10月下旬、久しぶりに藤沢から連絡があった。「おじさんの喫茶店で少し話さないか」と。僕に断る理由はなかった。数日後、僕らは空いている時間を見計らって、カウンターへ座った。随分、白川の髪に白いものが目立つようになった。
「今年初めてかな。でも、変わってないね」
「最近、記憶力が衰えてね。孝志君のことも忘れそうだったよ」
「おじさん、それはひどいなあ」
藤沢の声は明るかった。
「試験はどうだった?」
僕は単刀直入に聞いた。藤沢は大学4年だった去年、弁護士を目指し、司法試験を受けたが、不合格で、今年が2度目の挑戦となる。
「うん、悪くなかったと思う」
言葉は控えめだったが、藤沢の顔には自信が浮かんでいた。
「そうか、それは期待が持てそうだね」
「ああ。ただ、こればかりは相手のある事だから。自分らの大学だと30人に1人ぐらいしか合格できないんだ」
「そんなに厳しいのか。孝志の力は信じてるけど、その倍率を聞いてしまうとなあ」
「だから、結果には期待しすぎないようにしている。ただ、やり切ったとは思ってる」
「それが大事だよ。やり切ったっていうさ、その気持ちが」
白川さんが口を挟んだ。
「おじさん、もし俺が合格したら、合格祝い、ここでやりたいなあ」
「そりゃあ、勿論だよ。誠君の時よりも、豪華にやろう」
「何で、そんな格差をつけるんですか。まあ、確かに自分の時とは難度が全く違うからなあ」
僕も白川さんと同じ思いだった。盛大に藤沢を祝ってやりたいと思った。
「あれ、亜衣ちゃんは?」
突如、藤沢が話題を変えた。
「仕事が忙しいんだよ。もう社会人だから」
そう言って僕は視線を窓の外に向けた。亜衣は短大を卒業して、中堅のT銀行に就職した。
「誠と亜衣ちゃんが付き合うなんてな」
藤沢は誰ともなく呟いた。すでに陽は西に大きく傾いていた。
「今年初めてかな。でも、変わってないね」
「最近、記憶力が衰えてね。孝志君のことも忘れそうだったよ」
「おじさん、それはひどいなあ」
藤沢の声は明るかった。
「試験はどうだった?」
僕は単刀直入に聞いた。藤沢は大学4年だった去年、弁護士を目指し、司法試験を受けたが、不合格で、今年が2度目の挑戦となる。
「うん、悪くなかったと思う」
言葉は控えめだったが、藤沢の顔には自信が浮かんでいた。
「そうか、それは期待が持てそうだね」
「ああ。ただ、こればかりは相手のある事だから。自分らの大学だと30人に1人ぐらいしか合格できないんだ」
「そんなに厳しいのか。孝志の力は信じてるけど、その倍率を聞いてしまうとなあ」
「だから、結果には期待しすぎないようにしている。ただ、やり切ったとは思ってる」
「それが大事だよ。やり切ったっていうさ、その気持ちが」
白川さんが口を挟んだ。
「おじさん、もし俺が合格したら、合格祝い、ここでやりたいなあ」
「そりゃあ、勿論だよ。誠君の時よりも、豪華にやろう」
「何で、そんな格差をつけるんですか。まあ、確かに自分の時とは難度が全く違うからなあ」
僕も白川さんと同じ思いだった。盛大に藤沢を祝ってやりたいと思った。
「あれ、亜衣ちゃんは?」
突如、藤沢が話題を変えた。
「仕事が忙しいんだよ。もう社会人だから」
そう言って僕は視線を窓の外に向けた。亜衣は短大を卒業して、中堅のT銀行に就職した。
「誠と亜衣ちゃんが付き合うなんてな」
藤沢は誰ともなく呟いた。すでに陽は西に大きく傾いていた。