臨床の現場から 10

治療とは相手の体を変化させる行為であり、体に変化を促すと、今まで奥深くにあって表面に出てこなかった悪いものが表面化してくることがある。そういうものは「好転反応」と呼ばれるが、治療後に体調が悪化した場合、それが好転反応なのか、何らかの失敗によって余計悪くさせてしまったものなのか、判断に迷うこともある。

今回取り上げるのは、ずいぶん昔に私が遭遇したものの1つで、治療中に突然、顔面が痛み出した、というケース。

定期的に来ていた患者さんを治療していた時のこと。首の張りが強かったので、それを緩めるため鍼を打った。具体的には天柱や風池といったツボであるが、ツボにアプローチするというより筋肉を緩めることを目的としたものなので、雀啄（じゃくたく）という、深めに打った鍼を上下動させる手技を行った。
これで首の張りも緩んで、ここで治療は終了…という目論見だったのだが、突然、その患者さんがと言った。
「右の顔面が痛み出した」

すぐにその痛み出したという顔面を調べたのだが、特に問題が見つからない。また、痛み出したのが天柱、風池に雀啄した後だったので、その治療で何か失敗したのか？とも思い、それも調べたが、そちらも異常は検出されず…。

こういうとき私がよくやるのが、反応の出ているポイント（ツボであることも、それ以外の場所であることもある）を全身から探して、そこを刺激して症状の変化を見る、ということ。で、その時もいくつか反応の出ているポイントがあったので、この方法を試してみたが、顔面の痛みは全く変化なし…。
「どうですか？」と聞くこちらの問いかけに答える患者さんの声も、だんだんトゲを含んだものになってきて、ついには

「あの鍼がよくなかったンじゃないですか？ﾑｶ･･･(-_-ﾒ)」

と。

「いや、そんなことはないと思いますけどね」と答えてみたものの、顔面の痛みが一向に変わらないのでは説得力なし。何か間違ったことをしてしまった可能性もゼロではないが、いずれにしても患者がしきりに痛みを訴えるのに問題が検出できない。どこに、どんな問題が発生して痛みとして現れているのかがわからないと、原因の検証も対処もできない──。

さてどうしたものか？と悩んでいた時、ふと思いつきで、痛みを訴えている右の顔面の体表面から少し離れたところを調べたら、そこに見つかったのだ、問題が！　それを見つけたのはキネシオロジーの筋反射テストだったが、痛みの原因となる問題は肉体レベルじゃなく、肉体から少し離れたエネルギー体レベル(?)にあったのである。

筋反射テストは主に患者の体表面に手で触れることで行われる。これをTL（セラピー・ローカライゼーション ; therapy localization)と呼ぶが、それはザックリ言うと治療(セラピー)する必要のある部位を肉体レベルで特定(ローカライズ)することを意味する。だが今回のケースでは痛みを訴えた右顔面部のTLしても反応がなく、その手を体表面から離していくと、あるところで筋反射テストの結果が変わるポイントがあることに気づいた。

筋反射テストで指標筋（インジケータ筋）がアンロック（弱化）するところを、私たちは「弱さ」などと呼んでしまうのだが、この患者の弱さは痛みを訴える右顔面部の、体表面から離れたところにあったのだった。

弱さが見つかれば、それを処理するだけだ。それが体表面をTLすることで検出したものであれ、手を体表面から離していって検出したものであれ、弱さは弱さなので、そこから先は全部同じ。肉体レベルだから、エネルギー体レベル(?)だから、といった面倒な区分を必要としないのが、私たちのやっている治療の特徴であり、いいところだ。で、その時はクラニオと合わせてフォーカシングを使った。

フォーカシングのセッションでは、患者は例えば体のどこかの部分に意識を向けて、そこから得られる微細な感覚（フェルト・センス）を頼りに自分の心身と対話するようにして、問題の本当の原因を探っていく。このケースでは筋反射テストで弱さのあった右顔面部の肉体から少し離れた部分に意識を向けてもらった。すると、そこに強い怒りがあることがわかった。そこで更に、それが何の怒りなのかを探っていくと、何日か前に夫婦ゲンカした時の怒りが、まだ消えていなかった、という。そして、そのことに気づいたら、右顔面部の痛みが（ゼロになったわけではないものの）かなり楽になった、とのことだった。

実際に顔面部の痛みが完全に消えたのは、家に帰った後だったそうだが、首に打った鍼が夫婦ゲンカの後の残っていた怒りを、右顔面部のエネルギー体(?)に引き出してしまったようだ。それにしても、あんなに騒いでいた痛みの原因が、数日前の夫婦ゲンカの名残りだったとは…。ﾔﾚﾔﾚ ┐(´ｰ｀)┌ ﾏｲｯﾀﾈ