北風のドリブルが深く切り込んで
脆くなった秋の鍵を壊し、冬をこじ開ける。
僕は残りの運を捉えようとして
西へ東へ手を繰り出し、掴もうとするが
それは少女の心のように滑りやすく
気紛れに動くために
広げた掌には何も確認できない
秋冬の空は何らかの事情を抱えていて
見られてはならぬものがあるらしく
太陽を素早く隠し、夜に変えてしまう。
暗くて何も見えない
輝くのは月や星たちばかり
北風のドリブルが深く切り込んで
脆くなった秋の鍵を壊し、冬をこじ開ける。
僕は残りの運を捉えようとして
西へ東へ手を繰り出し、掴もうとするが
それは少女の心のように滑りやすく
気紛れに動くために
広げた掌には何も確認できない
秋冬の空は何らかの事情を抱えていて
見られてはならぬものがあるらしく
太陽を素早く隠し、夜に変えてしまう。
暗くて何も見えない
輝くのは月や星たちばかり
ワールドカップが開幕し、昨日、日本はドイツとの初戦を迎えた。
にわかと言われれば、返す言葉もない
4年に1度の通り雨
僕は僅かばかりの昂揚を覚えた。
試合前、チームを率いる森保は君が代を歌いながら泣いていた。
1点を先制させた日本は、前半終了間際、追加点を許した。大国ドイツを相手に致命的だった。
僕はテレビを消して、コンタクトを外し、風呂に入るという普段のルーティンに戻した。
再びテレビをつけると、すでに後半が始まっていた。
得点は1対0となっている
ビデオ判定により、ドイツの2点目は無効になったようだ。
これならまだ可能性がある。
僕はコンタクトを外したことを後悔した。
後半は森保の采配が冴え渡り、それに呼応するように、戦士たちが躍動した。
ラインを押し上げ、投入した選手が次々にゴールを決め、逆転したのだ。
ドイツの猛攻を体を張って凌ぎきり、勝利を手に入れた。
ぼやけた目で選手たちのインタビューを見聞きしながら、僕は少し人生を想った。
つまり後半での逆転である。
しかし、人生の後半には体力、知力の低下
それに数多くの病気が待ち構えている。
逆転はおろか、ゴールネットを揺らすことも至難だ。
それでも前掛かりに、いや、前のめりに
何度もつんのめって倒れながら立ち上がり
その繰り返しの中で、終了のホイッスルを聞けたなら、それは美しい響きに違いない。
仕事上の関係で知り合った人が、病に倒れた。
ご家族によれば、すぐに手術だと言う。
一命はとり止めても、もう会うことはないかもしれない。
今年、初めて会い、それでも数十回は顔を合わせた。
大体、僕から話かけることが多かった。
無口でいて、温厚が伝わってくるような人。
印象に残っている言葉は
「中秋の名月、見ましたか?」
静かな語り口だった。
60代半ば、これから少しはゆっくり過ごせただろうに
僕はそんなことを考えながら、何年か前の秋服に身を包み、日毎に活気をなくしていく街を歩いた。
風が冷たくなった
まもなく木枯らしでも吹くのだろう
化粧する君の その背中がとても
小さく見えて 仕方ないから
僕はまだ君を 愛しているんだろう
そんなことふと思いながら
窓の外は雨 雨が降ってる
物語の終りに
こんな雨の日 似合いすぎてる
窓の外は雨 雨が降ってる
いく筋もの雨が
君の心のくもりガラスに
イルカと言えば「なごり雪」しか知らなかったのですが、「雨の物語」という名曲を発見しました。作詞作曲は伊勢正三。
伊勢さんいい仕事してますね。歌詞や曲からは情感が滲み出ています。この人はもっと評価されていいのではないでしょうか。「君と歩いた青春」とか。
それにイルカさんの歌声が味わい深いですから鬼に金棒です。個人的には吉高由里子の映像と重ねて観ると完璧です。
僕のリアルタイムは80年代、90年代ですが、70年代の情感のある曲にはまりかけています。
10月28日の深夜に差し掛かったA級順位戦
佐藤天彦の集中力は極限に達していた
脇息にもたれ掛かって長考にふける彼とは、また別の姿だった。
盤に近づき、体を前傾させ、小刻みに頭を揺らす。
対戦相手の永瀬は対象的だった
盤上を見詰めているかと思えば、頻繁に席を外した。
天彦はマスクをしていなかった
集中のあまり無意識に取ってしまったのだ
局面は天彦が有利に進めていたが、まだ難しい。
彼は必死に勝利への道筋を探していた
そんな時、突然、対局は中断された。
理由は天彦が1時間程していないことだった
そして判定は下され、天彦は負けた。
将棋にではなく勝負に
天彦は怒りが収まらぬまま、将棋会館をあとにした。
数日後、天彦は藤井聡太との対局に勝利した。
感想戦では弁舌滑らかに、藤井と二人だけの世界を楽しむ、普段と変わらぬ天彦の姿があった。
昨夜のテレビに賑わう渋谷が映る
若者たちの熱狂
参加していない若者の多くも
「東京へ出たい」
「この連中より楽しい人生にする」
と心を熱くしたのかもしれない。
同じ夜、僕は中島みゆきの「ファイト」が心に響かなくなっていることに少し落胆した。
画面の彼らを見て、思い出したことがある。
すでに心は壊れていた
確か19か20
何らかの決意を固め、僕の目には涙が溢れていた。
心が巨大な困難に立ち向かっていた
あの思いは知らぬ間に何処かへ消えた
誰かが言った
「人は諦めた時に年を取る」と
振り返れば諦めの連なり
走れとは言わない
歩いてくれ
ゆっくりでいい
立ち止まってもいいから
もう少しだけ前へ進んでくれないか