「現代詩手帖」12月号(41)(思潮社、2022年12月1日発行)
夏野雨「トーキョーウォータータクシー」。
「言葉は水の脈みたいに、繋がっている。誰かと。」
異母兄弟の兄と、父の遺骨を海に撒くために乗った「トーキョーウォータータクシー」で、兄がそんなことを言う。このことばが書きたかったのだろうと思うが、最初の方に出てくることばが、ここに書かれていることばとつながらない。
岸壁沿いのマンションがささやかな生活の光を跳ね返す。ベランダでまどろむ洗濯物や植物たち。
なぜ、つながらないか。「岸壁沿いの……」は、どこにも「事実」がないからだ。見かけは本当だが、それは「常套句」という嘘。まるで村上春樹の小説のように、私は読んでしまう。「岸壁沿いの……」で読む気力がなくなるのだが、読む気力がなくても最後まであっと言う間に読んでしまうことができるのが村上春樹のことばの特徴だが、私は、そういうことばとはつながりたくない。
「常套句」は、その国語を話しているひとの、おおざっぱな感覚をつかみとるのにとても便利なので、私は村上春樹の小説を日本語教材(外国人に日本語を教える)としてつかっているが、それは「文学」とはかなり違うものではないかと私は感じている。
蜂飼耳「夜のベランダ」は、夏野が「トーキョーウォータータクシー」から見たかもしれない光景であるが、そこには「常套句」はない。
ある日、ベランダのすみに火山が出来る
ときおり、くらりと煙を上げ、
灰をまき散らすが苦情は届かない
おそらく 見えないのだ どこからも
私の火山なのだろう
いや、「火山」が「煙を上げ」る、「灰をまき散らす」は「常套句」だが、それはふつうの人には「見えない」から、常套的な描写であることを超越している。「常套句」は蜂飼のように「わざと(わざわざ)」つかうから効果的なのである。「文学」になるのである。文学とは「私の」ことばである。
夜の続きに取り囲まれる
なにか言おうとして、
火山がふくらんでいく
闇の中に煙が見える
何を言おうとしたのか。それは読者が考えることである。「答え」があるとしたら、それは作者の中にあるのではなく、読者の中にある。「私の」何かを、言うことができるように誘い出すもの、言うことができるまでそばによりそうのが「文学/詩」であるだろう。
平林敏彦「詩」。
最後の一日のため
詩で生活を表現する
詩が生活を打ちこわすとしても
詩は「常套句」ではない。だから「生活を打ちこわす」。そうすることで「つながる」ための「水脈」になる。それは、それまでの「常套句」を壊さないかぎり広がらない「水脈」だ。
そのために「わざと」、「わざわざ」書くのである。
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