HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

北北西に販路を取れ。

2019-01-30 06:44:26 | Weblog
 今年は五輪プレイヤーとあって各国代表やチーム、選手とアパレル関連との契約が気になるところだ。今度の東京五輪でスポンサーからいちばん支援を受けているのは、日本オリンピック委員会(JOC)だろうか。表向きは公益財団法人だから収益事業を行っているわけではないが、地元開催という50年に1回のマーケティング機会を企業に提供する代わりに、一業種一社のスポンサーを獲得できることは可能だ。

 ただ、このルールを真に受けると、スポンサー数はたかが知れている。そのため、スポンサーのグレードを公式パートナーからサプライヤーまで広げることで、料金に応じた支援のカテゴリーを提供し、企業側の選択肢を増やしていった。まあ、東京五輪の招致委員会がシンガポールの会社にコンサルタント料と称してポンと2億円以上を支払えるのだから、JOCに潤沢な資金が流れているのは確かである。

 これには五輪のスポンサー営業が一本化された「電通」の存在がある。電通は日本がボイコットした1980年のモスクワ五輪でJOCのスポンサー営業権を「博報堂」に奪われたことがトラウマになったようで、2005年に営業権を独占してからは、その力を見せつけるべく攻勢をかけていった。その結果、JOCのスポンサー料は増大し、資金的に潤うようになったのである。

 しかし、世界的に見れば、資金が潤沢なNOC(国内オリンピック委員会)は、むしろ少数派だ。なおさら、企業スポンサーに支えられ、ビッグ契約を結んで活動できるチームや選手は、米国などスポーツ大国の一部に限られている。多くのNOCは国からの補助金なんて微々たるものだろうし、国や団体単位でスポンサーが付くケースはそれほど多くなく、慢性的な資金不足に悩まされている。



 チームや選手個々でも、活動資金を得るためにアスリートがヌード写真を発表することも、今では驚くことではない。あの米国ですら、女子アイスホッケーの代表選手がスティックとシューズ以外は一糸纏わずに撮影した写真を堂々とネットに公開している。メジャー、マイナーを問わず競技生活を続けるのは、先進国であっても決して簡単なことではないのだ。

 片や、企業とスポンサー契約を結べると、競技に専念できる環境が格段に整っていく。ウエアやユニフォームを提供するスポーツアパレル側も、選手やチームの活躍を通じて世界にデザインやブランド価値を発信できる。今年の全豪オープンテニスでは大坂なおみ選手が優勝したが、着用していたアディダスのウエアが翌日に数十着も売れた店舗もあるという。リターンが凄いからこそ、スポンサー料も半端ではない。いかにビッグな契約を纏めるかが代表チームや選手、企業の双方とって重要なのである。

 先日、アパレルとNOCとのまさにビッグな契約話が飛び込んで来た。ユニクロが「スウェーデンオリンピック委員会とパートナーシップ契約を締結した」と、ファーストリテイリングが発表したのだ。内容は「今年1月から4年間、2つのオリンピック・パラリンピック大会(2020年東京、2022年北京冬季)を含む試合や競技を対象に、スウェーデンの代表選手団と大会関係者にユニクロのアイテムを提供する」というもの。

 ユニクロから提供されるウエアは、「開会式で着用するもの」「閉会式で着用するもの」「トレーニングと競技に着用するもの」「余暇時間にアスリートが着用するもの」と「報道発表時にアスリートが着用するもの」になる。記者発表では、スウェーデン国旗に使われる黄色を基調にしたものが公開されたが、これはあくまで市販のアイテムデザインに基づいたサンプルで、今年中に選手団専用のカラーリングとスタイリングを施したものが製作されるようだ。

 このニュースを見た時、筆者が咄嗟に思ったのが、前回のリオ五輪におけるスウェーデン選手団の公式ウエアである。それは2014年のソチ冬季五輪に続き、地元企業の「H&M」が提供していた。ファストファッションで世界中にその名を馳せたグローバルSPAで、それが遠くな晴れた日本のユニクロにとって代わったのである。

 スウェーデンオリンピック委員会は、JOCに比べると資金的に脆弱だろうから、契約スポンサーを選べるような状況ではないと思う。一方、ユニクロは2018年の8月、首都ストックホルムに1号店を出店しており、今後の多店舗化に弾みをつける上では、国内でのブランド浸透は不可欠になる。だが、柳井正社長は記者会見で、この契約とスウェーデン市場の拡大との関係については、「直接の理由じゃないです」と答えている。

 それどころか、1号店が非常に上手くいっている要因として、会見に同席した桑原尚郎上席執行役員はミュージシャンやダンサーにユニクロの服を着てもらい、広告活動に参加してもらったり、そのローカルアンバサダーから得た多くの示唆を生かしたことを挙げた。その中で、スウェーデンの人々の気持ち、価値観とユニクロのライフウエアというコンセプトが持つ「親和性」のようなものを感じ、スウェーデン、ストックホルムの生活者と非常に「親密な関係」が築けるのではないかと思った、とも語っている。

 何でもトップでないと気が済まず、ビジネスについては常に直情的なもの言いが付いてまわる柳井社長からずれば、幹部が放った意見とは言えずいぶん情緒的で、こそばゆかったのではないのだろうか。自身も「直接の理由じゃないです」と答えてはいるが、経営者として野心旺盛な性格を考えると、スウェーデン進出の理由や今回のスポンサードの背景を額面通りには受け取れない。

 スウェーデンは北極圏にまたがる国土のほとんどが寒帯域に属する。11月から3月までの冬場は厳しい寒さ(最低気温─5℃)が続くだけに、防寒衣料・重衣料に対するニーズは高いはずだ。国民の平均年収は29,185ドル(約345万円/2015年データ)と、世界第9位で日本よりは高い。ただ、高福祉高負担の国で収入の40%以上を税金に徴収されることから、国民は合理的で倹約志向が強いのではないか。そうした気質から組み立て家具のイケアやワンナイトパーティグッズのH&Mが生まれたとすれば、ライフウエアを標榜するユニクロとの親和性はわからないでもない。

 コンサルタントの小島謙輔氏は「ファッションはローカルなもの」と仰っている。それぞれの国や地域でウケる流行は異なるという意味だ。確かにトレンドファッションはそうだが、機能性が求められる防寒衣料という見地でスウェーデン市場を見れば、決してモンクレールやタトラスの牙城ではないはずだ。なおさらヒートテックやプレミアムダウン、暖パンなど値ごろなアイテムをもつユニクロが冬場のデイリーウエアでも、マーケットリーダーになれなくはないと思う。

 これからの戦略を見据えれば、売れる市場を握るのが肝になるのは言うまでもない。その点で、ユニクロはアジア地域での事業が好調でも、攻略の余地があるのは人口が多く、経済発展しているインドネシアやインドになる。だが、それらの地域は亜熱帯、赤道域で防寒衣料など必要とされない。薄着を前提に考えると商品単価、客単価ともに上がりにくく、ドライに代わる新たな商品開発も容易ではないだろう。

 日本にしても毎年のように異常気象が続いており、暖冬になると一気に冬物の売上げ不振を招いてしまう。昨年末から今年始にかけてあれほど、チラシが折り込まれたシーズンは見たことがない。それほど冬物の在庫処分が低迷していたということだ。ならば、防寒・重衣料でコンスタントな需要が見込める北欧に照準を当ててもおかしくない。さらにアジアでは必要とされない新商品の開発拠点に位置付けることも可能だ。

 ユニクロは五輪関連ではこれまでにも冬季大会の長野、ソルトレークシティ、夏季大会のアテネで、開会式や移動用のユニフォームを提供してきた。これついては決して好評だったとは言い難く(開会式のユニフォームは全般的にどこも不評を買っているのだが)、特にソルトレークシティの開会式のユニフォームは、メディアはじめ各方面から「けちょんけちょんに言われた」と記憶している。

 柳井社長のことだから世間から叩かれれば叩かれるほど、それをエネルギーに代えて次の施策を考えてきたはず。五輪ユニフォームの悪評についても、いつか捲土重来を果たしたいと考えていたとすれば、今回交わしたビッグ契約の説明もつく。しかし、これが本筋だとは思えない。

 問題はスウェーデン選手が競技をする時に最も重要な機能性やハイパフォーマンス性がどこまで打ち出せるかである。一応、契約には「トレーニングと競技に着用するもの」も入っており、選手にとってはメダルを獲得するにはこれが何より重要になる。ナイキやアディダスはもちろん、ミズノやアシックスの開発努力を見ると、とても4年くらいでなし得るものではないと思う。H&Mとてそれを実現したかどうかはわからない。そう考えるとパートナー契約を結んだ狙いは、スポーツ系のウエアの開発というより、レギュラー商品のマーケティングのためと考えた方が良さそうだ。

 これはあくまで筆者の穿った見方だが、世界戦略を考えるとグローバルSPAのお膝元だからこそ攻める価値があると思うし、成功すれば企業の評価は格段に上がる。H&Mから五輪ウエアの契約を奪えたのは、世界のトップを目指す柳井社長の野望の一つだったのではないか。「北北西に販路を取れ」。アジアでの好調に浮かれること無く、次なる対象への照準は世界中に向けられている。

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セコハンが地球を救う。

2019-01-23 04:36:24 | Weblog
 今回はニューヨークの話題を取り上げよう。1980年に初めて渡り、その後何度となく訪れ、90年代半ばに現地で生活した身としては、日本のメディアがノーマークな些細な流行や変化にもアンテナを張ってきたつもりだ。初渡航時はまだまだメジャーな都市とは言えなかったが、この街は常に新たな流行を生み出し、それを世界に発信する能力には長けていた。

 それらは一過性のムーブメントで終わることもあれば、ビジネスとして孵化したり、公的で社会性を持ったり、文化として根付いたりする。例えば、ストリートミュージシャンがそうだ。NYは人種のるつぼと言われる。世界中からやってきた人々が行き交う街中では、聞こえて来る音楽も多種多様だ。ケルト系、UKロック、フレンチテクノ、アフリカンパーカッション、カリビアン、カントリー、ジャズ等々。ストリートミュージシャンの演奏レベルは高く、人気者は1日に数百ドルのチップを稼ぐ。彼らのパフォーマンスに感動したと思えば、それなりの対価をさりげなく渡す。それがニューヨーカーの流儀だ。



 彼らのステージは人通りが多くて目立ちやすい街角なのだが、地下鉄のコンコースやホームでも堂々とパフォーマンスを繰り広げる。日本ではまず「多くの人が往来する地下鉄構内で演奏、しかも収益を上げるなどまかりならん」と、許可されない(路上ライブの開放計画がある街はあるが)だろう。ニューヨークでも公共の場での違法行為は同じだろうが、強制的に排除しようとしても次から次へと取り締まりの網をかいくぐって、演奏を行う輩が出て来るのは言うまでない。

 ならば、発想を変えてストリートミュージックをニューヨークの観光拠点、ひいては音楽文化の発信と位置付け、そのハードルを上げてはどうか。地下鉄を運営する「MTA(Metropolitan Transportation Authority)/メトロポリタン交通公社」は、ストリートミュージシャンに対して演奏と収入確保を認める代わりに、主催するオーディションを勝ち抜くことを条件とした。ここではオーディションについての詳細は控えるが、これもニューヨークの新たなサブカルチャーになったわけだ。

 一方で、富める者と貧しい者の差が際立つのも、ニューヨークである。五番街やマディソンアベニューには有名百貨店や高級ブランド店が軒を並べるが、通りのそこかしこで物乞いをするホームレスや生活用品の一切合切を袋に入れて持ち歩くバッグレディに出くわす。平均気温が華氏10 °F(摂氏─10℃以下)にもなる真冬は、スチーム暖房が効く地下鉄構内で夜明かしするホームレスやバッグレディも少なくない。

 路上生活に至るのは麻薬やアルコール依存、病気や精神疾患、DVや離婚、勤労意欲の無さなどの個人的なものから、レイオフやリストラ、家賃や住宅価格の高騰、医療問題など社会的な要因までと様々だ。だが、筆者が初めて訪れた1980年代初頭は、まだまだ福祉政策や支援制度が十分に確立していなかった。87年にようやく「ホームレス支援法」が成立し、所管する行政庁から補助金がおりて州政府や支援団体に予算が配分された。



 州や都市、NPOはこれを原資に路上生活者に対してシェルターを提供したり、食糧支援、子どもたちへの教育などを行うようになった。現在、ニューヨークには200以上のシェルターがあり、路上生活者に対して宿泊場所や食事の提供から、リハビリ補助、医療ケア、衣類の支給まで、最低限の生活を送れるようにサポートを行っている。

 シェルターの中には、運営経費のほとんどを民間企業からの「寄附」で賄うところもあるが、こうした支援によって活動がサスティナブル=持続可能になり、就労や社会復帰に道筋がつけられるようになっている。米国では議会で予算の成立が難航すると、政府機関が一時的に閉鎖されることもあるからだ。




 ニューヨークのアパレル業界がこうした活動に参画しているのは、多くが知るところ。その一翼を担うのが「Thrift Store」である。直訳すれば、「倹約店」。この街はthriftless=浪費するイメージが強いが、Thrift Storeは、「セコハン」の品物を引き取って販売し、売上金をホームレスなどの支援団体に寄附する業態を指す。

 セコハン。日本でも昭和の時代にはよく使われた言葉。英語のSecondhandを日本風に読んだもので、「中古品」を意味する。平成に入ると古着ブームの到来で、雑誌メディアがユーズドを浸透させたため聞かれなくなったが、 英語圏では今も堂々と使われている。Thrift Storeが引き取るセコハンは、必要でなくなったブランドの衣料や雑貨、ヴィンテージ家具などで、個人からだけでなく有名アパレルの在庫やデザイナー・サンプル、中にはアナ・スイのような若者に人気のブランドもある。

 トランプ大統領は米国第一主義を掲げた結果、米中貿易摩擦という火種を抱え、株価は乱高下するものの、2018年9月の失業率は3.7%と69年以降では最高水準となった。全米小売業協会の調査でも、同年10月の売上げは前年同月比で5.6%も増えている。米国の景気そのものは底堅いのだ。大統領の地元ニューヨークも、有名ブランドの旗艦店が閉鎖されるなど逆風が吹いているが、欧州のラグジュアリーから米国の高級ブランド、百貨店に並ぶモデレートな商品まで、コンスタントな売上げではないかと思う。

 当然、新しい商品が数多く売れると、中古に出回る品も増えていく。いくら高級ブランド、上質な商品と言ってもファッションである以上、流行がある。それらの購入者は着用してもせいぜい2〜3年だろう。当然、所有者はまだまだ着られるのだからと、再利用を考える。e-Bayなどに出品して換金する人もいるだろうが、高額所得者になるほどThrift Storeを選ぶわけだ。もちろん、中産階級以下、ワーカークラスにとっては、Thrift Storeにブランドが並んでいると、新品では買えないものが購入できる。そうしたブランドと倹約がトレードオフの関係となり、業態として成り立つのである。

 ニューヨークは別名「Jew York」と揶揄され、全米ユダヤ教徒の30%、160万人近くが集中する。この中には慈善や寄附といった博愛精神も持つ人々もいるだろうが、Thrift Storeでは寄付をした証明として、税控除の申告書を貰えるので、利用するケースもあるようだ。高額な所得があると、支払う税金も高くなる。ならば、高額所得者は節税のために寄附をする。中産階級の人々に至っては、セコハン品の購入=倹約のもとに社会に貢献できるということだ。これもニューヨークのスタイルなのである。

 日本でも、ゾゾタウンが「ZOZOARIGATOメンバーシップ」という有料会員サービスを始めた。これは年額3000円(税抜き)または月額500円(同)の利用料を支払うと、会員は出店ブランドを「常時10%オフ」で購入でき、その割引額の一部または全額を同社が指定する「団体への寄附(日本赤十字社、ワールドビジョンジャパン、国境なき医師団など)」や購入先への金額還元として使用が可能になるというものだ。

 ただ、寄附という社会貢献の側面を持たせつつも、どうしても常時値引きが先に立つ。このサービスは出店者にとってECや店頭との価格差を生み、正価販売をなし崩しにする。オンワードホールディングが先陣を切って撤退を明らかにしたのも、そうした理由からだ。ゾゾタウンの前澤社長はこれまで月旅行や球団経営を口にし、新春にはお年玉として現金1億円をプレゼントするなど、話題づくりにご執心な様子。しかし、ここまで来ると、やることなすことが世間の注目を集める手段としか思えず、上場企業の経営者としてはあまりに下品な売名行為に映ってしまう。

 メリカリもスマートフォンを利用した個人同士のブランド売買に道筋をつけ、中古衣料流通を活性化した点は評価される。だが、創業者はこうしたビジネスモデルで上場を果たし、キャピタルゲインを得る手段にしたと言えなくもない。ファッションビジネスで立志伝中の人物は、どうしてもthriftなところが感じられないのだ。それは日本が米国に比べると、まだまだ真の金持ちがいないからだろうか。

 ただ、日本は高額なブランド衣料の流通は縮小傾向で、リユースやサブスクリプションがますます増えていくと言われる。一方で、人気がないブランドはいくら高額で購入したと言っても、リサイクルショップでは二束三文の値段しか付かない。ZOZOTOWNが行っている買取サービスでも、ユニクロ、GU、ギャップ、無印良品、Forever21、H&Mなどは対象から外されている。メルカリでは昨年、ユニクロの取扱量が最多だったようだが、多くのお客はブランドによって中古品が値踏みされるのを学習したのか、処分まで考えてブランドを購入する傾向が強くなっている。

 筆者は日本では買いたいファッション衣料がほとんど無くなり、ごくたまに見て欲しくなるのは前から素材や色、テイストが好きなブランドに限られている。知名度が高くそこそこの価格なので、中古品でもいくらかの金額で買い取ってもらえるはずだ。ならば、対価は寄附に回しても構わない。今は素資材にコストをかけない低価格衣料が溢れている。そうした商品を求めない人間からすると、日本でもThrift Storeが身近にあれば、着なくなったブランドを社会のために役に立てられるのにと、思うばかりである。

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◯◯ブルーは仏ウケ?

2019-01-16 06:34:02 | Weblog

 久々にパリの話題について書いてみる。先日、ユニクロがフランスで販売するUTコレクションの「北斎ブルー」がパリで大ヒットしていると、報道された。

 日本で唯一、手摺木版の和装本を刊行する出版社「芸艸堂」の版録をもとに、葛飾北斎の代表作「冨嶽三十六景」の絵柄をモチーフにしたUTコレクションの一つだ。ユニクロフランス公式通販サイト(https://www.uniqlo.com/fr/fr/femme/collections-speciales/ut-collection-graphique/hokusai-blue」と銘打って代表的な絵柄がプリントされたTシャツやスウェットが並んでいる。



 HOKUSAI BLUEとは言っているが、これはカテゴリーの名称で、ベースとなる色は白やグレー、ネイビー、ブルー、レディスではピンクなんかもある。浮世絵がプリントされたカットソーや裏毛のトレーナーで、日本でも観光客向けのスーヴニールには昔から置いてそうな商品だ。しかし、パリジェンヌが飛びついたのは、ユニクロFRの企画スタッフが持前の感性でモチーフの位置取りや大きさ、カラーなんかを現地好みにバランス良く仕上げたからだと思う。

 普通、ブランドTシャツのプリントと言えば、ロゴやキャラクターなどが胸元に大胆にあしらわれるケースが多い。だが、HOKUSAI BLUEの絵柄は胸ポケットやヘムにプリントが施されるなど、捻りがある。レディスではフロント全体の絵柄はそれほど大きくなく、ジャケットのインナーに着るといい塩梅で柄が見える。その辺がパリジェンヌ、パリジャンのセンスにあったのだと思う。

 そもそも、企画に至った背景は何か。欧米人が日本古来の絵柄に好感をもつ点がある。始まりは19世紀後半に欧州で起こった「ジャポニズム」の嵐だ。このムーブメントはそれ以前に流行った東方趣味や異国情緒といったオリエンタリズムとは異なり、浮世絵に見られるフラットな色彩構成、俯瞰や裁ち落としで描く斬新な構図、波や樹木といった自然の様式的表現などの描法面で、当時の欧州画壇に多大な影響を与えている。





 印象派のゴッホは「耳に包帯をした自画像」でバックに浮世絵を、マネは「エミール・ゾラの肖像」で浮世絵風の版画が入った額を描いた。これらが契機となり、次の段階では、カサットが「入浴」で背景を描き込まずに簡単な線と陰影のない色面で構成し、クリムトが「期待」で平面化と同時に背景に金箔を貼ったように装飾性を高めたりと、 明らかに浮世絵の影響を受けた描法を採るようになった。




 葛飾北斎の冨嶽三十六景で、最も有名な「神奈川沖浪裏」は遠近法を駆使し、非常に優れた描写をしている。画面を遮るように前景に大浪、中景をカットして遠景に冨士山を描き、遠近を極端に対比させる表現が特長だ。ホイッスラーは「ノクターン」でこうした遠近法を取り入れ、画面に奥行きを出す工夫をしている。この絵は筆者も好きで、「青と金色」という副題からすれば、「ホイッスラーブルー」と言っていいかもしれない。

 浮世絵が欧州の芸術に影響を与えたことから、ジャポニズムに造詣があるパリジェンヌは北斎をクールなアートとして受入れるだろうし、ファッションアイコンにしても存在感を発揮できると感じたのではないか。それがパリにおけるHOKUSAI BLUEのヒットに繋がったと思う。ファッションも芸術の一分野と考えるフランス人らしいところだ。

 型数はメンズ10、レディス5(Tシャツのみ)で、価格はTシャツが14.90€、スウェットが24.90€。近々のレートで換算すると、1800円、3000円程度と手頃なところもヒットした要因だろう。もともと、スタイリングに色んなデザインを取り入れるのが上手いパリジェンヌのことだから、HOKUSAI BLUEのアイテムも上手に着こなしていくと思う。これから春にかけてサン・ミシェル通りあたりを闊歩する彼女たちが着る定番アイテムになってもおかしくない。

 そこで、「日本では販売されないのか」である。ユニクロフランスの限定企画だろうから、そこまではしないと思う。日本の公式通販サイトにも掲載はされていない。ただ、このアイテムをそのまま日本に持って来ても微妙だろう。 日本風の柄が好きな人は着こなすかもしれないが、決して万人受けはしない=マスにはならない点で販売は難しい。仮に発売されても、パリのようにヒットアイテムになるかと言えば、それは違うと思う。

 外国人観光客向けの企画としては、日本の景勝地や文化財を浮世絵風に表現したアイコンのプリントTシャツは、ありだろう。すでに商品化している観光地もあると思うが、ユニクロとコラボレーションすればブランド力を背景に違った意味でのインバウンドニーズを発掘できるのではないか。ユニクロがそこまで考えているかどうかはわからないが、以前はユニフォームなんか別注を受け付けていたはずだ。ある程度のロットは必要と思うが、有名観光地を抱える街はインバウンドにも期待するだけに、商品企画でタッグを組んでも面白いと思う。
 
 パリでヒットしたもう一つの要因は、UTのブランドカテゴリーとして打ち出した“HOKUSAI BLUE”というタイトルではないか。フランス語で「青」は、bleuと綴るので、このタイトルは英語表記だ。サイトにはCette collection s'inspire de son oeuvre unique.(このコレクションは彼(北斎)のユニークな作品に触発されています)とあり、HOKUSAI BLUEにそのまま魂が揺さぶられたのだろう。

 もっとも、ユニクロの製品だけにメイド・イン・チャイナには変わりない。フランスは18年第2四半期で失業率が9.1%と深刻だ。雇用創出と国内産業の発展には、「メイド・イン・フランスがカギになる」と、フランス世論研究所の調査で国民の93%が自国産を選びたいと答えている。でも、フランス製のHOKUSAI BLUEではコストがアップするし、パリジェンヌが簡単に飛びつくとは思えない。公的機関の発表を額面通りに受け取るわけにはいかないので、フランス製への回帰も希望的観測の域は出ないのではないか。

 ところで、◯◯ブルーですぐに思いつくのが、「キタノブルー」だ。映画「ソナチネ」「HANA-BI」が国際的な映画祭で高評価を受けたビートたけしこと北野武監督は、色彩にこだわるのが特長と言われる。画面の全体的なトーン、小道具の色などに「青み」を使うことで、熱狂的なファンがそれをキタノブルーと名付けたのである。




 山本耀司が衣装をデザインした「ドールズ」までは、このキタノブルーが欧州では非常に注目された。それこそ、HOKUSAI BLUEがキタノブルーに触発されたどうかはわからないが、奇しくもビートたけしは2018年に「KITANOBLUE」(https://kitanoblue.co.jp/)というファッションブランドをプロデュースし、発売している。これは偶然の一致なのだろうか。それとも、欧州におけるトレンドを仕掛けたいのか。

 KITANOBLUEでは、ビートたけしの感性をより多くの方へ感じて欲しいという思いを込め、北野映画の特長でもあるキタノブルーをブランド名、カラーに採り入れたという。プリントデザインではたけし自身が描いた絵もあるが、浮世絵の写楽や神奈川沖浪裏をパロディ化した点は、いかにもたけしらしい。

 企画されたのがほぼ同時期とすれば、HOKUSAI BLUEにKITANOBLUEが影響したのか、またその逆があったのか。まあ、詮索してもあまり意味はないと思うが、双方とも欧州への影響力があることでは共通する。「◯◯ブルー」と付けば、仏ウケする企画になるかもしれない。でも、二匹目の泥鰌が捕まえられるほど甘くないと思うが。果たして…

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それでもブランド買い。

2019-01-09 06:30:42 | Weblog
 福岡は地理的に春の訪れが早く、初売りに冬のセールを連動させても、在庫処分にはそれほど繋がらない。今年の初売りでは、三越伊勢丹グループの岩田屋はセール前倒しで前年より好調だったが、Jフロントリテイリングの福岡大丸は1月4日が正月休みの企業があり、客足が鈍く前年割れと発表した。共通して売上げを押し上げたのは企画内容で釣る福袋で、売場を見る限りではやはりセール自体は盛り上がりに欠けるようだ。

 ただ、「ここだけは違う」と言わざるを得ないのが、新宿の伊勢丹本店である。大西洋元社長時代にセールの後ろ倒しを実施した時でも、お客はわざわざ伊勢丹のセールを待っていた。今年は7年ぶりに1月3日に初売りをスタートし、同時に冬のクリアランスセールも開始したため、昨年の1.4倍となる1万人以上が開店前に長打の列を作っている。

 筆者の目算では、行列の7〜8割がセール目的のお客ではないかと思う。おそらくオンリーショップの次に充実している国内デザイナーブランドや伊勢丹が単独で仕入れている欧米のインポートがお目当てだろう。毎度のことながら、メディアがお客に取材し聞き出した答えでは、「コムデ・ギャルソンのニットを買うために、朝の5時に都外から来た」なんてベタな内容を見かける。

 しかし、これは目的語を代えると、ほとんどのセール客に共通するのではないか。国内外の価値あるブランドが伊勢丹本店には揃うからだ。そうした商品が3〜5割引で買えるのなら、お客は寒冷下に早朝から何時間も並ぶ苦行も厭わないのである。

 「セールの時だけやってくる」と思われる後ろめたさも、これだけの人出ならかき消されてしまう。この時ばかりはプライドも羞恥心も糞食らえで、欲しいブランドをゲットすることに集中する。ブランドハンターにとって、まさに売場は戦場なのだ。大半のお客はブランドの違いこそあれ、同じ気持ちではないかと思う。

 ところで、今年の経営課題について、業界誌は識者の言説として「おしゃれ需要はさらに減っていく」「流通在庫とたんす在庫が新品市場を追い詰める」を突きつけ、「服はもうファッションではない」と、 消費者の心理を解説した大学教授の持論を取り上げている。確かにプロパー商売やマスファッションのビジネスは、そうなのかもしれない。

 しかし、伊勢丹本店の冬のセールを見る限りでは、寒空のもと早朝から1万人が列を作るわけだ。お洒落か、そうでないか。ファッションか、服なのかは別にして、やはり上質で感度、デザインともに優れるブランドが欲しいお客は、まだまだ相当数いるのだ。

 昨年は1月4日の初売りに8000人が並び、開店を20分繰り上げたものの、凄い混雑だったと聞く。訪れた友人の話ではメンズもレディスも売場はお客で溢れかえり、お目当てのブランドを手にしても試着をするのに1時間以上待たされたとか。これではせっかく割引で大量に集客できても、あまりの客の多さが販売ロスを生むというセールの徒を見せつけられた感じだ。

 報道によると、杉江俊彦三越伊勢丹HD社長は「お客さまの安全確保と混雑緩和」のために、「今年は福袋を年末にECで受注する形に変え、本館では在庫の約4割、メンズ館では在庫のほぼ全てをECで先行販売した」と語っている。しかし、本館在庫の4割をECで先行販売したとは言え、昨年を超える1万人が並んだのを考えると、魅力的なブランドは直に売場に行かないと買えないと、お客がしっかり認識しているからではないのか。

 混雑緩和には抜本的な対策が必要で、セールVMDやお客の整理・誘導、専用レジの導入などいろんな手法があると思うが、ここでは詳細は控える。一方で、昨年秋からプロパー販売が苦戦し、何度もセール催事を仕掛けているのがユニクロだ。昨年の年末から今年の年頭にかけて、これほどチラシが新聞に折り込まれたシーズンは記憶にない。暮れから何度か売場をチェックしてみたが、セールの状況もかつてのようにお客が溢れかえっていた時とは、明らかに異なる感じだ。

 筆者がチラシを確認した年末から年頭にかけてのセール催事は、ざっと以下のようなものがあった。「歳末セール(2018.12.14〜12.20)」「年末感謝号(2018.12.30〜12.31)」「初売り半額(2019.1.1〜1.2)」「号外初トク新年祭&キッズも初売り半額(本日1.3まで)」「初特新年祭冬大特価満載号(2019.1.5〜1.10)」。

 クリスマスの前後にも1回ないし2回は、催事を仕掛けただろうから、連日チラシを使って冬物の在庫処分=セールを告知していることになる。言い換えると、週末以外にもチラシを折込むのはユニクロがそれだけ大量の在庫を抱えている証左で、しかも計画通りに消化できていないからではないのか。

 チラシには「制作費」「印刷費」「折込み料」と、莫大なコストがかかる。ユニクロの店舗展開は全国規模だから、1回のチラシ投下でどれほどの効果が上がっているのか。それとも効果がないから何度も投下せざるをえないのか。費用対効果、販売管理費などについては、春に発表される第二四半期(2018.12〜2019.2)のIRレポートを待つしかないが、イレギュラーのチラシ連発はあまりいい傾向ではないのは確かだろう。

 現時点でユニクロに言えることは、「冬物の在庫を大量に抱えているので何とか捌きたい」。それに対し、お客側の意識は「大量の在庫を前にセール待ちだった」「欲しいものは購入済みで、安いからと不必要なものまで買わない」「いい加減、商品企画を変えてくれないと、新規に購入する気にはならない」等々だろう。

 柳井正社長は日々、経営革新をしないと生き残れないと、公言してきた。そこではAIなど先端技術が前提で、それらを活用した「情報製造小売業」を目指すと言って憚らない。反面、旧態依然のいたってアナログな折込みチラシを多用しなければ、販促にもレスポンスにも期待できないジレンマ。日本では新聞をとらない家庭が増えている。当然、チラシは手元に届かない。少なくとも国内市場では販促手法として催事の仕掛け、チラシ戦略、それを構成する商品企画について一考する1年になりそうである。

 ユニクロの苦戦に対し、伊勢丹本店のセールには、7000〜8000人のお客がブランドをゲットするために並ぶ。三越伊勢丹の基幹3店で見ると、今年は売上げ的には前年をやや下回ったようだが、それはECによる先行販売の影響もあると思う。店舗売りが人気なのはお客の行列が何より証明している。

 当然、この中にはユニクロを利用するお客もいると思う。ユニクロがセールで割引する5000円のカシミアのニットに投資するくらいなら、伊勢丹のセールで2万円のセーターを買った方がいいとの価値観もあるわけだ。「それはあくまで仮説だ」と言われればそうかもしれないが、熟考しなければならないことでもある。

 仮説にしても、ブランドを購入したいお客は全国にいるのである。御殿場のアウトレットは首都圏の中心から離れても多くもお客を集めるし、昨年に開業したイオンのジ・アウトレット広島も好調を維持している。筆者は1月3日、家族や親戚の子たちに請われて佐賀県鳥栖のプレミアムアウトレット(三菱地所・ソロモンの運営)に出かけたが、話題のブランド服袋は完売しているところが多かった。物色している人々の声に聞き耳を立てると、前年に購入してかなり良かったのでリピーターとなったようだ。

 しかも、お客が求めているのは、素人騙しのアウトレット専用品ではなく、直営店では高価格帯から購入に二の足を踏むブランド群である。単にメジャーだからでなく、商品づくりにしっかりコストをかけ、品質は高くデザインはベーシックで長く使っても劣化しづらいもの。そこに価値を見出すから、オフプライスだとお客はつい手が出てしまう。もちろん、後々、メルカリなどで高値で捌けることも、頭の片隅によぎるかもしれない。
 
 伊勢丹本店のセールにお客が殺到し、アウトレットモールが好調を維持するのは、目の超えたお客は端から安い物ではなく、上質でいい物が安いのなら欲しいのだ。その意味で商品づくりをもう一度見直し、上質でいい物をいかに市場に流し、動きを見ながら二次流通まで行っていくか。ビジネスフローを考えるべき1年でもあると思う。







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絞って作り売る。

2019-01-02 06:15:34 | Weblog
 昨年末に二つの記事を目にした。一つは、商業界オンラインで、ファッションコンサルタントの小島健輔氏が書かれていた「『ユニクロ病』のチキンレースを超えて」(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181221-00001333-shogyokai-bus_all&fbclid=IwAR0VVk8NOgwXkWOOSP5Ci6O1saar4nkH2zaQzt80DZvYUmKIUWnKjaNhqHs)。

 結論を除いて起承転までを要約すると、一昨年は厳冬でユニクロの防寒衣料が売れに売れて品不足に陥り、昨年は十分な在庫を手配したものの暖冬で売れ残って在庫を抱えた。アパレルの需給はほんとうに読みにくい。ユニクロが好調だからと、同じように在庫を抱えて売り減らすビジネスを志向しても、それは巨大な市場を獲得したメジャーブランドの論理であり、需給ギャップに振り回されるアパレルには、必ずしも適しているとは言い難いというもの。

 もう一つは、繊研PLUSの「ネ・ネット『スターハントキャラバン』企画スタート
(https://senken.co.jp/posts/%20a-net-ne-net-star-hunt-caravan-181220)である。

 今年でデビュー13年目となるA-netのネ・ネットはブランドが大きくなり、40店以上を構える規模になっている。一時は生産のほとんどを中国にシフトして量産し始めたことで価格帯は下がったが、売れ残り在庫をセールにかけて捌き、よくシーズンを迎えるという流れを再考。ブランドの将来を踏まえ、デビュー当時のようにすべて国内生産に戻すというものだ。

 小売りスタートのユニクロとDCアパレルブランドのネ・ネットは、一見共通項はないように思える。しかし、どちらも商品開発から販売まで一貫してダイレクトに行うという「SPA(自社企画製造直売小売業)」に変わりない。ユニクロは中間業者を排除することで、その分のコストを価格に反映して安価な商品を提供している。これに対し、ネ・ネットは原点に帰って素資材の開発や企画デザイン、縫製に時間とコストをかけ、高品質やクリエーション訴求にシフトしようとしている。違うのはこれくらいだ。

 どんなマーケットを狙うかによって、SPAの手法は変わって来る。ただ、90年代には、生産コストの安い中国に製造が移転し、企画デザインと調達を担うODM(受託製造業者)が急増したため、すべてをここに丸投げするSPA事業者が主流となった。ところが、2000年代には競争の激化で、こうしたSPAはさらなるコスト圧縮や原価率の切り下げに走り、結果的に商品の劣化と似たようなブランドの乱立で、多くが販売不振に陥ってしまったのである。


 そして、2020年代を迎えようとする今、勝ち組だったユニクロにも壁が立ちはだかりつつある。18年の9~11月(19年8月期第一四半期) の国内既存店売上高(EC含む)は、95.7%と前年同期比で12.7ポイントも減少。アジア事業は好調に推移しているが、国内市場は苦戦し始めた兆候だろう。変わり映えしない素材、陳腐化した企画デザインはお客に飽かれ、売場に並ぶ膨大な在庫は、割引しないと消化できなくなっているのだ。

 お客からすれば、これまでは安さと実用性でユニクロを買っていたが、さらに安いブランドが他にもたくさんあるから、値下げを待って買えば十分だとなる。また、インターネットの発達で、オークションやC2C売買は消費者に広く浸透した。成熟したお客は選択肢が広がった分、色、素材、デザインで変わり映えしないユニクロより、もっと安くてデザインが優れたブランドに目移りし始めているのは間違いない。

 小島氏は、かねてからユニクロのビジネスモデルを「圧倒的なバリュー創造を目指して長射程(射程とは発注から納品までのリードタイム)・大ロット・ローコストの調達を行うプッシュ型で、消化率や商品回転率が低い」と、指摘されていた。完成度と価格を両立させるために時間をかけて作っても企画が当たればいいが、端から消化率や回転率が低いのだから、外せば大量に抱える在庫を値引きして捌くしかない。それはギャップも同じだ。全く痛し痒しなのである。

 そもそもユニクロは、企画から生産段階の価値創造に軸足を置いているので、必ずしもトレンドやお客の嗜好の変化に合致するものではない。同じような商品が市場に溢れると、マーケットリーダーとしてのポジションが失われる宿命なのだ。SPAの事業モデルとしては古典的だから、ついにその時が来たと言わないまでも、いずれ商品政策が限界に来てしまってもおかしくない。

 先頃、ユニクロUの2019春夏商品が発表されたが、商品企画はシルエットが太めになり、柄物、リネン(レーヨン混も)、スキッパーやサロペットが新たに加わったくらいで、色も素材感も目新しさは感じない。頭打ちになる要素はいくらも見えて来る。

 一方、デザイナーブランドのネ・ネットも、創って売り減らしていく点では、古典的SPAモデルである。「圧倒的なバリュー創造を目指す」も、デザイナーが作るクリエーションという価値を訴えて需要を創造していく意味では同じだろうか。

 SPAの直営店事業としてブランドが大きくなり、中国生産、大ロット発注、売れ残り在庫のセール消化への反省から、国内生産、小ロットに切り変えていく点は異なる。昨年はTOKYO BASEの国内生産、原価率50%が業界で話題を振りまき、注目された。

 しかし、それらはあくまで手段であって、目的であってはならないはずだ。成熟したお客が求めるのは他のブランドにはないクリエーションであり、ビジネスとしてそれが需要を創造できるかにかかっている。そのための手段としての国内生産、原価率50%に意味があるのだ。

 ただ、クリエーションが必ずしも需要を創造できるとは言い切れない。外せば在庫を抱えてしまうことには変わりなく、リスキーでギャンブルなのも同じだ。ネ・ネットは自社での企画デザインに加え、国内生産にシフトすることで、商品のクオリティを徹底することは可能だが、企画を練り直したり、サンプルを何度も作り直すため、商品化のスピードは遅くなり、1シーズン4〜5回程度しか投入できない。

 また、生地から国内の機屋と組んで作るというから、リードタイムはさらに長くなり国内生産、ロットの減少でコストは大幅にアップするだろう。それらは販売価格にはね返っていくわけだが、値段が上がっても上質さやクリエーションを求めるお客をいるはずだから、じっくり売っていけばいいのだ。

 成熟したお客は何も日本人だけとは限らない。アジアの富裕層も、そろそろ欧米のグローバルブランドから、体形が近い日本のデザイナーブランドにシフトし始める可能性は高いと思う。このまま円安が続いてくれると、ネ・ネットのようなデザイナーブランドは、インバウンド効果を十分に享受できるはず。これからがチャンスだと前向きに考えればいいのではないか。

 小島氏は常々、ファッションとは「ローカルなもの」と、仰っている。このローカルとは、地方という意味ではなく、グローバルに対してのローカルだ。ルイ・ヴィトンやエルメスといったラジュアリーブランド、ZARAやH&Mのようなファストファッションは、世界マーケットを狙うグローバルなものだが、それらが必ずしも日本人のすべてを攻略しているわけではない。体型や好みは国、民族、地域で様々だからだ。

 最近は苦戦しているものの、アダストリアやストライプインターナショナルの方がはるかに日本人には好まれているし、売れている。つまり、日本人というローカルなお客には、デザインやテイスト、素材、色などを絞り込んだローカルな手法の方が合っているという証左だ。その意味では日本人のクリエーターが創るデザイナーブランドの方が日本人の嗜好に合致するという必然性が隠れているのではないか。もちろん、ビジネスとしてはアジアの人々まで攻略していく必要はあるが。

 価格が割高なデザイナーブランドであろうが、商品を短サイクルで作って回転率を上げるチェーン店であろうが、アイテムはローカルに焦点を絞って作り、それを感じたお客に「コレ、いいね」「他は作らないよね」と思ってもらえる需要を創造していく。グローバルSPAが狙わないようなローカルでニッチな市場、自ブランドやショップのキャラを生かしてターゲットや時代の流れに合ったビジネスを追求した方が勝算は高いのではないだろうか。

 大多数のお客にとってもいろんなファッションがピンキリあって目移りする方が選ぶ楽しさはあるはずだ。2019年のアパレルビジネスはそうあって欲しいし、それが業界復活の一歩であることを願って止まない。

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