃がしている市場もあるわけで、そうしたマーケティングには別のツールでアプローチするという発想も必要だ。Webを捨てたところに販促ツールのヒントがあるかもしれないということである。

 服は五感の中でも視覚、聴覚、触覚で捉えられてきた。たまに新品のウールや麻の匂いが好きという嗅覚マニアもいるが、Webはこのうち視覚と聴覚へのアプローチを可能にした。今ではスマートフォンに映る写真も、売場で見るリアルな商品と遜色ない。

 しかし、いくら解像度がアップし、ディスプレイが高機能になっても、触覚だけは現物の商品を触ったり着たりしないと味わえない。これがファッションがアナログである最後の砦だと思う。

 紙も同じである。ビジュアルだけならWebで十分だが、質感は触ってみないとわからないし、触るに人間の体質で感覚は変わってくる。乾燥肌と脂手で受ける印象は違うからだ。

 特殊なインクを使ってプリントすれば、立体的な表現も可能になる。これは視覚にハンディをもつ人たちの感覚にアプローチできる。服も紙も触った人間だけが感じられる触感に訴えるcreatureでもあるのだ。

 ネットデジタル社会では気づかないような些細な部分がファッションにとっては、重要なことなのではないか。

 COS×TOKYO ART BOOK FAIRは、「紙×服」という新たなマーケティングアプローチやコミュニケーション手段を暗示したような気がする。

 布好き、紙好きの一方的な物言いだが、わかる人にはわかると思う。
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東京もNY化してきたのか。

2015-09-23 10:30:38 | Weblog
 1年ぶりに東京に出張した。毎回、大半がメーカーとの打ち合わせや企画プレゼンにとられ、注目の施設や新業態を見て回る時間はそれほどない。

 何かビジネスのヒントを期待したわけでもないが、東京の各地で進む再開発事業の行方には興味をもった。そこで感じたことをまとめてみたい。

 東京都心部だけで官民含めて100件以上の再開発プロジェクトが完成、または進行している。ファッションが関係するものでは、松阪屋銀座店跡地をメーンとした銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業、いわゆる銀座6丁目プロジェクトだ。

 渋谷でもヒカリエの誕生で一段落したように見えるが、渋谷駅をぐるっと囲むように東急プラザと道玄坂、駅南、桜丘口の再開発事業は今もなお継続中だ。

 先頃、宮下公園も商業施設になることが発表されたし、渋谷川沿い遊歩道の整備計画もあり、またまだ開発の槌音は収まりそうもない。

 東京駅周辺でも東京ステーションシティ、八重洲口広場、キッテ東京と続き、2017年春頃には丸の内口広場も完成予定だ。そのキッテは来春には博多駅前にも誕生する。

 郊外では吉祥寺でJR、京王といった鉄道会社による駅ビル再開発が進み、人の往来増を見越してドンキホーテやフランフラン、ユニクロなどの大型店が次々と進出した。

 これらの再開発事業で共通項と言えるのが超高層から高層のビル建設が積極化していることだ。2020年には東京オリンピックが開催されるので、規制緩和によるビル建設の容積率が割り増しされたことが最大の理由だろう。

 不動産事業者としても、東京という地価が高い土地に投資をするわけだから、投資資金を早期に回収するには、ビルを多層にしてより多くの収益を上げようとする。

 加えて土地の面積は限られているので、高層化すればそれだけ収容力を最大化できるわけだ。結果としてビルの構造は高層部にオフィス、中層部にホテル、低層部に商業施設を誘致する形にパターン化されていく。

 また鉄道路線の新設、都市高の延伸といった交通インフラの整備は、巨大資本のもとに加速化しており、人の移動をスムーズにさせることで、拠点となる駅やランドマークは必然的に開発されることになる。

 特に民間による再開発事業はバブル崩壊後、地価が下がった時に購入し、再び地価上昇を目論んでビルを開発して転売することで差益を稼いだり、開発したビルにオフィスやテナントなどをリーシングして、利回りを高める思惑で進んでいく。

 ところが、ことは簡単にはそういくとは思えない。過去にはオフィス賃料やテナントの歩率家賃などの収入が計画通りにいかず、巨額の特別損失を計上した不動産デベロッパーもあるくらいだ。

 本当にオフィスやテナントをリーシングするには、どんな「器」が求められるのか。そこまで考えてプロジェクトは進められているのか。どうしても膨大な建設企画案や事業計画書はあるが、収益を生むための抜本的なソフトが見えて来ない。

 再開発施設にはどんなコンテンツ、いわゆる企業やテナントが必要になのか。出店してペイするようなブランドやショップ、業態がどれほどあるか。つまり、開発事業者と入居企業が一体となって考えようとしているのかということである。

 こうした再開発ビルにテナント出店する場合、出店時に要した初期投資の回収はもちろん、店舗維持のためのランニングコストを捻出するには、相当の売上げがないと成り立たない。

 一例をあげれば、東京駅八重洲地下街にあるユニクロも、イオンモール鹿児島にあるユニクロも、置いているシャツの値段は一緒である。

 となると、出店する側が高級ブランド店となって、「商品の単価を上げるか」である。また、デベロッパー側が高級ブランドをリーシングしなければ、商品単価は上がらない。

 だが、高級ブランドになると、その背景にあるもの作りや技、イメージやロイヤルティを確立するには時間とコストが必要で、簡単に創り上げられるものではない。

 高級ブランドを導入するにしても、ブランド側はロイヤルティを守るために出店立地を選ぶ。銀座といっても路面だろうし、渋谷駅周辺のビルインは厳しいし、道玄坂は飛び地になる。つまり、高級ブランドの出店もそう簡単ではない。

 客単価を上げるには、こちらも高級ブランドを置けばいいのだが、今度は購入客の収入に左右されてしまう。確かに東京の可処分所得は高いが、若者を除けばファッションに投資する額は年々低下している。まして、高級品を購入する層は限られてくる。

 購買客数を増やすのは、東京のような人口集積があれば、やり方次第では可能だろう。しかし、現状を見る限りユニクロに続くような購買客数を増やせる業態は登場していない。それほどキラーコンテンツとなるファッションテナントが不足しているのである。

 東京でもチェーン店を中心にドミナント展開が多く、新業態も似たり寄ったりで同質化競合も顕著になっている。

 ファッションはもとより、最近では雑貨店でもその傾向は顕著に見られる。出張中、銀座にリニューアルオープンした「イグジットメルサ」のテナントなんかがまさにそうだ。

 大手セレクトショップでは、商業施設が開業するたびにスピンオフの業態を出店させているが、それによりメーン業態が食われてしまうカニバリゼーションが起きているのではと思えるくらいである。

 つまり、再開発プロジェクトは、ハード的には国土強靭化計画の一助になり、人の往来が増えるなど交通インフラ事業者とっては、光明かもしれない。

 しかし、物を売る商業、特にファッション業界では、ハード数に見合うソフトが開発が追いついておらず、お客の側からすれば施設開業のたびに「大して変わり映えしない」の印象ではないだろうか。

 結局、ファッションが期待はずれであれば、次に不可欠なものは「飲食」である。着るものは毎シーズン新しいアイテムを買わなくても済むが、食べたり飲んだりすることを止めるのはできないからだ。

 デベロッパー側も器を埋めるためには、そちらに舵を切らざるを得ず、カフェやレストラン、テイクアウトなどで新業態を次々と導入している。場所柄も関係するが、虎ノ門ヒルズの開発くらいから潮目が変わったような気がする。

 飲食事業者はFC化や多店舗化を狙って新業態の開発には余念がないようだし、商社もコンテンツ開発を狙い海外業態のリサーチや国内事業化には積極的だ。

 飲ではエスプレッソの次に何が来るのか。個人的には海外由来の日本茶カフェも狙い目だとは思うが、どの業態にしてもどこまでFC化、多店舗化できるかがカギになるだろう。

 食ではフレンチトーストやパンケーキに次ぐブームを起こせるか模索中というところだろうか。

 こう考えると、東京の再開発事業でどこまでファッション業界が活性化されるかは、全く未知数と言わざるを得ない。

 業界、事業者側も現状のコンテンツや業態はすでに出尽くしているため、集客を図るにはいろんなイベントを絡めて何とか活性化の糸口を探ろうとしている。だが、新たなムーブメントの創出までには、まだまだ時間がかかりそうである。

 単純に東京を見ると、随所に江戸文化が残り、交通網の充実と高層ビル群、そして新たなカルチャー発信と、世界に誇れるメトロポリタンと言える。筆者が仕事をしていたニューヨークと遜色ないというか、段々似てきた感じがする。

 しかし、再開発事業で建設される高層ビルがニューヨークのそれと根本的に違うのは、都民や観光客を恒常的に惹き付ける「魔力」を持つようなビルがないことである。

 ニューヨークではワールドトレードセンターが無くなったとはいえ、Empire State Buildingが依然としてトップの座に君臨している。

 建築から80年を経過し老朽化に域に達しても、世界中の人々を惹き付けてやまないのは、それがSkyscraperであるからだ。ニューヨークでは「文明が辿り着く極地」とさえ言われ続けていることも大きな理由である。

 渋谷区と港区を足したくらいしかない狭いマンハッタンで、「より高いビルを建てる」というモットーは、国土が広い米国にあっていかにもニューヨークらしい。本音は東京と同じなのだろうが、それを見せないところがヤンキー流のプライドなのだと思う。

 ただ、ニューヨークにしても、高層ビルが象徴する大量生産、大量消費は正しいことなのか。Skyscraperは米国の傲慢さの表れではないのかという意見もある。それをそのまま東京に置き換えられないでもない。だから、開発の先の展望が不可欠なのだ。

 ニューヨークでは低地からも様々なカルチャーが発信され、それも世界中の人々を惹き付けてやまない。その一つにタウンやストリートを中心にしたファッションも、位置づけられているということである。

 東京がニューヨークを模倣することはなく、どこまでより東京らしく再開発されていくのか。その一翼を担うカルチャーがこれからどう醸成されていくか。

 ニューヨークで人気のドーナツ店を原宿に持って来るだけでは、活性化にはならないだろうし、カルチャーの醸成でもないだろう。

 だからこそ、ファッションが東京カルチャーの一つとなることができれば、業界としてもまだまだ望みはあると思う。
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MA-1はレプリカか、アレンジか。

2015-09-16 07:09:56 | Weblog
 ミリタリーテイストはトレンドになるかどうかは別にして、毎シーズンいろんなブランドが発表する。この秋、セレクトショップの店頭でチラホラ見かけるのが、「MA-1」だ。

 第2次大戦後、戦闘機がジェットタイプになって高空域を飛ぶようになるとコックピットは密閉され、パイロットには風よけより冷気を遮断する必要性が生じた。そこで開発されたのが特殊ナイロン素材を用いたMA-1のフライトジャケットである。

 デザインはフロントジップで襟と袖がリブになり、左袖にペンや煙草が入れられるようにまちポケットが付いている。

 リバーシブル仕様で、表地はセージグリーンまたはブラック。裏地はオレンジ。保温材としてポリエステルの中綿が入る。シンプルかつ機能的で、ミリタリーウエアとしてはベーシック中のベーシックと言える。

 我々の世代では、アメ横の中田商店で売られていたサープラスまがいの「レプリカ」が有名だ。また1986年制作の映画「トップガン」がヒットした直後には、ちまたではなぜかアルファインダストリーズ社製のMA-1を着ている人々を数多く見かけた。
 
 主演がトム・クルーズだったので人気アイテムになったのかとビデオを借りて確かめたが、トム・クルーズがMA-1を着ているシーンはなかったように記憶している。

 きっと、映画にあやかって雑誌がフライトジャケットの特集したことで火がついたのではないだろうか。その辺は定かではないが。

 筆者が再びMA-1に出会ったのは、それから何年か後。仕事でイタリアのミラノに出張した時、街中でMA-1タイプのブルゾンを着ている人と何人もすれ違った。

 こちらはナイロンではなく、シリコンラバーのような素材が用いられていた。デザインはディテールこそ一緒だが、肩から袖のラインがスッキリしたシャープなフォルム。漆黒のマット地が石造りの聖堂群に映えて、こちらの方が筆者の好みだった。

 帰国後、某専門店チェーンのバイヤーと話す機会がありその話をすると、たまたま同時期にミラノ出張していた別のバイヤーも同じ光景を見かけていたという。

 出張したバイヤー曰く、「コレクションでデザイナーが発表したアイテム。ミラノの人たちが着ているのはそのコピーではないか」とのこと。併せて、日本でも当たるかもしれないので、仕掛けられないかと検討中」とのことだった。

 その後、この専門店の店頭に商品化された「ミラノMA-1」が並んだのかどうかは、確かめていないのでわからない。

 米国タイプの大ヒットから30年、ミラノスタイルから20数年。この秋、セレクトショップの店頭には、米国タイプの焼き直しから、表地がカモフラージュ柄やポリエステル強撚糸のものまでラインナップされている。

 レディスでは共地のコートやスカートも登場。一部のブランドではカットソーなどの異素材もあるが、大半は素材にポリエステルを使った米国タイプのテイストだ。

 セレクトショップと言っても、大手はトレンドを仕掛けようとする時、大概オリジナルで生産する。今回のMA-1もそのようで、ここまで来ると完全にOEM業者への丸投げか、定番踏襲の安易な企画に思えてならない。素材使いが何よりの証拠だ。

 オリジナルやレプリカがあくまでナイロン100%にこだわるのに対し、セレクトショップは「ポリエステル」がほとんどだからである。

 某グローバルSPAも、固有名詞こそ使っていないが、ボンバージャケットという名称で同系のデザインを販売している。こちらも素材はポリエステル100%になっている。

 ボンバーとは爆撃手という意味。第2次大戦までは爆撃機の爆弾投下口からはもろに風が入ってくるので、ボンバーはムートンの襟が付いた防寒用のレザージャケットを差した。

 だから、ボンバーと聞くと、どうしてもレザー&ムートンが思い浮かぶ。デザイナーブランドの中には、ムートンはそのままで身頃だけ厚手のコットンギャバに替えたものもあったほどだ。

 最近は爆撃機もハイテクになり、爆弾投下室も密閉された二重構造で、ジャケットもナイロン素材で十分なのだろうか。

 それとも、レギュレーションからMA-1と表記する以上、素材はナイロン限定、仕様もミリタリー規格に合わせないとならないのか。

 どちらにしても、ファッションアイテムとしてのMA-1は、メンズならアメカジの延長線という感じで、インナーやボトムをいろいろ替えれば、今年風の着こなしは十分に楽しめると思う。

 問題はレディスである。MA-1は狭いコックピットの中でも動きやすいのと、空気の層を作って保温効果を高めるため、ふわっとした丸みがかったフォルムが特徴だ。

 ショップに展開されている商品を見ると、米国タイプをサイズダウンしたようなもの。カラーも同系のセージグリーンやネイビーで、着丈は中途半端に長い。

 それをギャザースカート、つば広帽なんかを合わせたコーディネートを提案しているが、はたしてこの冬にこんな格好の女の子たちが街中を闊歩するのだろうか。

 外し崩しのテクニックと言ってしまえばそれまでだが、いくら太めのアイテムが復活しそうと言っても、上下が同じラインでは明らかにバランスはおかしい。それとも、みんなが似通った格好なら、気にならないのか。



 素材に光沢があるので、嫌が上でもアイテムは目立ってしまう。それにインナーやボトム、小物をどう組み合わせるのか。セオリー通りの着こなしなら、ボトムはスキニーなど細身のパンツの方がスッキリ見えるのだが。

 個人的には企画の段階からなぜこだわらなかったのかと思う。同じポリエステルを使うなら、MLBジャンパーの逆で、表地全体をバイヤスのキルティングにしてみるとか。工夫はあっただろう。

 素材を替えるなら、それこそシリコンラバーでスタイリッシュにまとめたり、逆にミックスツイードを使って高級感を出したりとか。

 あるいはポリエステル素材を使うにしても、思いきってブラックのショート丈にしてみるとか。米国タイプのままの企画では、少しイージーではなかったか。もっとファッション性を追求しても良かったのではないか。

 現状では売場の編集を含め、着こなし提案がアイテムがヒットするか、しないかのカギを握る。しかし、組み合わせるアイテムがそれほどあるとは思えないので、結果がどうなるのかに注目している。

 一方、メンズはブランド毎に「アレンジ」が加えられ、何とか今年風の匂いを出そうとの腐心が見える。他のアイテムと組み合わせ、いろんな着こなし提案がなされれば、そこそこヒットするのではないだろうか。

 おそらくサープラスのレアものを含め、アルファ社やアビレックス社が製造するレプリカにこだわるのは、ハイエージのアメカジファンか、ミリタリー心酔者などごく一部だ。

 大手セレクトショップの商品部サイドでも、「多くの若者はそこまでブランドにこだわらないだろう」との共通認識だったではないか。でなければ、これだけ多くのショップが同時にMA-1を打ち出すはずがない。

 言い換えれば、大手セレクトショップのSPA化がますます先鋭化した。またはAMS化によるODM調達が際立った結果だとも言えるだろう。

 これまでユニクロが冬にはフリース、ダウンジャケットとヒットさせてきたので、大手セレクトショップとしてもマーケット連合を組んでトレンドアイテムを仕掛けようという狙いなのか。

 政治の世界では、安保法案が与党の合意で今週中にも成立しそうである。それに対して、戦争法案?廃案に向けた市民&学生グループの示威行動が賑やかだ。

 ミリタリーウエアであるMA-1=戦争賛美なんてさらさらないと思うが、法案可決後に活動主体の若者が着ている姿をさらせばどうなるだろう。

 逆にネトウヨから「言うことと着るもののパラドクス」「低偏差値ゆえのセンスレス」などと揶揄される書き込みがないとも限らない。

 まあ、X-girlのモチーフとなったキム・ゴードンが所属したバンド、ソニックユース。そのCDデザインをパクったTシャツを着ながら、自らの正当性を訴えるのだから、なおさらである。

 メンズでは他にトレンドになりそうなアイテムが見当たらないし、セレクト各社が仕掛けているということは、「コツン」くらいのヒットにはなるだろう。

 それに触発されてアルファやアビレックスのレプリカにもスポットが当たれば、MA-130年周期説と言えなくもない。

 トップガンの頃と同じような光景が街中に甦るかどうかはわからない。でも、冬場のクリーンヒットとなれば、メンズのセレクトではショールカラーのベルテッドコート以来かもしれない。
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太めが復活しそうな予感。

2015-09-09 10:32:10 | Weblog
 秋物がすっかり出揃った。ショップによっては、ここ10年ほど続いたタイトの反動からか、太めのシルエット=ボックス、ルーズが復活しそうな予感がある。

 ガウチョパンツが売れたからでもないだろうが、ボトムでスリム&スキニーが何年も続くと、いい加減売る側も飽きてきたということだ。

 前シーズンくらいからコクーンコートなども登場。アウターのシルエットが変わってきたことを考えると、スリム一辺倒でなくなったのは確かだ。ただ、太めのシルエットは、お客に「太って見えそう」との心理が働くから、なかなか難しい。

 だから、いかにバランス良く取り入れて、着こなすか。当然、メーカー側も企画した「太め」を売るために、それをキーアイテムにしてMDを組み立てている。

 バイヤーもそれをわかってはいるのだが、いざ仕入れて売るとなると二の足を踏んでしまう。メーカーの営業も必死なのだが、トレンドを変えるとなると説得材料に乏しい。「思いきってガラッと変えてみません」では、バイヤーも疑心暗鬼になる。

 とすれば、やはりアイテムそのものを注目して、メーカー側の企画力やクリエーション、カッティング、ディテール処理、素材使い、そして肝心なシルエットから魅力を引き出すしかないわけだ。

 懇意にする国内外のメーカーの商品が出揃い、注目するブランドもボクシー&ルーズのアイテムを売り始めている。そこで、ラインやシルエットにスポットを当てながら、注目アイテムをピックアップしてみたい。




 まず、今年らしさでいけば、コクーンとまではいかないが、肩パットを取り除いてナチュラルなラインで、フェミニンさを打ち出したコートがある。冬はどうしてもダークカラー一辺倒になるので、生成りなんかで軽やかに着こなすのもいいだろう。

 肩パッドを外したことでストンとしたシルエットになり、細身には見えない。シェイプしたニットやパンツをインナーに組み合わせると、全体のバランスはよくなるはずだ。

 昨年の流れを汲んでいるのは、コクーンシルエットのコート。共地の紐をつけてウエストをマークしたり、まちのあるパッチポケットでディテールを遊んだり。10年ほど前にはラフ・シモンズがジル・サンダーで似たラインを発表していた。

 コクーンシルエットといっても、きちんと構築されたパターン。素材にはライトなウールを使用して、女性のボディをしっかり包んでくれるから、寒さにも十分に対応してくれる。機能美とでも言うのだろうか。空気の層ができるので、それだけ温かいのだ。




 コートが少しヘビーと感じるなら、ケープはどうだろう。電車やビルはほとんど暖房が効いている。屋外を歩くことがそれほど多くなければ、ライトなアイテムの方が重宝する。自宅にいてちょっとコンビニへ行く時でも、インナーを選ばない。

 着丈によってオフィシャルやタウンか、カジュアルかのオケージョンが変わる。こちらは太めというよりAライン。もともと女性らしいシルエットなので、着こなしさえ間違えなければいいのだ。

 ユニクロなんかがカラーバリエーションを出せば、ヒットしそうに思うがどうだろうか。

 レイヤーが逆になってしまったが、インナーにも太めが出始めた。トップではボクシーなシルエットに回帰させようというのがメーカーの狙いのようだ。




 立ち上がりにカットソー素材をそのまま使用したのではストレートラインに落ちてしまうので、エッジをボンディング処理し形を整えている。単なるおばさんシルエットにならないようにするには、分量の取り方が企画の明暗を分けるということだ。

 カッティングに工夫を凝らし、ヘムをスクエアにカットしたのもそうだ。フロントとバックの長さを変えて変化を付けている。ドレープやギャザーを入れるより、接ぎあわせでシルエットを作り出したところがお洒落だ。

 これなら、コンサバにならないから、シーズンアイテムとして打ち出しやすい。

 着丈で変化が付けられなければ、袖丈や加工でメリハリをつける。上質でストレッチが効いたコットン素材を2枚重ねにして袖にドレープを出したジャージートップ。幅をとったヘムのステッチやワイドな襟ぐりで変化をつけている。

 ボトムにもややワイドなパンツを合わせて、今風を前面に出せばずいぶんトレンドが変わったと受け取れる。ミニマルなデザインアイテムをいかに存在感あるように組み合わせるか。色も含めてトップ&ボトムのコンビネーションがカギになる。

 また、着こなしのポイントとしては、どちらもウエストマークやブラージングなんかの小細工はしないで、太めのシルエットを楽しみ、リラックス感を出してほしいというのがメーカーの意図のようだ。

 ボクシー&ルーズは分量が難しい。だから、メーカーとしては最初からパターンをきちとつくって、シルエットを完成化させている。ポリエステル素材でもこしがあるものをつかって、肩にはパットを入れれば形は整うという考えか。

 前合わせではなく、プルオーバーにして、比翼処理にしたところもミソ。モード感をどこまでうち出せるか。それがトップが変わったと思わせる重要なポイントなのである。




 ボトムもシガレットやストレート、さらにワイドへと移っている。レングスが短く、くるぶしを見せるのは今シーズンも継続中だが、ストレッチスキニーで下肢が強調されるより、リラックス感のあるボトムで颯爽と歩こうというアンチテージがうかがえる。

 ワイドパンツはどうしてもボトムにボリュームがでるため、背が低い、脚が短いなど体型コンプレックスがあると、手を出すのに二の足を踏んでしまう。だから、どこに面積をとるかが重要なポイントになるのだ。
 
 その意味ではむしろ効果的である。グレーや華紺などの軽めを選び、トップにはレングスは短め、ウエストはシェイプできるものを選べばなおさらいい。この辺のスタイリングがメーカーがいちばん力を入れた点でもある。

 掛布さんの名台詞ではないが、「小さくまとめ過ぎる」と身長の低さを強調する。だから、適度にゆとりのあるものが必須アイテムとなる。シューズも思いきってフラットものを履いた方が冬場にありがちの足下の重たさを解消できるだろう。




 そして、ガウチョパンツの引き金にもなったボリュームのあるスカート。まだまだミニ丈のトレンドは収束しそうにないから、スッキリ見せるスカートはどうだろうかというのがメーカーの考え。

 スカートのポイントは、ギャザーやタックでボリュームアップされた要素がカットされたところ。落ちのいい素材やボリュームの出にくい生地を用いているので、その辺は気にならない。

スカートの履きこなしは、ポーズではなく歩いたときの流れるようなラインに出る。ふくらはぎが隠れるようなレングスにすれば、脚の太さも気にならない。

 筆者がマンションアパレルにいた頃から、関東、関西、九州で受けるレングスは微妙に違う。ただ、太さを隠したい心理は共通するだろうから、その辺をどう見せていくかになると思う。

 また、スカートで存在感を出すと言えば、やはりプリーツである。ただ、広がればワイドになるから、元のラインは至ってストレートにして分量を抑えている。

 各メーカーとも何とか新しいトレンドに切り替えようと企画に熱が入っている。業界紙誌では、ガウチョパンツからワイドパンツという流れが定着するには、まだまだ時間がかかるとの見方が多数派だ。

 メーカーもMD全体の中で、ボクシー&ルーズを打ち出しているわけで、すべてのアイテムがそうではない。あとはバイヤーがどうセレクトして、ショップMDに反映させていくか。

 当然、売場スタッフのセールストーク、コーディネート術がポイントになるのは言うまでもない。個店にとってはアイテム切りで、全体のスタイリングをどうまとめあげるかに売上げのカギがあるかもしれない。

 となると、商品量が多いグルーバルSPAはともかく、セレクトSPAのトータルMDでは個性を打ち出すのは厳しいかもしれない。また、外しを怖がって今シーズンも無難な路線に終始するのでは面白くない。

 だからこそ、個店にとっては仕入れで、エッジの利いたアイテムを打ち出し、MDにメリハリを付けられれば、シーズンを一歩リードできる公算は高くなる。メーカーの企画をトレンド変化にどう移し替え、お客のお洒落心をくすぐるかにかかっている。決して遅くはないと思う。

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飽きと飢えの反動か。

2015-09-02 07:40:54 | Weblog
 ユニクロが苦戦し始めた。まだ二月連続の売上げ減少に過ぎないが、凋落の予兆かどうかを考えてみたい。

 同社は今年6月の国内既存店売上高が前年同期の11.7%減となった。2ケタ減少は20ヵ月ぶりで、消費増税にもビクともしなかったわけだから、メディアが色めき立たないわけがない。

 7月は同1.5%減と小幅に止まったが、2ヵ月連続マイナスは確か。短信レポートによると、「客単価は上がったものの、客数は減少していると」いう。

 7月と言えば、夏のセールがあり、売上げ増には期待がかかる。落ち込み幅が抑えられたのはセールのおかげもあるだろう。「客単価のアップ」は、セール待ちだったお客がレギュラーシーズンより多めに買ったとも考えられる。

 一方で、客数が減少したのは、セール離れや反ユニクロが起こっているのではないか。

 ファッション業界はSPAやAMSの浸透で、最初から安く作った服が数多く流通している。セールで本当に上質でラグジュアリーなブランドが50%、70%オフなら、お客も魅力を感じるはずだ。

 しかし、最初からチープなファッションに、セール価値を求めるのかと言えば、それほどでもないと思う。お客のマインドは確実に変化し始めている。その結果、必要でないものは買わないのだから、客数が伸びるわけがないのだ。

 ユニクロにしても然り。原材料費や人件費の高騰、円安などで、商品価格は上がっているが、消費者がユニクロに求める価値は、「価格が安い割に品質がいい」でしかない。

 はなから感度も、上質さも、ラグジュアリーさも持ち合わせていない無いユニクロにおいて、価値の一角である「安さ」がなくなれば、セールをしたくらいで消費者が魅力を感じるとは思えない。

 ユニクロ離れも進んでいると思う。ベーシックな商品にお客が「飽き」始めている。また素材も機能重視で、組織や織りは変わり映えしない。大量生産でコスト削減にならないものは開発しない。つまり、もの作りの姿勢は工業的、量販的発想でしかないのだ。

 例えば、Tシャツのメリヤス地に6oz以上の厚手は用いないし、裏毛のカットソーも打ち込みは弱い。夏場だからと綿麻で生地にこしのあるパンツにはまず手を出さない。冬場のボトムも裏貼りした暖パンでごまかす程度だ。

 数年前の冬にモール地のファイブポケットパンツも企画されたが、生地はペラペラで寒々しかった。ダウンやヒートテックと抱き合わせて売ろうという狙いもあったのだろうが、アイテムの存在感は生地同様に薄すかった。

 ベクトルである「品質がいい」は上質という意味ではなく、丈夫さだ。ここ数年は化繊を数パーセント混紡し、ストレッチ感を出すと同時に強度をアップさせている。つまりは素材そのもののクオリティが高いのではないのである。

 ネット購入者のコメントにある「黒地になると静電気で白い埃が目立つ」というのは、明らかに化繊混紡が要因だろう。

 「ベーシックな商品が安い割に丈夫」という価値で売れてきたユニクロ。その価格が値上がりすれば、もはや丈夫さだけでお客をつなぎ止めることは難しい。「この値段なら質がいいは当たり前」とお客は解釈するからだ。

 なおさらお客には「みんなが着るものは、着たくない」という心理も働く。いつまでもベーシックな商品ばかりだと、人間は必ず飽きがくる。特にファッションは顕著で、ユニクロ離れに拍車をかける。

 だからこそ、+Jはじめ有名デザイナーとのコラボに打って、活性化したいわけだ。しかし、ここでもクオリティについては一部のアイテムを除き、言わずもがなである。

 また、展開がレギュラー売場であり、お客がトップスやボトムスを手に取って姿身に映したり、試着したりした後に、在庫が詰め込まれた棚やハンガーラックにそのまま戻せば、商品はたちまちグチャグチャになる。

 これじゃ、欧米デザイナーとのコラボはイメージだけの過ぎず、VMDもクソモあったもんじゃない。下手をすればデザイナー側のブランドロイヤルティが崩れることも考えられる。

 今回のアンド・ルメールでは、ネットでプロモーションしているアイテムは、発売と同時にほとんどが完売すると思われる。なおさらレギュラーの売場に残る在庫が見苦しくなるのではないかと心配だ。

 その辺について、クリストフ・ルメールとの折り合いはついたのだろうか。ジル・サンダー同様にブランド企業側からいちゃもんが付くと、「契約終了」で逃げ切るつもりか。


 デザイナーとのコラボ企画は、「組む相手のクリエーションがミニマル」が大前提で、ユニクロ側にとってVMD、生産でのオペレーションが崩れないことが必須条件のような気がする。

 それは基本MDのベーシック路線を大きく踏み出さないわけだから、所詮、場当たり的な小手先の企画、効率優先の域を脱しない。

 他ブランドの企画を見ても、デザイナーとの契約は複雑なようだし、ユニクロも完全買収でない限り、戦略の柱にするつもりはないと推察される。

 鼻息が荒い柳井正社長は、「商品では他社に負けない自信」を口にする。確かにそれは間違ってはいないと思うが、ファッションマーケットは常に流動している。

 安い商品なら他にいくらもある。だから、ユニクロが値上げすれば、質がいいのは当たり前と、安さに価値を求めていたお客はそっぽを向く。

 他方で、デフレの長期化で買い物ストレスが限界に達し、いい物ものに「飢え」たお客も増えている。一度、いい物を着た人間なら、いつまでもチープな商品で満足できるはずはない。景気の回復は高額品への揺り戻しも起こしているのだ。

 ユニクロが販売してきた3990円のアイテムが4990円になると、あと2000円出しても良いから、「もっとお洒落な商品を買おう」と購入の選択肢を「感度」にシフトするお客もいるだろう。

 最大公約数的な条件でお客を捉え、マスマーケットを形成できても、購買心理の変化でもとの整数がバラつけば、公約数という数値は下がる。それではもうマス市場を捕捉できなくなるということだ。

 先月から始めた「きれいめシャツ」は、ビッグサイズの商品が店舗限定だったため、ネットを通じて対応するサービスになる。しかし、採寸の要領は店舗ごとにバラツキがあり、お客が求めるレベルに応じきれるかは疑問との見方もある。

 また、ビッグサイズのお客が求めているのは、何もドレスシャツだけではない。カジュアルアイテムについてもレギュラーサイズと同じ色、デザインを試着してみたいはず。それには応えきれていない。ここでも効率優先が見え隠れする。
 
 まあ、きれいめシャツのようなサービスは、新たなマーケットを発掘するオムニチャンネル戦略への布石でもあると思うが、それがどれほどの市場を開拓し、売上げ増に貢献するかは未知数だ。

 そもそも、お客がユニクロの商品に魅力を感じなくなったのであれば、販路をいくら増やしたところで、購入客が増えるとは言い切れない。

 とすれば、国内市場の売上げ減少に打つ手はあるのか。

 10月からは国内店舗で転勤なしで働く地域正社員約1万人対象に「週休3日制」を導入する。今度は待遇を改善して社員のモチベーションを上げようという狙いなのだろう。

 しかし、筆者はこれもまやかしに過ぎないと思う。ユニクロは正社員、特に店長のサービス残業が訴訟に発展し、ブラック企業の汚名も着せられた。

 そこで1日当たりの勤務時間を増やせば、サービス残業も目立たくなるので、導入したのではないかと思える。

 ユニクロ側はメディアを通じ、働き方の変化やワークバランスに対応するためと訴える。法的には「週◯時間勤務」で、1日の勤務時間が決められているわけではないから、単なる労働時間の組み替えと言えなくもない。

 店舗では土日の方がお客は多いから、スタッフ態勢に人数を割かなければならず、休みはとれない。逆に平日はそれほどスタッフは要らないはずで、正社員の勤務時間が増えるとアルバイトを減らせる意味でも好都合だ。

 週休3日制は、レイバーコントロールとコストダウンの両方を実現させる狙いではないのか。つまり、勤務環境を改善し、離職率を低下させ、スタッフのモチベーションを上げる施策とはとても思えないのである。

 20年ほど前、ユニクロがSPA戦略を打ち出し始めた頃、筆者はNYから帰国して柳井社長に会ったことがある。

 その時、印象に残った言葉が以下のようなものだった。「ブランドに高いカネを出すのはバカだ」「お客様は神様ではない。王様くらいでいい」

 ユニクロの隆盛を振り返ると、この2つの言葉を下敷きに同社は戦略を構築して、グローバルSPAにのし上がった。

 だが、売上げが減少したところをみると、バカであろうが、賢かろうが、お客はユニクロにカネを出さなくなったのだ。経営者としてそれも受け入れなければならない。

 まあ、「お客様は神様です」は国民的歌手が言い放った言葉が慣用句になっただけで、企業経営の面ではあくまで建前でしかないのは皆がわかっている。

 お客にしても、小売業から神格化されようなんて思ってもいない。気に入らない接客や商品なら、単純に求めなければいいだけ。それは昔も今も変わらないと思う。

 つまり、今後もユニクロの商売に対し、ノーと感じるお客が増えていけば、売上げの減少に歯止めをかけるのは相当難しそうである。

 柳井社長はこんなことも言っていた。「企業にはその企業なりの遺伝子がある」「成功するにはフォーマットを作ること」。だからこそ、自社で不可能なビジネスは、M&Aで手中に収めてきたのである。

 大手メディアやビジネス紙誌には、「今後はファッション性を取り入れるべきだ」「高価格でデザイン性の高い日本製の服も展開せよ」などと、門外漢の提言が躍る。

 しかし、それが自社でできないのは、柳井社長がいちばんわかっている。さて、本体の売上げをどう回復させ、再び成長軌道に乗れるか。打つ手は出尽くしているように思えるが。
コメント
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