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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

アルフレッド・ヒチコック「レベッカ」(★★★★)

2011-08-10 13:57:42 | 午前十時の映画祭
監督 アルフレッド・ヒチコック 出演 ローレンス・オリヴィエ、ジョーン・フォンテーン、ジュディス・アンダーソン

 ヒチコックの映画のおもしろさのひとつに、美女が苦悩する、ということがある。不安、悲しみ、恐怖のなかで、美女の顔が歪む。--歪むのだけれど、その歪みが逆に、その女性の完璧な美しさを想像させる。想像力のなかで、美女がより美女にかわる。
 悦びのなかで美女がさらに美女になるという例は多い。あのシシー・スペイセクさえ、「キャリー」でダンスパーティーの「女王」に選ばれた瞬間、ほんとうの「美女」のように輝いている。
 ヒチコックは、そういう映画には興味がないようだ。美女はあくまでいじめられ、苦悩し、不安におののく。この映画もそうしたシリーズ。いや、そのなかの代表作かな?
 この映画の構造が、想像力そのものをテーマにしているから、よけいにそんなことを感じるのかもしれない。
 ジョーン・フォンテーンはローレンス・オリヴィエに求婚されて、結婚する。大豪邸で住むことになる。しかし、そこにはローレンス・オリヴィエの「前妻」の影がちらついている。絶世の美人。レベッカ。事故で死んでしまった。ローレンス・オリヴィエ自身がレベッカを忘れられずにいるのにくわえ、レベッカにつかえていた夫人(メイド頭?)が常にジョーン・フォンテーンとレベッカを比較し、「前の奥様は……」というようなことをいう。
 ジョーン・フォンテーンは自分自身の「美しさ」を追求することができない。どんなに追い求めても、それより「上」がある。レベッカの肖像を真似て、「理想の美人」になってみると、逆にローレンス・オリヴィエの苦悩を甦らせ、怒らせてしまうという具合。
 で、そのときどきの、ジョーン・フォンテーンの、ああ、美しいですねえ。いや、ほんとう。そうなんだ、美人はいじめるとさらに美しくなるんだ。美人をいじめてみたい。苦悩する顔を見てみたい--という、ちょっとサディスティックな気持ちになりながら、ずーっと映画を見てしまう。ヒチコックの策中にはまり込んでしまったまま、映画を見てしまう。まあ、映画は監督に騙される楽しみだから、それはそれでいいんだけれど。

 ということは、別にして。
 この映画はヒチコックがアメリカで撮った第一作なのだけれど、そこに出てくる人間が、ローレンス・オリヴィエをはじめとして「レベッカ側」がイギリス人。対するジョーン・フォンテーンがアメリカ人という構図が、この映画をまたまたおもしろくしている。
 イギリスの個人主義というのは、アメリカともフランスとも違うねえ。本人がはっきりことばにしていわないかぎり、その「個人の秘密」は存在しない。プライバシーは、本人が語らないかぎり、あくまでも「隠されている」。だれもが知っていても、本人がいわないかぎり、その「秘密」は存在しない。
 シェークスピアの国だけあって、ことばが重要なんですねえ。
 ね、だから、ことば、ことば、ことば。(オリヴィエが出ているから「ハムレット」を引用しているわけではないんですよ。)
 そこに存在しないレベッカ(死んでしまったレベッカ)が何と言ったか。プライバシーをどう語ったか。特に、オリヴィエに何と言ったか、ということがとっても大切になる。オリヴィエに言ったことは「ほんとう」だったのか、それとも「嘘」だったのか。それをことばで追い詰めるようにして、映画はクライマックスへ突っ走る。
 まるで小説を読んでいる感じだなあ。
 これがね、オリヴィエの演じる大富豪がアメリカ人だったら、レベッカがアメリカ人だったら、こんなストーリーにはならない。「嘘」を語ることで自分を隠す(プライバシーを捏造することで、ほんとうの自分を隠す)ということは、しない。ひたすらしゃべって、オリヴィエを自分の問題に(苦悩に)巻き込んでゆく。
 イギリスだから、何かを知っていても(たとえばレベッカが誰かとセックスをしている、浮気をしている、というのを見聞きしても)、そのことを「追及」し、語られていることが真実か嘘かという問題には踏み込まない。語られていないことは、聞いてはいけないのだ。
 これは、ほら、ジョーン・フォンテーンに対するオリヴィエの態度に端的にあらわれている。「過去」を語らない。レベッカのことを最小限にしか語らない。みんな、そうだね。--語られることが少ないということが、つまり、オープンに何でも話してしまわない、というイギリス人の個人主義の「壁」がジョーン・フォンテーンの苦悩をいっそう強めるという仕組みになっている。
 これがこの映画のいちばんおもしろいことろ、と私は思う。

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