落合順平 作品集

現代小説の部屋。

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (40)

2017-02-02 18:04:12 | 現代小説
赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (40)
恭子の隠れ家



 ラーメン店がひしめいている喜多方の街とは言え、すべての店が
朝からラーメンを提供しているわけではない。
準備中や、仕込みで忙しそうなお店の前をいくつか素通りしたあと、
恭子の足が、行列の見える一軒のラーメン屋へ向う。


 『清子よ。
 朝の9時を回ったばかりだというのに、もう店の前に、行列が見えるぜ。
 朝からラーメンを食う連中がこんなに居るのかよ。
 いったいぜんたい、どうなってんだよ、この街は・・・』


 
 たまが大きな目で、前方を見つめる。
店の前に、観光客たちと思える一団が順番を待っている。
セーラ服に日傘。白い足袋に、真っ赤な鼻緒の下駄を履いた恭子は、行列を
横目に見て、そのまま追い越していく。
店舗の脇に小道が見える。人ひとりがやっと通れそうな小さな路地だ。
その小さな隙間に、恭子がズンズン入っていく。
(え、そっちなの?)清子もあわてて、恭子につづく。


 狭い路地を抜けると、川の堤防にぶつかる。
裏口が、堤防に面して作られている。
入り口の横に麺の箱やら、具材に使われる野菜の箱が、山のように積まれている。
『すごい量だろう。一日で食べちゃうんだ。これだけの量の麺と、野菜を』
足元に気をつけてなと、慣れた様子で恭子が狭い通路を抜けていく。



 「おじちゃん。恭子です。
 あたしの、大切なお友達を連れてきました。
 美味しいラーメンと、スタミナたっぷりのとんかつを上げて頂戴。
 いつものようにお代は、9代目から、好きなだけ巻き上げてください。
 あっ。お水はいりません。
 そこの冷蔵庫から勝手に、サイダーを持っていきます。
 そうだ。もうひとり珍しい生き物がいるの。
 出汁につかった煮干が有ったら、分けてちょうだい。
 三毛猫のオスで、たまという子猫が一緒なの」



 「へぇ。三毛猫のオスかい。たまげたねぇ・・・」


 髭面の店主が、厨房から顔を出す。



 「おっ。本当だ。恭子の連れに、可愛いお嬢さんがお見えだ。
 珍しいことがあるもんだ。
 おい、婆さん。事件だ事件。えらいこっちゃ!
 人嫌いの恭子が、可愛い女の子と、三毛猫のオスを連れてきたぞ!」



 「へぇぇ。珍しいことがあるものです。恭子に、お客様かい。
 腕によりをかけて作るから、2階でくつろいでいるといいさ。
 あら、あんた。若そうなのに、浴衣の着こなし方が、ずいぶん粋だねぇ。
 日傘まで用意しているところをみると、あんた只者じゃないね」



 「清子。いいかげんに逃げださないと、おばあちゃんはしつこいからね。
 おばあちゃん。口はいいから、手を動かしてちょうだい。
 表で皆さんが、首を長くしてお待ちかねです!」



 「そんなに言うなら、あんた、たまには手伝ってくれたらどうなんだい?
 バイト代なら、いくらでも出してあげるから、さぁ。
 猫の手を借りたいほど、朝からウチは、大忙しなんだ」


 「猫ならそこにいるじゃないの。
 清子と一緒にいる、そこの三毛猫に、手伝いを頼んでみたらどう?」


 「あのう。あたしでよければお手伝いしますけど・・・・」




 清子が思わず、余計な言葉を口にしてしまう。
どうせ否定されると思いきや、即座に『助かるよ』と喜ばれてしまう。


 「アルバイトの子が急に休んじまって、てんやわんやだ。
 戦力不足で、にっともさっちもいかない状態なんだ
 どこの誰かは知らないが、手伝ってくれたら、おおいに助かる!』



 奥の厨房から、おかげで助かると、髭面の嬉しそうな声が飛んでくる。



 「はい。私でよければ、喜んでお手伝いします。
 でも、ラーメン屋さんのお仕事は初めてです。
 厨房に入っても、邪魔で、足手まといになるだけだと思います。
 注文取りと、食器の上げ下げくらいなら、お手伝いできると思います。
 いいですか?。その程度の、かんたんなお手伝いでも?」



 「願ってもない。大助かりだ。悪いねぇ。
 じゃあ早速だが、この前掛けをつけて、お店の方の応援に入ってくれ。
 いいねぇ。天の助けだ。可愛い看板娘が、いきなりワシの店に現れてくれた。
 あんた。名前は?」


 「清子です!」


 『お前は、ここで邪魔にならないように、静かにしているんだよ』
通路にたまをおろした清子が、キョトンとしている顔を見つめながら、しっかりと念を押す。
『入ります!』明るく答えた清子が、前掛けを腰へ巻きつけながら、
早くもお店に向かって飛んでいく。




 「清子ったら。お店の仕事なんか、手伝うことなんかないさ・・・・
 あ~あ、行っちゃった。
 嬉しそうに、あっというまにお店に飛んでっちゃったわねぇ。
 たま。あんたのご主人はすごい人だねぇ。行動的で、さ。
 仕方ないな。私も手伝ってやるか・・・・
 まったくぅ・・・清子のやつ。余計なことに積極的すぎるんだから」

 
(41)へ、つづく


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