感想戦の最中、早田さんはぽつりと言った。「先に仕掛けてくるとは思わなかった」と。前局と同じように、彼女が仕掛ける展開を想定していた。結果的に研究熱心な早田さんの裏を掻くことに成功したようだった。
翌日、地方でタイトル戦の解説の仕事を終え、先生が帰ってきた。私の顔を見るなり、「おお、おめでとう」と静かに言った。先生に合わせて、私も抑えたトーンで「ありがとうございます」と答えた。
「結局、さおりは攻めることを選んだ訳か」
「はい」
「確かに菜緒ちゃんは将棋が強い。めっぽう強い。しかし、さおりは勝負に強い」
先生はまだ解説者気分が抜けていないのかもしれない。これまでのタイトル戦では、私が勝っても負けても、大きな声で興奮気味に話す人なのに、今日は冷静である。いや、冷静を装っているのだろうか?どちらにしても、私がもうすぐこの家を出て行くことと関連はあるのだろう。
「さおり、今日はデパートにでも行くか?」
「いいですけど」
「何でも買ってあげるよ」
「何でも?」
「ああ」
先生夫妻と私は、身支度を整え、玄関を出た。私が先生の車の後部座席に向かうと「今日はさおりが助手席に乗りなさい」と先生は指で示しながら言った。
翌日、地方でタイトル戦の解説の仕事を終え、先生が帰ってきた。私の顔を見るなり、「おお、おめでとう」と静かに言った。先生に合わせて、私も抑えたトーンで「ありがとうございます」と答えた。
「結局、さおりは攻めることを選んだ訳か」
「はい」
「確かに菜緒ちゃんは将棋が強い。めっぽう強い。しかし、さおりは勝負に強い」
先生はまだ解説者気分が抜けていないのかもしれない。これまでのタイトル戦では、私が勝っても負けても、大きな声で興奮気味に話す人なのに、今日は冷静である。いや、冷静を装っているのだろうか?どちらにしても、私がもうすぐこの家を出て行くことと関連はあるのだろう。
「さおり、今日はデパートにでも行くか?」
「いいですけど」
「何でも買ってあげるよ」
「何でも?」
「ああ」
先生夫妻と私は、身支度を整え、玄関を出た。私が先生の車の後部座席に向かうと「今日はさおりが助手席に乗りなさい」と先生は指で示しながら言った。