3月に降る雪は、重い。水を多分に含んでいるから、仕方なく傘を差し、自転車で学校へ向かう。卒業式だというのに、あいにくの天気だ。目的の場所へ近づくにつれ、増加していく色とりどりの傘の波。
体育館で卒業証書を受け取り、仰げば尊しを歌った。以前から知っていたが、初めていい歌だとしみじみした。外はまだ雪が降っているのだろうか?「今こそ別れめ いざさらば」。この言葉が、そのまま今の僕の心境と重なった。
教室に戻る。制服を着た藤沢がいる。有紗がいる。もうこの風景には帰れない。朝の雪を落とした曇天が嘘のように晴れ渡り、光が差し込む。
「今日で最後か」
僕は藤沢に確認した。
「ああ」
「孝志はいよいよ大学生か。うらやましいなあ」
「誠はいよいよ浪人生か。うらやましいなあ」
「どこがだよ」
僕は少しため息を漏らした。藤沢は私立難関のT大学法学部に合格。有紗は第一志望ではないが、これも一流大学といっていいK大学文学部に合格し、進学することに決めた。僕は5校受験し、すべて不合格。浪人が決まり、予備校に通う予定だ。何と自分は駄目なんだろう。
卒業式ゆえの、独特の雰囲気は漂っているのだが、藤沢らクラスメートたちとの話の中身は、普段の延長線上にある。つまり、たわいもないこと。しかし、それこそが宝物だといまさら気づく。これから社会に出るにつれ、意味のある言葉でないと、聞いてもらえなくなるし、また僕も聞く耳を持たなくなるのだろう。聞き流す技術ばかりを身につけていくに違いない。
体育館で卒業証書を受け取り、仰げば尊しを歌った。以前から知っていたが、初めていい歌だとしみじみした。外はまだ雪が降っているのだろうか?「今こそ別れめ いざさらば」。この言葉が、そのまま今の僕の心境と重なった。
教室に戻る。制服を着た藤沢がいる。有紗がいる。もうこの風景には帰れない。朝の雪を落とした曇天が嘘のように晴れ渡り、光が差し込む。
「今日で最後か」
僕は藤沢に確認した。
「ああ」
「孝志はいよいよ大学生か。うらやましいなあ」
「誠はいよいよ浪人生か。うらやましいなあ」
「どこがだよ」
僕は少しため息を漏らした。藤沢は私立難関のT大学法学部に合格。有紗は第一志望ではないが、これも一流大学といっていいK大学文学部に合格し、進学することに決めた。僕は5校受験し、すべて不合格。浪人が決まり、予備校に通う予定だ。何と自分は駄目なんだろう。
卒業式ゆえの、独特の雰囲気は漂っているのだが、藤沢らクラスメートたちとの話の中身は、普段の延長線上にある。つまり、たわいもないこと。しかし、それこそが宝物だといまさら気づく。これから社会に出るにつれ、意味のある言葉でないと、聞いてもらえなくなるし、また僕も聞く耳を持たなくなるのだろう。聞き流す技術ばかりを身につけていくに違いない。