2001年の雪印牛肉に端を発した産地偽装事件は、その後、ミートホープや浪速酒造の原材料偽装、赤福や石屋製菓の消費・賞味期限偽装、三笠フーズや太田産業の食用偽装と、毎年のようにメディアを賑わしている。
そして、ここに来て阪急阪神ホテル、傘下のホテルリッツカールトンのレストランメニューでも、永年に渡り「誤表示」を繰り返して来たことが明るみに出た。すると、違うホテルでもメニューとは異なる食材を使っていたことが、ぞろ発覚した。
メディアはよってたかって、トップの悪意や指示、組織ぐるみの偽装と、景品表示法や不正競争防止法違反を持ち出して追及。それに企業トップは「知らぬ存ぜぬ」で応戦する。いつ見ても全く変わらない光景、というか実に見苦しいものである。
まあ、冷静に考えると、背景には食のトレンドをステマまがいに加工・発信するマスメディア、そこで生まれるグルメブームに乗せられる消費者、にわか景気に乗じて収益アップを狙う外食企業のトライアングル構造がある。
でも、それを生む原因は、メディアにおける報道と営業の乖離、消費者の食育低下、企業の儲け主義があるのはいうまでもない。こうした構造が続く限り、似たようなケースは今後も続くだろう。
話をファッションに戻そう。こちらでも、産地や原材料の偽装は過去に何度も発生している。中国のようにコピー商品が日常的に出回るのは論外だが、日本企業とて確信犯のように疑われたケースは少なくないと思われる。
それをあえて蒸し返してみることにする。まず、2004年に起こったインポーターと有名セレクトショップによる景品表示法違反と、公正取引委員会が出した排除命令だ。
インポーターとは八木通商、有名セレクトショップとはビームス、トゥモローランド、ベイクルーズ、ワールド、ユナイテッドアローズである。八木通商は輸入したジー・ティー・アー社製のパンツを、セレクトショップ5社に対し、ルーマニア製にも関わらずタグには「イタリア製」と表示していたのである。
これが景品表示法の「原産国の不当表示」に当たることで、公正取引委員会はこの6社に対し、排除命令を出し、併せて日本繊維輸入組合に対しても、組合員が同様な行為を行うことがないように表示の適正化を要望した。
ところが、これで終わらなかった。2007年、ユナイテッドアローズはカシミアが1%入っていないストールを「カシミア70%入り」と偽って、1050枚も販売した。この商品はインポーターなどを通じ、現地工場に70%とカシミアの混用率を指定して発注。しかし、途中で羊毛などにすり替えられたようだ。
ユナイテッドアローズは「素材チェックが書面だけだったため、偽物が消費者に流通する危険性は高かった」と反省。公正取引委員会も「有名店が書面だけで確認を済ませていたのは、あまりにお粗末だ」というだけで幕引きを図り、お茶を濁した感は否めない。
まあ、行政処分となって、刑事罰は与えられなかったが、もし、バイヤーが「悪意」を持って行ったとしたら、「詐欺事件」は免れない。では、なぜこうしたケースが繰り返されるのか。それは前出のメディア、消費者、企業のトライアングル構造に照らし合わせると、よくわかる。
マスメディアが言うことは正しいのか。
まずメディアはファッション系雑誌&業界誌とテレビでは、知識面で大きな差がある。雑誌の編集者やライターは永年、素資材や商品の展示会で、現物に触れていることもあり、素材に対するある程度の知識はもつ。でも、テレビメディアはショップの店頭で商品を見るケースが多いから、素材名や混用率はもちろん、 その真贋のほどに疑いを持てるはずはない。
さらにローカルテレビになるともっと酷い。深夜番組などでニューオープンのセレクトショップをレポートする時、ショップスタッフが「この商品はうちのバイヤーが独自に買い付けて来たんです」と言うと、レポーターは頭の中で勝手に想像してしまうふしがある。
「買い付け」=「インポート」、「インポート」=「欧米現地」=「希少性」という図式だ。全く勉強不足も甚だしい。一介のセレクトショップが、いちいち欧米まで買い付けにいくなんては考えられない。間にインポーターや卸が介在し、そこが開く「展示会」で仕入れるのが一般的だ。それに担当のディレクターやプロデューサーが突っ込むを入れることなど全くない。
マスメディアは一般大衆が対象であって、我々のような業界人ではないから、無理もない。しかし、それで馬鹿を見るのは消費者である。「メディアの言うことは正しい」と信じてしまうからだ。結果として、有名セレクトショップが扱っている商品の表示が「偽物」だとは、誰も疑いもしないのである。
筆者は母親がオートクチュールの洋裁師で、同級生には高級ブティックや生地屋、服飾材料店の小倅がいた。子供の頃からウールギャバやカシミアドスキン、シルクジョーゼットを触り、綿や絹、化繊の縫い糸や裏地、芯といった素資材の知識を付け、オーダーと既成服の縫製、始末の違いを知らず知らずのうちに学んでいった。でも、こんな人間はそれほど多くない。
ほとんどの消費者がもつ知識は、書店やコンビニでファッション雑誌を立ち読みして得られる程度だ。一部は海外ブランドやデニムなんかで蘊蓄こくが、大半は雑誌で得た知識しか持ち合わせないから、テレビの情報も鵜呑みにする。結果、ショップに行けば、スタッフの言うことを疑いもせずに信用してしまう。とても真贋の見分け方をもつほどではない。
原因はマスメディアが発行部数や視聴率ばかりを重視し、大衆に迎合してジャーナリズムの視点を失っていることもあるだろう。「なぜ、こんな値段で販売できるのか」。素材から手配、現地工場の確保、大量生産によるコストダウンなどを簡単に説明するだけ。その根拠を突っ込んだり、詳しく解説したりするメディアはほとんどない。
前出のセレクトショップでは、こうしたリテラシーがない中で「偽装」が行われたのである。店舗数が少なければ、バイヤーがきちんとメーカーから商品を仕入れて販売できる。ところが、店舗数が増え、ブランド力が付いて来ると、企業は効率よく収益を上げることを考える。
当たり外れがある「仕入れ」より、確実に売れる「オリジナル生産」を好むようになる。しかも、利益率をあげるには、原価率を下げることが必須条件。イタリア製よりルーマニア製が製造コストは安く、カシミアよりもウールの方が素材調達の価格は下がるのは言うまでもない。
つまり、商品はこれまで担当バイヤーが展示会で仕入れたものから、メーカーや商社発注の開発輸入やOEMへと変わっていく。そこでは商品1点1点を直に見て確認しなくなることで、偽装や誤表示が生まれるケースは限りなく高くなるのだ。
マスメディアはチェックすべきなのだが、有名雑誌はトレンドやブランド情報の発信がメーンで、ビジネスの裏側に深く切り込むことはない。まして、テレビが偽装や誤表示を疑えば、営業に響いてしまう。そして、ビームスのパンツは疑いもなくイタリア製、ユナイテッドアローズのストールはカシミア混紡で当たり前という、間違ったイメージができ上がってしまうのだ。
ジャーナリズムとしての無作為により、消費者が騙される形で、ツケを背負わされるのである。マスメディアが食育ならぬ「服育」に踏み込まない故の悲しい結末なのである。
学ばなければ消費者がバカを見る。
それどころか、今年はマスメディアが陳腐化したダウンに変わるネタとして、またカシミアに目を向け始めている。報道の視点は某大手SPAの安いカシミアと、百貨店などが販売する高級カシミアを対比するだけだ。
まあ、せっかく仕掛けるカシミアブームに、懸念を持ち出せば水を差してしまうという配慮があるのはわかる。でも、アウトレットブームが起きた時も、安さの理由は「キズものや廃盤品」と報道するばかりだった。
業界の常識として、そんな商品の色柄、型、サイズがきちんと揃うはずはないのに、マスメディアがそれを突っ込むことはなかった。結果として、いつの間にかアウトレット専用品が受け入れられる素地を作ってしまったのである。
「安かろう、悪かろう」は死語になってしまった。しかし、質の高い素材を使い、確かな技術で生産すれば原価、コストは高くなる。イタリア製の素材で、日本の匠が製造すれば、何千円で出来るわけがない。日本にはこうした手法でまじめにものを作るメーカー、それらの商品をきちんと販売している小売業者はいくらでもいるのだ。
なのにマスメディアと大手企業による偽装や誤表示が表に出て、まじめなビジネスがかき消される現状は何ともやるせない。安さの背景には必ず理由があるし、それを生むカラクリが潜む。であるからこそ、消費者はマスメディアを鵜呑みにするのではなく、業界人がミニコミ的に発信する情報にも目をむけるべきだろう。
ソーシャルメディアの時代、マスが◯で、ネットがXに根拠はない。消費者は身近なネットを通じてもっと服育、ファッションリテラシーを受けてほしい。そして、正しい知識のもとに商品を吟味されることを切に願う。少なくともファッション業界の経営陣が頭を下げる光景は、カッコいいスーツ姿には似つかわしくないと思うのである。
そして、ここに来て阪急阪神ホテル、傘下のホテルリッツカールトンのレストランメニューでも、永年に渡り「誤表示」を繰り返して来たことが明るみに出た。すると、違うホテルでもメニューとは異なる食材を使っていたことが、ぞろ発覚した。
メディアはよってたかって、トップの悪意や指示、組織ぐるみの偽装と、景品表示法や不正競争防止法違反を持ち出して追及。それに企業トップは「知らぬ存ぜぬ」で応戦する。いつ見ても全く変わらない光景、というか実に見苦しいものである。
まあ、冷静に考えると、背景には食のトレンドをステマまがいに加工・発信するマスメディア、そこで生まれるグルメブームに乗せられる消費者、にわか景気に乗じて収益アップを狙う外食企業のトライアングル構造がある。
でも、それを生む原因は、メディアにおける報道と営業の乖離、消費者の食育低下、企業の儲け主義があるのはいうまでもない。こうした構造が続く限り、似たようなケースは今後も続くだろう。
話をファッションに戻そう。こちらでも、産地や原材料の偽装は過去に何度も発生している。中国のようにコピー商品が日常的に出回るのは論外だが、日本企業とて確信犯のように疑われたケースは少なくないと思われる。
それをあえて蒸し返してみることにする。まず、2004年に起こったインポーターと有名セレクトショップによる景品表示法違反と、公正取引委員会が出した排除命令だ。
インポーターとは八木通商、有名セレクトショップとはビームス、トゥモローランド、ベイクルーズ、ワールド、ユナイテッドアローズである。八木通商は輸入したジー・ティー・アー社製のパンツを、セレクトショップ5社に対し、ルーマニア製にも関わらずタグには「イタリア製」と表示していたのである。
これが景品表示法の「原産国の不当表示」に当たることで、公正取引委員会はこの6社に対し、排除命令を出し、併せて日本繊維輸入組合に対しても、組合員が同様な行為を行うことがないように表示の適正化を要望した。
ところが、これで終わらなかった。2007年、ユナイテッドアローズはカシミアが1%入っていないストールを「カシミア70%入り」と偽って、1050枚も販売した。この商品はインポーターなどを通じ、現地工場に70%とカシミアの混用率を指定して発注。しかし、途中で羊毛などにすり替えられたようだ。
ユナイテッドアローズは「素材チェックが書面だけだったため、偽物が消費者に流通する危険性は高かった」と反省。公正取引委員会も「有名店が書面だけで確認を済ませていたのは、あまりにお粗末だ」というだけで幕引きを図り、お茶を濁した感は否めない。
まあ、行政処分となって、刑事罰は与えられなかったが、もし、バイヤーが「悪意」を持って行ったとしたら、「詐欺事件」は免れない。では、なぜこうしたケースが繰り返されるのか。それは前出のメディア、消費者、企業のトライアングル構造に照らし合わせると、よくわかる。
マスメディアが言うことは正しいのか。
まずメディアはファッション系雑誌&業界誌とテレビでは、知識面で大きな差がある。雑誌の編集者やライターは永年、素資材や商品の展示会で、現物に触れていることもあり、素材に対するある程度の知識はもつ。でも、テレビメディアはショップの店頭で商品を見るケースが多いから、素材名や混用率はもちろん、 その真贋のほどに疑いを持てるはずはない。
さらにローカルテレビになるともっと酷い。深夜番組などでニューオープンのセレクトショップをレポートする時、ショップスタッフが「この商品はうちのバイヤーが独自に買い付けて来たんです」と言うと、レポーターは頭の中で勝手に想像してしまうふしがある。
「買い付け」=「インポート」、「インポート」=「欧米現地」=「希少性」という図式だ。全く勉強不足も甚だしい。一介のセレクトショップが、いちいち欧米まで買い付けにいくなんては考えられない。間にインポーターや卸が介在し、そこが開く「展示会」で仕入れるのが一般的だ。それに担当のディレクターやプロデューサーが突っ込むを入れることなど全くない。
マスメディアは一般大衆が対象であって、我々のような業界人ではないから、無理もない。しかし、それで馬鹿を見るのは消費者である。「メディアの言うことは正しい」と信じてしまうからだ。結果として、有名セレクトショップが扱っている商品の表示が「偽物」だとは、誰も疑いもしないのである。
筆者は母親がオートクチュールの洋裁師で、同級生には高級ブティックや生地屋、服飾材料店の小倅がいた。子供の頃からウールギャバやカシミアドスキン、シルクジョーゼットを触り、綿や絹、化繊の縫い糸や裏地、芯といった素資材の知識を付け、オーダーと既成服の縫製、始末の違いを知らず知らずのうちに学んでいった。でも、こんな人間はそれほど多くない。
ほとんどの消費者がもつ知識は、書店やコンビニでファッション雑誌を立ち読みして得られる程度だ。一部は海外ブランドやデニムなんかで蘊蓄こくが、大半は雑誌で得た知識しか持ち合わせないから、テレビの情報も鵜呑みにする。結果、ショップに行けば、スタッフの言うことを疑いもせずに信用してしまう。とても真贋の見分け方をもつほどではない。
原因はマスメディアが発行部数や視聴率ばかりを重視し、大衆に迎合してジャーナリズムの視点を失っていることもあるだろう。「なぜ、こんな値段で販売できるのか」。素材から手配、現地工場の確保、大量生産によるコストダウンなどを簡単に説明するだけ。その根拠を突っ込んだり、詳しく解説したりするメディアはほとんどない。
前出のセレクトショップでは、こうしたリテラシーがない中で「偽装」が行われたのである。店舗数が少なければ、バイヤーがきちんとメーカーから商品を仕入れて販売できる。ところが、店舗数が増え、ブランド力が付いて来ると、企業は効率よく収益を上げることを考える。
当たり外れがある「仕入れ」より、確実に売れる「オリジナル生産」を好むようになる。しかも、利益率をあげるには、原価率を下げることが必須条件。イタリア製よりルーマニア製が製造コストは安く、カシミアよりもウールの方が素材調達の価格は下がるのは言うまでもない。
つまり、商品はこれまで担当バイヤーが展示会で仕入れたものから、メーカーや商社発注の開発輸入やOEMへと変わっていく。そこでは商品1点1点を直に見て確認しなくなることで、偽装や誤表示が生まれるケースは限りなく高くなるのだ。
マスメディアはチェックすべきなのだが、有名雑誌はトレンドやブランド情報の発信がメーンで、ビジネスの裏側に深く切り込むことはない。まして、テレビが偽装や誤表示を疑えば、営業に響いてしまう。そして、ビームスのパンツは疑いもなくイタリア製、ユナイテッドアローズのストールはカシミア混紡で当たり前という、間違ったイメージができ上がってしまうのだ。
ジャーナリズムとしての無作為により、消費者が騙される形で、ツケを背負わされるのである。マスメディアが食育ならぬ「服育」に踏み込まない故の悲しい結末なのである。
学ばなければ消費者がバカを見る。
それどころか、今年はマスメディアが陳腐化したダウンに変わるネタとして、またカシミアに目を向け始めている。報道の視点は某大手SPAの安いカシミアと、百貨店などが販売する高級カシミアを対比するだけだ。
まあ、せっかく仕掛けるカシミアブームに、懸念を持ち出せば水を差してしまうという配慮があるのはわかる。でも、アウトレットブームが起きた時も、安さの理由は「キズものや廃盤品」と報道するばかりだった。
業界の常識として、そんな商品の色柄、型、サイズがきちんと揃うはずはないのに、マスメディアがそれを突っ込むことはなかった。結果として、いつの間にかアウトレット専用品が受け入れられる素地を作ってしまったのである。
「安かろう、悪かろう」は死語になってしまった。しかし、質の高い素材を使い、確かな技術で生産すれば原価、コストは高くなる。イタリア製の素材で、日本の匠が製造すれば、何千円で出来るわけがない。日本にはこうした手法でまじめにものを作るメーカー、それらの商品をきちんと販売している小売業者はいくらでもいるのだ。
なのにマスメディアと大手企業による偽装や誤表示が表に出て、まじめなビジネスがかき消される現状は何ともやるせない。安さの背景には必ず理由があるし、それを生むカラクリが潜む。であるからこそ、消費者はマスメディアを鵜呑みにするのではなく、業界人がミニコミ的に発信する情報にも目をむけるべきだろう。
ソーシャルメディアの時代、マスが◯で、ネットがXに根拠はない。消費者は身近なネットを通じてもっと服育、ファッションリテラシーを受けてほしい。そして、正しい知識のもとに商品を吟味されることを切に願う。少なくともファッション業界の経営陣が頭を下げる光景は、カッコいいスーツ姿には似つかわしくないと思うのである。