小春奈日和

赤ちゃんは、人間は、どのように言葉を獲得するの?
わが家の3女春奈と言葉の成長日記です。

606 八千矛の神 その11

2017年08月12日 01時55分26秒 | 大国主の誕生
大国主の誕生606 ―八千矛の神 その11―
 
 
 さて、住吉大社の境内には摂社として大海神社が鎮座します。摂社とは言え、『延喜式』の
神名帳に記されている式内社です。
 大海神社は一般には「たいかい神社」と呼ばれていますが、正式な名称は「おおわたつみ
神社」だと言われており、祭神は豊玉彦命と豊玉姫命です。なお、この二神は父娘だとされて
います。
 『古事記』や『日本書紀』に登場する豊玉比売は綿津見神の娘なので、大海神社の豊玉姫は
別神とする説もあります。
 それと言うのも、住吉大社と大海神社の祭祀氏族が天火明命を祖とする津守氏で、祭祀
氏族が天火明命系であるなら豊玉比売とは無関係であるから、というのがその理由となります。
 
 しかし、京都府城陽市の水度神社(みと神社)では高御産霊神とともに少童豊玉姫命(ワダツミ
トヨタマヒメノミコト)を祀っていますが、祭祀氏族の六人部氏(むとべ氏)は天火明命系の氏族
なのです。
 なので、天火明命系の津守氏が祭祀族だからといって、大海神社の豊玉姫が綿津見神の娘
である豊玉比売とは別神という理由にはならないように思えます。
 むしろ、大海神社の祭祀氏族は阿曇氏(安曇氏)もしくは安曇犬養氏だったとする説もあるの
です。
 
 これまでに何度か紹介した、『日本三代実録』貞観六年八月八日の、
 
 「阿波国名方郡の人安曇部正六位上安曇部粟麻呂、部の字を去りて宿禰を賜う。自ら言う、
安曇百足の苗裔なり」
 
と、する記事には、名方郡の安曇部氏は安曇百足(あずみのももたり)の子孫を称していた
ことが記されています。
 この安曇百足は『播磨国風土記』揖保郡浦上の里の条に、
 
 「浦上と名づけられたのは、昔、安曇連百足らが、はじめ難波の浦上にいたものを、後に
この浦上に移って来た時に、元いた土地の名を付けたものである」
 
と、書かれており、これを信用するならば、阿曇氏の本宗である阿曇連が難波(なにわ)の地に
いたことになります。
 難波の浦上が現在のどの場所であるのかよくわかっていませんが、大阪市の東横堀川
沿いの旧地名に安曇江があり、それから、かつて難波に存在していたという安曇寺の所在地の
比定地のひとつが高麗橋です。
 東横堀川も高麗橋も大阪城の西側にあり、つまり、この周辺に阿曇氏がいたと推測される
わけです。
 
 もっとも、大和岩雄(『神社と古代民間祭祀』)などが指摘するように、『新撰姓氏録』には、
摂津に安曇連と安曇宿禰の名は見えず、代わりに安曇犬飼連が載っているので、難波に
いたのは阿曇氏ではなく安曇犬飼氏だった可能性もあります。
 安曇犬飼は、阿曇連ゆかりの穂高神社にも関係していた氏族で、このことは、中世の文献に
犬飼の名が見えるからなのですが、安曇犬養氏も阿曇氏と同じく綿津見系の氏族であり、
同族の関係にあるのです。
 このことから、大海神社の祭祀氏族は阿曇氏ではなく安曇犬養氏だったとする説がある
わけです。
 
 さて、上記の、京都府城陽市にある水度神社では、豊玉比売は少童(ワダツミ)豊玉姫命と
いう名になっていますが、「山城国風土記逸文」には、和多都弥豊玉比売命と表記されています。
 同じく上記の、阿波の安曇氏の拠点である阿波国名方郡には和多津美豊玉比売神社が
鎮座し、さらに『延喜式』神名帳には、対馬国上県郡と下県郡にそれぞれ和多都美神社が載せ
られ、ともに名神大社の号を与えられています。
 うち、下県郡の和多都美神社は、現在ではその所在地が不明となり、厳原八幡宮神社がこ
れに比定されているのですが、一方の、上県郡の和多都美神社では祭神として彦火々出見尊と
豊玉比売を祀っています。
 
 対馬より九州本土により近い、玄界灘に志賀島がありますが、この志賀島には式内社である
志賀海神社(しかうみ神社)が鎮座し、全国の綿津見神社、海神社の総本社を称しています。
 このことから、志賀島が阿曇氏の本拠だといわれているのですが、石川県には羽咋郡志賀町
安津見という地名が存在します。言うまでもなく、志賀町は志賀島に、安津見は阿曇に通じます。
 
 そして、その石川県羽咋郡志賀町安津見とは、石川県羽咋市の北に位置するのですが、
羽咋市は出雲系の神々を祀る神社が多くあります。
 たとえば、能登国一の宮気多大社(けた大社)はオオナムチによる大蛇退治の物語を伝えて
おり、周辺には大穴持像石神社(おおなもちかたいし神社)が鎮座します。
 また、スクナビコナを祀る宿那彦神像石神社(すくなひこのかみがたいし神社)があり、羽咋市の
隣の七尾市にはスサノオの妻クシナダヒメを祀る久志伊奈太伎比咩神社が鎮座します。
 これらのことから、阿曇氏ら海人氏族が出雲神話の神々の祭祀にも大きく関わっていることが
存在できるのです。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿