中段玉捕獲指令 豊島将之vs松本佳介 2007年 C級2組順位戦

2020年03月03日 | 将棋・好手 妙手

 豊島将之が、叡王戦の挑戦者になった。

 渡辺明三冠との挑戦者決定戦は、現在の棋界最強決戦。

 特に第3局の終盤は、超難解な局面が続き、もうハラハラドキドキで堪能したもの。

 対照的なキャラ設定もあいまって、この2人の対戦は今、激アツである。

 今から名人戦も、楽しみでならないところだ。

 ということで、前回は大山康晴十五世名人が晩年に見せた「全駒」の将棋を紹介したが(→こちら)、今回は今まさに旬の棋士の若手時代を見ていただきたい。

 

 2007年の、第66期C級2組順位戦

 松本佳介五段と、豊島将之四段の一戦。

 現在、名人位を保持している、豊島将之の順位戦デビュー戦であるが、当時流行の矢倉▲46銀&▲37桂型から、先手の豊島が先攻。

 相居飛車の将棋、特に矢倉角換わりでガッチリ組み合うと、先手猛攻を仕掛け、後手がひたすらそれを耐えるという図式になりやすいが、この一局はまさにその典型のような形となる。

 先手も飛角銀桂香をすべて使った、目一杯の攻めなら、後手も眉間で受け止めるギリギリのしのぎを見せ、チャンスをうかがう。 

 

 

 

 

 図は△12桂と、松本が受けたところだが、攻防ともに紙一重のところで戦っているのがよくわかる。

 先手の攻めもきわどいが、後手も一発で倒れても、おかしくない形。

 足が止まったらおしまいの豊島は▲23銀成から▲43銀と攻めつけるが、後手も決死の上部脱出から、間隙をぬって△69銀から△86歩と手筋の反撃。

 こういった形は、嵐がやんだ瞬間に後手から「一瞬のカウンター」が決まるかどうかだが、この将棋はどうか。

 

 

 

 後手が△24角と打ったところ。

 これが竜に当てながら、次に△79角成からの詰みを見た攻防手。

 ▲26歩▲36金△16玉とかわされ、△73角の利きもあってつかまりにくい。

 ましてや深夜の秒読みともなれば、相当にあせらされそうなところだが、ここで豊島は、あざやかな寄せを披露するのだ。

 

 

 

 

 ▲16金と打ったのが絶妙手。

 △同歩は▲36金と打って、△15玉しかないが(▲16を埋めつぶした効果!)、そこで▲69金質駒の銀を取る。

 △同成香でも△33角をはずしても、▲26銀以下詰み。

 

 

 

 

 

 やむをえず、松本は△16同玉と取るが、▲36竜と王手して、大海に逃げ出したはずの後手玉は、にわかにせまい

 

 

 

 

 △17玉にはやはり▲69金と取って、△同成香▲27金から▲38竜で詰み。

 なので後手は、▲69金の瞬間に△32飛とハッとする手で(▲38竜を消している)最後の抵抗を試みるも、あわてず▲18歩と打って、△28玉に、▲38銀で後手投了。

 

 

 

 入玉形で広く見えたが、これでピッタリつかまっている。

 

 「玉はつつむように寄せよ」

 「玉の腹から銀を打て」

 

 格言通りの冷静な寄せ。

 当然とはいえ、▲32竜と飛車を取らないところがうまい。

 見事、豊島四段が、順位戦を白星デビューで飾り、大器の評判に偽りなしであることを証明した。

 その後も豊島は、各棋戦で高勝率をあげ、2010年には20歳の若さで王将戦の挑戦者になる(当時の王将位は久保利明)。

 このときはまさか、この男がタイトルを獲得するまで、あんなに手間どることになろうとは想像もつかなかった。

 豊島にはこれから、この長かった雌伏の時間を取り戻すべく、勝ちまくってほしい。

 と言いたいところだが、叡王として待つ永瀬拓矢も、またデビュー当時から目をつけていた逸材で、七番勝負はどちらを応援するか、今から悩ましいところである。

 
 

 (永瀬拓矢のデビュー時代の苦闘編に続く→こちら

 

 


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