父の面会に行くと、また「あなたは一番シアワセよ」と繰り返すおばあさんと二人でソファに腰かけていた。
そばに行って「sakeだよ」と言うと、「おぉここに座れよ」と言う。
二人は相変わらず、いつもと同じ会話をしている。
おばあさんは、大正生まれで「小学校を2年しか行ってないから名前も書けない(書けなかった?)」そうで、父のことを「志願兵で元気で帰ってくるなんて、こんなに幸せな人はいない。」と「歌の神様で何でも知ってるんだから」と繰り返し言う。
そして、父は「皺と皺を合わせると幸せ」と、またハンコを押したように同じ会話を繰り返すのだ。
二人とも認知症なので、これはこれで成り立つらしい。
他の患者さんは、相変わらず口をあけてポカンとしてたり、浮遊者のようにフラフラ歩いていたり、いつもの耳の悪いおばあさんはまた今日も「アタシは帰りたいんだよ!どうやったら帰れるの!」と半ば命令口調で尋ねている。
その中で、父とシアワセばあさんだけが、ソファで仲睦まじく同じ会話を繰り返していた。
よいことだ。
父はみんなは元気か、と言うので元気だよ、と言う。
誰といるんだっけ?と言うので、「kekeとだよ」と言う。
kekeは何してんだ?と言うので、「大学生だよ」と言う。
こう言う時、シアワセばあさんはちょっと淋しそうな顔になる。
話に割って入ってくるでもない、でも気になるので、何となくみんなで話せるような話題を作ろうと思う。父には悪いけれど。。。。
「そちらで、大学生って言ってましたよね?どなたですか?」と言うので、「私の息子、つまり父の孫です。」と言うと、「大学生!末は大臣じゃない!あなたもシアワセなら周りもみんなシアワセじゃない!」と言う。
「大臣なんてもんじゃないんです。」と言うと、父も「そうそう、そんなものじゃないよ」と二人で謙遜する。
「今は、大学に行く子が多いんですよ。子供が少ないですから。」
「エー!今の子たちはシアワセですねぇ。遊ぶ道具もたくさんあって・・私の時代は、セミとかトンボを糸でゆわいて遊ぶしかなかったのに。」
そして、小学校は2年で名前も書けない話に舞い戻るのである。
しかし、今日は彼女から新しい話題が出た。
「負けるが勝ちなの」と突然言い始めたのである。
「あたしね、バカでしょ。バカだから【バカ】って言われると、ハイハイそうです、バカですよ、って答えるの。」
「はぁ。」
「負けるが勝ちって言うでしょ、そうやって言われると最後に勝つの。」
「はい。」
「お前バカだって言われると、バカバカ言われると、きっと最後に勝つから、あぁ~そうですよバカですよ、って答えるの。それが私。ほんとにバカなんだけどね。」
父はボソッと「それはいい(哲学)んじゃないの。」と言う。
「最後に勝つって言っても、もう大正生まれでしょ?死んでてもおかしくない幽霊みたいなものだから、勝つまで生きているかどうか分からないけどね。」
と言って、アハハハハと笑った。
「この人ね、幽霊みたいなものって言うと、幽霊のポーズして幽霊だ~って言うの、にくたらしいでしょ。」
と、父とまたピシャピシャと軽くはたいた。
私は今日は30分で切り上げた。
父は視界から消えると、私のことをもう忘れてしまうだろう。
おばあさんは目が良いので、ドアの前で手を振ってみせた。
出入口では、まだ「アタシは帰りたいんだよ!」といつも言っているおばあさんでもめていた。
そのおばあさんのいつも手にしてる鞄には財布が入っていて、中には病院で手作りした偽札(普通なら明らかに違うが認知症の彼女には分からないぐらいのおもちゃの紙幣)が入っているのだ。(この前たまたま見えてしまった。)
そして、彼女はいつもバスの時間を介護士さんに尋ねていて、「今日は日曜だからバスはお休みなんですよ」と言われている。
そばに行って「sakeだよ」と言うと、「おぉここに座れよ」と言う。
二人は相変わらず、いつもと同じ会話をしている。
おばあさんは、大正生まれで「小学校を2年しか行ってないから名前も書けない(書けなかった?)」そうで、父のことを「志願兵で元気で帰ってくるなんて、こんなに幸せな人はいない。」と「歌の神様で何でも知ってるんだから」と繰り返し言う。
そして、父は「皺と皺を合わせると幸せ」と、またハンコを押したように同じ会話を繰り返すのだ。
二人とも認知症なので、これはこれで成り立つらしい。
他の患者さんは、相変わらず口をあけてポカンとしてたり、浮遊者のようにフラフラ歩いていたり、いつもの耳の悪いおばあさんはまた今日も「アタシは帰りたいんだよ!どうやったら帰れるの!」と半ば命令口調で尋ねている。
その中で、父とシアワセばあさんだけが、ソファで仲睦まじく同じ会話を繰り返していた。
よいことだ。
父はみんなは元気か、と言うので元気だよ、と言う。
誰といるんだっけ?と言うので、「kekeとだよ」と言う。
kekeは何してんだ?と言うので、「大学生だよ」と言う。
こう言う時、シアワセばあさんはちょっと淋しそうな顔になる。
話に割って入ってくるでもない、でも気になるので、何となくみんなで話せるような話題を作ろうと思う。父には悪いけれど。。。。
「そちらで、大学生って言ってましたよね?どなたですか?」と言うので、「私の息子、つまり父の孫です。」と言うと、「大学生!末は大臣じゃない!あなたもシアワセなら周りもみんなシアワセじゃない!」と言う。
「大臣なんてもんじゃないんです。」と言うと、父も「そうそう、そんなものじゃないよ」と二人で謙遜する。
「今は、大学に行く子が多いんですよ。子供が少ないですから。」
「エー!今の子たちはシアワセですねぇ。遊ぶ道具もたくさんあって・・私の時代は、セミとかトンボを糸でゆわいて遊ぶしかなかったのに。」
そして、小学校は2年で名前も書けない話に舞い戻るのである。
しかし、今日は彼女から新しい話題が出た。
「負けるが勝ちなの」と突然言い始めたのである。
「あたしね、バカでしょ。バカだから【バカ】って言われると、ハイハイそうです、バカですよ、って答えるの。」
「はぁ。」
「負けるが勝ちって言うでしょ、そうやって言われると最後に勝つの。」
「はい。」
「お前バカだって言われると、バカバカ言われると、きっと最後に勝つから、あぁ~そうですよバカですよ、って答えるの。それが私。ほんとにバカなんだけどね。」
父はボソッと「それはいい(哲学)んじゃないの。」と言う。
「最後に勝つって言っても、もう大正生まれでしょ?死んでてもおかしくない幽霊みたいなものだから、勝つまで生きているかどうか分からないけどね。」
と言って、アハハハハと笑った。
「この人ね、幽霊みたいなものって言うと、幽霊のポーズして幽霊だ~って言うの、にくたらしいでしょ。」
と、父とまたピシャピシャと軽くはたいた。
私は今日は30分で切り上げた。
父は視界から消えると、私のことをもう忘れてしまうだろう。
おばあさんは目が良いので、ドアの前で手を振ってみせた。
出入口では、まだ「アタシは帰りたいんだよ!」といつも言っているおばあさんでもめていた。
そのおばあさんのいつも手にしてる鞄には財布が入っていて、中には病院で手作りした偽札(普通なら明らかに違うが認知症の彼女には分からないぐらいのおもちゃの紙幣)が入っているのだ。(この前たまたま見えてしまった。)
そして、彼女はいつもバスの時間を介護士さんに尋ねていて、「今日は日曜だからバスはお休みなんですよ」と言われている。