君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編二章 九話

2015-07-05 02:16:17 | 『君がいる幸せ』 limitato etemita編二章
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
 <用語>
惑星ノア 人類の首都星
惑星メサイア ミュウの星 ノアに近い位置にある
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
<人物>
ジョミー ノア前副首相 ジュピターという宇宙の軍を動かせる権限を持っていた
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任していたが…
セルジュ 軍事惑星ペセトラの評議会議長代理(現在、軍部で最高位)

  『君がいる幸せ』 限りある永遠(limitato etemita)編二章 九話

 叫んだ後、セドルは振りほどいたジョミーの腕を掴み、カウンターから引っ張り出した。
 そして、右手でジョミーの顔を殴った。
「どうせ、最初から信用などしていないんだろ!」
 殴られ、床に座り込んだジョミーは、何故かただ茫然としていた。
「…セドル」
「ちくしょう。俺を、俺たちを。人だと思っていないくせに」
「どうして…」
「どうしてだ?そんなの決まっている。俺たちがニュクス人だから」
「そんな訳は無い…は…ははっ」
 ジョミーは床に座り込んだまま、笑いだした。
「何故、笑う?」
「セドル」
 ジョミーは答えようとしたが、それを止めて、セドルを見上げたジョミーの目にうっすらと涙がにじんでいた。
「はっ…。そんなに面白いのか?」
 セドルは憮然としていた。
「大丈夫だよ。僕は君を信用している。しかし、この姿の僕を殴る人間が居るとは思わなかった」
「当然だ。俺を怒らそうとしていただろ。でもま、殴って悪かった」
 と言いながら、セドルはジョミーに手を差し出した。その手をとってジョミーは立ち上がった。
「威圧するつもりで着たのに、殴られるとはね…」
 殴られた頬をさすりながらジョミーは小さく笑った。
「怒らそうとしたのは事実だろ」
「うん。それに、先にケンカを売ったのも僕だね」
「シドの事か…」
「シドに薬を盛った事や、その所為で彼も僕も死ぬ思いをしたし、君が言うように彼を特別に大事に思っているのもそうなんだけど、本当は、皆、僕を透して誰かを見ているのが面白くなかったからかな」
「皆?シドがか?お前、さっきはソルジャー・シンを見てるからとか言っていなかったか?」
「うん。そうだよ。シドはソルジャー・シンを見ている。けどそれは、僕にソルジャー・ブルーを望んでいるからなんだ」
「伝説の…か…」
「僕は…所詮、彼の代わり…。シドはブルーに成る事を望んでいる」
 そう。シドには自覚が無いかもしれないけど、自分の手のひらに落ちてくる僕を認められなかった。リオやハーレイは僕にソルジャーに成るように言ったけど、ブルーに成れとは言わなかった。その違いだ。
「シドが越えられない壁は強大な力を持ったソルジャー・ブルー。でも、僕もそれを越えられない。たとえ、僕が彼に抱かれていても、僕が彼を抱いていても、多分同じ。何一つとして変わらない。むしろ、そうしてしまったら、もっと辛くなるだろう」
「重く考え過ぎてるだけじゃなさそうだな」
「僕らの思いだけがそこにあって、お互いが生きてきた年月分がそれを許していなくて、そして、僕はもっと彼を裏切ってゆく。僕が、人間であり最大の敵だったキースを愛した事を、彼はトォニィより許していない」
 そして、僕はずっとミュウを裏切ってゆく。
 カウンターまで戻ったジョミーは、子どものように膝を抱え込んで椅子に座った。

「ジョミー。俺はお前を利用していた。俺はキースに近づく為にお前を騙した」
「うん。気付いてたよ。僕も君をニュクスへの通行証にした」
「通行証か…。それの代償はもらったからいいぜ」
「キースに、どうして近づいたの?」
「簡単に言えば、俺の仕事が海賊まがいだったから、知り合いになって、色々と便宜を図ってもらおうとか思ったんだ。だが、私情を挟むようなやつじゃないと知って、ベリアルは俺を使って、このままお前を利用しようと言った。それだけ」
 セドルはカウンターにほおづえをつき、ちらりとジョミーを見て答えた。ジョミーは膝を抱えたまま他の事を考えているかのように言った。
「僕が思った以上に、君を気に入ってしまったからね」
 そう言ってからセドルの方を見返した。その視線から目をそらしセドルが答える。
「そ、それは光栄だな。で、でも、俺はシドと同じに、お前の先にキースを見ていたんだぞ。彼がクローンの代表だと思っていた。だけど、それは、マザーの手を離れてどう生きていいかわからなかった時と似てる。すがる物が欲しかったのかもしれない」
「大戦後は誰もがそうだったね。僕もキースにすがった一人だ」
「そうか…。マザーが消え、誰もが自由になったあの時、俺は喜びでいっぱいだった。だが、すぐに現実が見えた。クローンには生きる術が無かった。だから…生きる意味を探した」
「ベリアルは生きる意味をあの時の真実を知る事に求めた」
「復讐が生きる糧か…」
「父親、アガレスのしていた事をベリアルは気付いていたと思う。それを確かめたくて、ただそれだけで僕に近づいた。彼がこの先どうしてゆくかは、彼次第だ。だから、セドル。教えて欲しい。君は僕を使って、キースを見ただろう。それで、何が見えた?」
「言いたくないな。さっきので、十分、俺らしくない事を言っている。これ以上言わせる気か?」
「何か要求する?」
「そうだなぁ…いや。いい」
「そうなの?」
「ああ…。お前が俺を信用した証だったあの石を俺はベリアルに渡しちまったしな…あれ以上の物なんか無いだろ?」
「ベリアルの所にある事を気にしているのか?」
「そりゃあ、気になるだろ?お前が必死になって集めたニュクスの情報なんだぞ。お前はあいつが持ってるのが不安じゃ無いのか?」
「医薬品に関しての情報だから、悪用しようと思えば簡単に出来るからね」
「だろ?」
「セドル。大丈夫だよ。僕はあれを回収できるんだ」
「え?」
「元々あれは僕が作ったただの入れ物だ。ベリアルが悪用したら、それ以上出せないようにあっちのを消す事が出来る。でも、僕はそれをする気は無い。あれは君たちに必要な情報だから」
「騙したのか…?」
「ニュクスの情報は一人の人間に破棄されて良い物でも、一人の物になって良い物でもないんだ。人が繰り返してきた人体実験の事実も、遺伝子を操作してきた事実も、その悪魔のような所業を人類はいつか知らなきゃならない時が来るだろう。そして、それだけの犠牲をはらった結果は使っていかないと死んでいった者が浮かばれない。あれはキースや君たちの過去の事を知ると同時に未来も作れるもの。ベリアルは頭の良いやつだから、きっと大丈夫。僕は人を信じている。そう、君を信じて…きみ…を…」
 まるで、言い過ぎた。とはっきりわかるような感じでジョミーは口に手をあてて、言葉を止めた。
「…ん?」
「いいや、騙したと思うなら思っていい。だから、教えて。君がキースに会えてどう思ったかが知りたい」
 あわてたようにジョミーは話を戻した。そんなジョミーを見てセドルはある種の興味が沸いた。
「じゃあ、さっきの代償を要求する。俺が答えたら、今の続きを言ってくれるか?正直にな。じゃなきゃ俺は言わない」
「…今のって…う…でも、ちょっとかっこ悪い…から…」
 ジョミーは椅子から抱えていた足を下ろし、セドルに背を向けるように向きを変えた。それを追うようにセドルはジョミーの方へ体を伸ばした。
「俺が今から言う事も、かっこ悪いのはきっと同じだぞ」
 セドルは肩をすくめて笑った。それにつられるようにジョミーも笑った。
「あっは。そうかもね。わかった。言うよ。言うから、教えてくれる?」
 そう言ってまっすぐにセドルを見つめ直した。その眼を見てセドルはこれは本当に覚悟を決めなければと思った。そして、コホンと一つ咳払いをして話し出した。
「どうして、それが知りたいかは聞かない。気付いていなかったが、俺はヤツに憧れじゃなくて、嫉妬していたんだ。初めて会った時は、あれは俺の深層だった。俺の横にはお前がいて、俺にも薬の作用もあったから、お前は女性体だったな。キースにはどう視えたかはしらない。深層に来たキースを見て、お前たちがどんな関係なのかがわかった。俺はこれはマズイ事だと思った。恋人がベッドに他の男と居るんだもんな。良い訳が無い。だが、あいつは何もしないで出て行った。俺はあの後、ベリアルと集められるだけ情報を集めてお前たちを調べた。そして、再び、お前に会った時に二人が良い状態ではないと知って、お前を俺の物にしようと思った。いや、実際薬も使ったな。シドがいた方がやりやすいなら、あいつも利用してだな。落とせると思っていた。だが、それは出来ないと気が付いたんだ。ニュクスに行った時、お前に『キースを止めるのか』と聞いたな。止める事が出来るなら、お前は普通な状態じゃなくなっているキースの軍隊の前に立ちはだかると決めていた。結局、その役目は、もう一人のジョミーがやる事になったが、その方法で止められるのなら、自分が死んでしまっても。あいつを殺してしまっても。と思ってただろ?」
「嫉妬か…。嫉妬やプライドって無い方が良いんじゃないかと思う時があるよ。でも、それがあるのが人間なんだよね。無い方が良いなんて、僕こそがマザー信奉者じゃないかと思えるね。セドルと会ったあの時、キースが僕に何も言わなかったのは僕にもわからない。色々あったからね。キースをね。止めたいと思っていたけど、戦艦ゼウスで、僕はキースに会った。キースは僕の胸ぐらを掴んでこう言ったんだ『また俺の邪魔をするのか。今度は出てくるな』と一言」
「ま、そのままだな」
「キースは、本当は自分を囮にしてマザー信奉者を集めて殺すのが当初の目的だった。それが、彼らと逝くと決めて、僕が何をしても、それでどんな結果になっても、死ぬつもりだとはっきりわかった。それを止めるだけのものを僕は持っていない事を知った。彼だけを助けても同じなんだ。キースはイグドラシルを再現したんだ。マザー信奉者もろとも、自分の過去を全てを持って死んでゆくのが一番良いのだと思ってしまっていた。今度は答えの出ない賭けをしたんだ。そんなの逃げでしかない…のに」
「…ジョミー」
「ちょっと昔を思い出して…。僕はさ。命をかけてもキースを止めて、またぬるま湯のような暮らしをしたいと思ったんだよ」
 とジョミーは自分をあざ笑うかのように言った。
「戦艦ゼウス、あれはニュクスに落ちたままだな。プロメテウスが墜ちたあの時、俺はお前が時間を止めたとは思っていない。ただ、こうなってしまうかもしれないっていう未来を皆に見せて、目を覚まさせたと思っている」
「ああ、それが、正解だよ。暗示の強いヤツを広範囲に使った。それで、タイプブルーの力が枯渇した。無くなったんじゃないんだ。タイプブルーは戦闘特化。僕に希望という名前の戦う理由があればまた戻ってくる。でも、僕は戦う理由を見失っていた。だから、ああいう形で使った。僕はキースを信じていた。僕がニュクスの情報を盗んでしまえばニュクスも巻き込まず、僕を使ってマザー信奉者たちを説得して戻ってくる事を」
「なら、お前は…ニュクスで…」
「そうだよ。人類に再び、宣戦布告をしようと思っていた。僕をもう一度敵にすれば人類はまとまる。その為に力を温存していた。ソルジャーズのブルーは僕を追ってくるだろうから、二人で死ぬまで戦っているのも良いんじゃないかと思っていた。僕らはどこかで滅ぶのが似合っているんだ」
「絶望したのか…」
「まださ。僕はまだ人類が好きだ。だけど、バラバラになりそうな心を必死に繋げてあそこにいた」
「吐き出して行けよ」
「え?」




 つづく






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