世界水泳最終日
女子メドレーリレー決勝は、ベテランの鈴木聡美の頑張りもあり
6位を保ってアンカーの池江璃花子がプールに飛び込んだ
白血病から復帰して1年足らずの2021年の春
東京五輪の代表選考の舞台に池江は立った
100メートルバタフライ決勝
横に並ぶ選手たちの肉体に比べ
池江のそれは明らかに見劣りした
肌は青白く、体は細い
病み上がりの姿は隠しようもなかった
ところがこのレースで池江は優勝した
恵まれた体格、上り坂の勢い
そうしたものを抜きに池江は勝った
この時ほど彼女を泳ぎの天才と思ったことはない
奇跡の東京五輪出場から2年
池江の肉体は回復途上とはいえ、随分アスリートらしくなった
50メートルバタフライでは7位に入った
しかしインタビューでは「いつになったら戻れるんだろう」と答え、悔しさを滲ませた
ただ、こうも言った
「まだまだ諦めません」と
メドレーリレーのアンカーとして6位を死守し、池江は役割を果たした
それから少しして池江はプールから出ようとした
しかし、そこから抜け出る力すら、彼女には残されていなかった
懸命に両腕に力を込める
その時、零れ落ちた水滴が
彼女の全身から溢れた涙に見えた