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深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

持続痛(=慢性痛)をもたらすもの

2025-04-11 13:53:23 | 症例から考える
医療において「痛み」というのは重要なファクターだ。痛みの強弱や、それがどのくらいの期間続いているのか、といったことは、患者の受けた損傷の程度を図る指標になる──と一般の人はもちろん、専門的なトレーニングを積んだ医療従事者も思っている。しかし、モンティ・ライマンは『痛み、人間のすべてにつながる』で、特に持続痛(=慢性痛)について、そうした見方に修正を迫る。
持続痛は解釈が難しい。けがが治癒したあと、痛みがしつこく続くケースがかなり多いことについては、持続痛の中には組織に繰り返しダメージが加わることが原因で引き起こされるもの(通例はがん関連痛、あるいは通風や進行性関節リウマチの症状としての炎症性疼痛)もある。何らかの持続痛が出ているなら医師の診断を仰ぐべきだが(中略)、大多数の場合は痛みそれ自体が疾患となっている。そして、持続的な組織の損傷が認められるときでも、傷害の程度と経験される痛みの強さにあまり相関がないことは明白だ。
例えば、ある人はブーツで釘を踏み抜いてしまい、病院に搬送された。調べてみると釘は確かにブーツを貫いていたが、足には傷一つつけていなかった。なのに本人は激痛を訴えていた。また拷問に耐え抜くための過剰な訓練を受けた特殊部隊のある隊員は、それが元で痛みに極度に過敏になり、ブーツを履いたりプールに入るだけでも全身に激痛を感じるようになってしまった。

これらのことから、ライマンは「痛みとは、その人(の脳)が現在の身体状況を解釈した結果として生じる、一種の安全装置」だという。ここで言う解釈とは、(脳が)現在の身体の状態をどう認識しているかであり、身体が現実にどういう状態にあるかということではない。だから、(仮に損傷自体は何も変わらなかったとしても)何らかの理由で状況の解釈が変わると、痛みは消えたり弱まったりする。プラセボ(プラシーボ)効果とはそうしたもので、解釈をプラス方向に変える事象のことだ。またその反対に、ある事象が解釈をマイナス方向に変えるノセボ効果というものもある。
誰かの心理状態をネガティブなほうに操ると、脳の中にある“不安の音量ボタン”が作動して不安が大きくなることがわかった。痛みの経験とは結局何であるかを考えれば納得できるだろう。それは本質的には自分の身体を危険や脅威から守ることに尽きる。不安や心配があったり、恐怖を感じていたりすると、私たちの脳はこの警報の出力を増幅させようとするわけだ。痛みが火だとすれば、こういった情動はそこに注がれる油ということになる。
一部の宗教では病に対する祈りの効果ということが言われているが、それもまたこの「症状=状況解釈」モデルで説明できる。また本書に出てきた例ではないが、ある多重人格症の患者は人格が変わると、それまであったアレルギー反応が消えてしまうのだという。恐らく多重人格症では、人格が入れ替わると身体状況の解釈もそれに合わせて入れ替わるのだろう(もちろん物理的な損傷は人格が入れ替わっても消えることはない。あくまでその解釈が変わるということだ)。

私は治療家などという仕事をしているので、腰だとか膝だとかに持続痛を訴える人もよく見る。そういう人の多くは、「仕事がデスクワークだから」とか「肉体労働をしてるから」とか「昔から猫背だったから」とか、手近なところに原因を求めて何とか理由づけしようとし、「この状態を改善するためにどういうマッサージ/ストレッチ/体操/…をすればいいか」ということを知りたがる。が、そういう人は考え方や方向性が根本的に間違っている。
ネガティブな情動や脅威の感覚は短期的な痛みを悪化させるだけにとどまらない。それは短期の痛みから長期の痛みへの移行を容易にするほか、痛みと苦しみを予期するような脳の配線が生じるのを助長する。一例として、長期の腰背部痛を取り上げよう。(中略)腰や背中に痛みがあるのはつらいものだし、何か深刻なダメージを負ってしまったと思うのはとてもよくわかる。ところが、じつに興味深いことに、腰背部痛と背骨(脊柱)の状態との関連はきわめて弱い。膨大な数の研究によると、慢性の腰背部痛ではほとんどのケースで構造的異常の兆候は認められず、しかもそのような異常(椎間板ヘルニアなど)がある人の多くはまったく痛みを感じていなかったという。
つまり慢性的な腰背部痛(あるいは腰痛)は一部のケースを除き、問題は骨格の歪みや筋肉の固さではなく、腰が危険な状態にあるという脳の誤った状況解釈が(例えば「仕事がデスクワークだから」とか「肉体労働をしてるから」とか「昔から猫背だったから」といった、ある種の思い込みによって)固定化されてしまっている点にあるのだ。

あなたが仮にひどい持続痛(慢性痛)に悩まされ、いろいろな病院や治療院に行ったもののよくなっていない、ということがあるなら、これ以上、治療や施術にカネと時間を費やす前に本書を読むことをオススメする(すると、自分が今まで罹っていた医師や治療家がどの程度「本物」だったのかも分かるのではないだろうか)。
 
※「本が好き」に投稿したレビューを採録したもの。


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (まゆゆん)
2025-04-12 12:43:14
緩消法を始めて、痛みに過剰に反応しなくなりました。
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効果があるなら (sokyudo)
2025-04-12 21:25:56
>まゆゆんさん

緩消法というのは知りませんが、効果があるのならいいのではないでしょうか。
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