詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

高橋睦郎『つい昨日のこと』(154)

2018-12-09 11:14:43 | 高橋睦郎「つい昨日のこと」
 「家族ゲーム または みなごろしネロ」は「ネロ」が語り手だ。

ぼくが 父を殺した
理由は 老いぼれで
大喰らいで 大淫ら
つまり 醜悪至極だったから
彼は死んで 神になった
へどまみれ 淫水まみれの神
彼を神に挙げた手柄は
ぼくのもの

 と始まる。このあと「僕は 弟を殺した」「妹を殺した」「母を殺した」「妻を殺した」「息子を殺した」とつづいていく。
 同じリズム、同じ展開である。
 「理由は」と語り、「つまり」と言いなおす。これは「論理のことば」だが、ここでは「論理」が効果的だ。「定型」をかたちづくり、ことばにスピードを与える。意味が明確になり、軽くなる。陰惨な内容だが、童謡のような明るさ、無邪気な声が響きわたる。「定型」が陰惨さを洗い流してしまう。
 「神話」が誕生する、と言ってもいいかもしれない。
 「神話」というのは、口から口へつたわっていかないといけない。耳から入ったことばが肉体を通り抜け口から出ていく。その繰り返しが、ひとの「肉体」そのものをつくる。音、リズムと響きが、ひとの肉体で共有され、ひとは「ひとつ」になる。

 この詩は大好きだが、不満もある。
 「ぼくは 師を殺した」と「ぼくは ぼくを殺した」のパートはおもしろくない。「論理」が完結してしまう。「定型」が閉ざされてしまう。「ぼくは 息子を殺した/(略)/彼を存在に転じた手柄は/ぼくのもの」で終わっていれば、「ぼく」は開かれたままだ。殺されて存在しないのに、殺されることで記憶(歴史)に存在してしまうという「矛盾」に打ちのめされる。読者は「ぼく(高橋)」になって「ネロ」の快感、歴史に批判されるという超人にしか味わうことのできない快感を味わうことができる。
 「神話」の主人公になることができる。

 詩の最後の「遺書」の部分は、「定型/完結」に二重化している。すべてを「論理」のなかにことばをとじこめている。
 高橋の「個人的事情」なんて、私は知りたくない。



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