どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設19年目を疾走中。

ポエム238 『忘れえぬ郭公薊』

2019-06-30 01:31:25 | ポエム

 

     カッコウアザミ    

   (城跡ほっつき歩記)より

 
 
花のように美しいひとだった
花のように可愛いひとだった
知り合ったのは18歳の時だった
 
みずうみのほとりに住んでいた
毎朝自転車で駅までやってきて
城のある町まで通っていた
 
その街には洋裁学校があった
卒業するとデパートに就職できて
母親を喜ばせる夢がかなうはずだった
 
ある日を境にその人は姿を消した
幾日も幾日も駅に現れなかった
ぼくは不安でそのひとに手紙を書いた
 
なにかあったんですか
風邪でもひきましたか
お返事いただければ嬉しいです
 
一年たって知らせが来た
父親が出張先で非業の死を遂げて
洋裁学校もやめ転居したことが書かれていた
 
郵便受けの真下で郭公薊が花をつけ
差し出し先のない手紙を迎えたが
その人が届けてきたのは紫色の悲しみだった
 
なんで一年も知らせてくれなかったのだ
事件に巻き込まれた父親のことに比べれば
ぼくとの思い出など一年草だったのか
 
梅雨入りの日まで咲いていたカッコウアザミ
花のように美しかったひとの面影は
紫を残しながらも少しずつ黄ばんでいくようだ
 
 
 
 

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2 コメント

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お待たせしました (ウォーク更家)
2019-07-04 17:45:17
心配してそのひとに手紙を書いたのに、一年間も返事がなかったということですね。

18歳と若かったから、一年間も返事を待ったんでしょうね。

お待たせしました。
今回の私のブログは、以前にお約束しました「むざんやな甲の下のきりぎりす」です。
義仲の嘆き (tadaox)
2019-07-05 03:13:20
(ウォーク更家)様こんばんは。
「むざんやな甲の下のきりぎりす」からは、木曽義仲の嗚咽が聞こえてきそうですね。

小生のつたない詩にも、嘆きや嗚咽が秘められていますが、歴史の厚みには及びもつかないことを痛感しました。

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