互いに矢倉の堅陣を組み上げ、先手の菜緒が、歩を突いて仕掛けた。私は受けてたった。奇策は用意していない。過去の直接の対局、菜緒の最近の棋譜はよく調べたが、奇策で勝てる相手ではない。ただし、俗手を積み重ねていても、勝ちは見えてこないだろう。この一局のどこかで、菜緒が青ざめるような一手を指せるかどうかが、勝負を決すると考えている。
駒がぶつかり合ってから、互いの考慮時間が長くなる。私が36手目を指し、現在、菜緒が長考に沈んでいる。この先、10手ほどが勝負の行方を左右する可能性が高い。菜緒が駒音を響かせた。この数手、主導権を奪い合っていたが、菜緒が受けの手を指した。だから自分が有利になったとは限らないが、やはり気分は悪くなかった。私は攻めの手を続ける。当面、菜緒は守勢に回る気配だ。彼女の顔を見た。ヒリヒリしていた。普段のあどけなさを残す表情が見当たらない。それだけ、局面は緊迫していた。もうすぐ昼食休憩というタイミングで、私は高く駒音を響かせた。感触は良かった。もう一度、菜緒の表情を伺う。さっきよりも苦しそうな顔を浮かべていた。私は優勢を意識した。
駒がぶつかり合ってから、互いの考慮時間が長くなる。私が36手目を指し、現在、菜緒が長考に沈んでいる。この先、10手ほどが勝負の行方を左右する可能性が高い。菜緒が駒音を響かせた。この数手、主導権を奪い合っていたが、菜緒が受けの手を指した。だから自分が有利になったとは限らないが、やはり気分は悪くなかった。私は攻めの手を続ける。当面、菜緒は守勢に回る気配だ。彼女の顔を見た。ヒリヒリしていた。普段のあどけなさを残す表情が見当たらない。それだけ、局面は緊迫していた。もうすぐ昼食休憩というタイミングで、私は高く駒音を響かせた。感触は良かった。もう一度、菜緒の表情を伺う。さっきよりも苦しそうな顔を浮かべていた。私は優勢を意識した。