カッコウアザミ
(城跡ほっつき歩記)より
花のように美しいひとだった
花のように可愛いひとだった
知り合ったのは18歳の時だった
みずうみのほとりに住んでいた
毎朝自転車で駅までやってきて
城のある町まで通っていた
その街には洋裁学校があった
卒業するとデパートに就職できて
母親を喜ばせる夢がかなうはずだった
ある日を境にその人は姿を消した
幾日も幾日も駅に現れなかった
ぼくは不安でそのひとに手紙を書いた
なにかあったんですか
風邪でもひきましたか
お返事いただければ嬉しいです
一年たって知らせが来た
父親が出張先で非業の死を遂げて
洋裁学校もやめ転居したことが書かれていた
郵便受けの真下で郭公薊が花をつけ
差し出し先のない手紙を迎えたが
その人が届けてきたのは紫色の悲しみだった
なんで一年も知らせてくれなかったのだ
事件に巻き込まれた父親のことに比べれば
ぼくとの思い出など一年草だったのか
梅雨入りの日まで咲いていたカッコウアザミ
花のように美しかったひとの面影は
紫を残しながらも少しずつ黄ばんでいくようだ
18歳と若かったから、一年間も返事を待ったんでしょうね。
お待たせしました。
今回の私のブログは、以前にお約束しました「むざんやな甲の下のきりぎりす」です。
「むざんやな甲の下のきりぎりす」からは、木曽義仲の嗚咽が聞こえてきそうですね。
小生のつたない詩にも、嘆きや嗚咽が秘められていますが、歴史の厚みには及びもつかないことを痛感しました。