怖れていたことがついに現実のものとなった。2月20日、筆者が生活する福岡市中央区で60代の夫婦が新型コロナウイルス(covid-19)に感染していることが確認された。この夫婦は中国を含め最近の海外渡航歴はないという。福岡市は「感染経路の特定が難しく、市中感染の可能性は否定できない」としたが、ならば1月24日からの春節休暇で中国人旅行者を受け入れたことがいちばんの要因でないかとの疑念を持つ。
ここでは感染までの詳細については省略する。重要なのは今後の感染リスクとその対処法だ。福岡市は「妻がパートで働く勤務先の濃厚接触者を調べ、また夫の外出時の行動についても個人が特定されない範囲で明らかにしたい」と表明した。単純に考えて、パート勤務の妻の方が濃厚接触者が多いはずだから、無職の夫からうつされたというより、第三者から感染した可能性は高いと思われる。
WHO(世界保険機関)によると、潜伏期間は1〜12.5日。仮に休暇初日の1月24日に福岡にウイルスが持ち込まれ直後に誰かに感染したのであれば、最大で2月5日まで潜伏する。だが、5日から20日までは福岡では感染者が出ていないので、60代の妻は5日以降に市中感染し潜伏期間を経て、夫にうつしたのではないかと推察される。妻が接触した人々が潜伏期にあるとすれば、これからも発症する人が出る可能性もあるのだ。
厚生労働省は1月末の時点では、PCR検査(微量の病原体を調べる検査)をすべて行っていたわけではなかった。つまり、誰が感染して誰が感染していないかなど、判るはずはないのだ。2月に入り感染者が増え始め、ここに来てPCR検査の体制を1日3000件まで維持・獲得と発表したが、検査精度については完璧ではないという医療関係者もいる。現に陰性と判断されてもその後に発症しているケースがあるからだ。
今となっては日本政府が観光立国、インバウンド消費を優先するあまりに新型コロナウイルスについて危機感が低かったと思う。チャーター機での帰国組やクルーズ船の乗客を除き、中国に渡航歴のない人にまで感染者が広がっている点を見ると、中国人旅行者の入国を一律で拒否しなかったことも、感染の要因として挙げられる。サーモグラフィーによる入国者の発熱チェック程度では、何の対策にもならなかったということだ。
ただ、政府の初期対応のミスや後手後手の対策を批判するのは簡単である。今はもう封じ込めは無理との判断で、次のプロセスに向かわなければならない。それはこれ以上、拡大させないことである。
すでに福岡市は感染症危機管理対策本部の会議を開き、朝夕に混雑する公共交通機関が感染ルートになる可能性もあることから、職員には時差出勤を推奨し福岡商工会議所にも実施を要請した。また、公式HPのトップページに「新型コロナウイルスに関連したお知らせ」と題したコーナーを開設。感染者夫婦についての症状や経過、市民や事業所への感染症対策などを公開している。
今後の対応としては、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため,2月20日から当面1か月の間に福岡市が主催するものは,原則中止もしくは延期といたします」として、中止や延期を決めた福岡市主催のイベント・行事等(随時更新)を列挙している。
訪日中国人を呼ぶ最大リスク
3月6日からは「ファッションマンス福岡アジア2020」(29日まで)が開催されることになっている。(https://f-month.com/)このコラムを書いている2月26日朝5時の時点で、主催の福岡アジアファッション拠点推進会議、共催の福岡県、福岡市とも、イベントについて全面的な中止も延期も発表していない。おそらく推進会議、自治体の担当部局、We Love 天神協議会、RKB毎日放送、各商業施設、イベント事業者の間で協議が続けられているはずだ。
ただ、主催者側にとっては3月末で年度が変わるため、自治体からの補助金を使い切らなければならない。そう考えるとけつカッチンで延期は無理で、開催か、中止かのどちらかしかない。福岡市は早々と3月28日、29日に開催の「福岡ストリートパーティー〜ファッションアベニュー」 の中止を決定(年度末で延期は無理)した。28日の部はRKB毎日放送がプロデュースするFACo(福岡アジアコレクション)の一部「Street FACo」と思われる。29日はWe Love 天神協議会主催のものだろうか。イベントの目玉企画の一つが没になったわけだが、市が中止を先に発表したのは、資金面で補助をしているからだと思われる。
ファッションマンス福岡アジアは、一昨年までは「ファッションウィーク福岡」として実施されていた。昨年から春節休暇で福岡を訪れる中国人旅行者のインバウンド需要を見込んで、期間を1カ月弱に拡大。今年はその中国人から新型コロナウイルスを持ち込まれるかもしれず飛沫や接触による感染、また市中感染が非常に危惧されるのだ。日本政府は「中国の湖北省、浙江省発行の中国旅券を所持する外国人、または両省への滞在歴のある外国人の入国を禁止する」というのを「他の地域にまで拡大する」方向との情報もあるが、2月25日の時点では決定されていない。
他の地域からについては「質問・診察の実施、患者等の隔離・停留のほか、航空機等に対する消毒等の措置を講じる」ものの、入国そのものはが拒否されているわけではない。当然、ファッションマンス福岡アジアも中国人旅行者を呼び込むと公言している以上、無症状病原体保有者や潜伏期にある人の来場、そして接触は十分にあり得るのだ。アジア経済に詳しい方によると中国全土にウイルスを運んだのは、アクティブな浙江省の温州商人との説もあるとか。福岡には上海からたくさんの温州人が来ているわけで、感染リスクは計り知れないということになる。
イベントは天神および博多駅地区他で、個々に開催されるファッション系の催しをファッションマンス福岡アジアの冠をもとに統一させたものだ。RKB毎日放送やWe Love 天神協議会が天神の「きらめき通り」で開催予定だったファッションショーは、ほぼ中止で間違いない。だが、イムズ(3月6日〜9日)、博多阪急(11日〜17日)のポップアップショップ、着物の糸や織りを再利用したトートバッグ作りのワークショップ(7日)、福岡美術館でARAKI SHIRO氏のファッションショー&トークショー(14日)、FACoの別企画としてソラリアプラザでの人気モデルによるファッションショー&トークショー、別会場でのクラブパーティー(28日)は、今のところは開催予定だ。(2月25日の時点)
屋外でのファッションショーを除けば、すべてインドアでのイベントになる。厚労省は、「屋内などで参加者同士が十分距離を撮れないまま一定時間いることが感染リスクを高める」とする注意事項を列記した文書を公表した。つまり、屋内しかも限られた空間で行われるポップアップショップやトークショー、クラブイベントは、屋外でのファッションショーよりも新型コロナウイルスへの感染リスクが非常に危惧されるのだ。厚労省は25日、「今後は患者の集団が確認された地域などでは、関係する施設やイベントなどの自粛を検討していただくこともお願いする」と、それまでの自粛を求めない方針を転換した。
だが、福岡アジアファッション拠点推進会議がイベント中止を即断できないのは、いろんな利害が絡んでいるためと考えられる。推進会議の母体は福岡商工会議所。各イベントを展開する商業施設は会員企業でもあり、インバウンドの減退や県内消費の冷え込みを不安視して、中止に二の足を踏むことはあるだろう。自治体主催のイベントとは事情が異なり、厚労省が一律の自粛を求めないことを拠り所にしたいのはわからないでもない。
しかし、開催すれば非感染者と感染者との接触リスクを高め、無症状病原体保有者や潜伏期にある人がイベントを来場し、接触することも考えられる。感染症に詳しい医療関係者の話では、「若年層は比較的感染しにくい」という。だから、主催者側は若者を対象とするイベントでは、それほど神経質にならなくていいと高を括っているのか。それとも、市中感染しても、イベントとの因果関係を示すものは何もないと、押し通すのだろうか。
人々が行き交う商業施設で咳やくしゃみをして飛沫にウイルスが含まれていれば、数十個から数百個の菌が充満するわけで、吸い込んだ人の感染リスクはより高くなる。咳エチケットを推奨しても、病原体保有の可能性がある中国人旅行者にまで徹底されるとは思えない。また潜伏期にある人々が訪れるかもしれないイベントに出かければ、「どうぞ、私に感染してください」と、言っているようなもの。現に北海道や熊本のケースでは、20代の女性が重篤になっている。正確なところは不明で、今の状況で判断するしかないのである。
ウイルスを持ち込むのは、中国人、日本人とは限らない。福岡は通年で韓国人旅行者が多い。韓国人の感染者は2月25日の時点で、1000人に迫る勢いだが、日本への入国は2月25日現在、禁止されてはいない。福岡への渡航手段は飛行機だけでなく、フェリーや高速船ビートルもあるので、病原体保有者や潜伏期にある人がいた場合、感染がさらに拡大する怖れがある。
開催場所の天神や博多駅は繁華街で、昼間の人口集積は爆発的に多い。約1カ月のイベント期間中に新たな感染者を出さないとも限らないのだ。そもそも、これだけ感染者が増えている現状を考えると、イベントが期待通りの集客をはたし賑わいを創出して、インバウンド需要を取り込めるかも疑わしい。すでに高齢者の来店が減った百貨店もあるくらいだ。マスクをしていない中国人旅行者なんて、怖くて近づけないのが地元民の本音だと思うが。
開催強行の大義はない
ファッションマンスのしんがりに開催が予定されているFACo。従来は福岡国際センターで行われてきたが、今年のショーは天神の「きらめき通り」「ソラリアプラザ」「クラブ」での開催と、規模は大幅に縮小された。理由はわからないが、福岡市が一連のイベント支援に拠出する「経済観光文化費」が令和2年度には約25億円も削減される。そのため、補助金の減額を見込んで、元年度から低予算の企画に舵を切ったのだろうか。(https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/73586/1/04.R2keisuushiryou.pdf?20200213220202)
福岡の中心部に他地域から集客を図り、消費を促すというファッションマンスの目的からすれば、それに寄与する企画でなければならない。今回はそれに添ったとも考えられる。ただ、ストリートパーティが天神のど真ん中でオープン開催されることになって、中止また延期を余儀なくされたのは全く皮肉な話だ。会場がきらめき通りで不特定多数が観覧できることを考えると、屋外でも感染リスクがあるからだろう。ソラリアプラザやクラブでのイベントは25日の時点で中止も延期も決まっていないが、屋内なのでこちらの方がリスクは高いと言える。
ソラリアプラザでのイベントには、モデルの江野沢愛美や松川菜々花がゲスト出演する予定だ。来場者はチケット料を払わずに街中でモデルが見られるわけで、集客の目玉と言ってもいい。ただ、ヘアメイクやフィッティングのために控え室に待機し、スタッフとの濃厚接触もあり得る。感染リスクが高いイベントにタレントを送り込むことには、むしろ事務所側が難色を示すのではないか。CanCam専属モデルの宮本茉由が出演予定だったストリートパーティーは、早々と中止に傾いた。FACoをオープン開催にしたために、所属タレントが新型肺炎に罹患したでは泣き面に蜂どころではない。他の2つの企画も開催は微妙なところだろう。
もっとも、FACoには「前科」がある。2011年3月11日に発生した東日本大震災で、数々のイベントが中止された。ところが、RKB毎日放送は地震発生から3日目の夜10時過ぎ、TBSの地震報道番組中に「商業施設やイベント会場で明日から…地震の義援金を呼びかけ。福岡県や福岡市の庁舎にも募金箱を設置」との臨時ニュースを流し、暗にFACoの開催を示唆した。
FACoのベースとなった神戸コレクションは、震災翌日の12日に開催するはずだった東京でのショーを中止している。この企画制作にあたっていた「㈱アイグリッツ」はFACoも担当していた。中止すればRKB毎日放送共々事業収益がゼロになるし、チケットの払い戻しやタレントの出演キャンセルなどに忙殺される。結局、関係者のいろんな利害が絡み合って、FACoの開催は強行された。
じゃあ、義援金はどれほど集まったのか。FACo2011をスポンサードした地場化粧品メーカー「HRK」は、会場に設けた同社ブースでの売上金と義援金を合わせた1000万円を贈呈した。他にもスポンサー数社が義援金が贈ったとの報道があった。ただ、これらは会場で募金されたものではなく、スポンサーが福岡アジアコレクション事務局を通して、
日本赤十字社福岡県部長の麻生渡福岡県知事(当時)に手渡したものだ。https://www.0120041010.com/information/detail/i/109/start/340/
では、会場で集められた義援金はどうだったのか。福岡アジアファッション拠点推進会議は公式サイトで、「当日の会場内では、震災復興のための募金活動も行い、多くの方から寄付が寄せられました」と報告しただけで、具体的な金額を公表していない。http://www.fa-fashion.jp/index.php?action_detail_index=true&doc_id=158また、RKB毎日放送は後日、FACoのオフィシャルサイトで、「70数万円ほど」集まった義援金について報告した。ただ、これは会場のキャパが約8000人、一人100円を募金すれば達する金額でもある。はてして偶然なのか。それとも意図的なのか。いかにも出来過ぎた感じがしないでもない。
推進会議も「出演者やスタッフからも義援金が寄せられた」と言っているので、募金は観客だけでないのはわかる。タレントはもちろん、ヘアメイクやフィッターなどのスタッフ、音響照明、舞台装置などの企業関係者も仕事をもらっている以上、FACoのプロデューサーから要請されれば募金をしたと考えられる。それが70数万円に上ったのだ。だが、「義援金呼びかけ」をイベント開催の大義にしただけに会場での募金額が関係者に比べて、あまりに低かったのであれば、推進会議もRKB毎日放送も示しがつかない。というか、赤っ恥ものになる。だから、正確な金額を公表できなかったのではないかと、思えてならない。
まあ、地震は地域が限定されるし、イベント自粛への批判論を味方に付けて、利害関係者が開催を強行することはできた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が自然災害と異なるのは、誰の目からも明らかだ。福岡市が罹患者夫婦の感染ルートを特定すれば、各自が不要不急の外出を避けなければならないし、それ以上の感染を抑えることが不可欠になる。天神や博多駅のように昼間の人口が密集し、人ごみが多い場所では人同士が十分距離を取れないまま一定時間いることを止めるしか、感染を防ぐ手だてはない。つまり、今回はイベントを開催する大義など、全くないのである。
このコラムを書いているのは、2月26日朝5時過ぎ。関係者による協議、調整は、これからも続くと思う。無理に開催してもし感染者を出せば、イベントが感染ルートに特定されるだろうし、その余波は止めどなく某大になる。もしかしたら、「ファッションマンス福岡アジアは、パンデミックイベント禍」と、末代まで言われ続けるかもしれない。主催者側の賢明な判断は待ったなしである。
追記:福岡アジアファッション拠点推進会議は2月27日、ファッションマンス福岡アジア2020および福岡アジアコレクション(FACo)2020について、全ての事業の中止を決定し、発表した。
ここでは感染までの詳細については省略する。重要なのは今後の感染リスクとその対処法だ。福岡市は「妻がパートで働く勤務先の濃厚接触者を調べ、また夫の外出時の行動についても個人が特定されない範囲で明らかにしたい」と表明した。単純に考えて、パート勤務の妻の方が濃厚接触者が多いはずだから、無職の夫からうつされたというより、第三者から感染した可能性は高いと思われる。
WHO(世界保険機関)によると、潜伏期間は1〜12.5日。仮に休暇初日の1月24日に福岡にウイルスが持ち込まれ直後に誰かに感染したのであれば、最大で2月5日まで潜伏する。だが、5日から20日までは福岡では感染者が出ていないので、60代の妻は5日以降に市中感染し潜伏期間を経て、夫にうつしたのではないかと推察される。妻が接触した人々が潜伏期にあるとすれば、これからも発症する人が出る可能性もあるのだ。
厚生労働省は1月末の時点では、PCR検査(微量の病原体を調べる検査)をすべて行っていたわけではなかった。つまり、誰が感染して誰が感染していないかなど、判るはずはないのだ。2月に入り感染者が増え始め、ここに来てPCR検査の体制を1日3000件まで維持・獲得と発表したが、検査精度については完璧ではないという医療関係者もいる。現に陰性と判断されてもその後に発症しているケースがあるからだ。
今となっては日本政府が観光立国、インバウンド消費を優先するあまりに新型コロナウイルスについて危機感が低かったと思う。チャーター機での帰国組やクルーズ船の乗客を除き、中国に渡航歴のない人にまで感染者が広がっている点を見ると、中国人旅行者の入国を一律で拒否しなかったことも、感染の要因として挙げられる。サーモグラフィーによる入国者の発熱チェック程度では、何の対策にもならなかったということだ。
ただ、政府の初期対応のミスや後手後手の対策を批判するのは簡単である。今はもう封じ込めは無理との判断で、次のプロセスに向かわなければならない。それはこれ以上、拡大させないことである。
すでに福岡市は感染症危機管理対策本部の会議を開き、朝夕に混雑する公共交通機関が感染ルートになる可能性もあることから、職員には時差出勤を推奨し福岡商工会議所にも実施を要請した。また、公式HPのトップページに「新型コロナウイルスに関連したお知らせ」と題したコーナーを開設。感染者夫婦についての症状や経過、市民や事業所への感染症対策などを公開している。
今後の対応としては、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため,2月20日から当面1か月の間に福岡市が主催するものは,原則中止もしくは延期といたします」として、中止や延期を決めた福岡市主催のイベント・行事等(随時更新)を列挙している。
訪日中国人を呼ぶ最大リスク
3月6日からは「ファッションマンス福岡アジア2020」(29日まで)が開催されることになっている。(https://f-month.com/)このコラムを書いている2月26日朝5時の時点で、主催の福岡アジアファッション拠点推進会議、共催の福岡県、福岡市とも、イベントについて全面的な中止も延期も発表していない。おそらく推進会議、自治体の担当部局、We Love 天神協議会、RKB毎日放送、各商業施設、イベント事業者の間で協議が続けられているはずだ。
ただ、主催者側にとっては3月末で年度が変わるため、自治体からの補助金を使い切らなければならない。そう考えるとけつカッチンで延期は無理で、開催か、中止かのどちらかしかない。福岡市は早々と3月28日、29日に開催の「福岡ストリートパーティー〜ファッションアベニュー」 の中止を決定(年度末で延期は無理)した。28日の部はRKB毎日放送がプロデュースするFACo(福岡アジアコレクション)の一部「Street FACo」と思われる。29日はWe Love 天神協議会主催のものだろうか。イベントの目玉企画の一つが没になったわけだが、市が中止を先に発表したのは、資金面で補助をしているからだと思われる。
ファッションマンス福岡アジアは、一昨年までは「ファッションウィーク福岡」として実施されていた。昨年から春節休暇で福岡を訪れる中国人旅行者のインバウンド需要を見込んで、期間を1カ月弱に拡大。今年はその中国人から新型コロナウイルスを持ち込まれるかもしれず飛沫や接触による感染、また市中感染が非常に危惧されるのだ。日本政府は「中国の湖北省、浙江省発行の中国旅券を所持する外国人、または両省への滞在歴のある外国人の入国を禁止する」というのを「他の地域にまで拡大する」方向との情報もあるが、2月25日の時点では決定されていない。
他の地域からについては「質問・診察の実施、患者等の隔離・停留のほか、航空機等に対する消毒等の措置を講じる」ものの、入国そのものはが拒否されているわけではない。当然、ファッションマンス福岡アジアも中国人旅行者を呼び込むと公言している以上、無症状病原体保有者や潜伏期にある人の来場、そして接触は十分にあり得るのだ。アジア経済に詳しい方によると中国全土にウイルスを運んだのは、アクティブな浙江省の温州商人との説もあるとか。福岡には上海からたくさんの温州人が来ているわけで、感染リスクは計り知れないということになる。
イベントは天神および博多駅地区他で、個々に開催されるファッション系の催しをファッションマンス福岡アジアの冠をもとに統一させたものだ。RKB毎日放送やWe Love 天神協議会が天神の「きらめき通り」で開催予定だったファッションショーは、ほぼ中止で間違いない。だが、イムズ(3月6日〜9日)、博多阪急(11日〜17日)のポップアップショップ、着物の糸や織りを再利用したトートバッグ作りのワークショップ(7日)、福岡美術館でARAKI SHIRO氏のファッションショー&トークショー(14日)、FACoの別企画としてソラリアプラザでの人気モデルによるファッションショー&トークショー、別会場でのクラブパーティー(28日)は、今のところは開催予定だ。(2月25日の時点)
屋外でのファッションショーを除けば、すべてインドアでのイベントになる。厚労省は、「屋内などで参加者同士が十分距離を撮れないまま一定時間いることが感染リスクを高める」とする注意事項を列記した文書を公表した。つまり、屋内しかも限られた空間で行われるポップアップショップやトークショー、クラブイベントは、屋外でのファッションショーよりも新型コロナウイルスへの感染リスクが非常に危惧されるのだ。厚労省は25日、「今後は患者の集団が確認された地域などでは、関係する施設やイベントなどの自粛を検討していただくこともお願いする」と、それまでの自粛を求めない方針を転換した。
だが、福岡アジアファッション拠点推進会議がイベント中止を即断できないのは、いろんな利害が絡んでいるためと考えられる。推進会議の母体は福岡商工会議所。各イベントを展開する商業施設は会員企業でもあり、インバウンドの減退や県内消費の冷え込みを不安視して、中止に二の足を踏むことはあるだろう。自治体主催のイベントとは事情が異なり、厚労省が一律の自粛を求めないことを拠り所にしたいのはわからないでもない。
しかし、開催すれば非感染者と感染者との接触リスクを高め、無症状病原体保有者や潜伏期にある人がイベントを来場し、接触することも考えられる。感染症に詳しい医療関係者の話では、「若年層は比較的感染しにくい」という。だから、主催者側は若者を対象とするイベントでは、それほど神経質にならなくていいと高を括っているのか。それとも、市中感染しても、イベントとの因果関係を示すものは何もないと、押し通すのだろうか。
人々が行き交う商業施設で咳やくしゃみをして飛沫にウイルスが含まれていれば、数十個から数百個の菌が充満するわけで、吸い込んだ人の感染リスクはより高くなる。咳エチケットを推奨しても、病原体保有の可能性がある中国人旅行者にまで徹底されるとは思えない。また潜伏期にある人々が訪れるかもしれないイベントに出かければ、「どうぞ、私に感染してください」と、言っているようなもの。現に北海道や熊本のケースでは、20代の女性が重篤になっている。正確なところは不明で、今の状況で判断するしかないのである。
ウイルスを持ち込むのは、中国人、日本人とは限らない。福岡は通年で韓国人旅行者が多い。韓国人の感染者は2月25日の時点で、1000人に迫る勢いだが、日本への入国は2月25日現在、禁止されてはいない。福岡への渡航手段は飛行機だけでなく、フェリーや高速船ビートルもあるので、病原体保有者や潜伏期にある人がいた場合、感染がさらに拡大する怖れがある。
開催場所の天神や博多駅は繁華街で、昼間の人口集積は爆発的に多い。約1カ月のイベント期間中に新たな感染者を出さないとも限らないのだ。そもそも、これだけ感染者が増えている現状を考えると、イベントが期待通りの集客をはたし賑わいを創出して、インバウンド需要を取り込めるかも疑わしい。すでに高齢者の来店が減った百貨店もあるくらいだ。マスクをしていない中国人旅行者なんて、怖くて近づけないのが地元民の本音だと思うが。
開催強行の大義はない
ファッションマンスのしんがりに開催が予定されているFACo。従来は福岡国際センターで行われてきたが、今年のショーは天神の「きらめき通り」「ソラリアプラザ」「クラブ」での開催と、規模は大幅に縮小された。理由はわからないが、福岡市が一連のイベント支援に拠出する「経済観光文化費」が令和2年度には約25億円も削減される。そのため、補助金の減額を見込んで、元年度から低予算の企画に舵を切ったのだろうか。(https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/73586/1/04.R2keisuushiryou.pdf?20200213220202)
福岡の中心部に他地域から集客を図り、消費を促すというファッションマンスの目的からすれば、それに寄与する企画でなければならない。今回はそれに添ったとも考えられる。ただ、ストリートパーティが天神のど真ん中でオープン開催されることになって、中止また延期を余儀なくされたのは全く皮肉な話だ。会場がきらめき通りで不特定多数が観覧できることを考えると、屋外でも感染リスクがあるからだろう。ソラリアプラザやクラブでのイベントは25日の時点で中止も延期も決まっていないが、屋内なのでこちらの方がリスクは高いと言える。
ソラリアプラザでのイベントには、モデルの江野沢愛美や松川菜々花がゲスト出演する予定だ。来場者はチケット料を払わずに街中でモデルが見られるわけで、集客の目玉と言ってもいい。ただ、ヘアメイクやフィッティングのために控え室に待機し、スタッフとの濃厚接触もあり得る。感染リスクが高いイベントにタレントを送り込むことには、むしろ事務所側が難色を示すのではないか。CanCam専属モデルの宮本茉由が出演予定だったストリートパーティーは、早々と中止に傾いた。FACoをオープン開催にしたために、所属タレントが新型肺炎に罹患したでは泣き面に蜂どころではない。他の2つの企画も開催は微妙なところだろう。
もっとも、FACoには「前科」がある。2011年3月11日に発生した東日本大震災で、数々のイベントが中止された。ところが、RKB毎日放送は地震発生から3日目の夜10時過ぎ、TBSの地震報道番組中に「商業施設やイベント会場で明日から…地震の義援金を呼びかけ。福岡県や福岡市の庁舎にも募金箱を設置」との臨時ニュースを流し、暗にFACoの開催を示唆した。
FACoのベースとなった神戸コレクションは、震災翌日の12日に開催するはずだった東京でのショーを中止している。この企画制作にあたっていた「㈱アイグリッツ」はFACoも担当していた。中止すればRKB毎日放送共々事業収益がゼロになるし、チケットの払い戻しやタレントの出演キャンセルなどに忙殺される。結局、関係者のいろんな利害が絡み合って、FACoの開催は強行された。
じゃあ、義援金はどれほど集まったのか。FACo2011をスポンサードした地場化粧品メーカー「HRK」は、会場に設けた同社ブースでの売上金と義援金を合わせた1000万円を贈呈した。他にもスポンサー数社が義援金が贈ったとの報道があった。ただ、これらは会場で募金されたものではなく、スポンサーが福岡アジアコレクション事務局を通して、
日本赤十字社福岡県部長の麻生渡福岡県知事(当時)に手渡したものだ。https://www.0120041010.com/information/detail/i/109/start/340/
では、会場で集められた義援金はどうだったのか。福岡アジアファッション拠点推進会議は公式サイトで、「当日の会場内では、震災復興のための募金活動も行い、多くの方から寄付が寄せられました」と報告しただけで、具体的な金額を公表していない。http://www.fa-fashion.jp/index.php?action_detail_index=true&doc_id=158また、RKB毎日放送は後日、FACoのオフィシャルサイトで、「70数万円ほど」集まった義援金について報告した。ただ、これは会場のキャパが約8000人、一人100円を募金すれば達する金額でもある。はてして偶然なのか。それとも意図的なのか。いかにも出来過ぎた感じがしないでもない。
推進会議も「出演者やスタッフからも義援金が寄せられた」と言っているので、募金は観客だけでないのはわかる。タレントはもちろん、ヘアメイクやフィッターなどのスタッフ、音響照明、舞台装置などの企業関係者も仕事をもらっている以上、FACoのプロデューサーから要請されれば募金をしたと考えられる。それが70数万円に上ったのだ。だが、「義援金呼びかけ」をイベント開催の大義にしただけに会場での募金額が関係者に比べて、あまりに低かったのであれば、推進会議もRKB毎日放送も示しがつかない。というか、赤っ恥ものになる。だから、正確な金額を公表できなかったのではないかと、思えてならない。
まあ、地震は地域が限定されるし、イベント自粛への批判論を味方に付けて、利害関係者が開催を強行することはできた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が自然災害と異なるのは、誰の目からも明らかだ。福岡市が罹患者夫婦の感染ルートを特定すれば、各自が不要不急の外出を避けなければならないし、それ以上の感染を抑えることが不可欠になる。天神や博多駅のように昼間の人口が密集し、人ごみが多い場所では人同士が十分距離を取れないまま一定時間いることを止めるしか、感染を防ぐ手だてはない。つまり、今回はイベントを開催する大義など、全くないのである。
このコラムを書いているのは、2月26日朝5時過ぎ。関係者による協議、調整は、これからも続くと思う。無理に開催してもし感染者を出せば、イベントが感染ルートに特定されるだろうし、その余波は止めどなく某大になる。もしかしたら、「ファッションマンス福岡アジアは、パンデミックイベント禍」と、末代まで言われ続けるかもしれない。主催者側の賢明な判断は待ったなしである。
追記:福岡アジアファッション拠点推進会議は2月27日、ファッションマンス福岡アジア2020および福岡アジアコレクション(FACo)2020について、全ての事業の中止を決定し、発表した。