落合順平 作品集

現代小説の部屋。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (50)

2017-02-21 17:46:56 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (50)
 登山前の、ノーパン姉妹




 「かつては女人禁制のお山であったと、市奴姐さんから伺いました」


 「知っているよ。
 そのむかし。女人禁制の掟を破って入山した女がいる。
 怒った山の神が、石に変えてしまったという伝説は、有名さ。
 飯豊山へはじめて登山したのは、会津女子高出身の猪股なんとかという18歳の女。
 安心しな。女人禁制は昔の話さ。
 山頂の神社まで行き、山上のお花畑を楽しむと、2泊3日の日程になる。
 お前。本格的な山登りは初めてかい?」


 「ヒメサユリの花を見るだけで、2泊3日もかかるのですか?」



 「ヒメサユリだけじゃないよ。ニッコウキスゲも満開さ。
 登るにつれてあちこちで、たくさんの高山植物を見ることが出来る。
 天上にひろがる花園なのさ。梅雨入り前の飯豊連峰は」


 「3日間も歩いたら、脚がパンクしそうです。
 大丈夫でしょうか。あたしみたいな初心者がいきなり登っても」


 「最初はみんな初心者さ。
 心配はいらない。お前はそのへんの連中より、しっかり足腰を鍛えているもの。
 中腰で踊る日舞は、足腰の鍛錬にもってこいだ。
 ほら。このへんなんか鍛え抜かれて、見るからに、ムチムチしているもの!」



 登山ズボンに足を通している清子のお尻を、恭子がポンと叩く。
『きゃっ!』悲鳴を上げた清子が、片足をズボンに突っ込んだまま、
ケンケンで室内を移動していく。


 驚いたのはのんびり昼寝を決め込んでいた、たまだ。
態勢を崩した清子の大きなお尻が、たまの目の前に落ちてきた。
『うわ~っ。油断していたおいらが、迂闊だった。大ピンチだ。
今度ばかりはオイラも助からねぇぞ・・・絶体絶命の大ピンチだ!。もうだめだ!』
たまが観念して両目をつぶる。
覚悟を決めたその一瞬。横からさっと市の手が伸びてくる。


 「馬鹿だねぇ、お前も。
 何が起こるかわからないお部屋の真ん中で、昼寝なんかするんじゃないよ。
 ほらごらん。清子のお尻は最近すっかり大きくなってきた。
 あんな大きなお尻に乗られたら、お前なんか、いっぺんにぺっちゃんこのノシイカだ。
 ホント。危なかったねぇ、命拾いしましたねぇ、たまや」


 「失礼ですねぇ。そんな風におっしゃる市奴姐さんは。
 少しばかり丸くなってきましたけど、それほど大きくはありません。
 と、自分では思っております。
 今でも、昔のままのパンツが、そのまま履けると思います。
 履いてみればのお話ですが」



 「履いてみれば?。ということはなんだい、今のお前は、
 パンツを履いていないということかい?。
 じゃ、ノーパンか?」


 「はい。浴衣を着はじめた時からノーパンです。
 ついでですが、ズボンを履くときもノーパンで過ごしております。
 あら・・・いけないでしょうか?。
 ズボンの時は、パンツを履いたほうがよろしいでしょうか?」


 「別に構わないさ。パンツを履こうが履くまいが、清子の勝手です。
 でもね。山へ行くときは別です。
 何が有るのか分かりません。万一にそなえて下着だけはつけていきなさい。
 遭難した時。下着を着けていないようでは物笑いの種になります。
 だいいち。涼しすぎてあそこが、風邪などをひきかねません。うっふふ」


 「そうですよねぇ登山ですもの、万が一という心配は確かにあります。
 それではあたしも今回だけ、パンツを履いて登ろうかしら」


 「おや?。10代目もパンツを履いていないのかい?。
 なんだいお前さんたち。2人揃ってノーパンなのかい。驚いたねぇ・・・・」



 「はい。清子に浴衣の着付けを教えてもらった時から、わたしもノーパン党です。
 黙っていれば誰にもわからないし、楽だし、快適です。
 やはり変ですか。パンツを履かないと?」


 「勝負パンツを履く年頃でもないし、特に問題などはないでしょう。
 パンツを履かなくてはいけないという法律も、ありませんし。
 しかし。山の夜は冷えます。
 山に行くときだけはパンツの上に、毛糸のパンツも重ねて履いてくださいな。
 女は冷えると後々が、厄介になります。
 どんな場所であれ、女らしさを忘れてはなりません。
 悪いことは言いません。
 今回だけ、二重にパンツを履いていくんですね、二人とも」



(51)へ、つづく

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