初めての研究会からひと月ほどたった。すでに3回、私と菜緒は森村先生宅で顔を合わせた。前回は先生が対局の日で、兄弟子に代役を務めてもらった。、しかしその後、徐々に研究会の存在は薄れていった。
もしかしたら、あの事が原因だったのかもしれない。梅雨が近いのか、雲の重たい日だった。先生があわただしく帰ってきた。私は自室のベッドでくつろいでいたところ、奥さんが「何だか、あの人がさおりちゃん呼んで来い、呼んで来いってうるさくって」と困り顔をしていた。仕方なく、私は先生がいるであろう、一階のリビングへ向かう。
先生は同じ雑誌を並べて、しまりがないというか、およそ勝負師とは思えない顔をしていた。
「おお、さおり」
「先生、どうしたんですか?同じ雑誌ばかり並べて」
将棋専門誌ではなく、一般週刊誌のようだ。
「この人、いよいよ、おかしくなっちゃったみたいなの?」
奥さんが口を挟む。
「いいだろ、この写真」
先生のまなざしは優しかった。その視線の先には私の写真。その上に「天才美少女棋士現る」と恥ずかしくなるような文字が踊っている。
「何で、こんなに。5冊も6冊も」
「静岡のご両親にも送ってあげないと」
「べつに、静岡にだってこの雑誌はあります」
「よく取れてるじゃないか。やっぱり、さおりは色が白くて美人だなあ」
「これモノクロ記事だからじゃないですか?」
そんな写真よりも、私のインタビュー記事が問題だったのかもしれない。普段の取材で「ライバルは?」と聞かれれば、月並みに「自分自身です」と答えていたのだが、ここではその問いに対し、なぜか本音を吐露していた。
「ライバルは矢沢菜緒さんです。彼女は2つ年下ですが、凄く強くて。でも、負けたくありません」
もしかしたら、あの事が原因だったのかもしれない。梅雨が近いのか、雲の重たい日だった。先生があわただしく帰ってきた。私は自室のベッドでくつろいでいたところ、奥さんが「何だか、あの人がさおりちゃん呼んで来い、呼んで来いってうるさくって」と困り顔をしていた。仕方なく、私は先生がいるであろう、一階のリビングへ向かう。
先生は同じ雑誌を並べて、しまりがないというか、およそ勝負師とは思えない顔をしていた。
「おお、さおり」
「先生、どうしたんですか?同じ雑誌ばかり並べて」
将棋専門誌ではなく、一般週刊誌のようだ。
「この人、いよいよ、おかしくなっちゃったみたいなの?」
奥さんが口を挟む。
「いいだろ、この写真」
先生のまなざしは優しかった。その視線の先には私の写真。その上に「天才美少女棋士現る」と恥ずかしくなるような文字が踊っている。
「何で、こんなに。5冊も6冊も」
「静岡のご両親にも送ってあげないと」
「べつに、静岡にだってこの雑誌はあります」
「よく取れてるじゃないか。やっぱり、さおりは色が白くて美人だなあ」
「これモノクロ記事だからじゃないですか?」
そんな写真よりも、私のインタビュー記事が問題だったのかもしれない。普段の取材で「ライバルは?」と聞かれれば、月並みに「自分自身です」と答えていたのだが、ここではその問いに対し、なぜか本音を吐露していた。
「ライバルは矢沢菜緒さんです。彼女は2つ年下ですが、凄く強くて。でも、負けたくありません」
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