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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

映画「恋するトマト」

2006-08-09 23:30:54 | 詩集
監督 南部英夫 出演 大地康雄 アリス・ディクソン

 緑が美しい。トマトが美しい。そして何より大地康雄の日焼けした顔の色が美しい。そして大地の稲を鎌で刈る姿が美しい。稲の株をしっかり左手で掴み、鎌を握った右手をぐいと引く。その動き、スピードがすばらしい。日本の百姓の、喜びにあふれる肉体だ。
 人に裏切られ、そして人を裏切るような仕事をしながら、フィリピンの農村へ行ったとき、田んぼが気になる。働く人が気になる。その視線、その視線の先の風景が、とてもいとおしい。
 一度農業をしたことがある人は、どうしてもそこで栽培されているものに目が行ってしまう。どんな具合に育っているだろうか。ちゃんと実っているだろうか。そして、それを収穫する人にも目が行ってしまう。つらい仕事だけれど、そのつらさのなかにある快感、丹精込めて育てたものが丹精込めた分だけ大きくなっているという実感。そういうものをひとりの日本人が取り戻す物語だが、農村の描写、特に大地が働く描写がすばらしいのでぐいぐいひきずりこまれる。
 太陽と土地と水があれば農業はできる。そして食べるものを育てているかぎり人間は生きて行ける。
 農業は稲やトマトを育てるだけではない。人間を育てる。人間の生きる力を回復させる。大地は、そうした過程を、全身でつたえている。ああ、百姓はいいなあ。自然相手の仕事だが、愛情を込めれば込めるだけ、稲もトマトも正直に育つ。
 そして、稲やトマトの正直な姿が人間を正直にさせる。

 日本の農業はたいへんな状況に追い込まれているが、正直な人間がいるかぎり、まだまだ再生できる。再生してほしい。そう祈らずにはいられない、美しい映画だ。

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