状況はこんな感じみたいです.5月から南相馬市立総合病院の非常勤医師で,被曝の検査相談などを行なっている医師の坪倉正治氏が食品の検査体制の強化が重要だと思い,11月に市長の桜井勝延氏と副市長の村田崇氏にメールをしたところ,副市長の村田氏からメールの返事が来て,この記事の筆者はその内容に納得がいかんと言って怒っているようです.南相馬市の内部の話かとおもいきや,この副市長(37歳.僕と同じ年かしらん),総務省からの出向でして(総務省のお知らせページ),そこで議論の展開としては「総務省が出向官僚を通じて市町村を支配する体制があるからイカンのだ」となっています.で,記事のタイトルに総務省が出てくるということかと.たぶん.南相馬市とは「WBCや尿検査の問題などで重大な守秘義務違反」と言われる問題も背景にあったようです.記事を書いた人は,どうもこの事件(?)の前から福島県がお気に召していなかったようで,福島県の対応ともども非難しています.
さて,村田副市長の返事を見てみると(メールが引用されてるんですが,これはいいんですかね),たぶん言いたかったのは「今回のような意見をお持ちでありながら、組織として総合病院がどのような庁内調整をされているのかが全く見えてきません。言葉は良くありませんが、これでは単なる一職員による感情任せの『ちくり』としてしか扱うことが出来ません」の部分ではないかと思われます.市立病院の医師が検査のあり方について意見があるんだったら市立病院として意見をまとめて持って来い,いきなり市長・副市長に直訴されても困る,ということでしょう.これに対してこの記事では「総務省内では、医学上の判断について役人が医師に命令できるというのが常識かもしれませんが、世界には通用しません」としています.
財政系の人間としては,ここでは「副市長が市立病院職員に」意見しているわけで,なんとなく論点が違うような,拡大解釈したような気がします.もし,検査についての意見を民間病院・診療所の医師が送ったとしたら,こういう反応にはならなかったでしょう(「医師会としてまとめてもってこい」というかもしれませんが).だから,「医師と行政」という話ではないようにみえます.個人を相手にする診療行為ではなくて,集団に対する介入になるんだから,組織を使って系統的にやらんといかんよね,ということじゃないんでしょうか(言い方はどうかと思いますけど).拡大解釈といえば,この1件から「中央集権はいかんのだ」と話を展開するのもやり過ぎのように見えます.
村田氏は37歳,前職が「内閣府沖縄振興局総務課課長補佐」であるところをみるとおそらく旧自治省採用のキャリア官僚でしょう.本省補佐級のキャリア官僚が政令市でもない市町村に出向すること自体,珍しいケースだと思います(佐賀市とニセコ町の例もありますが).東日本大震災に関係した人事でしょう.さて,総務省のお知らせページをみると,「福島県南相馬市長からの要請を受け」とあります.これを額面通りに受け取れば,総務省が送り込んだというよりは,南相馬市のほうが要請した,ということになります.「要請を受けた形にした」可能性は否定できませんが,キャリア官僚の出向先は都道府県が多いこと,霞が関だって人員不足ぎみっぽいこと,副市長人事は議会の同意がいることなどを考えると,「支配するために送り込んだ」というのはちょっと違うような気がします.他方,南相馬市のほうには,今後の予算獲得・中央との折衝のために,中央官僚を呼び寄せる動機はあるように思います.『フクシマ論』的に考えると「支配されるために呼んだ」とも言えるかもしれません.いや言い過ぎか.いずれにしても,2000年ころの稲継先生の議論と照らしてみても,この人事から「中央支配でけしからん」というのはちょっとなあ,です.まあ確かに,「地方分権進めよう!」とか言ってるそばから「中央の官僚を貸してください」というのはなんだかよくわからないですけど,分権への過渡期だし,非常時で人的資源が必要なときだから無理からぬことなんでしょう.
もちろん,「呼ばれて来てやった」から何やってもいい,ということでもないし,福島県や南相馬市の対応がよかった,ということを言いたいのではないです.「守秘義務違反」うんぬんについては事情も知らないですし.このメール1通から中央集権うんぬんとか,高齢者対策うんぬんまで話を展開するのはどうかなあ,と,それだけの話.