何年ぶりかで見たおじさんの顔は
写真の枠に収まっていた
「幸ちゃん来てくれたよ」
おばさんも随分、年老いた
珍しく近くまで足を伸ばしたので
折角だから寄ってみた
隣にあったはずの僕の自宅も
すっかり形を変え
知らない人々が住んでいる
おじさんが亡くなって半年あまり
僕は煙草のカートンから
おじさんが吸っていたハイライトを取り出し
仏壇に供えた
ハイライトのパッケージに遠い昔が映る
おじさんには、よく動物園やプールに
連れていってもらった
昼食の時は
「幸ちゃん、どんどん食べな」と
しきりに急かした
帰りに最寄りの駅を降りると
近くの居酒屋に入り
ビールを旨そうに飲んでいた
おじさんには娘が3人いた
ただし、おじさんと僕が出掛ける時は
ついてこなかった
ある日、おじさんは僕の家に来た
僕とおじさんは将棋を指したのだ
僕は負けた
あくる日だったか
おばさんに声をかけられた
「幸ちゃん、凄いね。将棋で勝ったんだって」
「いや、おれ負けたよ」
「でも、うちのは負けたって言ってるよ」
「えっ?」
意味が解らなかった
何故、勝ちを負けと言うのか
やがて少しずつ理解した
おじさんの格好いい嘘だと
小太りで黒ぶちメガネ
髪も薄いおじさんの
僕は仏壇の横に目を向けた
煙草のヤニで壁がだらしなく黄ばんでいた