オヤジ達の白球(9)公式審判員
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/4a/9ed9d597f624f653cdfdc19cd8bd5e4b.jpg)
「その責任を取らされてうちの地区は今季、出場を自粛中だ」
「あたりまえだ。今季どころか、無期限出場停止でもいいくらいだ。
おまえたちのせいでソフトを辞めた人間が、何人もいるんだぜ」
「俺たちのせいにするな。
ろくにソフトを好きでないメンバーばかり集めているから、そうなるんだ。
勝つためなら何でもする。審判を買収してどこが悪い」
「まったく反省していないのか。呆れた奴だな、おまえは」
「多少の反省はしているさ。
そうか今回はジャッジの公平を期すために、公式の審判員を呼んだのか。
最初から公式の審判員を呼んでおけば、去年のような騒動はおこらなかった。
遅すぎるぜまったく。町のソフトボール部会の動きは」
「よく言うぜ、まったく。
もめ事の原因を作った張本人のおまえが。北海の熊」
「だからよ。そいつはそっくり、おまえさんのチームへ返してやる。
俺たちが買収したのは素人の審判たちだ。
すこしくらい判定が甘くても、我慢するのが大人の配慮というもんだ。
おまえらの我慢が足りないせいで、乱闘に発展したんだ。
責任をとっておれらのチームだけが、いまだに活動を自粛中だ。
喧嘩といえばほんらい、公平に、双方を成敗するもんだ」
「バカ言ってんじゃねぇ。
巻き添えを食って、おれたちまで出場停止にされてたまるか。
頭にきた。ここで決着をつけようじゃねぇか!。
あのときは町の役員連中が仲裁に入ったから、不完全燃焼のまま終わりになった。
鬱憤はまだ、たっぷり残っている。
どうだ、これから、一対一で決着をつけようじゃねぇか!」
「面白れぇ。売られた喧嘩だ。真正面から受け立つぜ!」
北海の熊が、両腕をまくりあげて立ち上がる。
「上等だ」消防士あがりの寅吉も、レスキューの帽子を投げ捨てて立ち上がる。
「待て待て、2人とも。いまはその話をする時じゃねぇ。冷静になれ2人とも」
岡崎が両手をひろげて仲裁に立ち上がる。
「まったく。すぐカッとなるんだから、おまえさんたち2人は。
喧嘩をしている場合じゃねぇ。いまは坂本の話を聞く方がさきだ。
で、町が手配したその公式の審判員がいったいどうしたって?。
謎の女とどんな関係が有るんだ?」
仲裁に入った岡崎がじろりと坂上を見下ろす。
「まぁ、まて。あわてるな。まずは乾いた喉を潤してからだ。
勿体ねぇじゃねぇか。
注ぎたての生ビールが俺の前にずらりと4杯も並んでいるんだ。
ぜんぶ呑んでから、仔細をゆっくり話すからよう」
ぐびりと喉を鳴らし、坂上が生ビールの一杯目を飲み乾す。
中ジョッキが15秒ほどで空になる。まったく見事な飲みっぷりだ。
よほど喉が渇いていたのだろう。
空になったジョッキをテーブルへ置いた坂上の手が、2杯目の生ビールへ伸びる。
その指先を岡崎がぴしりと叩く。
「おい。おまえも、調子に乗るのもいいかげんにしろ。
みんなお前さんが、ビールを飲むのを見るために集まっているわけじゃねぇ。
女の話を聞きたがっているんだ。
2杯目のビールはあとにしろ。いいから、いいかげんで見てきたことをぜんぶ話せ」
「市の審判部から、4人の公式審判員が派遣されてきた。
驚くなよ、おまえさんたち。
なんとその4人の中に、女の審判員が混じっていたんだ」
「別に珍しくものなんともないだろう。
群馬と言えば、女子ソフトボールの強豪県として有名だ。
去年。福岡から日立高崎ソフトボール部(注・現在はビッグカメラ)へ入った
上野由岐子ってピッチャーは凄いぞ。
高卒ルーキーのくせにいきなり、史上初の2試合連続の完全試合をやってのけた」
「それだけじゃねぇ。
上野は1999年の世界ジュニア選手権で、日本チームを優勝に導いた。
なんでも10年にひとりの逸材だそうだ。
そんなすごい女の子がわざわざ九州から、片田舎の群馬までやって来るんだぜ」
「日立高崎ソフトボール部だけじゃねぇ。
群馬にはもうひとつ、太陽誘電という強豪チームがある。
1987年から26年間、1部リーグに在籍しているチームでリーグ優勝は通算6回。
準優勝も3回。こっちも伝統ある名門チームだ」
「女子ソフトボールが盛んな背景を考えれば、女の審判員なんかちっとも
珍しくなんかないだろう。
ん?・・・・ちょっと待て。その女の審判員というには、もしかして・・・・
不定期にここへ現れる例の、あの謎の美女のことか。もしかして!」
(10)へつづく
落合順平 作品館はこちら
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「その責任を取らされてうちの地区は今季、出場を自粛中だ」
「あたりまえだ。今季どころか、無期限出場停止でもいいくらいだ。
おまえたちのせいでソフトを辞めた人間が、何人もいるんだぜ」
「俺たちのせいにするな。
ろくにソフトを好きでないメンバーばかり集めているから、そうなるんだ。
勝つためなら何でもする。審判を買収してどこが悪い」
「まったく反省していないのか。呆れた奴だな、おまえは」
「多少の反省はしているさ。
そうか今回はジャッジの公平を期すために、公式の審判員を呼んだのか。
最初から公式の審判員を呼んでおけば、去年のような騒動はおこらなかった。
遅すぎるぜまったく。町のソフトボール部会の動きは」
「よく言うぜ、まったく。
もめ事の原因を作った張本人のおまえが。北海の熊」
「だからよ。そいつはそっくり、おまえさんのチームへ返してやる。
俺たちが買収したのは素人の審判たちだ。
すこしくらい判定が甘くても、我慢するのが大人の配慮というもんだ。
おまえらの我慢が足りないせいで、乱闘に発展したんだ。
責任をとっておれらのチームだけが、いまだに活動を自粛中だ。
喧嘩といえばほんらい、公平に、双方を成敗するもんだ」
「バカ言ってんじゃねぇ。
巻き添えを食って、おれたちまで出場停止にされてたまるか。
頭にきた。ここで決着をつけようじゃねぇか!。
あのときは町の役員連中が仲裁に入ったから、不完全燃焼のまま終わりになった。
鬱憤はまだ、たっぷり残っている。
どうだ、これから、一対一で決着をつけようじゃねぇか!」
「面白れぇ。売られた喧嘩だ。真正面から受け立つぜ!」
北海の熊が、両腕をまくりあげて立ち上がる。
「上等だ」消防士あがりの寅吉も、レスキューの帽子を投げ捨てて立ち上がる。
「待て待て、2人とも。いまはその話をする時じゃねぇ。冷静になれ2人とも」
岡崎が両手をひろげて仲裁に立ち上がる。
「まったく。すぐカッとなるんだから、おまえさんたち2人は。
喧嘩をしている場合じゃねぇ。いまは坂本の話を聞く方がさきだ。
で、町が手配したその公式の審判員がいったいどうしたって?。
謎の女とどんな関係が有るんだ?」
仲裁に入った岡崎がじろりと坂上を見下ろす。
「まぁ、まて。あわてるな。まずは乾いた喉を潤してからだ。
勿体ねぇじゃねぇか。
注ぎたての生ビールが俺の前にずらりと4杯も並んでいるんだ。
ぜんぶ呑んでから、仔細をゆっくり話すからよう」
ぐびりと喉を鳴らし、坂上が生ビールの一杯目を飲み乾す。
中ジョッキが15秒ほどで空になる。まったく見事な飲みっぷりだ。
よほど喉が渇いていたのだろう。
空になったジョッキをテーブルへ置いた坂上の手が、2杯目の生ビールへ伸びる。
その指先を岡崎がぴしりと叩く。
「おい。おまえも、調子に乗るのもいいかげんにしろ。
みんなお前さんが、ビールを飲むのを見るために集まっているわけじゃねぇ。
女の話を聞きたがっているんだ。
2杯目のビールはあとにしろ。いいから、いいかげんで見てきたことをぜんぶ話せ」
「市の審判部から、4人の公式審判員が派遣されてきた。
驚くなよ、おまえさんたち。
なんとその4人の中に、女の審判員が混じっていたんだ」
「別に珍しくものなんともないだろう。
群馬と言えば、女子ソフトボールの強豪県として有名だ。
去年。福岡から日立高崎ソフトボール部(注・現在はビッグカメラ)へ入った
上野由岐子ってピッチャーは凄いぞ。
高卒ルーキーのくせにいきなり、史上初の2試合連続の完全試合をやってのけた」
「それだけじゃねぇ。
上野は1999年の世界ジュニア選手権で、日本チームを優勝に導いた。
なんでも10年にひとりの逸材だそうだ。
そんなすごい女の子がわざわざ九州から、片田舎の群馬までやって来るんだぜ」
「日立高崎ソフトボール部だけじゃねぇ。
群馬にはもうひとつ、太陽誘電という強豪チームがある。
1987年から26年間、1部リーグに在籍しているチームでリーグ優勝は通算6回。
準優勝も3回。こっちも伝統ある名門チームだ」
「女子ソフトボールが盛んな背景を考えれば、女の審判員なんかちっとも
珍しくなんかないだろう。
ん?・・・・ちょっと待て。その女の審判員というには、もしかして・・・・
不定期にここへ現れる例の、あの謎の美女のことか。もしかして!」
(10)へつづく
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