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“カサブランカ”の竜

2007年06月06日 | Weblog
ばっちゃんの手を引きながら新大久保の路地を歩いていた。
すると、ある男が通りすがりに「かぁちゃん、年とったなぁ」としみじみ言った。

「かぁちゃんのこと良く知ってるよ」
「???」
「かぁちゃんなぁ・・・」
「失礼だけど、あたし知らない」
「そりゃ、かぁちゃん俺のこと知らないよ、知らなくていいんだ。
 俺みたいなヤクザもん、ムショ出たり入ったりしてんだからよ。
 あんた息子さんか?」
「いや、孫です」
「そっかぁー、かぁちゃん年とったなぁ・・・。
 昔、世話になったんだよ・・・。
 かぁちゃん美人でなぁ。」
「おじいちゃんが去年死んで今ひとりなんですよ。」
「おぉ、知ってるよ。
 随分世話になったんだぁ・・・。」

「なんかあったらいつでも言ってくれよな。
 “カサブランカ”の竜って言えば、ここら辺じゃしらねぇ奴はいねぇよ。」

男は白いサマージャケットに白のサマーソフトを粋に被っていた。
新大久保版ハンフリー・ボガートといったところか。
むしろ、寅さんの世界に近いと思うのだが・・・。

そして挨拶をして歩き出した。
すると、
「おぃ、かぁちゃん!待ちなよ!コーヒー買ってやっから」と言ってきた。

新大久保の簡易宿に寝泊りし、昼間から鬼ころしを飲んでいる男に大した銭が
あるわけでもない。
僕にはなく、ばっちゃんにだけ缶コーヒーを買ってきた。
「かぁちゃんに飲んでもらいてぇんだよ。」

ばっちゃんはコーヒーを飲まない。
そのままバックに入れた。
帰って僕にくれたけど、生前その“カサブランカ”の竜とふれあったかも知れない
おじぃちゃんの仏壇に供えた。

僕は今この時代にこういう男がいたのかと感心した。
いや、感動を覚えた。
映画の中でしか見たことのないような、ヤクザが自分の名前の前に形容詞をつけて、
しかも「ここら辺じゃ知らねぇ奴はいないよ」というセリフにシビレた。
新宿という土地柄もあるかも知れない。きっとそうだろう。

『男はつらいよ』の世界がそこにあった・・・。