HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

反抗という名の勲章。

2011-10-09 08:31:20 | Weblog
 デザイナーの山本耀司氏が10月3日、フランス芸術文化勲章の最高位「コマンドゥール」を受章した。今年の春には叙勲される外国人として報道されていたので、別に驚くほどものではなく、この日はセレモニーが行なわれただけだった。
 同氏はこれまで同系の勲章でローワーランクのシュバリエ(騎士/30歳以上の芸術家が対象。北野武監督も受章)、同ミドルランクのオフィシエ(将校/前等級から5年経過または新しい功績者が対象)、日本の叙勲でも学芸・スポーツの功労者に与えられる紫綬褒章を受章している。
 受章の度にいろんなコメントを出しているが、紫綬褒章を受章した時は歯切れが良く、実に面白い内容だった。

 「(55歳以上が叙勲の対象に)迷いはありましたね。引退勧告かなぁとかね。…大体この職業は若さや新しさを背景とするから、長くやること自体によくないイメージがつきまとうけれど、もう分かったよ言われても、分かられてたまるかという気持ちで続けているつもりです。…(紫綬褒章について)これはいただいておこうかと決めたのは、日本のファッションがあまりにも認知されていないから。全国どこでもイタリアやフランスのブランドが入る中で、日本のファッションデザインに国がお褒めの言葉を下さるのですから」

 日本では文化勲章を受章される方のほとんどが、「自分の仕事を地道に続けてきた結果です」とか、「周りの皆様に支えられてきたおかげで」とか、どうしても日本人気質で謙遜気味にコメントされる。
 ところが、山本耀司氏は堂々と自分の思いのたけを語った。お上からの恩典にもひるまぬ物言いは、自分のクビは自分で切る覚悟ゆえにできることか。先にコマンドゥールを受章した北野監督も、歯に衣着せぬ言動では同氏と同じ。いかにも個人主義を重んじるフランス人が好みそうなキャラクターだ。

 かつて何かの評論文で読んだが、「勲章を好むのは、日本や旧ソ連に多い傾向」とあった。日本の場合、明治天皇と昭和天皇の誕生日である4月29日と11月3日に授章することからして、国の政治や歴史、伝統文化に関する国民の忠誠心を昂揚させる役割もあったわけだから、理解はできる。
 ソ連は旧共産圏に共通する英雄称号のように国家に対する功績を称えられた証しという、社会主義ならではの平等意識の中でのステイタスではないか。米国では戦争映画の中でよく上官が部下を擁護する台詞として「彼は勲章をもらっている」という行が出てくるが、叙勲された側の自負心や誇らしさが強調されることはほとんどない。そんな感覚なのだろう。

 山本耀司氏はファッションデザインを続けていく中で、過去の人間たちが作った価値観に対して感じる矛盾、 既成の概念を叩きつぶしたいという思いがエネルギーとなって創作意欲をかき立てられたと、繰り返してきた。言わば、叙勲はそうした反抗心に国家からお墨付きをもらったという意識ではないか。
 だから、勲章そのものは否定も肯定もしないし、くれるのならもらっておこうということだろう。かつてのちに総理大臣となる自民党の有力政治家が叙勲を辞退した時、ライトウイングの方々からお仕置きを受けた事件があった。まあ、イチローのように「現役で発展途上の選手なので、…引退した時にいただきたい」と、たとえ褒賞や授章を固辞しても、フランス人なら刃を向けることもないだろうが。
コメント
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