goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

川島洋『青の成分』(3)

2013-10-12 08:43:48 | 詩集
川島洋『青の成分』(3)(花神社、2013年10月25日発行)

 「虹」という作品も美しい。

地下の喫煙場所に下りる外階段
踊り場の壁に あざやかな虹が立っている
(どこかのガラスがプリズムになっているのだ)

先月までは見なかった
冬の 昼前の陽射しとともに
虹はやって来て 少しのあいだ
壁に寄りかかるのであるらしい

 1連目で「立っている」虹が、2連目で「壁に寄りかかる」。どっちがほんとう? いや、そんな質問は、いまむりやりこさえたものであって、読んだ瞬間、「立っている」ではなく「寄りかかる」に私は惹かれたのだと思い出す。1連目に「立っている」ということばが書いてあるのは最初気づかなかった。こうやって引用して、あ、最初は立っていたのだ、と思い出した。1連目を忘れるくらい「壁に寄りかかる」が印象的なのだ。その虹を私は見たわけではないのに、まるでいま/ここでその虹を見ているように、「寄りかかる」ひ引っぱられる。
 虹、ではなく、自分自身が壁に寄りかかりたかったことを思い出すのだ。立っていたくないなあ。少しでも寄りかかっていたい。何となく、休みたい。それは(私はたばこを吸うわけではないが、吸ったことはないが)、地下の喫煙場所へ行って、しばらく休憩--というような気分にとても合う。「肉体」が、そのことばに同調してしまう。
 そのとき、私は川島なのか、あるいは虹なのか。
 --というのは、私の感想であって、川島は単純に「私は虹を見ているのか」あるいは「見られている虹が私なのか」ということになる。区別がつかない。「一体」になっている。直感的に、そう思う。
 その直感を誘うように、3連目が動いていく。

一服 という名の時間が
静かに喉を通過してゆくあいだ
煙につれて視線がわずかに仰向く
その先に立っている
一枚のタオルのようにくっきりした虹

 「一服」する。たばこを吸う、という意味もあるけれど、そこから派生しているのかもしれないけれど、休憩する(休む)という意味もある。壁に寄りかかって、たばこを吸って、だらしなく(?)、休む。そうすると、

その先に立っている

 あ、また虹が「立っている」。元気に回復している。元気といっても、はつらつというのではないけれどね。その、静かな「肉体」のなかにある、ことば以前の動きがとてもいいなあ。
 「ぶどうの食べ方」と「壷」もいいなあ。
 「ぶどうの食べ方」は突然ぶどうが食べたいと思った川島が「いまどこかの食卓で ぶどうを食べているひとがある」と電車のなかで思い、家に帰ってが寝静まったあともぶどうのことを考えている。

 あるいはもう 私自身がぶどうの粒になっているのかもしれない。

 この自分と対象とが「一体」になる感覚--それが川島の詩を貫いている。あの「コロッケ」(あ、タイトルは「コロッケ」ではなかったが……私は「コロッケ」と書いてしまう)の「甘い穴」のような感じだなあ。区別がつかない。「精神」がではなく「肉体」が区別がなくなる。
 そのとき、そこに「声」が虹のように立ち上がる。あざやかさに、息をのむように。
 なんて書いてしまうと、変なものになってしまうけれど。
 でも、そういう感じだなあ。
 「一体感」がいい。
 と書けば、もう「壷」について書かなくてもいい感じ。川島は「壷」を描くことで「壷」そのものになってしまう。「壷にとどかない」という悲しい「声」さえ、壷と一体になった川島の「声」に聞こえる。


外を見るひと―梅田智江・谷内修三往復詩集 (象形文字叢書)
梅田 智江/谷内 修三
書肆侃侃房

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 川島洋『青の成分』(2) | トップ | 阿部嘉昭『ふる雪のむこう』... »
最新の画像もっと見る

1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
御礼 (川島 洋)
2013-10-16 18:54:36
谷内修三様

初めまして。 川島 洋と申します。

「詩はどこにあるか――谷内修三の読書日記」で小生の詩集『青の成分』のご感想をお書き下さり、ありがとうございました。大変うれしく拝読しました。

微温的な日常から生まれた微温的な作品ばかりですが、先入見なしに感性で作品をお読みいただいたことが何よりもうれしく、特に作品の「声」について、対象への同化について、言葉の身体性について言及頂いたことをとてもありがたく思います。

沢山書いていただいたのに、このような取り急ぎの短い御礼で恐縮です。

貴ブログを、少しずつ遡って拝読しているところですが、とても面白く、刺激になります。

今後ともますますのご健筆をお祈り申し上げます。

                2013 10・16 川島 洋
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

詩集」カテゴリの最新記事