ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン監督「コンペティション」(★★★★)(キノシネマ天神、スクリーン1)
監督 ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン 出演 ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス
この映画が成功しているいちばんの理由は、リハーサルを超豪華な建物のなかでやっていることだ。映画の撮影ならともかく、リハーサルに、そんな場所をつかう必要がない。でも、これは映画をつくる、リハーサルをするという「映画」なのだから、豪華な舞台の方が見栄えがするし、いかにも「映画」という気持ち(現実ではないという気持ち)になる。
というようなことを書いていると、これが映画なのか映画ではないのか、よくわからなくなる。
これが、ミソだね。
何もかもが嘘なのに、そこに「ほんとう」がある。人間の、かぎりないエゴイズム。登場人物が、みんなエゴイズムのかたまり。
でも、それ、「ほんとう」? 演技として演じられているだけでは?
ほら、また、わからなくなる。
映画のなかでは「ほんとう」を演じながら、その「ほんとう」は嘘だったという部分があるし、こんな安直な「嘘」で結末をつけてどうするんだと思っていたら、ちゃんと別の「ほんとう」(安直な「ほんとう」)が用意されている。
これでは、終わりがない。映画のなかでは、この「終わりがない」さえ、ちゃかされている。
どこまで書いても繰り返しになるので、繰り返しにならない「もの」について書いておこう。
ペネロペ・クルスの「腋毛」である。ペネロペ・クルスが処理していない腋毛を見せる。もちろん、それは映画のための「嘘」ではあるのだが、その腋毛はペネロペ・クルスの腋毛であることは事実なのだ。
いいなおすと。
この映画に出てくる役者の、その「肉体」そのものは「ほんもの」である。(もちろん、この役者の肉体は「ほんもの」ということも、アントニオ・バンデラスの二役という形で「ほんもの」を否定されるが、その否定はことばだけなので、まあ、役者の「肉体」の「ほんもの性」は揺るがないと考えていいだろう。
これを言い直すと。
観客は、映画(芝居でもいいが)を見るとき、何を見に行くのか。自分の日常とは違う「ストーリー」か。そんなものではない。ひたすら「役者の肉体」を見るだけなのである。ペネロペ・クルスの腋毛が欲望をそそる、とか、あ、そんなもの見たくない、とか。つまり、腋毛がない方が好き、とか。
この「肉体」を見ているだけ、というのは、笑ってしまうことに、これも映画のなかでひとつのテーマとして描かれている。脇役の女優とキスするリハーサルがある。アントニオ・バンデラスとオスカル・マルティネスのキスがへたくそ、というのでペネロペ・クルスが演じて見せるのだが、それは演技? それとも本気? つまり、脇役の女優にその少女を選んだのは、役者としての才能にほれこんだから? それともキスしたかったから? それは、わからない。わからなくていいのである。アントニオ・バンデラスとオスカル・マルティネスは、わからないまま、それを見つづける。わからなくなって、つまり、困惑した出資者だけが、そのキスを見ることに耐えられず、その部屋を離れる。
役者の「肉体」を見ることが嫌いなら、映画を見なくてもいい、でも「肉体」を見ることが好きなら、「スケベごころ[があるなら、見に来て、ということだ。
で、その「肉体」にも、いろいろ種類(?)がある。ペネロペ・クルスもアントニオ・バンデラスも、簡単にいうと「色」を売っているが、オスカル・マルティネスはさすがに「色」を売る年齢でもない殻かもしれないが、「声」を売っている。「声」がとても聞きやすい。それが「舞台俳優」という役柄にぴったりでおもしろかった。さらに、その「声」がスペイン人とはちょっと違うかも、と思ったら、アルゼンチン人だった。知らず知らずに、そんな「肉体」の違いを見ていたことになる。
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