ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

生きていればこそ

2017-05-13 23:05:06 | Weblog
生きていればこそ、ささやかな喜びがあり

生きていればこそ、ひと目見ただけで人を好きになり

生きていればこそ、幻想でもいいと思える望みがある



生きていればこそ、どれだけ振り切ろうとしても、悲しみは付きまとい

生きていればこそ、薬でも誤魔化せないほど苦しみ抜き

生きていればこそ、過疎と人ごみの区別がつかないほど孤独になり

生きていればこそ、溺れるほどに、埋もれるほどに悩みは深くなり

生きていればこそ、あらゆるものに色がなくなるほど、切なくなる



ベッドの上、目が覚めて

カーテンの隙間から朝の光が差し込む

いま僕は生きている


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

駒花(6)

2017-05-13 21:46:59 | Weblog

「ああ、知ってるよ。あの子、面白いなあ。盤面を見ているより、彼女の顔を見ている方が、優劣がよく分かる」
森村先生は今日、対局で負けたことなど忘れたように大らかな様子だ。
「こないだ、菜緒と初めて対局したんだけど」
「知ってるよ。さおりが勝ったんだろ」
「まあ、一応」
「一応か。何か気になることでもあったのかな?」
先生は私の中の異変に、おぼろげながら気づいたようだった。
「負けそうだったんですよ、もう少しで」
「でも勝ったじゃないか。勝てば官軍だろ」
「勝負は菜緒のミスで勝った。でも、それがなければ、確実に負けてました」
先生は対局で長考している時のように、腕組みをしながら沈黙した。

「自分の才能に自信がなくなりました」
私は身も蓋もない本音をぶつけた。先生はしばらく腕組みをして目を伏せていたが、眠りから覚めたように目を開け、そして言った。
「良かったじゃないか、菜緒ちゃんがいて。俺はね、さおりの才能を信じているんだ。菜緒ちゃんが、さおりの才能をさらに伸ばしてくれると思うよ。ただし、それは君次第だ。自分は菜緒ちゃんに敵わないと諦めて、将棋を捨てるのもさおりの自由。君の人生はまだ始まったばかりだ。将棋以外にだって、いくらでも可能性がある。でも俺は、さおりの才能を信じているし、それに君は努力の出来る子だとも信じている」

何度、才能という言葉を繰り返したか。私は涙を浮かべていた。先生も少し涙ぐんでいるように見えた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする