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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

チュ・チャンミン監督「拝啓、愛しています」(★★★)

2013-01-18 10:30:08 | 映画

監督 チュ・チャンミン 出演 イ・スンジェ、ユン・ソジョン、キム・スミ

 主人公の頑固なおじいさんが牛乳配達をしている。そのおじいさんが坂道で貧しいおばあさんに会う。そして恋をする、という現代ならではの物語なのだが。
 一か所、とても感心した。この主役のおじいさんはおんぼろのバイクで牛乳配達をしているが、実はかなり立派な家に住んでいる。で、牛乳配達以外にすることがないので朝からアダルト番組を見るくらいの元気者なのだが、うーん、こんなに金持ちならなぜ牛乳配達? これが最初はわからない。実は、隠された秘密がある。
 おじいさんは当然だけれど結婚していた。妻がいた。その妻が病気で入院した。ベッドの上で「牛乳が飲みたい」という。おそらくはじめての、妻のための買い物が牛乳だった。病院の売店で買ってくる。けれど看護婦が言う。「牛乳を飲ませてはいけません」。牛乳が飲めない病気なのだ。飲むと治療に悪影響が出るのだ。--おじいさんは妻に何もしてやれなかった。そのことが後悔としてずーっと残っている。それで誰よりも早起きして牛乳配達をしている。そうか、そういうわけだったのか。
 そのおじいさんが、墓参りにゆく。墓にそっと牛乳をかける。水とか酒ではなく、牛乳。ずっーと妻と牛乳のことを思っている。いいなあ、この感じ。こういう愛情の表現の仕方。
 おばあさんとの恋の合間に、駐車場の管理をしている元タクシー運転手の男、その妻とも知り合いになり、いわばこの映画はふたつの恋(愛)を平行して描いていく。その愛の描き方が丁寧で気持ちがいい。気持ちがいいけれど、おばあさんはその恋がすばらしすぎて不安になり、田舎へ帰ってしまう。おじいさんは失恋をする。
 で、そのあと、またなかなかいいシーンが出てくる。
 おばあさんが住んでいた家には、いまは新しい家族が越してきている。夜、その前の路地を娘といっしょに通り、思い出話をする。そのとき新しい家族のこどもが家に入る前に外灯に灯をともす(スイッチを入れる)。「暗いと牛乳配達の人が困るから」。おじいさんはそのことを知らなかった。いつも通る道。暗い朝、外灯がついている。それは当然のことだと思っていた。けれどもそうではないのだ。誰かがつけてくれていたのだ。おじいさんはだれかしらない人に助けられて生きていたのだ。
 その誰か--それがおばあさんであるかどうかははっきりとは描かれていない。けれどおじいさんは、あのおばあさんが外灯の灯をつけてくれていたのだと思う。おじいさんはその外灯の下をおんぼろのバイクで通ることで「目覚まし時計」のかわりをしていたが、そのおじいさんを助けてくれる人もいたのだ。ひとは知らず知らずに助け合っている。そのことに気がつく。そして田舎へおばあさんを迎えにゆく。いっしょに住むために。
 いいねえ。これ。
 人がしていることは誰も知らない。誰も知らなくても、人はすることをして生きている。それが互いを助け合うことになっている。そのことを「これを見なさい」とは言わない。声高に主張しない。ただ何でもなかったことのように描いて終わる。恋のハッピーエンドに隠して終わる。
                      (2013年01月10日、KBCシネマ2)


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