ときどき、ドキドキ。ときどき、ふとどき。

曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

中野成樹(POOL‐5)+フランケンズと演出コースの後輩@STスポット

2005-10-29 08:15:16 | アーツマネジメント
昨日、横浜・STスポットで「中野成樹(POOL‐5)+フランケンズと演出コースの後輩」たちによる公演を観た。
中野氏は、今年度のSTスポットの契約アーティストのひとりである。

公演は、以下の3本立て。

●1 ★宿無し男★
原作=J. M. シング「谷の影」より
脚色&演出=田中麻衣子
出演=伊東潤/山崎広美/他

●2 私たちがまばたきしたときいったい何をみているのでしょうとボブはその男に答えた
原作=Harold Pinter「Silence」「Night」より
訳&構成&演出=桐山知也
出演=紺谷昌充/細川貴司/渡邊嘉与/他

●3 サマーキャンプ(yes,no,neither)
原作=Brecht「der jasager und der neinsager」
「Das Badener Lehrstuck vom Einverstandnis」より(注1)
誤意訳&演出=中野成樹
出演=フランケンズ(村上聡一/福田毅/野島真理/石橋志保)/他

ご覧のように、3つの短編を3人の演出家が手がけ、それぞれ、脚本(訳、脚色、誤意訳)も手がけている。上演時間は、それぞれ約30分、25分、65分。
取り上げた作家がシング、ピンター、ブレヒトというのは、今の感覚では、ややシブイ、ということになるのだろうか。つい最近、ハロルド・ピンターがノーベル文学賞を受賞したので、ちょっとだけ時の人風ではあるが。

が、この舞台、非常に刺激的でおもしろい。

中野成樹演出はいつものように才気に満ちている。
誤意訳という言葉を使っているので、原作をかなり換骨奪胎しているのだろうと思われるが(どの程度かはわからない)、日常の中に埋没している狂気や疑念や不条理や破綻を、あるいは、そうした不条理劇風のものだけでなく、叙情的な題材も含めて、ポップに日常的な説得力で見せるのがこの演出家の優れた特徴だ。
海外戯曲を使って、こういう「日常的な説得力」を持つ舞台をつくる演出家は、他にあまり見かけないように思う。

それと、今回、3つの作品のオムニバス形式の上演(中野氏は、当日の配付資料の中で「ショーケース」と表現している)だが、それぞれがバラバラなのではなく、3つの作品が互いに響き合っていると感じられたのもなかなかスリリングな体験だった。

小劇場での公演ながら、30日(日)の最終公演は完売となったという。未見の方は本日29日が残されたチャンスなので、ぜひご覧になっていただきたい。

補足として、中野氏の作品の中で、個人的に印象に残ったセリフをひとつ。
「正しいことは学びやすい」
劇中で、「先生」が「生徒」に向かっていうセリフである。
これは、「疑うな」、ということであるから、日常的な、一種の洗脳の手法を言語化したものだ。
演技はかなり戯画化されているが、従来の新劇のリアリズムが規範としていたような、「人間のリアル」ではなく、「場のリアルがある」、という言い方ができるかな、と思った。

(注1)ブレヒト戯曲全集〈第8巻〉には、「イエスマンノーマン」というタイトルで収録されている。

ブレヒト戯曲全集〈第8巻〉
ベルトルト ブレヒト, Bertolt Brecht, 岩淵 達治訳
未來社

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(補注)「イエスマンノーマン」についてグーグルで検索してみたら、こんな記事が出て来た。

→ PLAYNOTE.NET 「想像を絶するブレヒト演出」

その記事の説明によると、もともとは、世阿弥の娘婿にあたる金春禅竹が書いた「谷行」という能をもとにして、ブレヒトが戯曲を書き、クルト・ヴァイルが曲をつけ、学生向けのオペラとして上演されたものだという。記事の内容も非常におもしろい。

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