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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

柏木麻里「蝶」

2009-05-31 14:45:28 | 詩(雑誌・同人誌)
柏木麻里「蝶」(「現代詩手帖」2009年06月号)

 柏木麻里「蝶」は文字の配置そのものも詩をめざしている。この日記では、その配置、つまり空白のバランスなどは再現できないので、そのことは除外して感想を書く。(引用は、実際の詩の形とは違っている。空白を省略しているので、作品は「現代詩手帖」で確認してください。)

ゆうがた
いちごの匂いをさせて
蝶がねむる



おしえておしえて と

そと が

蝶にちかづく




蝶の両がわで
世界がそだっているよ



百合の ひらいたかたち

蝶のいた

 2連目(と、とりあえず呼んでおく)が、とても魅力的だ。主語(?)は「そと」。「そと」が「ちかづく」って、どういうこと? わからないけれど、はっとする。「そと」を主語にして、こんな文が成り立つということの不思議さに引き込まれてしまう。
 「そと」とは「蝶」の「そと」だろう、と思って読む。「そと」は近づかなくても、「そと」である。「蝶」の「そと」とは空気。それはいつでも「蝶」とともにある。どこまでも広がっている。そのどこまでも広がっているものが「蝶」に向かって凝縮(?)してくる。濃密(?)になっている。
 なぜ?
 私は1連目の眠る蝶の「夢」を想像する。「夢」のことは柏木は書いていないのだけれど、「ねむる」ということばが「夢」を誘う。その「夢」はきっと「いちご」の夢だと思う。蝶の夢から「いちご」が匂ってくるのだ、眠りの奥からその匂いがあふれだすのだと思う。
 匂いは夢からあふれだす。そのとき、匂いがどんな匂いかは「そと」にもわかるはずである。あふれだしているのだから。けれども、「おしえておしえて」と「そと」は近づく。自分のことばで「知る」のではなく、他人の、つまり「蝶」のことばで知りたいからだ。
 世界はいろいろなものに満ちている。その多くは自分自身の力で知ることができる。けれども、自分のことばではなく、他人のことばで知りたいこともある。他人なら、それをどういうのか。--それは他人を、他者を知ることでもある。
 世界は、いま、蝶を知りたがっている。
 そのとき、蝶の「両がわ」で(両側をほんとうは超えていると思うけれど)、「世界がそだっている」。あ、他者を知ることは、「育つ」ことなのだ。他者を知ることは自己を知ること--などと書いてしまうと、ちょっと教訓染みてしまうけれど、他者に触れるとき、そこに「空気」の変化がある。変化がおきる。それがおもしろい。

 柏木の「空白」は、他者に触れるときの、「空気」のバランスの変化、濃度の変化を柏木流の空間意識というフィルターで表現しているのだと思う。以前、私は、柏木が「本」ではなく、展覧会の会場で詩を発表しているのを見たことがある。実際にその会場に行ったわけではなく、写真で見ただけだけれど。たぶん、「本」よりも、そういう「空間」野ほうが、柏木の書こうとしている「空気」を的確に表現できるかもしれない、とも思った。



蜜の根のひびくかぎりに
柏木 麻里
思潮社

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『田村隆一全詩集』を読む(101 )

2009-05-31 00:12:53 | 田村隆一

 「讃歌」は「やっと/あなたに会えた」ではじまり、「やっと/あなたに会えた」でおわる詩である。「あなた」とはだれか。私は「詩」と読みとった。

断片のなかに
破片のなかに
全体像がふくまれていなかったら

断片は断片にすぎない
破片は破片にすぎない

 このとき「全体像」とは、想像力が描き出す「姿」である。「断片」「破片」を「ことば」と置き換えてみると、とてもおもしろい。
 「ことば」はそれ自体として、「全体像」をふくんでいる。
 そして、その「全体像」とは「矛盾」が引き起こす運動のことである。

窓だけあって部屋がない
部屋だけあって窓がない

ぼくが経験した世界の狂ったデザインのなかから
生れた
灰とエロスの有機物

 「狂ったデザイン」。それは、田村の「ことば」があえて「狂わせた」デザインである。田村の「ことば」は世界を「矛盾」のなかで描き出す。そして、「矛盾」をぶつけあい、叩き壊す。その叩き壊された断片、破片は、元の形の「全体像」をふくんでいるのではない。これから生まれる新しい全体像をふくんでいる。
 だからこそ、「有機物」である。

 詩は、叩き壊されたことばが、新しく再生していくとき、その変化のなかに輝く。



ぼくの遊覧船 (1975年)
田村 隆一
文芸春秋

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