高校を卒業し一部上場企業に就職するも、もともとバンド活動をするための上京というのが本音だったため、起床から就寝までの時間が18時間ある寮生活では到底こなせるものではなく、親の大反対を押し切り会社を辞める。
とはいえ、夢だけ持っていても食っていけないから、まずはバイトを探す。
飲食店であればきっとまかないがあるから、食費を削ることが出来る。
フロムAをめくっていると何となく1件の飲食店に目がとまった。
別にアパートに近いわけでもなく、時給が格段良かったわけでもない。
なぜか目にとまったその店に面接に行くこととなり、明日から来てくれと。
お昼はランチ営業、夜はカラオケパブとなるその店の名は、信濃町、慶応病院向かいにあったポニーベル。
ここでスタッフとして働いていたのが、そう。
出川哲朗さんだった…。
というのが、初めての出会い。
この店で働いた2年間はあまりに刺激的で、この時出会った多くの人達が俺のその後の人生に多大な影響を与えたのは言うまでもない。
世は超バブル絶頂期。
金も知識もない俺が多くの楽しい思い出を作ることができたのは、このポニーベルという喫茶店で働いていたたくさんのスタッフが、まさしくファミリーという感覚で接してくれたから。
田舎から突然やってきたクソボンズの俺は、まだ世間も知らず、フィルターもなく、直感で行動してしまうとってもやっかいな男であり、たくさん迷惑をかけ、たくさんひんしゅくをかったはずなのに、本当みんな楽しく接してくれた。
なかでも出川さんは、本当によくしてくれた。
飲みに行ったり部屋に遊びに行ったり。
俺の若気の至り話を出川さんだけにこっそり話せば、次の日スタッフ全員が知ってたなんてことはよくあった。
それでもあの笑い声で楽しく接してくれるから何でも話したくて。
絶対に有名になるという熱い思いを持ちがんばっていた出川さんは、まさしく俺にとっての尊敬できる兄貴という存在だった。
あれから20年。
秋田にAターンし初めの頃、テレビで出川さんの活躍を少しずつ拝見するようになり、感動と興奮を覚えたが連絡先もわからず、時は流れ、次第に遠い思い出の1ページになっていってしまった。
そんな中、出川さんはどんどん有名になり、誰もが知る有名タレントに。
形は違うけど、自分もローカルでタレントという仕事をさせてもらうことになり、いつか何かの機会に再会できるんじゃないかと淡い期待を寄せた。
「俺が有名になれば、出川さんが気づいてくれるかも」
しかし、たかだかローカルタレント。
そうそう接点などあるわけもない。
夢は叶わなかったが、それでも絶対にいつかもう一度会いたいと心に願い続ける。
時代は変わり、携帯電話やインターネット、ホームページにブログ。
積年の思いはもしかしたら今果たせるかもしれない。
ちょうど立ち上がった出川さんのブログに、当時呼ばれていた愛称で応援メッセージをコメントした。
ちなみにその店では俺は、ニックという愛称で呼んでもらってた。
「もし叶うなら会いたいです…」
そんなコメントを入れたことなどすっかり忘れていた数ヶ月後1通のメールが…。
「出川哲朗のマネージャーですが、よろしければ連絡先を教えてください・・・」
来たっ!
ついに来た!
ようやくそのコメントに気づいた出川さんが、俺と連絡を取りたいと!
すぐさま携帯番号を添えメールを返す。
興奮を抑えつつ。
数日後携帯に、見知らぬ番号から着信が。
誰だろうとなにげに電話をとると、、、
「おいニック~!!久しぶり~!!」
「で、で、で、出川さんすかぁああああ!!」
ついにコンタクトを取ることに成功した。
聞けば、かつてのバイトメンバーとはあれから何度も定期的に会ったりしていたようで、俺には連絡がつかなかったと。
「コメント見て、タレントやってんだって知って、嫁に聞いたら秋田では有名だって言われたよ~」
そう!出川さんの奥さんは秋田出身。
しかも奥さんが高校生の頃、俺が当時出演していた「何でもアリーナ」って番組に出てたと!
なんたるアンビリーバボーな運命のいたずら!!
「お前!東京来るとき絶対教えてよ!一緒に飯でも食おうな!」
そしてその日がついに来た。
SG NIGHTの打ち上げ開始まで全然時間があると言うことだったので、この時間を利用して会うことにし、連絡を取り合いながら待ち合わせ先の赤坂へ急ぐ。
駅に着くと、当時俺がゾッコン(←死語)だったスタッフの女性が迎えに来てくれた。
「うわ!懐かしい!!!そして相変わらずきれい!」
居酒屋の個室に案内されるとそこに、もう一人一緒に働いてた女性、そして、出川さん!
「お、お、お、!お久しっ…」
「ブァハッハッハッハ!!!」
大爆笑…?
「ハハハ!!あ~腹痛い!!ハハハッ!なんだよニックその頭ぁぁぁっ!!」
しばらく笑い続けた状態で宴会が始まる。
まさしく爆笑の再会となったわけだが、出川さん!
あんとき俺は、本当はやっと会えた喜びで泣く瞬間だったんすよ!
まあ大爆笑で吹っ飛びましたけどね。
それからしばし、懐かしい話に花が咲いた。
兄貴は相変わらず兄貴だった。
咲いた話は、俺の最低な過去ばかりだったような気もするが、出川さんも、同席した2人の女性も、年月は経てど、あの頃となにも変わらぬ感覚で過ごすことが出来た。
いや、俺は少しは立派になってたはずだ。(髪以外)
短い時間だったけど本当楽しかった。
出川さん、急に連絡したのに、しっかり懐かしのセッティングまでしてくれてありがとうございました。
また東京来るときは連絡します。
20年来の再会をめでたく果たすことが出来た俺。
かつて、誰も彼を知る人などなく、そのだみ声だけが目立っていた1人の男は、信じた夢を貫き、芸能界には無くてはならないキャラクターにまでなった。
そんな出川さんに今会えて、俺の、仕事へのモチベーションがさらにあがったのは言うまでもない。
マジでマジで!