「最近、あまり良く眠れないんだよ」
確かに藤沢の目の下に隈ができている。
「眠れないって、大体一日何時間くらい寝てるんだ?」
「日によってまちまちだけど、3~4時間かな」
藤沢は赤ワインを口にする。
「6時間位は寝たいよなあ」
「ああ。睡眠薬、飲んだほうがいいかな」
そう言いながら、ワイングラスを口に運ぶ。料理にはほとんど無関心だ。
「うん。睡眠をしっかりとることは大事だからな。でも、酒と一緒にはよした方がいい」
「それぐらい分かってるよ、俺だって」
「ところで、有紗ちゃんは元気?」
「ああ。でも有紗ちゃんはないだろ。誠、いくつになった?」
「30だけど」
「ということは有紗も30ってことだ」
「それは分かってるけど。たまには一緒に連れてくればいいのに。有紗ちゃんを」
僕は何だか少しイライラした。本当は矢野と呼びたいのだ。
「いや、あいつは仕事が忙しいから」
「そんなに忙しいのか?」
「うん。いま2LDKの、家賃もそこそこ高いところに住んでるけど、肩身が狭くてな」
「何で?二人の家じゃないか」
「収入格差っていうやつ。あそこに住めるのも有紗のおかげ。あいつにはかなわない。それより誠、子供2人目、生まれるんだろ?」
「ああ」
「良かったな。亜衣ちゃんを大切にしろよ」
「分かってるよ。それより孝志、そっちはどうなんだ、子供」
藤沢と有紗が結婚して1年が過ぎていた。
「ああ。俺は欲しいんだけど、有紗がな」
「子供が欲しくないって?」
「いや、そうじゃないけど、もう少し仕事に専念したいっていうんだ」
「そうか。早く見てみたいけどな。二人の子供なら、きっと可愛い顔だろうなあ」
「ああ、そのうちな。でも誠は立派だよ。いまは一人で亜衣ちゃんと子供を養ってる訳だから」
「まあ、何とか。でも俺の収入じゃ、もう一人増えたら、やっていけるかと不安になるよ」
「確かに誠も高給取りじゃないからな。でもお前は立派だ、俺とは違って」
藤沢は淋しそうな笑みを浮かべた。僕はワイングラスに口をつけた。返す言葉を探したが、見つからなかった。否定したかったが、出来なかった。今は何を言っても、彼を傷つけてしまうような気がして、沈黙を選んだ。
確かに藤沢の目の下に隈ができている。
「眠れないって、大体一日何時間くらい寝てるんだ?」
「日によってまちまちだけど、3~4時間かな」
藤沢は赤ワインを口にする。
「6時間位は寝たいよなあ」
「ああ。睡眠薬、飲んだほうがいいかな」
そう言いながら、ワイングラスを口に運ぶ。料理にはほとんど無関心だ。
「うん。睡眠をしっかりとることは大事だからな。でも、酒と一緒にはよした方がいい」
「それぐらい分かってるよ、俺だって」
「ところで、有紗ちゃんは元気?」
「ああ。でも有紗ちゃんはないだろ。誠、いくつになった?」
「30だけど」
「ということは有紗も30ってことだ」
「それは分かってるけど。たまには一緒に連れてくればいいのに。有紗ちゃんを」
僕は何だか少しイライラした。本当は矢野と呼びたいのだ。
「いや、あいつは仕事が忙しいから」
「そんなに忙しいのか?」
「うん。いま2LDKの、家賃もそこそこ高いところに住んでるけど、肩身が狭くてな」
「何で?二人の家じゃないか」
「収入格差っていうやつ。あそこに住めるのも有紗のおかげ。あいつにはかなわない。それより誠、子供2人目、生まれるんだろ?」
「ああ」
「良かったな。亜衣ちゃんを大切にしろよ」
「分かってるよ。それより孝志、そっちはどうなんだ、子供」
藤沢と有紗が結婚して1年が過ぎていた。
「ああ。俺は欲しいんだけど、有紗がな」
「子供が欲しくないって?」
「いや、そうじゃないけど、もう少し仕事に専念したいっていうんだ」
「そうか。早く見てみたいけどな。二人の子供なら、きっと可愛い顔だろうなあ」
「ああ、そのうちな。でも誠は立派だよ。いまは一人で亜衣ちゃんと子供を養ってる訳だから」
「まあ、何とか。でも俺の収入じゃ、もう一人増えたら、やっていけるかと不安になるよ」
「確かに誠も高給取りじゃないからな。でもお前は立派だ、俺とは違って」
藤沢は淋しそうな笑みを浮かべた。僕はワイングラスに口をつけた。返す言葉を探したが、見つからなかった。否定したかったが、出来なかった。今は何を言っても、彼を傷つけてしまうような気がして、沈黙を選んだ。