「現代詩手帖」12月号(37)(思潮社、2022年12月1日発行)
石田瑞穂「流雪孤詩から」。
長く 雪夜に独りきりだと
個の時間と外の時間が
合流した感覚が
おとずれて おもわず
孤独そのものに 手紙を
書きたくなってくる
つまり。
この詩は「孤独」そのものにむけて書かれた「手紙」ということになる。
袈裟沢の森のシメシャラや
岳樺 水芽 山桃の森
美しい二行だ。他にも美しい描写が多い。雪の日の孤独は美しいものらしい。美しさとは……。
瞳や指ではふれられない
こころでしかふれられない
しかし、私は、そういうものよりも肉体で触れるものが好きだ。
カニエ・ナハ「三瓶笑理 06.09.2022」は、耳の聞こえない人(三瓶笑理は、たぶん、そういう人)が、手話をとおしてプラネタリウムの解説を聞く。
暗やみのなかとなりの席に座っている先生が、プラネタリウム解説員の声を
手で再生する先生の声に、先生の手に笑理の手が触れて、手で手に耳をすませている。
先生の手が少しくひんやりしていて、笑理はおもった、星にそのままさわっているみたい。
「声」「手」「耳」と「ことば」がかわっていく。この変化についていくことが「触れる」「さわる」なのだが、途中に出てくる「すませる」がとてもいいなあ。耳をすませるとき、世界が、肉体が、澄んだものになる。この「澄む(すむ)」は区別がなくなるということだろうなあ。そこでは、何かが、つねに生まれ続ける。「手」は「声」に、「手」は「耳」になってうまれつづけ、それは「星」にさえなってしまう。
ここには「わざと」が入り込む余地がない。ただ「自然」が動いているだけだ。「自然」とは「世界」であり「宇宙」だ。それは「こころでしかふれられない」ものではなく、「手」で触れることのできるものである。「ことば」で触れるだけではない。
鎌田尚美「持ち重り」。鎌田は「最中(もなか)」に触る。途中に、こんなことを思う。
死刑囚が、刑の執行の直前に出された最中を見て
「最中はさいちゅうと書くのですね、わたしは刑の最中なんですね」
と言ったという
意味はわかったようで、わからない。
詩は進んで、歩いていたとき地震があって、思わず持っていた最中をつぶしてしまう。無意識の「肉体」の反応。それが引き起こす、世界の変化。というと、おおげさかもしれないが。
その最後の一連。
階段の途中の踏み板に足をかけたとき、呼ばれたような気がして振り向くと、行き止まりの道の先にある電信柱に灯が灯り、巨大な蝋燭のように見えた
いつでもだれかが「呼んでいる」。最中が死刑囚を呼んだのかどうかわからないが、その死刑囚の声が鎌田には聴こえたのだろう。
カニエの詩では、笑理が先生を呼んだのかもしれないが、その先生は知らずに星を呼び寄せ、指先に出現させている。「肉体」では、なんでも、起きてしまう。
鎌田の詩では、電信柱が「巨大な蝋燭に見える」ということも起きる。この巨大な蝋燭が、私には、ふと死刑囚に見えてしまう。
「自然」ではなく「超自然」か。しかし、「超自然」というのは「絶対自然」かもしれない。笑理が触れた星の「ひんやり」も「絶対自然」だ。「わざと」も「わざわざ」も入り込む余地はない。
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