goo blog サービス終了のお知らせ 

詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「現代詩手帖」12月号(37)

2023-01-15 10:54:40 | 現代詩手帖12月号を読む

「現代詩手帖」12月号(37)(思潮社、2022年12月1日発行)

 石田瑞穂「流雪孤詩から」。

長く 雪夜に独りきりだと
個の時間と外の時間が
合流した感覚が
おとずれて おもわず
孤独そのものに 手紙を
書きたくなってくる

 つまり。
 この詩は「孤独」そのものにむけて書かれた「手紙」ということになる。

袈裟沢の森のシメシャラや
岳樺 水芽 山桃の森

 美しい二行だ。他にも美しい描写が多い。雪の日の孤独は美しいものらしい。美しさとは……。

瞳や指ではふれられない
こころでしかふれられない

 しかし、私は、そういうものよりも肉体で触れるものが好きだ。
 カニエ・ナハ「三瓶笑理 06.09.2022」は、耳の聞こえない人(三瓶笑理は、たぶん、そういう人)が、手話をとおしてプラネタリウムの解説を聞く。

暗やみのなかとなりの席に座っている先生が、プラネタリウム解説員の声を
手で再生する先生の声に、先生の手に笑理の手が触れて、手で手に耳をすませている。
先生の手が少しくひんやりしていて、笑理はおもった、星にそのままさわっているみたい。

 「声」「手」「耳」と「ことば」がかわっていく。この変化についていくことが「触れる」「さわる」なのだが、途中に出てくる「すませる」がとてもいいなあ。耳をすませるとき、世界が、肉体が、澄んだものになる。この「澄む(すむ)」は区別がなくなるということだろうなあ。そこでは、何かが、つねに生まれ続ける。「手」は「声」に、「手」は「耳」になってうまれつづけ、それは「星」にさえなってしまう。
 ここには「わざと」が入り込む余地がない。ただ「自然」が動いているだけだ。「自然」とは「世界」であり「宇宙」だ。それは「こころでしかふれられない」ものではなく、「手」で触れることのできるものである。「ことば」で触れるだけではない。

 鎌田尚美「持ち重り」。鎌田は「最中(もなか)」に触る。途中に、こんなことを思う。

死刑囚が、刑の執行の直前に出された最中を見て
「最中はさいちゅうと書くのですね、わたしは刑の最中なんですね」
と言ったという

 意味はわかったようで、わからない。
 詩は進んで、歩いていたとき地震があって、思わず持っていた最中をつぶしてしまう。無意識の「肉体」の反応。それが引き起こす、世界の変化。というと、おおげさかもしれないが。
 その最後の一連。

階段の途中の踏み板に足をかけたとき、呼ばれたような気がして振り向くと、行き止まりの道の先にある電信柱に灯が灯り、巨大な蝋燭のように見えた

 いつでもだれかが「呼んでいる」。最中が死刑囚を呼んだのかどうかわからないが、その死刑囚の声が鎌田には聴こえたのだろう。
 カニエの詩では、笑理が先生を呼んだのかもしれないが、その先生は知らずに星を呼び寄せ、指先に出現させている。「肉体」では、なんでも、起きてしまう。
 鎌田の詩では、電信柱が「巨大な蝋燭に見える」ということも起きる。この巨大な蝋燭が、私には、ふと死刑囚に見えてしまう。
 「自然」ではなく「超自然」か。しかし、「超自然」というのは「絶対自然」かもしれない。笑理が触れた星の「ひんやり」も「絶対自然」だ。「わざと」も「わざわざ」も入り込む余地はない。

 

 

**********************************************************************

★「詩はどこにあるか」オンライン講座★

メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。

★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。

★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。

費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

オンデマンドで以下の本を発売中です。

(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512

(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804


(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455

(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977

 

 

問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com

 

 

 

 

 


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Estoy Loco por España(番外... | トップ | 青柳俊哉「野生のひかり」、... »
最新の画像もっと見る

1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
現代詩手帖12月号 (37) (大井川賢治)
2024-03-19 20:58:44
/ここには「わざと」が入り込む余地がない。ただ「自然」が動いているだけだ/。これは、谷内さんの言われる詩の真髄の一つなのでしょうね~
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

現代詩手帖12月号を読む」カテゴリの最新記事