雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

最後のお別れ・ご冥福を祈る

2015-11-03 23:25:57 | ことの葉散歩道

最後のお別れ・ご冥福を祈る  ことの葉散歩道(14)

 

 死後の硬直が消えて筋肉がゆるみ、おだやかな顔になってかすかに笑っているようだとさえ言うが、それはあくまでも意志のない死顔で、死のやすらぎの中に静かに置かせてやるべきではないのか。

 「死顔」吉村昭著 短編集所収「二人」より

  高齢の兄の葬儀に参列し、読経が終わると最後のお別れである。

棺のふたが開けられ、嗚咽や忍び泣きの中、親族たちが次々に棺の中の死者に花を添える。

旅たちに備え、遺体を花で覆いつくす。

遺族にとっては新たな悲しみが湧いてくる時でもある。

 

 「お別れを……」葬儀社の若い男が近寄ってきて、私たちをうながした。私は、無言でうなずいたままその場を動かず、妻も私のかたわらに立っていた。

 そうしながら、作中の私は冒頭のようなことを密かに思い、斎場に妻と二人立ちつくすのである。

 

 葬儀場で式を行うようになってから久しいが、

いつごろからこんな習慣ができたのか。

出棺に際し棺のふたを取り、遺体に花を添える。

遺族にとっては、新たに悲しみがこみあげ、辛いひとときである。

しかも、参列者が大勢いるなかでの儀式である。

できれば人前で涙を見せたくない場面だ。

 

 

 遺族にとって悲しみがこみあげて来る場面が三度ある。

通夜に臨み湯かんをし、故人を棺に納める「納棺」のとき、

出棺前に故人に「花を添える」とき、

最後に窯のふたが開き棺が暗くあいた穴の中に入っていく瞬間。

 

 

死のやすらぎの中に静かに置かせてやるべきではないのか。

 

 

 最近の葬儀では、「皆さんもお花をどうぞ」と一般参列者にも呼びかけることが一般的だ。

声がかかれば席を立ち、ぞろぞろと棺に向かい、故人に花を手向ける。

 

 

 私は物言わぬ個人の顔を拝むのが嫌で、

親族の葬儀以外で花を手向けたことはない。

故人と遺族との最後のお別れを一般席から静かに見守り、ご冥福を祈りたい。                

 

                               (2015.11.03記)

 

 

 

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 被曝労災フクシマの現実 | トップ | 私は18歳 何処へ行ったらいいの »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ことの葉散歩道」カテゴリの最新記事