HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

空きスペースにはどこが入るか。

2010-11-25 17:08:33 | Weblog
 このほどキャナルシティ博多の増床計画の概要が発表された。天神を含めた商業施設どうしの激しいテナントリーシング。デフレが続くファッションマーケット。有力なウエア&クロージングのコンテンツ不足。そして、福岡という立地特性から、有力SPAや外資を中心とした「メガストア」集積に落ち着いた。

 振り返れば、この増床計画はすったもんだした。デベロッパーの福岡地所は当初、日本初という冠の欲しさ、モノ離れやファッション消費欲の減退などから、エンターテインメント性のある強力な吸引装置として「ディズニーランド」に白羽の矢を立てた。誘致に際しては地元財界にもバックアップを願い出て、交渉していたのは周知の事実である。
 ただ、天下のディズニーが延べ床面積2万m2足らずで、自分たちの理念を表現できると考えるはずもない。ディズニーランドの基本理念は「100%の完成はない」というものだ。つまり、永遠にキャラクターなり、アトラクションなりを作り続ける。だから、ゲスト(お客)は一度来て満足するのではなく、リピーターとなって何度も訪れる。それをキャスト(スタッフ)は理解して日々の仕事に取り組むのである。そんな事さえ、わかっていない間抜けな不動産屋と、時代錯誤の銀行やインフラ企業の幹部連中は、ディズニーにあっさり袖にされてしまったのである。
 福岡地所としては、日本で初めて建築家ジョン・ジャーディ-氏によるショッピングセンターを開業した実績をかざせば、ディズニーもオリエンタルランドも首を振ると思ったのだろうか。結局、モノ離れやファッション消費欲の減退という当初の理由は置き去りにされ、昨今の国内外の勝ち組企業によるファッション系テナントに落ち着いてしまった。

 まあ、キャナルシティ博多は博多駅に近い立地であること、九州新幹線開業による広域集客、韓国や中国からの旅行客増加など、商業施設としての期待度は高い。このことから、詰まるところ物販テナントでも十分行けるとの路線変更だったと思われる。
 ただ、テナントの顔ぶれを見る限り、H&Mを除いて目新しいものはない。ザラやフランフランは現在キャナルシティ博多に店舗を構えているし、ユニクロもかつてはスーパースター店長のひとり、弥永利司氏が率いる大型店を出店していた。
 コレクトポイントは店名は新しいものの、ローリーズファームやヘザーなど7ブランドを集積するマルチ業態。それぞれのブランドショップは天神などに展開されている。
 それゆえ、既存店はさらに大型化またはマルチ化して品揃えの幅や奥行きを広げ、老弱男女を捉えようということだろうし、ユニクロはVMDや空間演出を際出させたフラッグシップショップ出店で決まり。フランフランは銀座店のようなよりヤング向けの雑貨を充実させ、カラーMDで魅せる店舗になるのは容易に想像がつく。ソラリアプラザ天神店がMDを変更したのも、新キャナルシティ博多出店の準備で納得づく判断だろう。
 H&Mは九州初上陸ということもあり、集客、売上げとも相当期待できる。しかし、商品感度やクオリティの面で他業態を圧倒するほどのキラーコンテンツになるとは思えない。所詮、ファストファッションには変わりないのだ。

 もっとも、ザラやフランフランの空きスペースにどんなファッションテナントが入るのか。むしろ、こちらの方が気になる。デベロッパーとしては天神と博多駅に挟まれる立地で、どこをリーシングするかは悩むところ。テナント側もロケーション、客層、デベロッパーの性格を考えると、オファーに二つ返事はしないだろう。
 現在の業界においてファストファッション以外で、強力なコンテンツは限られている。セレブカジュアルのセレクトショップ「キットソン」は、ファーストリテイリングに強力なラブコールを受け、またユニクロに恩がある三菱商事の意向もあったのか、パルコではなくミーナ天神に出店した。それゆえ、ここと並び好調なLAセレクトショップ「ロンハーマン」の動向が注目される。1号店は同店を手がけるサザビーリーグ本社ビルだったが、2号店は二子玉川の高島屋と郊外に出店した。しかも、来春にはパルが運営する神戸三宮の商業施設への出店と、西に向かって店舗拡大を進めている。
 品揃えはロンハーマンの他にステラ・マッカートニーやマーク・ジェイコブス、クロエなどの海外ベターブランドと、コラボアイテム、雑貨などだが、チープな商品も充実させた多彩なラインナップは魅力だ。
 セレクトショップだから路面店がいいとの考えがあるかもしれないが、天神界隈となるとスペースに限りがあるし、近年の大名地区は町のエネルギーを欠いている。その点、年間を通じてコンスタントの集客力を誇るキャナルシティ博多は、出店側にとって魅力的に映るのではないだろうか。仮に百貨店からオファーがあったとしても、サザビーリーグの内部には「すでにあの器は終わった」と感じている諸兄が多いはずだ。
 ザラの跡地ならフロアの雰囲気もいいし、天神からの集客も果たせるだろう。何より買い物がゆっくりできる時間的なゆとりを感じさせる。ファッションアッパーにとっては、わざわざ行きたくなるようなショップの方が待ち遠しいのである。
 
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チェックが甘いZOZO。

2010-11-20 12:55:11 | Weblog
 百貨店がすでに時代に合わなくなったとは、前に書いた。逆に時代のニーズに合致し、百貨店の売上げを抜き去ったのが、通信販売。すでに市場規模は8兆円を超え、コンビニさえ抜きそうな勢いだ。特にインターネットや携帯電話のサイトを使った「Eコマース」の伸びは顕著で、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの躍進は目を見張るものがある。

 すでに多くのビジネス紙誌でも紹介されているが、同社はバンド活動をしてた前澤友作社長が好きな輸入レコードやCDで、カタログ販売を始めたのが起源である。商品取扱高は2005年に46億円だったが、09年度には370億円と約8倍に急上昇。今期は555億円、12年度には1000億円を目指すと発表している。
 現在でも、前澤社長自ら電話を受けて梱包し、購入者に送っていた時と同じように、「いかにセンスの良い商品を、いかにスムーズに顧客に届けるか」というポリシーは変わらない。実際、サイトづくりから物流、集客、品揃えのバランスがスムーズに回っていて、それが同社の強みであることは間違いない。
 物流会社と言えば、倉庫業、管理ビジネスで、1日中、屋内にこもってルーチンワークを行なう。そのため、イメージが暗く今日の若者には受入れられづらい。
 書籍「アマゾン・ドット・コムの光と影」には、千葉にある物流センターで働くスタッフの悲哀が綴られている。「時給900円のアルバイトたちは広大なスペースを走り回り、指示された本を探し出して抜き出す。その時間は1人1冊3分で、毎月、個人の作業成績が作られ、成績が良くないアルバイトは2カ月ごとの更新時に契約が打ち切られる…厳しいノルマとコンピューターの監視によって、アルバイトたちが一瞬たりとも気を抜くことがないよう、管理しているのである。」

 ところが、ZOZOTOWNの物流センター「ZOZOBASE」は、そんなアマゾンとは大違いだ。デザインはフェラーリの工場を模しておしゃれでカッコいい空間にこだわり、著名インテリアデザイナーに発注。照明を上げて明るくし、ラックは黒で統一。ブランドメーカーやセレクトショップのBtoCに沿った動線や商品の流れをデザインし、作業・オペレーションのカッコ良く行なえるようになっている。さらにBGMには若者が好きな曲を流すなど、徹底して若者が働きやすい職場環境を作り上げている。
 社員の平均年齢は27歳で、会員は29歳弱と近い。等身大の感覚がブランド選びから品揃え、サイトデザイン、ビジネスシステム、使い勝手にまで共通していることで、顧客を増やしているのである。
 武藤貴宣取締役は、とある雑誌のインタビューで、「(WEB)デザイナーもシステム担当者も、共にブランドやファッションに対する知識は高い。元ユーザーだったスタッフが多く、雑談をしながらでも、こういう買い方をしたらこうだった、ああだったという体験談が出てきて、それを基にシステムやデザイン担当が修正する。しかも、変えるのも社員だから、すぐに着手ができる」と、社内の一体感を語っている。

 なるほど。でも、褒めてばかりではこのコラムの体を成さないので、一つだけ評論しておこう。最近、ZOZOTOWNを見ていると、サイトのデザインで「誤字」や文章の「不統一」があることに気づく。例えば、商品説明のコピーで、使用が「私用」になっていたり、ですます調に統一するべきが「だである調」のままだったりする点だ。
 社員も会員も30歳以下の若者で、サイトの性格を考えると、そこまでは不必要なのかもしれない。でも、これが印刷が上がった「チラシ」だったらどうか。私用は明らかに誤字で、それを書いたコピーライターのミス。責任は免れない。クライアントによっては「刷り直せ」と命じるところがあるかもしれない。
 また、ファッション雑誌だったら、もらった原稿のトーンが不統一だと、必ずリライトする。それは編集者の仕事だし、編集長はチェックしなければならないのである。
 でも、ZOZOTOWNでは、WEBデザイナーもシステム担当者もそこまで気づかないまま、サイトに原稿がアップされている。社内にミスや不統一をチェックする部署がないのか、それともあまりの忙しさ、とにかく商品をアップすることに一生懸命でそこまで手が回らないのか。また、ブランドメーカーの担当者やショップのバイヤーもZOZOTOWNに任せたらそれっきりで、あとは売上げがつけばいいという感覚か。

 ファッション業界では得てして、急成長した企業は独善的になって優秀な社員が育たないことが多い。マネジメントが徹底されず現場がコントロールできなくなるからだ。ひいてはガバナンス機能の低下にもつながりかねない。
 誤字や文章の不統一を若気の至り、あるいはご愛嬌と見過ごすか、それとも明らかなミスやチェック不足と見るか。ちょっとの甘さが社内のたがを緩め、モラルハザードを生んだところは少なくない。急成長の時ほど、上に立つ人間はチェックを怠ってはならないのだ。そして、社内全体にマネジメント機能が働いてこそ、企業としてのロイヤルティは確立できるのである。
 
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アバクロは本当に売れるか。

2010-11-12 15:40:37 | Weblog
 アバクロンビー&フィッチが満を持して福岡上陸を果たした。5~6年前から雑誌を中心に「ハリウッドスター御用達」として話題を集め、インターネットでは中国製の粗雑なコピー商品まで取引されていた。
 日本上陸は時間の問題と言われつつ、一度は白紙撤回されようやく2009年12月に、東京・銀座に1号店がオープン。その1年後が今回の福岡出店となった。2号店ではあるが、立地環境からアジアまで視野に入れた店舗展開と言えるだろう。

 アバクロ社は1892年NYで創業した。当初は米国ファッションを象徴する「アウトドア」の専門店だったが、次第に東海岸のアイビーリーグの影響を受け、プチブル大学生の男女をターゲットにした高級カジュアルにシフトしていった。
 サンフランシスコ発祥のギャップが創業者ドナルド・フィッシャー氏の体格から誰でも着られるサイズを常に揃えたジーンズカジュアル店を基本に成長していったのとは、ずいぶん対照的だ。
 マーケティングの得意な米国らしく、ギャップが大衆のボリュームを狙うのなら、アバクロはギャップでは満足しないアッパー層に照準を当て、モノづくりからビジネスシステム、広告戦略まで徹底。今日の「カジュアルラグジュアリー」というコンセプトを作り上げ、ブランドバリュウを確立したのである。
 
 アバクロの魅力は、上質なビンテージ加工を施した商品、全米でも超一流と言われるVMD、そして同社のブランド力向上の原動力となった広告戦略である。
 特に写真家ブルース・ウェーバー氏が創り出すセクシーなイメージは、人々の内面を映し出していると米国のクリエイティブ業界では評判だ。店頭でフランクにお客を迎えてくれるマッチョなスタッフも元はと言えば、同氏が「Sexually Charged, without Nudity」をテーマに撮影した広告モデルに由来する。
 ストア自体もオータナティブロックのBGMを大音響で流し、オリジナルフレグランスという無形の道具を使って、集客&プロモーション効果を狙う。
 福岡ソフトバンクホークスの球団歌がダイエーの店舗で流れると、ショッピング気分が高揚するというのは何となくわかるが、アバクロがフレグランスでセールスアプローチするところまで自社のビジネスを進化させたのは、さすがだ。
 スタッフは販売用のフレグランスを常時店内でスプレーしているようで、こうすればお客がアバクロの服を買わなくても、家に帰ってその香りを嗅げばアバクロを思い出すかもしれない。ブルガリやシャネルといったラグジュアリーブランドが百貨店の化粧品売場で香水を販売するのも、そのブランドを買うお客に対してステイタスやロイヤルティを持たせるためだが、アバクロはカジュアルブランドでありながらウエアと一体で、それを実践しているのである。

 ただ、売上げになると別問題だ。アバクロ社は7~14歳をターゲットにするアバクロンビー、 14~18歳のホリスターカンパニー、 18~22歳のアバクロンビー&フィッチ、23歳以上のルールNo.925の4業態からなる。米国では09年12月まで17ヶ月連続で2ケタ減とリーマンショック以前から苦戦を続けていた。10年1月に8%増と回復したが、これは前年のクリスマスセールに100ドル以上の買い物すると、25ドルのギフトカードをプレゼントし、それが1月のクリアランスセール使われたためである。ギャップと同様に不況が続く米国では厳しい状況に変わりはない。店舗数もここ数年は頭打ちの状態だった。
 それゆえ、アジア、日本への進出は、米国内はティーンズ向けのホリスターに注力し、海外では主業態であるアバクロンビー&フィッチの成長を睨んだのものと言える。米国流のドミナント戦略からすれば、日本で1年1店舗はかなりスローペースだが、これはじっくり市場にブランドバリュウを浸透させていく狙いだろう。

 もっとも、アバクロは米国での1点単価を34ドル(2900円)程度と決め、お客一人2点程度の買い上げ率で客単価を76ドル(6500円)程度に設定してきた。そうした価格戦略がデフレが続く日本のファッションマーケットでいかにポジションを確立できるか。ここが売上げ確保のカギになる。
 福岡がいくら中国人富裕層の観光地になっているとはいえ、そうそう彼らが電気釜のようにアバクロを買いまくるとは思えない。まずはチープなSPAやワンパターンのセレクトに食傷気味のヤングやアメカジファンのこだわりオヤジを中心に捕捉していけばいい。ただ、中国人からは別の意味で注目されているかもしれない。ワンポイントマークのアイテムなら、格好のコピーターゲットになるからである。
 
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業界紙も斜陽の時代か。

2010-11-08 19:05:10 | Weblog
 11月1日、ファッション業界紙の日本繊維新聞が事業を停止した。繊研新聞と並んで業界紙の双璧をなす新聞が休刊するのは残念でならない。
 同新聞との出会いはもう20数年前の大学時代になる。千駄ヶ谷のマンションメーカーでアルバイトをしていた時、社長が繊研と並んで読んでいたのが、同紙だった。最初は「へぇ~、こんな新聞があるんだ」と思いつつも、当時はそれほどファッションビジネスの奥行きまで関心がなかったので、トレンド情報や広告のキャッチコピーの方に興味があって、仕事の合間にペラペラめくる程度だった。
 ファッション業界で仕事を始めてからは、朝日新聞の販売店が一緒に届けてくれる繊研の方を読み始めたため、繊維新聞はずいぶんご無沙汰になった。ただ、一度だけ思いもかけないところで同紙と接点をもった。1988年11月、アパレルメーカーのライカが青山の根津美術館隣にNYのジャスクラブ「ブルーノート」の日本1号店を開業することで、そのレセプションパーティに呼ばれ、同紙の記者さんと本場のジャズ談義で盛り上がったのだ。
 「NYではブルーノートでジャズを聴くのはおのぼりさん」と言うと、「そりゃ、いかにもの常套句ですね」と突っ込んできた。その後は、ビレッジゲートやスウィートベイジルなんかのライブの話で盛り上がり、「ライカのメンズは、ヤートラファッションですね」と締め、楽しい一夜は終わった。実はその翌年の秋、出張でNYを訪れた際に実はブルーノートで「サラボーン」のライブを見たのだ。「おのぼりコース」と言った自分が主人公になったのだが、サラボーンは翌年死去したので、記念になった。
 
 活字離れと言われながら、I-Padで本や雑誌が読めるのは人気を集めるなど、情報入手の方法はどっちに向かっているのか。新聞は別に宅配してくれなくても、ネットで読めれば十分という読者が増えているのは確かだ。
 でも、業界紙になるとどうだろう。やはり、特別な情報をそれほど求める人間が少なくなったのかもしれない。情報は一般のものとの差がなくなり、そこまで深い情報は要らないと思うようになったのではないか。いよいよ業界紙も斜陽の時代に入ったようだ。それでも、業界紙は業界で仕事をする、したい人間は、必ず目を通して損はないと思う。
 とあるファッション業界雑誌がやはり購読者不足で、数年前に大胆なリニューアルを行なった。それはファッションジャーナル誌からマニュアル誌への大転換である。そっちの方がファッションビルやデベロッパー、専門学校に大量購入してもらえるからだろうが、何度も執筆してきた人間としては最近の誌面は何か物足りない。読者に媚びているような編集企画ばかりで、面白みや挑戦がなくなったのだ。
 まあ、ファッション業界の不況、デフレが影響して、繊維新聞社も某雑誌も主な収入である広告が減っているのだから、しょうがない面はある。メジャーな全国紙ならともかく、マニアックな業界紙は、読者も限られているから、広告のレスポンスが上がらなければ、出稿されなくなるのは当然だ。
 ちなみに日本繊維新聞の最高部数は12万4000部だったというから、マス広告出稿基準の10万部はクリアしていたことになる。

 でも、新聞は「ニュース」を提供する媒体だから、情報の速効性は雑誌とは比べ物にならない。パリコレの情報は新聞でチェックするに限る。その意味で何とかネットメディアに移行するなりして、復活してほしいものだ。
 パソコンやI-Phoneで読むことができるなら、ひと月の購読料も下げられるかもしれないし、全く新聞を読まない昨今のファッション専門学校生にも少し身近になると思う。そして、読者に媚を売らず、ファッションジャーナリズムとして独自の編集方針も貫いてほしいものである。
 
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モード攻略も視野に入れたか。

2010-11-06 16:15:06 | Weblog
 10月15日、ユニクロが手がける+Jの2010秋冬コレクション第1弾が全世界で発売された。
9月早々からインターネットではフラッシュによるプロモーションを展開。プレス向けの写真をスライドショーで見せるなど、ラグジュアリーブランドにも引けを取らない演出で、顧客の購買意欲をそそっていた。

 そうした販促効果があったのか、発売当日の9時すぎにはネットにアクセスできない状態となった。世界中の顧客が「まずはネットで確かめよう」と、サイト閲覧に殺到したようだ。昨年秋冬のデビュー時にお客の評価が一応に高かったこともあり、1年を経過して確実にファン客をとらえたのは間違いなさそうだ。
 前にも書いたが、+Jはユニクロがポリシーにする「ベーシック」とジル・サンダーの特徴でもある「ミニマル」が見事に融合したブランドである。アメカジテイストが強いユニクロとは一線を画し、3シーズン目の今季は完全にモード路線に切り込んでいる。かといって、過度なデザイン性もないので、アダルトにも十分対応できる。そこもMDの進化と言える。

 日本のレディス市場はここ数年、コンサバ、エレガンス、フェミニンが売れ線になっている。しかし、+Jの極力装飾性を排したデザインは、むしろプロポーションにメリハリがある欧米の女性に好まれるのかもしれない。
 それを意識したのかはともかく、2010秋冬はデザインでも完全にアドバンスした。フェルト系素材のダッフルコートや微起毛素材を表地に使ったダウンコートは、まさに丹念に構築されたフォルムで、そのままコレクションのランウェイを闊歩しても絵になりそうだ。
 実際、売場で商品を見てみると、フェルト素材のアイテムはフォルムを重視するあまり素材の硬さが気になったものの、ショールカラーのタキシードジャケットやウールPコート、ウールジャージを使ったアシメトリーのドレス(すでにネット販売はSOLD OUT)の出来映えは秀逸。ジル・サンダーのファーストラインなら10倍の値段になってもおかしくない。
 やはり円高の影響が出ているのか。価格を下げるのではなく、素材の質を上げている。それがなおさら商品の完成度をアップさせている。それでも1アイテム2万円を切る値ごろ感は、ブランドに一喜一憂しなくなったアラフォー世代のキャリアOLに受ける公算が高い。

 一方、メンズはレディス以上にモード色が強くなっている。今季のジャケットはデザインフォルムがレギュラーとスリムの2タイプで、着たときのシルエットやフォルムがかなり重視されている。素材もタキシード、フランネル、モヘアなどバリエーションは豊富。ダウンを入れたバルーンキルティングのジャケット。クラシカルながら今風に仕上げたダブルのコートなど、目を引くアイテムが目白押しだ。こちらはユニクロではものたりない、ヤング、ヤングアダルトをかなり意識したようだ。
 発売日には、ユニクロとは違ったテイストのお客やモード系ブランドのショップスタッフが商品をチェックする光景が見られた。
 現在のヤングメンズはトラッドを崩したファッションが制圧している。一つには非正規雇用が増えた雇用環境で、カジュアルスタイルでも十分に仕事ができるようになったことがあるだろう。しかし、DCブランド世代にとって、今のカジュアルスタイルにはどこかプア感がある。そうした大人に気持ちも今季の+Jは汲んでいると思う。

 もちろん、50歳を超えた人間がそれらを着こなすには感性、シェイプされた肉体が必要だ。 大人にとっての若々しさとは磨かれた感性だけでなく、常日頃からのストイックさの賜物である。
 柳井社長は「個性とは服ではなく、服を着る人間が出すもの」と言ってきた。しかし、筆者は「着る人間の感性が服を生かす」と思う。ミニマルだからこそ、その服をどう選び、どう着こなすかという感性が必要なのだ。そうした禁欲的でスタイリッシュな大人に、今シーズンの+Jはフィットするような気がする。
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