HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ビジネスを作り変える。

2023-11-29 07:29:17 | Weblog
 WEGOは今年からリメイク古着の販売を本格化させた。これまでは袖や裾に汚れがあってそのままでは販売できないものをノースリーブにしたり、裾をカットして販売していた。それらのリメイク古着が人気だったことで、この春夏からはそのままでは販売に適さないものの袖、身頃、ディテールなど使える部分を活用。新しいデザインのリメイク古着に作り変え、販売を始めたのだ。

 WEGOは大阪の拠点に企画デザイン、縫製の施設を設け、デザイナーを加えたリメイクチームを編成。先にアイデアを出し合った上で、売りものにならない在庫の中からリメイクに適したものをピックアップし、商品化している。併せて、不良在庫をできるだけ出さず、SDGsにも取り組めるという利点もアピールする。

 リメイクは当初、全部で37型、価格は最高で約25,000円と割高だったが、次第に2000円〜4000円くらいのものを作り始めた。リメイク古着はWEGOの新品との相性も良いことから、顧客には好評なようで、売上げにも貢献している。古着を扱わない店舗にも置くことで、販路拡大も視野に入れているそうだ。

 現在ではリメイクのための商品買い付けもスタートさせ、計画的な生産を進めているとのこと。これはWEGOがこれまで取ってきたビジネスモデルが下敷きになっていると思う。同社は1994年、大阪ミナミのアメリカ村で産声を上げ、東京・下北沢進出を皮切りに全国展開の古着店となった。ただ、古着店の性格からして店を増やせば、人気のブランドやアイテムはどうしても在庫が安定しなくなる。買取に注力したからと言っても、限界があるのだ。



 そこで、在庫を安定させるために、洗いをかけるなどユーズド風のストリートカジュアルも取り扱い始めた。その手法はODM(相手先デザイン製造)調達で、デッドストック素材を活用したり、デッドストック製品のをリメイクすることで、エッジが効いたトレンド商品を低価格で打ち出すもの。デザイナーもの、アメカジ、ヴィンテージなど数々の古着を扱うことで磨かれた感性がユーズド風の商品作りにも生きたわけだ。

 こうしたノウハウを蓄積してきたからこそ、リメイクのための商品の買い付ける上でも、目利きが働く。欧米のメゾンデザイナーがテキストタイル展で新作の生地を見た瞬間にクリエーションのイメージが湧くのと同じように、古着を見ただけで「こうリメイクしたら、お洒落なアイテムになるかも」といったアイデアが浮かぶのだろう。古着を選り抜くことでインスピレーションが広がり、商品企画に繋げていくフローとでも言おうか。

 WEGOがリメイク古着に注力するには、社内デザイナーがどこまでのクリエイティビティを発揮できるか。また、縫製まで手がけることで、服としても完成度を高めていけるか。今後はそれらがカギになるわけだが、新品を手がけるのとは違った感性やノウハウも磨いていかなければならないのは確かだろう。


古着人気の反動が来ている

 もっとも、ここに来て古着ビジネスに逆風が吹き始めている。若者を中心に好調に売れているため仕入れ競争に拍車がかかる中、もともとの供給量には限界があることから、取引価格が上昇しているのだ。古着は中古車と似ている。新車が売れないと、必然的に中古車の在庫も増えない。だから、ハイエースなどの人気の車種は中古価格がアップする。古着も人気ブランドや比較的状態がいいアイテムは、引き合いも多いため仕入れ価格も上がっていくのだ。

 衣料品の1世帯当たり購入数量は、バブル期の1985年を100としたとき、94年をピークに98年まで低下が続いた。97年以降は85年の水準をも下回っている。また、購入価格も98年以降は低下が続き、2000年は85年以下の90%台まで低下している。背景にはアジア製品などの安価な商品が輸入されていったことがある。こうして適度な品質の商品が流通すると、多くの消費者はそれらで十分との意識に変わり、数量、金額とも下がっていったのだ。

 一方、安価な衣料は1~2シーズンで着古すため、廃棄されるケースが圧倒的に多い。昨年くらいからは物価高が影響し、衣料品にそこまで投資できないことから、着用シーズンをもう1~2シーズン伸ばす消費者が増えている。そうなると、ますます中古衣料としての利用は困難になる。逆に若者が好むような古着はブランド物など元々の品質がいいものに限られ、出回るのは古着全体の一部に過ぎない。国内でそうしたブランドの新品がインバウンドを主体に売れていけば、なおさら中古品として流通するケースは少なくなる。

 国内アパレルの低価格ブランドはどこも同じようなテイストやカラーで、古着になればなるほど人気を欠いてしまう。せいぜいメルカリなどで個人売買される程度だ。そのため、コアな古着ファンはユーロ、アメカジ、ビンテージなどお洒落で個性的なデザインを求め、多少高くても購入する。こうした状況から、販売業者は輸入古着に頼らざるを得なくなっている。

 現に2022年の古着の輸入量は1万トンを超え、過去最高を記録した。輸入古着1Kgあたりの価格は、2018年に比べると3割程度も上昇したという貿易統計をもとにした試算データもある。さらに関係者からは近年の円安で「2割程度は値上がりしたと感じる」との話も聞こえてくる。こうした状況も古着ビジネスの窮状を表していると言えそうだ。

 不吉なのは中国市場の動向である。これまでは経済成長が続き、海外ブランドを中心に高額な商品が売れていた。しかし、不動産バブルの崩壊で「理性的消費」にトレンドが移ったと言われる。中国でも若者のファッションニーズが成熟するのは時間の問題で、今後は古着ファンが増えていくのは想像に難くない。その結果、中国が古着の輸入を積極化すれば、さらに価格が上がり日本や欧米の事業者が買い負けるケースが出てくることが考えられる。



 東京・下北沢には200店舗もの古着店があり、多くの若者を集めている。昨年、東京に出張した時に久々に立ち寄ってみたが、海外から来ているバイヤーらしき人々が店頭で商品を吟味する姿を見かけた。ベール仕入れだと中身が確認できないため、実際に小売店の店頭で商品を確認してまとめ買いしようという狙いなのか。店側としても大量に買ってくれるなら在庫が捌けるわけで、バイヤー側との価格交渉にも応じるだろう。

 下北沢に古着店が集中するのは、渋谷や原宿に比べ家賃が安く経営しやすいことがある。ただ、古着が安定的に売れて在庫が消化していけば、新たな商品を仕入れなければならない。この価格が上昇しているのだから、小売り価格も値上げされていく。すると、店頭の販売に影響が出るのは必至だ。それでもお客を惹きつけるには魅力的な商品が欠かせないが、そうしたものが不足気味なのだから、古着店としては如何とも難い。人気店の閉店も何らかの関連性があるのだろうか。



 こうした課題を既存の古着事業者がどう乗り越えていくか。古着の中でも回転が鈍いものはある。そうしたものをいかに消化するかは、これまでも各店が取り組んできたと思うが、WEGOが始めたリメイク古着の材料として提供するようなこともあるだろう。東京コレクションに参加している「スリュー」のように、クリエーションに古着リメイクを位置付けるデザイナーも出てきている。

 スリューは毎回、柄も素材も異なる生地をはぎ合わせたり、服の各部に別の布地を組み合わせたりしたものを発表している。使用する素材が古着由来のため、作品は1着1着微妙に変わる。素材の古着は無駄なく使うのもモットーで、ジャージの背中をくり抜いてジャケットにしたとしても、くり抜いた生地も別の服に使っている。この辺のクリエイティビティも古着ビジネスの今後を左右していくかもしれない。

 世界の人口は増えているが、日本は少子高齢化が収まる気配はない。国内では新規需要がこれ以上、増えることはなくアパレル市場も縮小していく。古着ビジネスにも少なからず影響があるということだ。古着はもちろん、売れ残りなど抱える在庫を再活用して、いかに需要を喚起していくか。古着ビジネスにはシーズとアイデアが求められ、ビジネスモデルそのものを作り替えなければならないようだ。


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逆転する発想。

2023-11-22 07:33:07 | Weblog
 1980年代初め、「ポップインターナショナル」というメーカーがあった。その後、傘下ブランドの事業部が分社独立し、89年に「ギャラリードポップ」となる。当時から筆者が注目していたメーカーで、98年にはレディスの「pas de calais/パドカレ」、2001年にはメンズの「SAGE DE CRET/サージュデクレ」が旗艦ブランドとしてスタート。ともに上質な素材、生成りやカーキ、グレーを基調色にしたアイテムは、独特の世界観を持ちインターナショナル・クリエイティブというカテゴリーで、海外からも注目された。



 両ブランドともマスファッションにはない素材や色、加工法がすっかり定着し、日本でも顧客を捉えて離さないのか。毎シーズンの展示会には多くがつめかけている。今年9月中旬には2024 SPRING & SUMMER EXHIBITION TOKYO SHOEROOMの名のもと、パドカレの25周年を記念した春夏コレクションが2回に分けて開催された。筆者もぜひ覗いてみたかったが、出張のスケジュールが調整できず断念せざるを得なかった。

 筆者の場合、自分が実際に着て確かめるとなると、メンズのサージュデクレになる。2000年代初めには事務所近くにショップがありパンツを購入した。だが、次第にワークテイスト一辺倒になり、店舗の撤退が重なったことで興味を失っていった。一方、レディスのパドカレは仕事柄、必ずチェックするようにしている。毎シーズン、展示会に出向くのは難しいが、オンラインサイトの写真を見て気になるアイテムは、実店舗に出向いて素材や加工法を確認するのがルーティンになっている。



 パドカレのモノづくりの基本路線は、「心理的、精神的にずっと若々しい感覚でいたい」というマインドを軸にしているように感じる。そんなブランドも誕生から25年が経ち、初期の頃にファンになった顧客はアラフィフを超えている。だから、顧客の声に基づいたショップサイドからの要望、ネット通販でダイレクトに購入したお客から寄せられる意見などを企画に反映すれば、顧客の肉体的年齢も考慮することになり、どうしてもサイズアップは否めない。その方が往々にして売れるケースがあるからだ。

 商品企画を行う上ではこれが一番難しい選択だ。顧客の年齢に合わせていくと、サイズアップして野暮ったいデザインになっていく。それが原因で陳腐化し売れなくなったブランドは少なくない。だから、企画担当者はコンセプトを守るために、サイズを含めフォルムは維持していきたい。反面、営業サイドは歳は取っていくものの、安定して購入してくれる顧客も繋ぎ止めたい。商品企画では、どうしても二律背反するテーマに挑まなければならず、ジレンマに陥ってしまうこともある。

 他社の戦略はどうか。例えば、ヨウジヤマモトは、ワイズでブランドをスタートしたが、ワイズは若年層(35歳以下)を対象とするため、加齢した顧客をスライドさせるような企画、サイズアップで取り込むような手法は取らない。ワイズにはあくまでターゲット・エージがあるのだ。だから、歳を取った顧客はヨウジヤマモトに移行してもらったり、GroundY、S’YTE、LIMI feuといったスピンオフのブランドを抱えることで、幅広いターゲットを捕捉しようという戦略が見て取れる。

 各ブランドはコンセプトとサイズ規格を守る。多ブランド化はお客の嗜好の変化に対応する狙いもあると思うが、ブランドを増やすことは微妙なサイズ対応で機能する面もあるのではないか。だが、それができるのは多くのブランドを抱えられる企業基盤があればこそだ。

 そう考えると、ギャラリードポップにはパドカレ、サージュデクレと、レディス、メンズとも1ブランドしかない。特に売れ筋のパドカレはコンセプトを守る上では、顧客の新陳代謝を図っていくことが求められる。そんなパドカレが先日、画期的な企画を打ち出した。11月1日付けの繊研PLUSによると、「ギャラリー・ド・ポップのレディス「パドカレ」 メンズ「サージュデクレ」をサイズダウンして販売」ということだ。


作りや始末がいいメンズを活用



 報道をもう少し詳しく見てみると、「「パドカレ」は23年秋冬物で、初めて自社のメンズブランド「サージュデクレ」をサイズダウンした協業商品を発売し、順調に売れている」。

 「パドカレは着心地や肌触りの良さ、程良いリラックス感がテーマで、サージュデクレはトラディショナル、ワーク、ミリタリーをベースにしたメンズカジュアルウェアのブランド。今回「異なるテイストのブランドが協業することで、新たなスタイリングや世界観が発信できた。パドカレにないアイテムで好評」と、10月18日から販売をスタートし、1週目は予算比2ケタ増となった」。

 「協業商品はシャツ、ベスト、パンツ、ブルゾン、コートの9型で、ミリタリージャケット(税込み5万600円)やフーデッドコート(5万7200円)、リバーシブルコートなどを企画。特別に「サージュデクレ・パドカレ」のダブルネームが付いている。10月中旬過ぎでも気温が高く、「ベストや軽めのアウターの協業商品がヒットした

 今回の企画意図は何だったのか。報道では詳細の説明はない。ただ、メンズのサージュデクレをサイズダウンしたことがレディスのパドカレにうまく合致したこと。トラディショナル、ワーク、ミリタリーという異なるテイストがパドカレにはないアイテムを生み、ブランドを活性化したのは確かなようだ。



 意図は何なのか。パドカレは顧客のエージが上がっていって、いつの間にかサイズアップしていたから、サージュデクレをサイズダウンしてすり合わせたのか。それともインターナショナルブランドとしては、折からのトランスジェンダーへの対応を意識したのか。ただ、レディスはメンズとは基本パターンが違う。単純にサイズダウンしたから売れるというわけでもないだろう。1980年代からギャラリードポップのモノづくりを見てきたが、そんな短絡的な発想をするメーカーとは思えない。
 
 こんな風にも考えられる。大手アパレルのJUNはレディスをROPEというブランドで企画し、販売していた。かつて関係者からこんな話を聞いた。「ROPEのジャケットはメンズのJUNの仕様なので、作りがしっかりして型ぐずれしにくいんですよ」と。同じジャケットでも男性と女性では体格や動きが違うから服にかかる負荷が異なり、細部の摩耗や劣化が変わってくる。当然、求められる耐性も異なるわけで、芯地の使い方や細部の縫製、始末が違う。レディスではメンズほど丈夫にする必要がないから、ソフトな作りになるのだ。

 今回、メンズのサージュデクレをサイズダウンしたわけだが、素材使いや縫製仕様がそのままなら、従来のパドカレにはないメンズライクな質感やしっかりした着心地が生まれたのではないか。それが逆にファン客にとって新鮮(新たなスタイリングや世界観が)と受け止められたと思う。今年は例年になく気温が高いことから、ライトメイドなベストやアウターが売れるのもうなづける。顧客が加齢によりサイズアップしたから、実験的にメンズにすり寄せたのが奏功したいうのは、どうやら考えすぎかもしれない。

 DCブランド全盛期にはこんなやりとりがあった。商品企画においてデザイナー側と営業側の意見を調整する。そのバランスはどうあるべきかで、侃々諤々、喧々轟轟の議論がなされていた。あのビギグループですら、落とし所はデザイナー側が求める「見せる服」が3、営業サイドが考える「売れる服」が7の比率だった。「俺がマーチャンダイジングをしっかりやって、デザインを修正したからビギは売れたんだ」と、トップの大楠祐二氏は豪語していた。だが、そうしたビジネス重視のやり方に反旗を翻し、同グループを去ったデザイナーは少なくない。今ではそうしたMD重視の考え方も変わってきている。

 営業重視で売れ筋ばかりを追いかけると、巷には似たような商品ばかりが溢れてしまう。バカの一つ覚えのように展開されるダウンジャケットなんかがそうだ。マスファッションばかりを狙うと価格勝負になって値崩れがひどくなる。売れるか、売れないかはあくまで結果論。重要なのはいかに売れるもの、お客が欲しかったものを手当てできるか。レディスだから、可愛くて、甘くて、エレガントなものが売れると信じて疑わない。それも企画力が硬直している最たるものではないか。パドカレはそうした考えを見事に覆したかたちだ。

 商品を企画するには、物事を正面から捉えるだけでなく、右から左から斜めから見て考えることも重要なのだ。そうすることで、これまでとは違ったアイデアが生まれてくる。企画会議の場で、「トラッド、ワーク、ミリタリーをベースにするサージュデクレのテイストでパドカレを作ったらどうだろう」。誰かが発した何気ないアイデアが硬直化した企画を打ち破り、柔軟な発想へと変えていく。

 「その手もありだな」「やってみる価値はある」。上層部がそう決断し、現場を後押しする。そんなスタンスだから、服好きの顧客を捉えて離さない。モノづくりには時に逆転の発想も必要なのである。

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生地がものを言う服。

2023-11-15 07:45:05 | Weblog




 今年もようやく冬入りしたが、業界ではもう2024年~25年秋冬のテキスタイル展が始まっている。メディアがまとめたキーワードランキングでは、上位2つが目を引いた。まずサスティナブル。ここ数年のトレンドでもあるが、繊維を再生して使用するのはもはやものづくりの必須条件だ。次に天然原料。素材が持つ性質を強調したもので、単なる風合いや質感だけでなく、リサイクルしやすいことも関係していると思う。

 展示会は生地メーカーやコンバーターなどが企画した商品提案の場なので、必ずしもこちらが欲しいような織り組織や風合い、色、質感の生地が並んでいるわけではない。それでも、実店舗の売場に並ぶ既製服にそれほど欲しいものがなくなった今、生地なら「コレだ!」と言えるものが見つかるかもしれないと、発信される情報には期待を持っている。

 まあ、好きな生地が見つかったところで、一着だけの服が作れるわけではないのだが、好みの生地に触れると、「こんな生地で作られた服がないかな」と妙にテンションが上がる。店をめぐるウィンドウショッピングよりも、買う気が湧く瞬間でもあるのだ。ただ、ほとんど実現する可能性はないのだが、仮に見つかったら確実に購入することになるので、テキスタイルの力は侮れないと感じている。

 生地を重視する条件は、まず用いられている素材。冬物ならウール100%なのだが、最近は合繊が含まれているものが多いので、20%程度の混紡なら良しとしている。次が織りを含めた柄。メンズに限定すれば、バリエーションは多くないが、レディス向けではたまに「こんな生地もあるのか」って素材や織り柄に出会うことがある。これでメンズアイテムを作ると意外に面白いかもしれないと思いながら、そうしたアイテムが世の中に出ることはほとんどなく、淡い期待でシーズンは終了してしまう。



 暖冬の影響もあって、上質なウールのテーラージャケットに合わせるパンツを購入しなくなってもう20年以上になるだろうか。オフィシャルでもカジュアルスタイルが浸透し、服の原価が引き下げられて素材のコストダウンが進んだため、よほどの高級ブランドでない限り気に入った質感の生地には出会えないこともある。だからと言って、色や質感が自分に合うかと言えば、それも別問題だ。もう80年代のようなデザインと生地が絶妙なバランスで、なおかつ値頃感があってすぐに気に入る既製服には出会えないのだろうか。

 そんなことを考えながら何シーズンも過ごしてきたが、この秋冬で思ったのがインポートの生地を豊富に揃えるオーダーの専門店で、ジャケットとパンツを誂えるのはどうかということ。気に入った生地さえ見つかったなら、デザインはシンプルなもので構わないから、あとは縫ってもらうだけ。ただ、生地探しから入手までが難しいので、在庫を抱えるオーダー専門店が最後の砦になる。



 筆者は社会人になってからも仕事柄、ほとんどビジネススーツを着る機会がなかった。かと言って色落ちやブレイクしたジーンズ姿ではクライアントに失礼に当たるため、小綺麗に見えてそこそこ主張のある「ジャケパンスタイル」で通してきた。80年代後半はDCブランドが佳境に入った時期でもあり、定番の柄を採用しつつデザインはその年風にして特徴を出すブランドも少なくなかった。

 そこで、柄と無地のコーディネートでうまくまとめたスタイリングをしていた。それを今シーズンに復活させるのもいいかなと思ったのだ。その柄というのが、定番の「千鳥格子」、英名でいう「Hound’s tooth(ハウンドトゥース)」だ。英名を直訳すると「犬の牙」。柄を構成する一つ一つの要素が犬の牙の形をしているというところから来ている。基本的な配色は牙の部分が黒で、下地が白。日本では千鳥が飛ぶような感じに見えることから千鳥格子と呼ばれている。


大小2つの柄を、ジャケットとパンツに



 80年代に着ていたのは、千鳥格子のジャケットやパンツ。インナーにはタートルネックのニットという組み合わせ。と言っても、上下共地では漫才師の衣装のように見えるので、ジャケットを千鳥格子にすれば、パンツは黒の無地。それと逆のパターンも取り入れてバリエーションを出していた。当時の女性ファッション誌が定番企画にしていた「1着のジャケットで1週間分の着こなしを楽しむ方法」を応用し、自分流にアレンジしたものだ。

 千鳥格子はほとんど流行に左右されない柄だから別にいつ着ても構わないのだが、逆にオーダーにすれば長く着ることができるし、飽きのこない着こなしが楽しめるのではないかと思う。もちろん、ディテールでは多少のトレンド感は出したいので、最近はどんなシルエットのジャケットやパンツに使われているのか。参考のために改めてPinterestで確かめてみた。

 80年代当時はジャケットがボクシー調で、パンツもツープリーツだった。それに対し、ピックアップされた最近の写真を見ると、柄はそのままでジャケットやパンツは体にフィットしたものが多い。ヤングではルーズなトレンドに揺り戻してはいるが、ジャケパンスタイルで上下ともダボダボでは間抜けに見えてしまう。多少トレンドを意識するにしても、大人のスタイリングとしてはトップスがタイト、ボトムスがややルーズなら、何とか格好がつくだろう。



 問題はこちらが思い描く柄が見つけられて、実際にジャケットとパンツをオーダーできるのかである。東海地区にある某有名生地メーカーの方に言わせると、千鳥格子を取り巻く状況は以下のようだと言う。「テキスタイル営業していた昭和末期は、千鳥格子は梳毛で2/30.2/48.2/60と3種類くらい、紡毛のツイードでも何種類かを必ずリスクで大量に持ってました。柄も千鳥以外にギンガム、市松、グレンチェックなどなど白黒定番」。

 「それが価格のファスト化でポリエステル・レーヨン、ポリエステル・レーヨンストレッチ、プリントされたストレッチとチープ化の一途でした。オーダースーツ用のバンチブックにはまだあるはずです。千鳥格子、ハウンドトゥースっていう言葉も通用しない業界人もいるかも

 なるほどである。こちらが感じている通り、既成服にかつてのような風合いを感じるものがなくなったのは、低価格が進む中で素材のコストダウン上ではやむを得ないからだ。それでも、インポートで上質な生地を抱えるオーダー専門店で誂えるなら、こちらがイメージするものが出来上がるかもと期待する。ちょうど、全国展開するオーダー専門店が移転オープンしたようだから、この機会に出かけてみようかと思う。

 イメージとしては、ジャケットの方の生地は大柄。いわゆる「ジャイアント・ハウンドトゥース」だ。パンツも同じ柄でもいいと思うが、80年代当時は小さめのハウンド・トゥースだった。その通りの生地が見つかるかどうかわからないが、オーダー専門店でバンチブックから探すしかない。おそらく一年通して定番色柄が提案できるようにしていると思うので、専門家に相談するしかないだろう。

 オーダーではビジネス向けのスーツばかりがクローズアップされているが、その傍流としてジャケット、いわゆる代え上着やパンツのオーダーをオンオフ兼用のウエアも有りかと。オフィスカジュアルが定着しているのだから、ボトムには色落ちしていないジーンズ、足元にはレザースニーカーを合わせることもできる。そんなスタイルはスーツよりも汎用性が高く、IT系や自由業の人たちのニーズは高いと思う。



 今年のプロ野球ドラフト会議では日本ハムの新庄剛志監督が大きめのチェック柄のスリーピースを着ていた。他の球団でも元選手の方は体が大きいため、オーダースーツの方もいただろうが、紺やグレー系だった。一方、新庄監督のスーツは市販のものにはない配色の柄で身体にもフィットしていたため、おそらくオーダーではないかと思う。

 会議後にメディアが報道した写真を見ると、生地はグレンチェックのような柄をベースにした光沢のあるアイアングレーに大きめのチェックが入ったものだった。色目は地味だが、柄が派手だったので、ボトムにはチェックのラインと同系色のパンツを穿けば、ジャケパンスタイルにもなると感じた。

 オーダー用の生地なら千鳥格子は在庫がある可能性は十分に高い。探してみる価値はある。だから、ビジネスモデルとしてもスーツ以外にジャケットまたはパンツのオーダーを仕掛けてみてもいいのかも。やはり、服は生地がものを言う。そんなことを考えても暑苦しくないシーズンに入った。いろんな服、スタイリングを考えるのも、また楽しい。
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利便と自責のトレードオフ。

2023-11-08 07:29:28 | Weblog
 ファッション通販サイトを運営するZOZOは10月18日、会員が商品注文時に行う受け取りの初期設定を「あんしん置き配(玄関前)」に変更したと発表した。これにより、置き配指定可能な注文は、「変更前より約7割に伸びた」という。ファッション特化ではないが、Amazonも対象エリアでは玄関への置き配が初期設定となっている。楽天は「置き配サービス対象ショップでの注文」「注文金額が10,000円以下かつ、前払いでの注文」「医薬品を含まない注文」で、置き配サービスを行なっている。

 置き配が導入される背景には、働き方改革でドライバーの時間外労働が年間960時間に制限される「2024年問題」がある。これにより、運送事業者が再配達などを避けて業務を効率化することが予測される。ZOZO側も受け取りの初期設定を置き配にする理由について、再配達率の低下による配送ドライバーの負担軽減に加え、CO2排出量の低減に取り組むためと表明している。そこでは置き配が社会的な問題を解決するには欠かせないとすることで、市民権を得たい狙いではとも感じる。

 では、荷物を受け取る側はどうか。置き配は人との接触を避けたいというニーズに合致する。リモートで仕事をする人が増える中、忙しくして手が離せない時などに対面受け取りしなくても、不在扱いにならないのはメリットだ。また、受け取りの日時指定をしていても、急な仕事で自宅に帰れなくなったなど、現代人のビジネスライフにも合っている。再配達は時間がかかることも考えられ、すぐに使いたい商品を置き配にできるのは非常に便利だ。




 さらに置き配は場所を選択することもできる。運送事業者でも各様だが、基本的な受け取り場所は「玄関前」で、戸建住宅では「ガレージ」や「物置」「自転車のカゴ」「宅配BOX」を指定することができる。マンションなどの集合住宅では、「ガスメーターのボックス」を受け取り場所にすることも可能だ。



 一方、置き配にはリスクが伴う。まず「盗難」がある。戸建住宅では玄関先に置き配されていると、盗まれるケースは格段に高くなる。日本の場合、比較的治安がいいことから、過去には運送事業者がファスナー付きの簡易的な宅配BOXに収納していれば盗難のケースは低いと、テレビ報道を利用してアピールしていた。ところが、窃盗犯はそうした情報を見逃さなかった。報道の後には荷物が宅配BOXごと盗まれるケースが続発したのである。

 オートロックのマンションなら安心かと言えば、そんなことはない。現に盗難の被害が出ている。ドライバーは住人または管理人が開錠してマンション入口のドアを開けてくれたことで、受取人の自室の前に置き配したのだろう。そこで窃盗犯は別の住民が入口ドアを開けるときにすれ違いでマンションに入ることができ、簡単に盗み出せたと考えられる。監視カメラの設置も増えているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがないほど。抑止力には限界があるのだ。

 置き配には「汚損」や「破損」「滅失」も考えられる。玄関前に置いていたため、雨に濡れて汚れてしまったとか。物置に置いて何かのひょうしに落下して壊れたとか。自転車のカゴに入れた荷物が軽かったため、風で吹き飛ばされてしまったとか。さらに受取人がドライバーの前で荷物を確認しないため「誤配」が起きたり、届くはずの荷物が別の住所に「誤送」されるなんてトラブルも起こり得る。

 もっとも、宅配荷物が増えるに従って、置き配は条件付きで受け入れざるを得ないだろう。これは自然な流れで、止めることは難しいと思う。ただ、荷物の受取人が置き配を承諾した以上、荷物の盗難、汚・破損、滅失が起こった場合、運送事業者に全面的な責任を追求するのは難しくなるのではないか。その辺は法律(商法や各社の運送約款)に基づいた契約や条件をしっかり把握して選択すべきだ。これについては、大学時代に受けた「商法」「運送取扱営業」の授業を思い出す。

 荷物の運送を行う運送事業者は、法律(商法第55条)で「運送取扱人」と規定されている。運送取扱人は荷物運送の「取次」をするものとされる。運送事業者が荷物の取次を受ける場合、「荷送人」と取次を引き受ける委託契約を結び、「荷受人」に荷物を送り届ける。これが「運送取扱契約」だ。ヤマト運輸などの営業所に行くと、壁に小さな文字で書かれた「宅配便約款」が貼ってある。これはヤマト運輸との契約内容の詳細を記したものだ。

 また、商法の第八章第一節(第570条~)の「物品運送」では、第577条に「損害賠償責任」の規定があり、運送事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていないことを証明しなければ、荷物の滅失、毀損及び延着につき損害賠償の責任を免れることはできないとされている。ただ、荷物が無くなっても、何を持って「引き渡し」とするか、注意の有無とは何かまで、明確に定められてはいない。だから、運送事業者の約款に記されている内容で判断することになる。これが置き配に関わってくるのだ。


何を持って「引き渡し」とするのか

 では、こうした契約をファッション通販に当てはめてみよう。荷送人とは、商品を販売した事業者。ZOZOや直販のAmazon、楽天市場やマーケットプレイスなどに出店する各ショップだ。荷受人は商品を注文した会員や届け先の相手、運送取扱人は運送事業者になる。ZOZOや各ショップはヤマト運輸などの運送事業者と運送取扱契約を結び、会員が注文した商品の配送を委託する。運送事業者は商品という荷物の配送を取り次ぐわけだ。



 一例としてヤマト運輸が運送契約の内容を定めた「宅配便約款」に掲げる規定を見てみよう。置き配はこの契約における「荷物の引渡し」の項目に該当すると思われるが、現状では具体的な記載はない。第三章には荷物の引渡しの項目があり、第十一条で「当店は、次の各号に掲げる者に対する荷物の引渡しをもって、荷受人に対する引渡しとみなします」とある。
1.配達先が住宅の場合  その配達先における同居者又はこれに準ずる者
2.配達先が前号以外の場合  その管理者又はこれに準ずる者
(荷受人等が不在の場合等の処置)



 約款には「各号に掲げる者」とあるが、置き配は荷物を引き渡すのが同居者などの人間ではないため、条文通りに解釈すれば置き配しただけでは引き渡したことにはならないと推察される。また、第十二条の第3項には、「安全な管理及び保管が可能である荷物受け渡し専用保管庫(以下「宅配ボックス」という。)の設置された集合住宅等では、当店はそれを使用して荷受人に対する荷物の引渡しとすることがあります」とある。

 そこで、ヤマト運輸は置き配(EAZY)で、以下のような条件を打ち出した。まず、届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、Amazon(クロネコメンバーズにご登録済み)の他に6社。注文時・もしくは届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップは、ZOZOTOWNの他に7社となる。つまり、これらの通販事業者では、受け取り方法の指定に置き配も含めるということだ。

 ただ、以下のようなケースの場合は置き配されない。悪天候により届け後の荷物の安全が確保できない(荷物が濡れるなど)、受け取り場所に荷物が安全に収まらない、受け取り場所への立ち入り(オートロック)ができない、マンションなど集合住宅の建物管理規程その他の規程により、置き配が禁止されている、受け取り場所を見つけられなかった、それぞれをヤマト運輸側が判断した場合だ。当然のことだが、置き配では受領印やサインは求められない。指定の場所へ配達が完了した際に、ドライバーが写真を撮影し、それが証明になる。

 ヤマト運輸としてはいろんな場所や手段がある置き配を引渡しと認めるには、約款に指定場所の項目を追加したり、引き渡し場所を拡大するなどの改正が必要になる。現状では約款を改正して置き配を詳細規定するというより、置き配できない判断を細かく決めることで、盗難や汚・破損、滅失のリスクを回避する対応のようだ。運送事業者としては、リスクを考えるとどうしても置き配に二の足を踏まざるを得ないのがわかる。

 他のネット通販事業者についても、委託先の運送取扱契約によって対応していくことになると思う。Amazonには置き配の荷物が盗難被害に遭った場合、商品の再送や返金などの補償制度がある。ネット通販事業者は運送事業者との関係を悪化させないようにするため、なるべく運送事業者側に盗難や汚損などの損害賠償を請求したくないだろう。運送事業者も置き配にいろんな条件をつけることで盗難や汚損などのリスクを避けようとしている。

 つまり、それでも荷送人が置き配に誘導し、荷受人が置き配を求めるようになれば、それは荷物を受け取る人間の自己責任だという世論形成=グローバルスタンダードの意識づけをしたいのではないか。その辺は通販事業者や各ショップ、運送事業者でも温度差があると思うので、注文時にしっかり確認する必要がある。



 もちろん、ファッション通販に置き配が浸透していけば、盗難被害が増えるのは想像に難くない。アパレルなどは第三者のニーズが高いため、窃盗犯が転売する目的で盗み出すケースが考えられる。ZOZOの箱はロゴマーク入りだから、一目でアパレルなどが入っているとわかる。アポ電強盗など白昼堂々と個人宅が襲われる中、玄関先に無防備に荷物が置いてあれば、窃盗犯にとっては格好の獲物になるだろう。簡易的な宅配BOXに入れても、そのまま盗まれるとどうしようもない。

 岸田政権は再配達率が高いことへの改善策として、コンビニ受け取りや宅配ロッカーなどを利用した置き配を選択した消費者にポイントを付与する仕組みを打ち出した。ただ、これまでもコンビニ受け取りや宅配ロッカーはあったのに自宅受け取りが多いのは、それさえ取りに行くのが面倒と感じる消費者が少なくないからだ。効果の程はどうなのだろうか。

 今後、置き配荷物の盗難被害が続出し、それらが転売されるようなケースが増えていけば、国や消費者庁も何らかの対策に乗り出さなければならなくなる。もちろん、ネット通販事業者や運送事業者がそうした二次的、副次的な問題に対してどう取り組むかも課題だ。ただ、商品を注文する側も便利さばかりを求めて対面受け取りをしないのであれば、それなりの自己責任は免れないしリスクを承知しなければならない。

 eコマースは国際標準の仕組みなのだから、荷物の被害補償だけ日本流にしろというのもおかしい。ネット通販を利用する限り、利便性と自己責任はトレードオフの関係にあるということだ。

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本気で売りにいく。

2023-11-01 07:31:30 | Weblog
 10月下旬からだいぶ過ごしやすくなった。このまま寒くなってくれればいいのだが。筆者の場合は気温の低下汗をかかない徒歩移動が楽という図式なので、仕事の打ち合わせなどで街歩きが増えるのは確かだ。それにレザーやコートを着て街中を闊歩できる。それも車に乗らずに暮らせる都会生活の醍醐味と言える。

 そんなことを考えながら先日、仕事の打ち合わせに行った帰り、大濠公園からけやき通りを歩いてみた。仕事後に定期的にランニングをしていた逆コースなのだが、コロナ感染拡大による引きこもりや夏の猛暑もあって中断していたので、久々のウォーキングとなった。



 公園の湖岸沿いを歩き、美術館、駐車場から国体道路に抜けると、真向かいに見える大鳥居を境に右手はNHKの福岡放送局、左手には護国神社の杜が広がる。横断歩道を渡らず左折してそのまま歩くと、かつて青山というレストラン喫茶があった場所にアパレルメーカーのジュングループが展開する「BIOTOP FUKUOKA(以下、ビオトープ福岡)」がある。ちょうど4年半ほど前の2019年春にオープンした複合セレクトショップだ。



 店舗の裏手は福岡城趾、前には護国神社と緑に囲まれたロケーションで、少し先にはけやきの並木道にマンションが建ち並ぶ「けやき通り」が続く。ビオトープ福岡は1階がカフェ&レストラン、2階がセレクトショップ、さらに右手にはナーセリー店を併設し、観葉植物やガーデニング用品などを揃える。

 ビオトープについては10月初め、東京・南青山にフルラインを楽しめる初の旗艦店がオープンしたというニュースを耳にしていた。根津美術館手前のコレッツィオーネ2階の店舗がそれで、こちらはオリジナルのレディスライン「ヨービオトープ」が中心になる。同ブランドは、2021年春夏からインナーを中心にスタートし、23年春夏からドレスやボトムなどのセットアップやデイリーアイテムを拡充。今秋冬物からはダウンなどが加わった。

 ヨービオトープの主体となるインナーは肌に優しい天然素材を用いて、柔らかくて透明感のあるアイテムで着心地を追及。これまで東京・白金台、大阪・南堀江、福岡・赤坂のほか、ECでも販売していた。ワコールと提携する「ビューティフルピープル」のインナーと幾分被る部分がないでもないが、メーカーブランドとしてアピールし、本気で売りにいく狙いでブランドショップの聖地、南青山への旗艦店展開に舵を切ったと見られる。



 一方、ビオトープ福岡は福岡市の中央区赤坂にありながら、周囲は都会の喧騒とかけ離れている。出店者側の意図は瀟洒なロケーションを生かし、飲食やグリーンを合体させて集客を図る狙いだったと思われる。都市のビルイン展開なら、どうしてもフラットな店構えにならざるを得ず、ショップの訴求力や差別化には限界があるからだ。セレクトショップとしての理想を追い求めれば、やはり路面店に行き着くだろう。

 最初から飲食やガーデニングを合体することを意図したのか。それとも出店先立地の特性で後付けしたのかはわからない。結果的に立地とうまく調和する複合ショップは都会のオアシス感覚でイメージ的な収まりは良い。ただ、実際に売れるかどうかは別問題だ。開店にあたってジュンは、「わざわざ来店していただき、極端にいえば2~3時間くらい滞在して、買い物をしたり、お茶や食事でくつろいでほしい」とのコメントを出していた。

 ただ、個性的なデザインのアイテムを含め、国内外のブランドに生活雑貨、化粧品などを加えた編集では、品揃えが限定的で深堀りされておらず、わざわざ買いに行く理由にはなりにくい。ビオトープ福岡については、オープンからこれまで何度か覗いてみたが、物販はともかく、飲食、ガーデニングとも集客が好調には見えなかった。大手アパレルが運営するだけにECの引き当てなどをシンクロさせて、何とか持ち堪えている状況なのだろうか。

 赤坂地区で暮らす住民は古くから住む高齢者か、転勤など2~3年で新陳代謝するマンション族だ。あらゆるブランド、あらゆる価格帯が揃う天神まで歩いても15分程度だから、住民はそちらに向かう。足元商圏の攻略も難しいので、わざわざショップに足を運んで来てくれたお客をリピーターにしていくしかない。それにしても、固定化するには特定ブランドのファンを作らないと難しい。それがビオトープ福岡のオープンから4年、筆者がずっと感じていたことだ。


メーカーの強みを生かした品揃え

 セレクトショップは、国内外のブランドを主体にカジュアルやオフィシャルのウエアから雑貨、靴などまでを揃える。バイヤーは店ごとのコンセプトに添って、思い思いに仕入れながら編集で個性を打ち出す。そのため、フルアイテムで購入すれば外れがないし、単品買いでも顧客管理がしっかりしてお客のワードローブを知り尽くすスタッフのアドバイスに従えば、お洒落なコーディネートが楽しめる。これはセレクトショップのメリットだ。

 反面、セレクトショップにはブランドSPAのような同じ型での色、サイズのバリエーションがほぼない。洋服好きにとっては奥行きのあるMDから探し出す楽しみがなく、商品同士での比較検討もしづらい。ど・ストライクの商品に巡り会えない限り、購入動機が生まれにくいというデメリットがある。エストネーションのアウトレットが苦戦した理由も、売れ残りによる編集では購買の選択肢が狭められるからだと思う。





 アパレルメーカーは商品開発はお手のものだから、オンリーブランドは奥深くMDを組んでいける。型、色・素材、サイズのどれかで企画条件に区切ったとしても、バリエーションのある展開は可能だ。それによってお客がブランドを気に入れば、比較検討がしやすいから購入動機にも繋がるし、リピーターにもなりやすい。セレクト、オンリーブランド、どちらにもメリット、デメリットはあるのだ。

 ビオトープの場合は、ジュンという老舗アパレルが手掛けるセレクトショップという触れ込みで、飲食やグリーンを合体したまでは良かったが、積極的に売りに行く、数字を取るということでは難があるように感じる。あくまで私見だが、オリジナルのヨービオトープはそうした反省から生まれたブランドとするなら、商品開発から店舗展開にまで至った経緯の説明がつく。メーカーブランドとして個性的な商品展開を進め、店作りでもオリジナリティ(ヨービオトープは安藤忠雄氏の設計)を打ち出すことを目指したわけだ。

 南青山という立地はコムデ・ギャルソンからヨウジヤマモト、プラダやステラ・マッカートニー、COSまでがひしめくメジャーなエリア。お客の大半は服を買う目的でここを訪れ、スタイリストが昼夜を問わずに行き交うのでプレスプロモーションでも優位性がある。ブランドを訴求する、売りに繋げる、数字を取りにいく。そうした目的に合致する立地であり、そんな場所に出店したのも、商品の完成度を高めて勝負するメーカーとしての意気込みを感じさせる。

 翻って、オープンから4年が過ぎたビオトープ福岡は、多少の変化が見られるようになるのだろうか。服を買いにわざわざ訪れるお客をもっと増やしていくことも必要なのだが、これまで見ているとその存在がまだまだ知られていないように感じる。店舗単位で難しいのは十分承知の上で言うが、もっと店独自のプレスプロモーションに注力してもいいのではないか。



 ショップの斜向かいには、メディア界に君臨するNHKがある。福岡放送局というハンディを差し引いても、番組によっては高視聴率を取るものが少なくない。また、三井不動産に転職した近江友里恵アナ、絶対音感の持ち主である林田理沙アナがブレークするきっかけを作ったのが福岡放送局だ。筆者の家族が毎日朝食時に視聴するニュース番組「おはよう日本」で、九州・沖縄のお天気情報を担当する佐々木理恵アナも在籍する。

 先のお二人は東京に戻られた(近江友里恵アナは三井不動産に転職)が、佐々木理恵アナは福岡放送局所属のためか、衣装が自前のようでうちの女性陣の評判はすごく悪い。毎朝、佐々木アナが着ている服を見るたびに彼女たちが発するコメントは実に辛辣で、ここで取り上げるのも憚れるほどだ。国立大卒の高学歴で気象予報士の資格を持ち、ルックスもそこそこなのにテレビ映えせず、華がないのは実に惜しいと筆者も感じている。

 大きなお世話かもしれないが、ビオトープ福岡は目と鼻の先に一大メディアがあって視聴率を取れる女子アナがいるのだから、衣装提供をしてはどうだろうか。筆者がうちの女性陣にこう言うと、彼女たちも「その手もあるよね」と返してきた。NHKの場合、ブランド名のクレジットは出さないが、視聴者が問い合わせるときちんと答えてくれる。ビオトープの商品は間違いない感度とクオリティなのだから、あとはいかに多くの人に知ってもらうかである。

 もちろん、ローカル女子アナが着たからといって、売れるものではない。第一、ビオトープの商品が佐々木アナに似合わないという意見があるかもしれない。それも十分に承知の上だ。しかし、知ってもらうにはメディア露出を増やすことも重要だし、キャラクターに似合うようなコーディネートをするのがショップスタイリストの仕事ではないのか。要はどうセールスに繋げるかなのである。やってみる価値は十分にあると思うのだが。果たして。

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