落合順平 作品集

現代小説の部屋。

オヤジ達の白球(15)土方(どかた)ヤンキー

2017-05-23 18:46:46 | 現代小説
オヤジ達の白球(15)土方(どかた)ヤンキー



 土方とは道路工事や治水工事、建築の現場で働く作業員のことを指す。
ただし。土方という表現には、差別意識がつきまとう。


 作業員の中で特に資格や技術を必要としない部署で働く人や、
日雇い労働者たちをイメージして使われる事が多い。
丸山明宏(現:美輪明宏)の代表曲『ヨイトマケの唄』の中に、
土方という表現がある。
差別用語を使った曲として、放送禁止に指定された。
しかし。差別用語としてわけることこそが差別ではないかという意見もある。
嘲う意を込めた派生語、『ドカチン』という言葉もある。


 作業員の一部に、土方ヤンキーと呼ばれる元気な集団が居る。
高校を卒業したばかりのヤンキーたちが、そのまま土木業界へ流れ込んで来た。


 ヤンキーにも語源が有る。
南北戦争の時代。北軍の兵士や北部諸州人を軽蔑した呼び方が『Yankee』だった。
『ヤンキー』はのちに、アメリカ人全体をさす言葉になった。


 日本で不良っぽい若者たちのことを『ヤンキー』と呼ぶようになったのは、
大阪難波の『アメリカ村』からはじまった。
1970年代から80年代にかけて、アメリカ村で買った派手なアロハシャツや
太いズボンを履き、繁華街をウロウロする若ものたちを、ヤンキーと呼ぶようになった。
やがて不良少年全体をさすようになり、西日本を中心に全国へひろまった。


 髪の毛は金色。耳にピアス。だぶだぶのポッカニッカに地下足袋のいでたち。
見た目と裏腹に、かれらは額に汗して真面目に働く。
かれらが汗を流すことで、やがてビルが建ち、道路が舗装されていく。
真夏。炎天下でのアスファルト舗装は、太陽の照り付けをまともに受ける。
足元は、百度単位でドロドロに溶かされたものを扱う。
暑さと厳しさは半端ではない。

 
 彼らの楽しみといえば、やはり、仕事上がりの酒になる。
そうじて品行は良くない。呑めば地が出る。
学校は卒業しているが、学業のほうはさぼりっぱなしだ。
中には漢字をろくに読めない者もいる。



 そんなかれらの楽しみが、業界が作ったソフトボールだ。
ナイター設備の整った球場での試合は、週末における最大の楽しみだった。
誰に遠慮することなく、思う存分、自分を発散できるからだ。


 土木業界にも狙いが有った。
暴走しがちの若い世代を、コントロールしたかった。
酒に走らせるより、スポーツで体力を浪費させた方がリスクが少ない。
チームプレーはまた全体の連帯感を生む。
上下関係や、集団で何かを成し遂げることの意味合いを試合を通して
理解させることもできる。


 残党たちで作ったソフトのチームに、そうしたメンバーたちが戻って来た。
声をかけてきたのは、地元でチーマーをまとめてきた若頭。



 チーマーとは、1990年代に流行した不良のスタイル。
その前の世代に流行したヤンキーや暴走族とは異なる。
アメカジ(アメリカンカジュアル)や古着を身に纏ったファッショナブルな
スタイルが最大の特徴だ。
その後ファッションは、ブラックを基調にしたギャング系に変っていく。


 彼らは悪知恵が利く。目的を達成するためにはどんな手も使う。
道徳観のないヤツが多い。
頭がキレるタイプの場合、社会へ出たら、正攻法でいくのが一番効率的だと気がつく。
しかし。いざ大きいビジネスとなると、ある程度のリスクだったら普通やらないような
手口を使ってしまうこともある。
そのようにして会社の中で、成長していくヤツも居る。


 酔ってくると話が物騒になる。
『●●が帰ってきたぜー』などという会話が、ふつうにはじまる。
いったい何処から帰って来たんだ、という話になるが、あまり関わらないほうがいい。
警察からの逃れるため海外へ逃亡していたとか、懲役へ行き、刑期が満了して
シャバへ出てくるという話に、きっとなるからだ。


 あたらしく誕生したチームには、こうしたヤンキーやチーマーたちがごまんと居る。
それが北海の熊が去年まで所属していた、残党たちのソフトボールチームだ。

(16)へつづく



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